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4.人間、遺跡に辿り着き、悲しさを感じる
「人間が住んでいた遺跡を目指してみよう!」
そう、美玲(みれい)が決意してから3日が経った。
その日の昼が過ぎても、美玲は未だ、川のほとりで日向(ひなた)と共に過ごしていた。
その理由は……
——ピコーン!
『スキル「浮遊」のレベルが10になりました』
「はぁ……ようやくレベル10か……長かったな。けれど、4から5になった時に、動きの種類が増えたから9から10でもきっともっと動きやすくなっているよね」
そう、浮遊のレベル上げのためであった。
美玲は、遺跡を目指してみると決めた。
決めたはいい。
だが、その遺跡はどこにある?
美玲が、浮遊のレベル上げを行い、上空から遺跡の在処を探そうとするのは、至って自然なことであった。
ようやくレベル10になった美玲は、さっそく飛んでみる。
レベル2では1mほどしか浮くことが出来なかった浮遊だが、レベル5では高さ5mほど浮き上がり、横の移動も出来るようになった。さっきまでは高さ10mほどを飛んでいた。
そしてレベル10は……
「『浮遊』!」
美玲の体は持ち上がっていく。
とうとう、さっきまでよりも高い……だいたい12mくらいだろうか……まで浮き上がっていた。しかも、速さも十分ある。
「よっしゃあ!」
美玲は、空からどこに遺跡があるのかを探してそこへ向かうのではなく、移動全般を浮遊でやってしまおうという考えに辿り着いた。
だって……ここから見える範囲に遺跡が……無さそうだったのだ。
そしてそれを探すなら飛んだほうが速い。
外に出しておいたテントなどは全てインベントリ内に収納して、美玲は飛び立った。
「しゅっぱーつ!」
美玲は、日向を抱えたまま、あちこちを見て回る。
まずは、北の方へと向かった。
単純に、その方が眩しくないからだ。
だが、30分ほど飛んでも、遺跡は見つからなかった。
その後は、西に向かった。
理由は、東北東の方に山が見えていて、西の方が可能性がありそうだったからだ。
美玲は、さっきまで進んでいた方向を、西に135度転換して。進んだ。
そんなことを繰り返し。
ようやく、3時くらいになった。
美玲は、だんだん太陽を見ての時間が分かるようになってきた。それに、方向も。
美玲が考えている方角は美玲が北半球にいるという前提なのだが、間違っていないのだからそのままで何の問題もない。
勘違いは勘違いでも、上手くハマればそれは正解として機能してしまうのだった。
まあそこがどうでもいい。
重要なのは、2時間ほど飛び回って、美玲がようやく森の中に遺跡を、西の方で見つけたということだ。
……ついでに浮遊もレベルが11に上がった。きっとスキルを酷使したのだろう……
正直、手紙でなかなか遭えないと書いてあったからさらに行動範囲を広げることになるだろうな、と思っていたのに……
「石で作られた家かぁ。これは良くありがちな中世風の世界観だったっていうことでいいかな?」
「ちゅうせいふう? 何それ?」
そんな美玲に声を掛けるものが現れた。
もちろん、日向だ。
日向は美玲を母として信頼し、美玲も特に自分を攻撃してくるわけではない日向を信用するのは、美玲と会話をするものがいない中では自然なことであった。
さらに、始めは聞き取りにくかった言葉も、意思疎通のレベルが今は10にまで上がっており、難しい単語を使わなければ、普通に会話することが出来るくらいだ。
「中世風っていうのは……」
美玲はしばし逡巡して、答えた。
「こういう遺跡のようなもののことだよ」
「そうなんだ! これはチュウセイフウで、遺跡っていうんだね!」
「そうそう」
美玲は純粋な日向に心を癒された。
うん、きっと可愛いのだろう。
ちなみに、日向の見た目は色は前回美玲が言っていたが緑色。
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こんな風に、恐竜の子供にでもいそうな感じだ。
この姿で「くくっ!」と鳴いていたことを考えると……可愛すぎる……
さて、美玲もようやく遺跡に入る決心がついたみたいである。
「よし、入るか! 行くよ、日向!」
「うん、 ママ!」
日向は、遺跡へと足を踏み出した。
そんな日向を待っていたのは人が住んでいた後が残っており、その跡を歩いているという高揚感……ではもちろんなく、悲しさだった。
まず、遺跡だから仕方が無いとはいえ、草が生えまくっている。
お陰で、歩くたびにちくちくちくちくしてくるのだ。
美玲は、魔法の創造もいくばくか行っているが、草を刈るような便利魔法は……
「ある……!」
美玲には、思い当たりが一つあった。
「どうしたの、ママ?」
「何でも無いよ、いい方法を思いついただけ」
「ふうん」
「じゃあ早速するね。『ウィンドカッター』」
風が、草の根元の方を刈っていく。
順番に草が無くなっていく光景は、思っている以上に綺麗で、爽快感があり、見ものだった。
「さすがママ! 歩きやすくなったね!」
「そうでしょう?」
だが、これでも遺跡を歩く悲しさは癒えない。
建物は生き残っている。だが、綺麗ではない。周りには蔦(つた)が張ってあるし、色が黒ずんでいる。
それが、物寂しさを感じさせられる原因となっていた。
だけど……
他の家の中を覗いた美玲は、こう決心した。
「本があるみたいだし、読みたいから、しばらくこの遺跡に留まることにしようかな。日向はそれでいい?」
「うん、ママがそうしたいなら!」
日向は、元気に答えた。
「分かった、ありがとう」
美玲は、優しく返答した。
遺跡にもだどり着いた美玲。
これからは本を読む毎日……が来ると思われたが、その心には一抹の不安があった。
『今、その世界を跋扈(ばっこ)しておるのは魔物と呼ばれておるもので、成長してかなり大きくなっておる』
神からの手紙には、そんなことが書いてあった。
だが、今までに美玲は始めに殺すことになってしまった魔物と日向以外に、出くわしたことがない。
この静けさが、美玲にとっては微妙に、いや絶妙に、怖いものと感じられるのだった。