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ノンフィクションホラー
朝、電車に乗っていた。
私はよくギリギリ間に合う時間の電車に乗る。今日もそのつもりだった。でも、一本前の電車が遅れていたお陰で、予定より早く目的の駅に着いた。
電車から降りる。同じように降りてくる人は数知れず。そのまま、エスカレーターに乗った。
ここまでは、普段と何一つ変わらない。けれど、妙なことに気が付いた。
すぐ後ろでエスカレーターに乗ったのは、恐らく若いと思われる、恐らく男性であろう人だった。けれど、黒とグレーの間くらいの色のダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み、フードを深く被っていた。もちろん雨なんて降っていない。そして、下を向いているのか、フードの隙間からはマスクだけが見える。
その見た目から私が連想した物には、良いものなんて何一つ無かった。
──……犯罪者。殺人犯。通り魔。
急に、緊張感のような、恐怖心のようなものが湧き上がってくる。そうこうしている間も、エスカレーターは私達を上へと連れて行く。
エスカレーターの終着点に着いた途端、私は足早に改札へと向かった。ただ、心臓がバクバクしていた。
改札に並ぶ列から後ろを見れば、さっきの人物がエスカレーターを降りたところだった。
もう振り返るのも怖くなって、前を向き直して改札に定期をかざす。そのまま、学校の方向のエスカレーターに並ぶ列の最後尾についた。
勇気を出して、改札の方を振り返った。
ダウンジャケットのフードは見えなかった。
戸惑った。もしかしたら、柱に隠れて見えなかったのだろうか。
そして、エスカレーターに乗りながら、もう一度見た。
いない。
見つからない。
心臓がバクバクと動いている。あれは誰だったのか、そもそも『人』なのか……?
とんでもないものを見たのかもしれないという思いを抱えて、足早に学校の方向へと向かった。
ほんとうにあったこわいはなし。