35話　陰に満ちる出会い

皆、最初は同じだと思ってた。 でも、自分だけがおかしいということが分かってしまった。 それまでは、今までの私でいれたかな。 今はもうその私はいなくなってしまった。 まるで神隠しの様に。 嗚呼、この世はどれだけ残酷なのだろうか。 大きな問題に逆らうことでしか、世界は変えられないのだから。 --- 生まれは病院。 きっと誰でもそうだろう。 でも私は違った。 病院はおろか、 ヒトからでされも生まれてきていない。 俗にいう【機械人間】。 人間の様に生まれたように。 人間の様に。 人間の皮をかぶった機械。 何もかも、他の色に合わせなければ。 逆鱗にならないように。 私が私であるために、 今日を演じるようになる。 これは一種の不可抗力。 この｜大きな問題《機械人間であること》には、一生逆らうことはできないのだ。 だが、そんな私の前に、とある人間がやってきたのだ。 「ねぇ、君。」 「な、なんですか…？」 私はいつものように、人間になった。 内心は動揺などしていない。 「…人間になりたい？」 「…⁉」 こればっかりは驚いてしまった。 「お前は誰だ。」 思わずそう口にしてしまった。 これが本能というものか。 「人間になりたい、そんなあなたに救済をご用意しました～！」 隣から、もう一人、人間が出てくる。 やけに明るいな。 取り繕っているのか。 「人間になりたいなら、ついてきな。」 彼女は明るく言った。 「人間…」 無論、人間になりたいと思った事はない。 人間になるだけ、無駄な感情がついてくる。 要らないおまけだ。 でも正直、このお遊びには疲れた。 演じずに済むのなら… いや、でも私は… 揺らぐ心の中、私は 「…分かった。」 そう呟いてしまった。 それが何故だがは今も分からない。 これが野生本能なのか？ もしかしてこれは、本能なんかじゃなくて、 演技しているうちの自分なのかもしれない。 学校では、特に成績も良かった。 人間関係も良好。 言うことなしの優等生。 こんな私も、どんな私でも、 変われはしないのだと思っていたのに。 もし生まれ変われるのならば＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 人間になりたい。 その願いが赦される。 案内された場所は、凄く昏い場所。 どうやら教会のようだ。 「これからどうするの。」 私が聞くと、 「まぁ、ついてきな。」 と、急にしゃがみこんだ。 その途端、何もなかったはずの壁から、ドアが生まれた。 「は…？」 私は驚きと困惑で満ちていたが、 彼女たちはいつものこと、との様に落ち着いていた。 嗚呼。 この摩訶不思議な、在りえないような空間でも、私は変人か。 「はぁ…」 私はため息をついた。 何故だか、自然に。 感情はないはずなのに。 「…」 私は既に、人間になりかけているのかもしれない。 これが何時からだったのか。 その時。 「行くよ。」 と、手を差し伸べてきた彼女。 「あっ…」 なんだよ私。 この機に及んで人間ぶるつもりか。 でも抗えない。 声が出せない。 機械仕掛けのマリオネットのが、解けてしまうかのような。 緊張感に包まれ、高揚感が生まれる。 … 「っ！」 決心をした私は、ただ強く頷くことしかできなかった。 --- 次に目を覚ました時には、病院、という所にいた。 「なぜ、私は此処に…」 病室の窓から見える景色は、綺麗な桜が。 不思議と、綺麗、と思ってしまった。 「私は…人間になったのか？」 またもや、何か自分の身体の中で熱くなるような、高揚感を感じる。 何故だかさっきとは違う様な… コンコン。 振り返ると、入り口ドアから音がする。 「失礼するわ。」 ガラッ 「…目が覚めたわね。」 「え、ええ…」 突然、目に見えるもの、聞こえるものが、やけに新鮮になった気がした。 そのまま触れる空気の温かさ、そして、このベットの感触。 今まで感じたことのない感覚に、ムズムズする。 「私…」 「…そうね、」 --- 「貴方は人間になったのよ。」 --- 「っ………」 分かっていた。 人間になる道を自分で選んだこと、 摩訶不思議な現象に出会ったこと、 全ては、私が動かした運命。 それに、ようやく、自分にとっての普通に成ることができて、どうしようもなく嬉しかった。 「…」 しばらく感動に入り浸っていると、 「…さて、ちょっと話したいことがあるのだけど。」 と言われ。 私は今、地下にいます。 「それで？私にスパイになってほしい？」 「…そうね。借りは貸したでしょ。」 と笑みを浮かべる彼女に、少し妬んだ。 「そうだけど…私、運動神経はそれほど良くな…」 「安心して、貴方の体に戦闘技術をインストールしてあるから。」 と、普通なら身震いしそうな台詞を軽々といった彼女に寒気がした。 …というか。 「え、勝手に私の体を改造しないでもらえる⁉」 「別にいいじゃない。せっかく人間にしてあげたんだし。」 「ううーー…」 もし私が人間だったら、こんな思いはしなくて良かったのではないだろうか。 それは、今でも思う。 「ということで、貴方には今日からスパイになってもらうわ。」 「…分かったわよ。」 「…貴方のお名前は？」 「っ…」 どうしよう。 これは普段使っている名前でよいのか。 「私、元機械なんで名前はないの。」 __「一応、試験3号という名前はあるけど…」__ 「…それなら。」 --- 「レイア。この名前をあなたに預けるわ。」 --- 「レイア…」 素敵な名前。 「…そうね、私の名前はレイアよ。あなたのお名前は？」 「…ミリムよ。」 この言葉を大事にしたいと思った。 --- これが、奇跡とも呼べる、2人の出会い。 これが、後に崩壊をもたらすことを、 私達はまだ知らない。