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風の刃と世界の行方 第5話
あれから数日後、私は千景のお母さんに道場で待ってなさい、という指示を受けて宮殿の中にある道場に来ていた。動きやすい服を着て、正座してずっと壁を見つめている。多分、剣術を教えてくれる人っていうのが来たんだろうな。ぼーっとしていると、いきなり道場の扉がバーンと大きな音を立てて開いた。私は扉に背を向けていたので誰が来たのか分からず、振り返ってみるとニコニコで眼鏡をかけたお兄さんがいた。
「こんにちは。響さんで合ってますか?」
「合ってます……こんにちは」
扉の開け方の雑さと、落ち着いた挨拶のギャップがすごくて私は困惑する。
「自己紹介しますね。|亮《りょう》です。24歳です。よろしくお願いします」
亮さんは私の前で正座すると、簡単に自己紹介をした。明るめの茶髪で、細めのフレームの眼鏡をかけていて、立派な耳としっぽが……あれ、ない。
「あ、僕人間ですよ」
わたしが不思議そうな顔をしてるのを読み取ったのか、亮さんがニコニコしたままそう言った。
「どうりで。耳もしっぽもないですもんね」
私は驚いて目を見開いて口も大きく開いているが、何とかそれだけ言う。
「というか、私以外にもこっちの世界に人間っていたんですね」
「ああ、響さんはあまり外に出てないようなのでご存知ないかもしれないですけど、意外といますよ。というか、勝手に響さんって呼んでますけど大丈夫ですか?」
「はい。お好きなようにどうぞ」
私がそう言うと亮さんは安心したように笑って立ち上がった。
「じゃあ、早速稽古始めましょうか。まずは準備運動ということで、この道場を走って3周して、終わったらここに戻ってきてください。そしたら僕の自己流ですがストレッチと体操やります。では、始め!」
亮さんが手を叩き、私は走り出す。準備運動は部活でやってたのとほぼ一緒だから、問題ない。サクッと3周走り終えて、亮さんの元へ戻る。
「お疲れ様です。じゃあ一旦座って、足を伸ばしてください。次に、つま先に届くぐらいまで頑張って腕を伸ばして太ももの裏伸ばしてください」
亮さんがやるのを真似して、私もストレッチをする。体が硬いから、これは少ししんどい。
「次、開脚して出来る限り前に〜。そのまま10秒キープで」
「くっ」
思わず声が出たけど、亮さんはそんな私にも構わずストレッチを続ける。合計10分ほどで、準備運動は終わった。
「じゃあ次は素振り50回です。あ、ちゃんと摺り足でお願いします。始め!」
夏休みだったし、こっちの世界に来て少し時間が経ってたから竹刀を握るのも久々な感じがする。冬にこういう硬い床で摺り足をすると痛いけれど、今は夏だから大して痛くない。
「はい、お疲れ様でした。一旦水分補給しましょうか」
「はーい」
道場の隅にはウォーターサーバーとコップが置いてあって、すぐに冷たい水を飲むことができる。昔の中国の宮殿みたいな造りの建物だし町並みも人間界とは違うのに、こういう所に少し違和感を感じる。まあ、知らないものばっかの世界だから安心はするけど。
「じゃあ、本題の剣の指導に入っていきましょうか。まず、僕の剣術の流派を説明しますね。僕2流派学んでるんですけど、1つ目が|鹿島新當流《かしましんとうりゅう》っていう攻撃重視の流派です。もう1つが|念流《ねんりゅう》っていう防御重視の流派です。響さんは剣道をやってらっしゃったと聞いていますが、剣道は面とか色々着けてやりますよね?」
「はい」
いきなりよく分からない日本語が飛んできて、少し困惑する。
「僕の稽古では防具は着けません。というか、万が一街歩いてる時に襲われたとして、都合良く防具つけてる訳ないですよね」
「確かに、そうですね」
某鬼を滅する漫画とか、オレンジ髪の主人公のバトルアクション漫画でもみんな真剣を持っているけど、防具なんて着けてないしな。
「多少は痛いですが、竹刀なら頭にぶち当てられない限り死ぬことはないので頑張りましょう。まずは念流の方から教えていきます。分かりましたか?」
「はい、お願いします」
その日から、2つの流派を使いこなすための稽古が始まった。
どうも、明日鬼滅の映画に行くぱるしいです。なく準備は出来てます。
実はこのエピソード書くのに2ヶ月ぐらいかかってるんですよね……剣の流派調べたりはすぐ終わったんですけどいかんせん進まないという……
夏休み中に何とか完結させたいので頑張ります。