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18.旅に向けて
「サムエル様……犯人なんですか」
「はい、そうですよ」
やはりというか、犯人はサムエルだったようだ。
サムエルに何があって、どうなっているのか。それがわからないからこの事件の背景もわからない。
「サムエル様は悪魔と」
いうことであっていますか?
そう聞こうと思ったが、遮られた。
「場所を移しても構いませんか? 今からの話は国家機密よりも大きい話です」
「構いません。あなた達も大丈夫?」
「「「「はいっ」」」」
ベノン達+実は生きていた護衛2人+普通に生きていた護衛一人が返事をした。
というか、もう一人のほうももう意識は戻っていたようだ。
無事で何より。
「どこへ向かいますか?」
「神殿でお願いします」
というわけで|神殿《住居》にやってきた。
「まず初めにお願いを。今から話すことは、他言無用のこととなります。
聖女ユミ様と、その護衛においては黙ってもらうことは当然のこととして、他の3人には、私の傘下に入って貰う必要があります。腕が良ければ護衛になるチャンスも与えましょう。
ただ、その場合は国と国の間の移動が増えるほか、心配事をなくすためにも、家族にはほとんど会えないことになります。
その覚悟はありますか?」
枢機卿の護衛になるチャンスなど滅多にない。
それに、そもそもそれしか選択肢はなかった。
これを断れば、きっと殺される。
そう思わされた3人は……
「「「はい」」」
そう答えるしか無かった。
そこから話されたことには、驚きを禁じ得なかった。
ある程度は分かっていたとはいえ、サムエルが悪魔で、教会としてはこの国を掌握するために、今回のものに手を出すことに決めた、そんな、組織の暗い話をされた。
「わかりました。そんな事情があったのですね。私は、この件に関しては何も行動しないことにします」
「ありがとうございます」
「あのー」
「何でしょうか?」
「実は、大聖女ミア様が行った儀式の概要を知りたいのですが……」
「……!? 知っていたのですね」
「はい、ベアントリクス様に伺いまして」
「「「?」」」
当たり前の事だが、私とサムエル以外にはわからない話だ。
「あなた達は一旦この部屋から出てください」
「「「「はっ」」」」
「それで、神とお話する儀式についてでしたね?」
「多分そうです」
私とサムエルを除いた全員が出たのを見計らって、サムエルが聞いてきた。
だけど、この時点で、良くわからないものが出てきた。
神とお話する?
あれは、この世界の|理《ことわり》を変えるようなものだと思っていたんだけど、違うの?
「その辺の事情は知らないようですね。大聖女ミア様は、女神でおられるアマティデ様と対話することができるようになるという儀式なんです。もちろん、それ相応の対価があり。話すものは生き返れません」
なるほど?
つまり、女神様を説得できればいいんだ。
「儀式の方法については、手間というのはそこまでかからないそうです。
膨大な聖魔法を含む魔力、それ専用の神器、祈りの気持ち。これがあれば成功します、と伝えられています」
「それぞれ詳しく聞いてもいいですか?」
「教えたいのはやまやまですが……。私はこれ以上知りません」
「そうですか……大神殿に行けば分かりますか?」
「分かるかもしれませんね。ただ、かなり上の役職の人まで行く必要があります。少し待っていてもいいですか?」
「? 構いません」
そう言うが早いが、サムエルは消えた。闇を残して。
そして、しばらくして、また出てきた。
「教皇様にお聞きしたところ、」
「教皇様!?」
ねえ、突っ込んでいい?
教皇様ってそんな簡単に出会える人じゃないと思うんだけど!?
「ええ。これでも枢機卿ですので」
「いや、教皇様にも仕事があるでしょう?」
「それが……当代の教皇様は面倒くさがり屋で、基本的には身代わりを立てているのですよ」
知りたくなかった……
「お陰で大きい用事がない時は、基本的に自室で仕事を処理していらっしゃいます」
「はぁ……それで……?」
「教会は今忙しい、だそうです」
「へ?」
「まあまとめると、そんな面倒なことを今するな! といったところでしょうか」
「いや、そう言われましても……」
「教皇様の手を借りなければ、取り敢えず行動は黙認してくださるそうですよ」
あ、なんだぁ
「それならできそうです。サムエル様、しばらくの間出かける許可をください」
「出かける許可を……と言われましても、行くのは大神殿ではないのですか? あちらでも働いてくだされば文句は言いませんよ?」
「あ、そうでしたね。では準備をしませんと。サムエル様、確認しますが、あちらにはヒントがあると考えてよろしいですね?」
「確証はできませんよ?」
ま、そんなもんか。
「では、準備をしてきます。しばらくの間、この神殿を留守にすることをお許しください」
なんかこんなときにこういう言葉って使うよね。合ってるのかなぁ。
「さあて、まずは大神殿がどこにあるか知らないと……」
「ユミ様……」
「何? エリーゼ」
「大神殿の場所を知らないのですか?」
「……うん」
隠しても何にもならないと考え、諦めて正直に言うことにした。
「逆にエリーゼは知っているの?」
「はい。この国から南東の方角にあり、サーベスト教国にあるというのは知っていますよ」
サーベスト教国?
「何それ?」
首をかしげる。
前には、不穏な顔をしたエリーゼがいた。
「聖女様、今夜はこの本を読んでくださいね?」
「……はい……」
なんというか、聖女様呼びだと普段は感じない迫力があるなぁ。
私は思わず現実逃避してしまった。