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第五話 雨夜、ディターミネーション
お久しぶりです!
投稿遅くなってすみません。
タイトルが長い
雨夜はしばらく目を瞬かせて動かなかった。
世界が滅んだ、ということはわりとさっぱり受け入れることが出来た。
というのも、ここに来るまでの道中で既に、なんとなく、しかしたしかな確信を帯びてそれを予感していたからである。
馬鹿馬鹿しい、そんなわけがあるか、と思いつつも、そうとしか思えなかった。日常が突如とんでもない非日常に落っこちたとしか考えられなかった。
しかし、そのあとに語られた、雨夜が忘れている日の壮絶さ。それが雨夜を硬直させていた。
実際に見たとしか思えない生々しさだった。語りにおいて、日向坂は彼女らしく気丈に淡々と語っていたが、わずかに、ほんのわずかに声が震えていたのを雨夜は聞き逃さなかった。
それほどの恐怖だったということを雨夜に感じさせた。
世界が滅んだ。そのせいで、年端もゆかない子供が戦わなければならない。怪物に立ち向かわなければならない。
まるで、少年漫画だ。
まったくもって、あほらしく、非日常的で、信じられない話だ。
ふいに、緩慢な動きで、雨夜は頬に手をやる。そしてつねる。
ーー痛い。つまりこれは現実だ。
紛れもない、現実だ。
その痛みをもって、雨夜は復帰を果たすこととなる。雨夜は一度目をつぶり、開いてから、日向坂に問いかけた。
「それで、僕にどうしろって?」
「答えは決まっているだろう。ーー戦え。命を懸けて」
「それは強制か?」
雨夜は聞く。実際、強制でもおかしくはない状況だ。
「さあねえ。無惨に殺されたくなければ、という話さね。なんせ、戦闘員が不足しているのさーー腑抜けが多いせいでね。命がぼろぼろこぼれ落ちる戦場には行きたくないんだそうだ。戦場に向かう命がこぼれ落ちきった末に、自分達に破滅の未来が待っていたとしてもねえ。ーー私にはほとほと、理解できないけれどさ」
一息おいて、日向坂は言う。
「誠実さのために言っておく。死亡率は、高くはないーーが、低くもない。基本は少数の群れで襲いかかってくるが、まれに、とんでもない数のことがある。休みは必要だし、多方面への警戒も必要だから、動員できても数部隊さ。そういうときは、ほとんどの場合だれか死ぬ。そうでなくとも、エネミーは人間より身体が頑強だ、普段の巡回で死ぬやつも多い。もちろん私たちの身体もアンノウンによってある程度強化されてはいるものの、なぜかそれより遥かにエネミーの身体は頑丈なのさ。普通は素手だとエネミー狩りに慣れてきたところで死ぬ新人も、ざらにいるさ。お前さんの部屋も、ついこの間死んだ戦闘員のものさね」
いつでも死んで構わないという覚悟が必要なのさ。
そう告げたあと、日向坂は真っ直ぐな目でこちらを見た。
「それで……お前さんは、自分のため、あるいは他人のために死ぬ覚悟はあるかい?」
雨夜の意識の、深淵まで覗き込んでくるような目だった。
「……他人のために戦ってやるつもりはさらさらない」
「それで?」
「だけど」
雨夜は真っ直ぐな目で日向坂を見つめ返す。
「抵抗もせず犬死にするなんてごめんだ。どうせ死ぬんなら、とことんまで抵抗してやる」
いいぜ。
エネミーとやらと、戦ってやるよ。
雨夜はきっぱりと告げた。
日向坂はそれに対し、目をつぶり、口元を緩めた。
「いい心構えじゃあないか。そういうやつは、大好きだよ」
「そりゃどーも」
雨夜はどうでも良さそうに答える。実際どうでも良かった。
日向坂は雨夜が答えたあとにようやく目を開けた。
その目はきらきらしている。
……雨夜は猛烈に嫌な予感がした。
「それじゃあ、これから早速、訓練だねえ」
「いやちょっと待てこの戦闘狂」
話のテンポが早すぎる。せっかちすぎるだろう、この日向坂という女は。
「それでは、これからは師匠とよんでもらおうか」
「断固拒否だ!」
断固拒否である。そもそも雨夜は年上への敬意なんて持ち合わせていない。さん付けも嫌なのに師匠なんてもっての他だ。
「つれないねえ」
日向坂はそれに対しつまらなそうに言う。
「まあいいさ。この扉の向こうの訓練上に行こうじゃないか。お前さんと同じくらいの年頃のやつもごろごろいる。仲良くなれるさ」
「仲良くなれるか」
「それはどうだろうねえ」
日向坂はあくまでふてぶてしく笑う。いらいらとする笑いかただった。
「まあ、ともかくさ。お前さんも死にたくはないんだろう? なら、万が一があるだろう。第一お前さん、運動なんてさらさらしてなかっただろうしねえ」
ぐ、と雨夜はことばにつまる。
日向坂は気に入らないやつだが、一理あると思ってしまった。
自分が運動をまったくもってしていなかったのは事実である。それこそ、先ほどなぜ日向坂と渡り合えたのか、不思議なほどなのだ。
それほど長い期間ひきこもっていた。
それに、日向坂はベテランだ。先人に対する敬意はなくとも、先人に学ぶくらいはした方がいいだろう。もっとも雨夜はそんなことしたくないのだけれど、これは雨夜の経験則だった。
ソロでゲームを攻略するより、攻略サイトを見たり他のプレイヤーを真似る方が効率がいいのである。
「……分かったよ」
雨夜は嫌々ながらもそう吐き捨てた。
「それじゃあ、扉の向こうのやつらに混じってきな。……気のいいやつがいるから、案内してもらえるはずさ」
日向坂は扉を開けてその少女に呼び掛ける。
「おい、日向。この新入りを案内してやりな」
「分かりました!」
にこやかな笑顔でそう答えた、日向坂に良くにた名字の少女は、すたすたと自然な動きで雨夜に歩みよる。
「私、日向光莉。ええと……お名前は?」
「……雨夜。雨夜だ」
「そっか、よろしくね、雨夜さん!」
少しばかり雨夜の下にあるその目線を雨夜に向け、日向はすっとごく自然な動きで手を差し出してきた。
しかし、雨夜は、その手をすぐに握り返せなかった。
頼みごとをすぐに受け入れ、元気でかわいく、誰とでもすぐににこにこと接する。
世間の中ではおそらく、好かれるタイプなのだろう。
だがしかし。
こういう優等生タイプは、雨夜の苦手なタイプなのだった。
「……ああ、よろしく」
雨夜は苦々しい顔をしながらその手をようやく握り返した。
今回登場したのは、和音さまの日向光莉ちゃん。ありがとうございます!
裏話
まだ部隊が定まりきってない。やばい。