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網走まで飛んで行け!(終)
嬢/姫宮
翌朝。
眩しい朝日がチセの隙間から差し込む中、楓は隣に眠る杉元の腕の中で目を覚ました。
「情熱の飴」の効能か、それともただの本能か……昨夜の杉元は、まさに「不死身」の名に恥じない暴れっぷり(意味深)で、楓は今も体がふわふわと浮いているような心地だった。
「……ん、……楓。おはよう」
杉元が楓の額に優しく口づけを落とした、その時。
「おーーい! 杉元ォ、楓ちゃーん! 生きてるかぁ?」
チセの外から、昨夜の惨劇をこれっぽっちも反省していない、あの軽薄な声が響き渡った。
「……あ、白石さん」
楓が声を上げた瞬間、杉元の顔から甘い表情が消え失せ、代わりに鬼神のごとき形相が張り付いた。
彼は無言で、枕元に転がっていた「白石の脱ぎ捨てた汚いマフラー」を掴み取り、裸足のまま外へと飛び出した。
「おっ、杉元! 昨夜の飴、どうだった? 効いたろ、あれ――」
「白石ィィィィッ!!!」
「ギャアアア! 顔! 顔が怖いよ杉元くん!!」
杉元は逃げ惑う白石の首根っこを、獲物を捕らえるヒグマのような速さで掴み上げた。
「お前……。よくも楓を……俺を、あんな……! 恥ずかしくて楓の顔が見れねぇじゃねぇか!!」
「いいじゃねぇか幸せだったんだろ! お礼を言われてもいいくらいだぜ……って、うわああ! 持ち上げるな! 投げるな! 網走はもういいって!!」
杉元は全身のバネを使い、白石を大きくスイングした。
「不死身の杉元」の全力投球。白石の体は、綺麗な放物線を描いて冬の青空へと消えていく。
「あーーーばーーーしーーーりーーーッ!!(エコー)」
キラリ、と白石のハゲ頭が太陽に反射して光り、彼は森の彼方へと消えていった。
「……ふぅ。これでようやく静かになったな」
戻ってきた杉元は、どこか吹っ切れたような、清々しい笑顔を浮かべていた。
彼は楓の前に跪くと、その小さな手を両手で包み込み、少しだけ恥ずかしそうに笑う。
「楓。……あの飴がなくても、俺はお前を愛してるから。……これからは、白石の変な土産じゃなくて、俺の言葉だけ信じてくれ」
朝日の下、再びにこやかな「干し柿大好き杉元くん」に戻った彼は、楓を優しく抱きしめるのだった。
(遠くの森から、「助けてー! 誰か助けてーー!」という白石の声が聞こえた気がしたが、二人はそっと耳を塞いだ。)