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ウマ娘~オンリーワン~ 19R
前回に引き続き、ややネガティブな表現があるかもしれません。ご注意ください。
あと、めっちゃ長くなってしまいました。ごめんなさい。
19R「もっと大切なこと」
アスカ「―――あれ、ここは?」
目を覚ますと、あたしは真っ暗闇の中に立っていた。
後ろから、誰かの足音が聞こえる。
「タッ、タッ、タッ、タッ……」
そして、あっという間にあたしの方へと近づき、そしてあっという間に去っていった。
アスカ「―――あっ、アスターっ!」
それは、アスターだった。しかし、あたしの声に気づかなかったのか、振り向きもしないで彼女は去っていった。
そして、また複数の足音が聞こえてくる。
クリスとユニバだ。二人で話しながらあたしの横を通りすぎる。
アスカ「クリス!ユニバ!」
すると、二人は気づいてくれたが、
クリス「あ、アスカちゃん!先行ってるね!」
ユニバ「お待ちしていますので………」
そう言い残し、二人は去っていった。
また足音が聞こえる。
ガーネット「よお、アスカ。何突っ立ってんだ?早く走らないとどんどん置いてっちまうからな。んじゃ、先行ってるぞ。」
アスカ「……ガーネット!」
「タッ、タッ、タッ、タッ……」
アルノ「あっ、アスカさん!先行ってますね。それでは!」
アスカ「……アルノ!」
「タッ、タッ、タッ………」
マロン「うわあ~っ!アスカさんだぁーっ♪マロンちゃんたちみんなで、アスカさんのこと待ってますからね。ゆっくりでいいですよ~!それじゃあまた!」
アスカ「………待って、マロン!」
みんな、行ってしまった。
あれ?でも、誰かもう一人忘れているような…………
すると、誰かに後ろから背中をポン、と叩かれた。
振り返る。
アスカ「―――グッド!」
グッド「アスカ殿!やっと追い付いた!寂しかったんだ。ずっと一人で真っ暗闇を走ってて。よかった。もう安心だな。それじゃあ!」
アスカ「待って!」
あたしは、再び走り出そうとするグッドの腕を掴んだ。
アスカ「……ここはどこなの!?なんでみんな走ってるの?“先行ってる”ってどういう意味!?教えてよ、グッド!」
グッド「……どうしたんだ?アスカ殿。熱でもあるのか?“みんな走ってる”って、そんなの当たり前じゃないか。逆に聞くが、何故アスカ殿はそこに立っているんだ?そこに立ったままだと、みんなに《《負けてしまう》》ぞ。」
グッドは、不思議そうな顔をして、あたしの顔を覗きこむ。
アスカ「“負ける”って………??」
グッド「……おっといけない。こんなところで立ち止まってちゃ、みんなに追い付けない。それじゃあな、アスカ殿!あたしもみんなに追い付いて、その先で待ってるから!アスカはアスカなりのペースで進んでいけばいいからなーっ!」
グッドは、目にも留まらぬ速さで走りだし、あっという間に真っ暗闇の中へ消えてしまった。
もう、足音も何も聞こえない。
アスカ「―――みんなぁーーっっ!!どこにいるのーっ!!アスターっ!クリス!ユニバーっ!ガーネット!アルノ!マロン!グッドーっ!!」
しかし聞こえてくるのは、あたしの発した声が跳ね返り、反響した音だけ。
アスカ「先に進めば、みんないるのかな……??」
あたしは、足を踏み出して、走り出す。
「ズキッ」
アスカ「い"っ………!!!」
左足が、とても痛くなり、走れない。
あたしは、あまりの痛さに、その場に倒れこんでしまった。
視界がぼやける。意識がもうろうとする。
ああ、なんだか分かった気がする。
あたしは、なんてことを――――
アスカ「―――ハッ!!」
目が覚めた。周りを見渡すと、そこには真っ暗闇ではなく、ありがちな病室の風景が広がっていた。
「あっ………!アスカさん!大丈夫ですか!?」
ベッドのそばには、トレーナーがいた。
心配そうな目でこちらを見ている。
アスカ「………あれ…何であたし………」
あたしは、勝負服を着ていた。
――――そうだ、レース!!
アスカ「トレーナー、レースは!?」
篠原「レースは、中止です。だって、途中で骨折して、その場に倒れこんだものですから。しかし、無事で本当によかったです。」
そうだ、あたし、急に左足が痛くなって、それで…………
アスカ「……あたし、迷惑かけちゃったよね………」
篠原「そんなことないです!迷惑だなんてとんでもない!」
トレーナーがそう否定するほど、あたしは申し訳なくなっていた。
悪いのは全部あたしだ。こんな奴が骨折したって、自業自得なんだ。だから、そんな奴の心配なんて、することないのに。
アスカ「…………あたしね、本当は、マイルチャンピオンシップなんて、走りたくなかった。だけど、無理して走ってた。中途半端な気持ちで走ってた。トレーナー、ごめん。あんなにあたしに尽くしてくれたのに。期待してくれてるみんなにも申し訳ないよ………ごめんなさい、ごめんなさい………ごめんなさい……!!……うっ…うわぁーーーっっ!!」
あたしは、今まで思っていた全てを、吐き出した。
口が、言うことを聞かない。
今まで溜めていたモヤモヤが、たくさんあたしの口から流れ出ていく。
そして、涙がとめどなく溢れてくる。
いままで、あたしに溜まっていたモヤモヤが、一気に爆発した。
篠原「………そんなこと、ないですよ。申し訳ないなんて、思わなくていいんです。アスカさんは、アスカさんのままで走ればいいんですよ。それに、中途半端でもいいんです。気持ちがこもってなくても、そんな時だってありますから。アスカさんは、アスカさんなりのやり方で走ってください。」
あたしは、さっき見た夢を思い出していた。
『ゆっくりでいいですよ~!』
『アスカはアスカなりのペースで進んでいけばいいからーっ!』
そっか、そういうことだったんだ。
あたしは、みんなに追い付かないと、ということばかり考えてしまっていた。
でも、あたしなりのペースでも、いいんだ。
期待だって、全く気にしなくてもいいんだ。
そう思うと、なんだか走るのが怖くなくなってきた。
あたしは、あたしなりのペースで進んでいけばいいんだ。
もう相手と比べるのはやめよう。
期待に応えようとするのは、やめよう。
---
グッド「―――あっ!アスター殿!マイルチャンピオンシップ、凄かったぞ!優勝おめでとう!」
アスター「………ありがとう。………何で、あなたがここに?」
グッド「アスカ殿が、気になってな。アスカ殿が走っている姿が見たかったんだ。だから、トレーナー殿に頼み込んで、香港遠征前の練習を、今日は無しにしてもらった!……しかし、まさか競走中止とはなあ……アスター殿、なんかアスカ殿に変わりはなかったか?」
アスター「………そうね………ゲート入りを嫌がってた………ひょっとして、走るのを嫌がっていたんじゃないかしら。」
グッド「なるほど。アスカ殿も、色々悩んでたんだな。アスカ殿も、骨折してしまい、色々大変だろうし、今日は折角来たが、会うのはやめておこう!それじゃあ、また学園で!」
アスター「……ええ。」
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お医者さんの説明によると、あたしは、やはり骨折らしく、早くて全治6ヶ月だといわれた。
そして、一週間ほど病院に入院することになった。
クリス「―――アスカちゃーんっ!お見舞いに来たよーっ!」
ガーネット「土産もあるぞ。」
アスカ「みんなありがとう!」
マロン「みんなで選んだんですよ!アスカさんに元気になってほしいから!」
ユニバ「アスカさん……お体大切にしてください………」
ガーネット「そうそう。お前がいなきゃ、寂しいんだよ。アタシ一人きりの部屋なんて、ゴメンだからな。」
アルノ「早く退院できるといいですね!私も骨折したことあるので、アスカさんの気持ち、とっても分かります。早く治して走りたいですよね。」
アスカ「うん。そうだね。」
不思議だ。今までだったら、アルノの言うことも否定していただろう。
だけど、今はすごく共感できる。今すぐにでも走りたい。
―――だからこそ、後悔したことはいっぱいある。
なんで、あの時ちゃんと走れなかったんだろう。
なんで、あの時ちゃんと喜べなかったんだろう。
あたしの様な立場に、立ちたくても立てない人なんて大勢いるのに、あたしはそれを無駄にした。
でも、まだ間に合う。
まだシニア級にもなってないんだから。
これから一生懸命走って、
たくさんたくさん走って、
この後悔を埋めるんだ。
だから、まずは骨折を治さなきゃ!
クリス「―――あっ、そうそう。香港に遠征したグッドちゃんとも、なんと繋がっていまーすっ!グッドちゃーんっ!」
そう言って、クリスはスマートフォンの画面をあたしに見せた。
グッド「≪――あ!アスカ殿!元気か?骨折は大丈夫なのか?≫」
グッドは、ジャージを着ていた。きっと向こうでトレーニングをしていたのだろう。
アスカ「う、うん!へーきへーき!」
グッド「≪そうか!それはよかった!骨折、早く治してくれたまえ!じゃなきゃあたし、アスカ殿と全然勝負出来ないからなー!≫」
アスカ「……えっ……?」
グッド「≪すまない。アスカ殿。あたしも、マイルチャンピオンシップで、アスカ殿と一緒に戦いたかった。でも、『香港のレースに出ないか』って香港から招待状が届いてな。トレーナー殿と真剣に話し合ったんだが、『こんな機会、二度と訪れないかもしれない』ってなって、あたしは香港に遠征することにしたんだ。でも、ここまで来れたのも、全部、アスカ殿のお陰だ。アスカ殿がいなかったら、あたし、こんなに強くなれなかった。目標があるから、あたしは強くなれたんだ。感謝してるぞ!だから、その恩返しに、あたしは香港マイルを勝って見せる。見ていてくれ!アスカ殿!そしてみんなも!あたしの夢を叶えて見せる。だって、あたしの夢は、“世界一のウマ娘”だからな!……それじゃあ、あたし練習に戻るから。じゃあな、アスカ殿、みんな!≫」
その言葉を最後に、グッドとの通話は切れた。
アスカ「……みんな、お見舞いありがとう。とっても元気でたよ。みんなも、色々忙しいでしょ?あたしはもう大丈夫だから。お土産もおいしく食べるね。じゃあ、みんな今度は学園で!」
ガーネット「……お、おう。お大事にな………」
クリス「うん!じゃあね、アスカちゃん!」
マロン「マロンちゃんたち、待ってるから~♪」
そう言って、みんな病室から出ていった。
---
ガーネット「な、なあ。アスカ、なんか冷たくなかったか?なんかアタシたちを急かしているような感じがしたんだが……」
マロン「もぉーーっ!ガーネットは察しが悪いんだからーっ!あんなこと言われたら、誰だって泣きたくなるでしょっ?」
アルノ「――うぅ……うわあ~っ!」
クリス「もーっ、アルノまで泣くことないのにー!」
ユニバ「アっ……アルノちゃん、大丈夫ですか……??」
アルノ「うえーん……だって、グッドちゃんの言ったこと、とっても感動的だったから……いいライバル関係だなあって……うわーん……!!」
ガーネット(………なるほどな。アイツ、アタシたちの前で泣くところ、見せたくなかったのか。)
アスカ「う……うわぁぁぁああっっ!!!」
みんなの前では、中々泣けなかったが、みんながいなくなった途端、涙が出てきた。
グッドは、あたしをずっと目標にしていたなんて………
それに、“あたしがいなかったら、こんなに強くなれなかった”って。
あたしにも、ちゃんと走る意味あったんだ。
例え、重賞やGⅠを勝ったことがまぐれでもあたしは、グッドを勇気づけることが出来たんだ。
じゃあ、余計に頑張らないと!
見ていてよ、グッド。あたし、君よりも強くなって見せるから。
あたしがグッドの目標なら、やっぱりあたしはグッドより上に立ってないと、ダメなんだ……!
〈一週間後〉
松葉杖をつきながら、あたしはようやく退院し、トレセン学園へ通えるようになった。
トレーニングも、少なくとも春になるまでは休みだとトレーナーに言われた。
トレセン学園の校舎内に入り、教室に行くために松葉杖をつきながら廊下を歩く。
すると、向かい側には、アスターがいた。
目が合う。
アスカ「あっ……、アスター!久しぶり。」
アスター「……久しぶり。脚は大丈夫なの?……その…お見舞い、みんなと行けなくてごめんなさい。ここ最近、トレーニングとか雑誌のインタビューとか、色々と忙しくて………」
アスカ「ううん、全然。マイルチャンピオンシップ、優勝したもんね。おめでとう。さっすがアスター!」
アスター「……言い過ぎよ。………お節介かもしれないけど、少し心配してたのよ。でも、元気そうで良かったわ。」
アスカ「うん。実は、ちょっと何のために走っているのか分からなくなっちゃってさ。……でも、もう見つけたから。走る理由を!」
アスター「そう。そうだったのね………あなた、URAの賞を私と一緒に受賞したときに、『目標は?』って聞かれて、何て答えたか覚えてる?」
アスカ「……えっ…………」
その言葉で、あたしは思い出した。
司会「―――さあ、続いて、アスカウイングさん。アスカウイングさんも、昨年はサウジアラビアロイヤルカップ、そして朝日杯フューチュリティステークスを勝ち、最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれましたね。それでは、今年の目標をどうぞ!」
アスカ「はい。あたしの目標は、たくさんのライバルたちと切磋琢磨することです。ライバルがいるからこそ、乗り越えられる壁があると思うので!だから、ただ強くなりたいって思うだけじゃなくて、周りにいるたくさんのライバル―――仲間を大切にしたいです!……もちろん、今となりにいるアスターも、大切なライバルの一人です!―――」
思い出した。そうだ。そんなことを言っていた。
アスター「――珍しく、私は今でもあなたの言ったその言葉を覚えているわ。私は、あなたの大切な|仲間《ライバル》なんでしょう?あんなことを言ったあなたが、ライバルの私に負けてどうするのよ。それに、グッドさんにだって負けてるし、このままじゃ、あなたみんなに負けてしまうわよ。ライバルと切磋琢磨するどころか、あなた、置いてかれちゃうわ。―――アスカウイングは、そんなウマ娘じゃないって見せつけてやりなさいよ……!」
―――そうだ。アスターの言う通りだ。
何やってんだ、あたし。
そうだよ。のんきにアスターの優勝を祝福している場合じゃなかった。
そうだよね。このままじゃみんなに置いていかれちゃう。
この間見た、夢みたいに。
あたしは、もっと頑張らなきゃいけない。
グッドだけじゃなくて、アスター、ガーネット、クリス、ユニバ、アルノ、マロン………一緒に走る機会は、ないかもしれないけど、みんなみんな、あたしの大切な仲間だ。
仲間がいるだけでも、すごいことなんだ。
アスター「……あ、ごめんなさい。ちょっと言い過ぎてしまったかもしれないわね……」
アスカ「ありがとう。アスター。あたし、もっと大切なこと見つけられた気がする!それじゃあ、先教室行ってるね!」
アスター「あっ……どう、いたしまして………?」
あたしは、松葉杖をつくスピードを早めた。
なんだか、教室に行くのが、待ち遠しかった。
-To next 20R-