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#10
テスト期間中、図書室の最奥。
「……九郎、この問題。……また間違えちゃった」
はじめが半泣きで、赤ペンだらけのノートを九郎に差し出す。
図書室はテスト勉強をする生徒でいっぱいだけど、この奥の資料コーナーだけは、
重い空気と古い本の匂いに包まれて二人きりだった。
「お前、さっき教えたばっかだろ。……バカすぎて可愛いわ」
九郎は意地悪く笑うと、はじめのポニーテールを軽く引っ張る。
「いたたた! もう、九郎くんのバカ!」
そんな風にじゃれ合っていた、その時。
「……おい。そこで何をしている」
地獄の底から響くような低い声。
入り口の方から、あの生徒指導の重森が、竹刀(の代わりの差し棒)をペシペシと手のひらに当てながら歩いてきた
「ひっ……! 重森先生……!」
はじめがガタガタ震え出す。重森のモットーは
「男女の不純異性交遊は即・停学」。
勉強してようが関係ない。
「中等部1年か。二人きりでこんな死角に隠れて……。不純だ。不純すぎるぞ! さあ、職員室へ来い!」
重森の手がはじめの肩に伸びようとした、その瞬間。
「……待ってください」
九郎がスッと立ち上がり、はじめの前に立ちはだかった。
いつものクールな瞳が、今は重森を射抜くように冷たく光っている。
「先生、俺たちは勉強を教え合っていただけです。ここが死角なのは、集中するため。……それとも、勉強を頑張る生徒を、根拠もなく疑うのがこの学校の指導方針ですか?」
「な、なんだと……!? 貴様、反抗するか!」
「反抗じゃありません。事実を言ってるだけです。……はじめ、ノート出せ」
九郎ははじめの真っ赤に染まったノートを奪い取り、重森の目の前に突きつけた。
「見てください。この間違いの多さ。……彼女、本当にバカなんです。俺が付きっきりで教えないと、赤点確実なんですよ。……これでも不純だって言いますか?」
「ぶ、不純……ではないかもしれんが……」
あまりの正論(とはじめのノートの悲惨さ)に、重森がたじろぐ。
「……行こうぜ、はじめ。ここはうるさくて集中できない」
九郎はじめの手を強引に引き、呆然とする重森の横を堂々と通り過ぎた。
校舎の影まで逃げ切ると、九郎はやっと息を吐いて、はじめの手を離した。
「……九郎、すごかった! かっこよかったよ……!」
「……。……お前、俺が『バカ』って言ったとき、ちょっと傷ついた顔しただろ」
九郎ははじめの額に、自分の額をこつん、とぶつけた。
「……あれは先生を追い払うための嘘。……。本当は、お前が頑張ってるの、俺が一番知ってるから」
そう言って、九郎ははじめの耳元で小さく囁いた。
「……でも、助けてやったお礼は、テストが終わった後にたっぷりしてもらうからな。……覚悟しとけよ?」