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20240707
四句。
特別永世名人の締めの一句がお粗末すぎて草生える。
**夏の雨電車が遅延したことに**
「電車が遅延してしまいまして……」
と電話を入れるが、それは遅れを取り戻すための最寄り駅へのダッシュの最中。本当は寝坊が遅刻理由なのだが、ちょうど雨が降っていたため遅延理由にした。
湿度と熱を含んだ空気が重い夏の雨と雰囲気をかけている。
「……したことに」の後を書かないことで余白が生まれ、まだ降りしきっているか、天候模様が回復しているのかわからない。
状況が不定なところも、遅刻理由が不明瞭なところとマッチしている。
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**オーディションへ向かう車窓の梅雨の|雷《らい》**
子役時代。
学校生活の合間にオーディションの日程が挟まることがある。
放課後、もう家に着く時間なのに、自分は疲れた身体を電車の車窓にべったりとつけている。つかの間の休息のようだが、これはオーディションに向かう厳しい道の合間であるのだ。
車窓の景色は曇天で、梅雨曇から鋭い雷の光、遅れてドーンと轟く音が聞こえてくる。雨音よりも雷。
これから行われるオーディションの予兆。
雷の音からくる緊張感。
真剣味、リアリティ……
オーディションの合格不合格の発表は、梅雨の雷のように湿っぽく、突然知らされる。そこに覚悟を決める時間の猶予はなく、次々と落とされるものである。
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**十度目のタクシーアプリ梅雨の雷**
スマホ一つでタクシーが呼べる配車アプリ。
電話がつながらないときは、こちらのほうが電話料金がかからず、便利な世の中になったものだ。
しかし、考えることはみな同じようで、特に雨の日はまったくつながらない。住所を入力して、送信……するが、ずっとぐるぐるぐるぐる……通信遮断。もうこれで十度目だよ。
季語「梅雨の雷」がタクシー難民となった作者の焦る気持ちを募らせるような雷の音をうまく表現している。
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**埼京線運転再開扇子閉づ**
夏の通勤電車。
早く動かないかなー、とぱたぱた扇子を|扇《あお》いでいる。
するとアナウンスより運転再開の知らせを聞き、ようやくかと扇子をしゅっと閉じる。
「扇子閉づ」という扇子を閉じる描写のみにとどめることで、運転再開前の扇子を使っている時を想像させるようにしている。
「運転再開」という瞬間的な時間軸。扇子で夏の季語。
そこから埼京線の車内の込み具合はどうだろう、扇子を使っているということは冷気と湿気の混在する空気感なのだろうか、など想像が湧く。
中八だが、リズムのある語句となっているためあまり気にならない。