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Prologue:或る歴史と唄う少女
10年前のある日──。
東京を震源地とした大地震が起こってから、様々な生き物が合体したキメラ型モンスター『サティロス』が日本中へ蔓延するのに1ヶ月もかからなかった。
サティロスは人間を捕食し、細胞分裂のような形で増え続けている。
そしてニホンザル程度の知性を持ち、悪や負のオーラを強く放つものに従う習性がある、というのが近年の研究で分かったことだ。
サティロスにより人口は急激に減少し、日本の総人口約一億人が7000万人ほどに減ってしまった。
政府はサティロスのことに追われ、日本の治安は少しずつ悪くなっていく。
違法なはずのカジノが次々と立ち、人身売買や強盗など風景だ。
少ない例だが小・中学生のバイトや就職も黙認されつつある。
そんな混乱の世の中から1年。
ある企業が開発した『マジカルクロック』。
それは、人間でありながら『魔力』という概念が存在する選ばれし少女を強力にするサポートアイテムだ。
変身や魔法、そして大幅に上がった能力を使いこなす少女が、のちに『魔法少女』と呼ばれることになる。
魔法少女らは次々とサティロスを倒していき、廃れ切った世の中に希望の光を与えていく。
そして、サティロスを率いる『幹部』らを倒し、確実にサティロスの数を減らしていった。
だが、その労働環境は過酷としか言いようがない。
救えなかった命を背中に引きずり、自分より幼い、または同じくらいの年頃の格好をした幹部らをもれなく殺す。
初潮も来ているかわからない10代の少女達には辛すぎる仕事だ。
少女らは残酷な死に方をし、時に自分を殺めようとも進み続ける。いや、進まされ続けている。
自らが信じる正義に。世間の目とやらに。
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『私は、なんのために…!っ…なんで…どうして…』
汚れた歴史だから、無かったことにする。
都合の悪いことだから、見なかったことにする。
少女は叫び続ける。
ずっと、ずっと、届くはずもないのに。
泣いて、泣いて、涙も枯れて。
叫んで、叫んで、喉を潰して。
叩いて、叩いて、自らの腕を壊して。
そして、ついに。
嗤い出してしまった。
楽しそうな、苦しそうな、掠れた声で。
何もかもが枯れてしまい、ついに人間ですらも無くなってしまった彼女は。
ある歌を、小さく小さく口ずさみ始めた。