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鉄路行き行きて。(四話 初陣)
実在した歴史、兵器の類を基にしていますが、実際にあったものではございません。また、専門用語が多数使われています。できる限り解説は致しますが、ご了承ください。
この装甲列車が死ぬ所が想像できない。こんな重火器が大量に載っていて、島田少尉含む実戦経験豊富な兵員が乗った車両を如何にすれば破壊できるのか。多分、不可能だ。だが、島田少尉は昔言っていた。
「無敵の物など存在しない。無敵の戦艦も弾庫に誘爆すれば一瞬で沈むし、戦車だって野砲で集中砲火を食らわせれば壊れる。この装甲列車だってそうだ。一見、無敵に見える物も決して信じてはいけない。物はいつか壊れる。いいか、物はいつか壊れるんだ。だが、使い方次第で持つものもある。覚えとけよ。」
こいつに乗っている者として、無敵と言うのは信じたいな。
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敵機襲来から翌日。敵の侵攻速度的に今日には、敵部隊と戦闘になるだろうと踏んで、朝から戦闘配置に皆付いていた。因みにここは満州北部。既に戦闘区域である。
砲塔内は昼間なのに暗く、窓からの小さな太陽光が唯一の光源であった。外は、珍しく黄砂がやや舞っていた。車内には薄氷の様な不気味とも言える緊張感からくる不思議な静けさに包まれている。腕時計を見ると、午前十時二分。まだ朝か。その時である。一号車の警戒車へ繋がる伝声管から響いた。
『本車から三時の方向、稜線に敵戦車と思わしき影があり!!射撃ヨーイ!!弾種、尖鋭弾。測距開始!!』
薄氷が割れた。敵戦車?!すぐさまその方向の稜線へ砲を回す。自分は双眼鏡に顔を当てるように照準器を覗いた。照準器には、十字架状の照準と、周りには複数の目盛りが。左右には大まかな高さが書かれており、大体どこに砲弾が落ちるかが書かれていた。
「射撃ヨーイ!!弾種、尖鋭弾!!」
砲の旋回が終わると分隊長の島田少尉が指示を出した。
「弾種、尖鋭弾!!」
すぐさま弾薬箱から砲弾の先が赤く塗られた尖鋭弾を田代軍曹が素早く取り出して砲栓を開けて入れた後すぐに閉める。装填完了だ。
「火砲車乙、射撃ヨーイ良し!!」
『火砲車甲、射撃ヨーイ良し!!』
『火砲車丙、一、二番砲射撃ヨーイ良し!!』
複数の伝声管から報告が耳に入った。全門装填良し。後は測距だけ・・・・・
「距離、九千!!目標、三時の方向!!仰角上げ三!!射撃開始ヨーイ!!」
「仰角、上げ三!!」
仰角を右下の目盛りの三に合わせる。見えた。敵車両!!何か・・でかくないか?見えた敵に対して、照準の微調整を行う。砂塵を巻き上げて移動しているが、照準良し。当たる。絶対に。
『てー!!』
その声と共に胸あたりにある引き金を引いた。爆発音と共に車体が地震のように揺れる。余りの爆発音で耳鳴りと揺れによる軽い頭痛と吐き気に襲われた。だが、そんな物にかまっている暇はない。砲弾を目で追う。弾着。目標の戦車の周りに至近弾による砂塵が巻き上げられたが、一発・・・・俺が撃った弾が当たった。確かに。その戦車は正面から装甲をかち割られ、弾薬に誘爆、爆発して吹き飛んだ。脱出の時間は無かった。生存者はいないと思う。ドっと達成感と浮かれた気持ちが顔に浮かび上がったが、敵は安堵の時は与えてくれなかった。
『敵車両、歩兵、た、多数!!各砲、射撃開始!!』
何を騒いでいるのかと、照準器を覗いた。
「はぁ・・・・・?!」
黄砂の隙間から見えたのは何十台、何百台の車両。そこに付随して群がる歩兵。
「な、何だ・・・・・?」
「あれ・・?!」
「どした、長坂!!」
「少尉殿、さっきの砲撃の衝撃のせいで測距儀との配線が切れました!!測距情報が送られません!!」
不安と焦燥が波紋の様に広がる。だが、島田少尉と田代軍曹は冷静だった。
「田代!!次弾榴弾!!歩兵を吹き飛ばすぞ!!」
「りょーかい!!」
田代軍曹がまた弾薬箱から砲弾を出して担ぎ、装填した。
「長坂は配線をいじれ、直るか試して見ろ!!」
「りょーかい!!こんな所で死んでたまりますか!!」
「佐竹、歩兵の多い所に榴弾を撃て!!歩兵の接近を許すな!!」
「りょーかい!!」
砲栓を閉める無機質な音が、怒声の中に響く。
「照準良し!!」
五時の方向、目標は輸送トラックおよびその周辺にいる歩兵。手前に着弾させて砲弾の破片でやる。
「てー!!」
引き金を引いた。砲弾が飛び出し、目標へ向かう。砲撃により、次々と土が舞き上がり、黄砂に混じった。
「次弾装填!!次弾、徹甲弾!!目標、敵戦車!!重火器も潰すぞ!!」
「装填よーし!!」
「照準良し!!」
「てー!!」
砲撃の激しさ、正確さに敵の車列が乱れていく。無慈悲な砲弾がまた一つ、着弾した。だが、敵は前進を止めず、それどこか砲撃を避ける為に速度を上げた。双眼鏡で着弾点を見た島田少尉は、
「機動戦を仕掛けてきたな?弾種、徹甲弾!!佐竹、目標、射撃射撃ヨーイ!!」
次々と新たな指示を出していく。
「徹甲弾装填!!」
近づいてきたので、戦車の形状がある程度わかるようになった。こいつはこっちの持っていた戦車とは一味も二味も違う。そいつは砲身は長く、巨大で、国境の部隊の真意が分かった様な気がした。この数年で兵器が変わったのだろうか・・・・。田代軍曹の言うことが現実になったのだ。だが、こっちはどんな時も最善を尽くすまで。目標は最も近い、距離三千まで来やがった中型戦車!!
「照準良し!!」
「撃ーぇ!!」
発砲。又一台、戦車が吹っ飛んだ。十糎砲の威力はやはり伊達ではない。
「命中!!」
「よくやった!!佐竹!!次弾徹甲弾!!」
「島田殿!!直りました!!」
長坂上等兵は達成感あふれる表情でこっちにむいた
「よくやった。さぁ、迎撃するぞ!!次弾装填!!次弾徹甲弾!!戦車を葬るぞ!!」
『了解!!』
会敵・・・・・物量のソ連軍、質の装甲列車軍団、語り継がれぬ戦場の記憶が幕を上げる。