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心無き者の涙の意味
夜の都市は、静かだった。
人間生前時の騒がしさは見る影も無く、無音の街には生きてるものの影もない。
そんな死の街で、ユイナは一人、崩れかけた塔を眺めていた。
レイは眠り、ルシフェルは隣で祈っていた。
心。
心とはなんだろう?
喜びも、悲しみも、怒りも分かる。でも、なんだ。
ふと、記憶草の花を思い出す。
涙。
あれを見たとき、自分の中でなにかが揺れた。
ユイナは静かに自分の胸に手を当てる。
鼓動もない。温かみもない。
感情も知らない。心も知らない。
一筋の水が、頬を伝って、無音な街を染め上げる。
それは、なにか感情があるものではなかった。
「これはなに?」
「それは、涙」
ルシフェルが答える。
なぜ流れるのか、分からない。
ただ、知ったとき、自分は、自分になれる。そんな気がした。
「アンドロイドには寝るって概念がないの」
唐突にルシフェルが教えてくれた。
ユイナはルシフェルを見る。相変わらず無表情。
「寝るってなに?」
「知らない」
これは、アンドロイドだけができる会話かもしれない。
ルシフェルはポツポツと語り始めた。
「私は、アンドロイドだから、誰かを幸せにはできない。心がないから、喜びも悲しみも、怒りも苦しみもない。だから、私から離れる」
彼女の切実な願いは、夜の闇に溶けて、消えていった。
「私は、涙の意味を知りたい」
ルシフェルは答えず、空を見上げる。ユイナも空を見上げる。
涙の意味を知らない。
けど、確かに私達は知っているはずだ。
知りたいと思ったそれが、心を持つ“始まり“であることに、ユイナは薄々気づいていた。