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𝕿𝖜𝖔 俺はベビーシッターじゃない
一話完結投稿するって言ってたのにシリーズ書いてしまいました☆
学校の帰り。
久しぶりに仕事がなく家でゆっくりできそうだ、と夕陽の光に照らされるアスファルトの上を歩きながらそう考える。
勝手に口角が上がっていそうだ。こんなに嬉しい日はそうそうない。帰ってゲームでもするか、それともこれまで削ってきた睡眠時間の遅れを少しでも取り戻そうか。なんだか楽しみだ。
気分が良く、いつもは絶対にしない、振り返り、夕陽に真っすぐ誘導されているような道にカメラを向けて写真を撮った。
俺らしくないな、と思いつつもクルッと体を180度回転させて家に向かった。
角を曲がる直前、角の先に誰かがいる気配がした。
殺気は全くない。ただ、殺し屋の仕事をしていると勝手に身につく人の気配の察知能力が働いただけだ。
避けようと角から少し離れて歩く。
けれど、角に曲がると避けたはずの相手とぶつかった。
やべっ。
俺は反射的にすぐ謝ろうとした。
「すみまs…」
あれ、でも、ぶつかった感覚が下半身しかない。
不思議に思い、下を見ると、そこには俺の足をギュッと抱きしめる幼児が居た。
おそらく幼稚園の制服を着て、髪は真っ黒、目は…。
「お兄ちゃん…」
目が合った。
真っ赤だ。燃えるような、強くたくましい瞳。不安になっているような今にも涙が零れそうで、うるっとしていながらも真っすぐ俺を見つめている。
誰かに似ている気がする。
「お前どこから来たんだ?親は?」
しゃがんで幼児と視線を合わせる。
制服は泥で汚れたような、ただ帰ってきたらこんな事にはならない汚れ方をしている。
「ママは、い、いない。パパは見たことない。」
お父さんはやり逃げってことか?
お母さんが居ないのはどういう…?
「お家に帰れない…ヒッグ…ヒッグ……帰る場所ない…」
こういうのって警察署に行く方が良いのか?んーわからん。
「あれ、雅君?」
声がして振り返ると仮面を被った男、|禮士《れいじ》先輩がスーツ姿でこちらを見ていた。
「外でも仮面は外さないんですね。」
「この辺りではもう殆ど知ってもらってるから良いんだよ。…ところで、その子は?」
「どちらも親が居なく、家に帰れないみたいです。」
「ふーん…家に帰りたいの?」
禮士先輩は幼児に訊くと、わかりやすく首を横に振った。
幼児は続けて言う。
「お家、じどーよーご施設ってところになったんだけど、楽しくない。だから親戚のお家に行くって言って出てきた。」
幼児って親戚って言葉知ってんだな。最近の子供ってすげー。
禮士先輩は少し考えるようなポーズをすると、パチンと指鳴らしをしてこう言った。
「そうだ!雅君がこれから世話をしてあげなよ。」
「え?」
「お兄ちゃんのとこ連れてってくれるの?」
「いや、まだ決まったわけじゃなく…世話するなら禮士先輩の方がいいんじゃないですか?」
「俺の家には姉貴がいるから。」
「僕お兄ちゃんと暮らしたい!!」
幼児は俺の足に勢いよく抱き着いてきた。抱き着いたらしがみついて中々放してくれない。
「だってよー。」
禮士先輩はきっと今、仮面の中でニヤニヤとしているに違いない。
終わった。仕方ない。この幼児と最初に話したのが俺だった責任だ。
「わかったよ。じゃあ、また仕事で。」
「うん。勉強との両立頑張ってねー。ベビーシッター君♪」
先輩に手を振る幼児を負んぶして、家に向かった。
俺まだ、ただのではないけど一応学生だよ?ベビーシッターじゃないんだけどなぁ。
自主企画開きたい…幼稚園児と殺し屋組織の募集したい…