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3rd collaboration.5
ルイスside
さて、と。
アリスが連絡するから桜月ちゃんは置いておくとして──。
「トラブルが起きたらしいから、少し失礼するよ」
中也君からの連絡だろうか。
森さんは携帯を見るとそう云った。
そして僕は何故か会議室に移動することに。
まぁ、執務室に放置するわけにはいかないもんね。
一応これでも僕は別世界から来た素性の分からない英国男子だし。
「……でも、もう少しバレないようにするものじゃないのかな」
会議室に入ると鍵を閉められてしまった。
耳を済ましていると中々忙しそう。
でも、見張りもいるだろうし扉をぶち壊すわけにはいかない。
「アリス」
『何かしら』
「防犯カメラあるんだけど逃げて良いかな」
『うーん……まぁ、良いんじゃないかしら?』
よし、と僕はすぐに鏡を出してテニエルを探す。
桜月ちゃんが逃げたことによる警報なら、彼を人質にしたりとかしそう。
確か医務室に鏡ってあったような──。
「迎えに来たよ、テニエル」
「……やっぱり何かあったのか」
「さぁ? 僕も全て把握できているわけじゃないからね。ただ、桜月ちゃんのいるはずの部屋の窓は割られていたよ」
そうか、とテニエルは立ち上がる。
「行くぞ」
医務室の扉が勢いよく開かれる。
それよりも先に、足元に穴が開いていた。
「あ、やっと来たね」
僕とテニエルが着地するなり、そんな声が聞こえた。
「……江戸川乱歩」
「急にお邪魔して悪いね。君のことだから状況は判っているんだろう?」
「ちゃんと説明してあるから、そこら辺は大丈夫。桜月ちゃんが来るまでゆっくりしていきなよ。此方側へ来てから色々あったんでしょ?」
それじゃあ、と僕は遠慮なく休息を取らせてもらうことにした。
確かに乱歩の言う通り、色々とあった。
此方へ来るなり戦闘。
桜月ちゃんと合流したカフェでも敵と電話をしていたり、マフィアへ行ったら森さんと話すことになるし。
本当、疲れたな。
出されたお茶がとっても沁みる。
『桜月ちゃんにもメール送っておいたわよ』
「ありがとう、アリス」
無事に此処まで来れたら良いけど。
「……なぁ」
「どうしたの?」
「俺が探偵社に来るの間違いだったんじゃないか?」
この世界も多分、敵対関係ではある。
そんな探偵社に一人マフィアがいれば警戒されるのは当然なわけで。
でも、あそこで連れ出さなければどうなっていたか分からないし。
「まぁ、桜月ちゃんが来れば状況は変わるよ」
あの子は凄いから。
「あのぉ……」
「ん?」
「桜月ちゃんが来るまで、良かったら少し付き合ってくだいませんか?」
「……あー、」
ナオミちゃんの後ろにはハンガーラック。
もちろん、色々な服が掛けてある。
「お連れの方も眠ってしまいましたので如何ですか?」
ナオミちゃんの発言に僕は驚く。
え、ちょ、テニエル寝てるんだけど???
「乱歩さん、桜月が来るまでどれぐらい掛かりそう?」
「30分ぐらいだと思うよ」
「それじゃあファッションショー出来そうですわね! お兄様、ルイスさんを抱っこしてきてください!」
「抱っこしてきてください、じゃないからね??? そして持ち上げるな???」
ひょい、と谷崎君に持ち上げられてしまった。
体重って今いくつだっけ。
最近測っていない、というか測る機会なんてあるわけがない。
健康診断とか受けてないもん。
「まずはこれからお願いしますわ!」
ハンガーラックから渡されたのはチャイナ服。
もちろんメンズだ。
いや、レディース渡してくるわけがないんだけど。
「あの、僕の意思は──」
「次はこれとかどうだい?」
「良いですわね! 後で与謝野先生と並んで写真を撮りたいですわ」
「じゃあ僕、カメラ持ってくるね」
よし判った。
此処には誰も僕の味方は居ないんだな。
「うん、そうだよ。判ってるならさっさと諦めたら良いのに」
「心を読んでコメントをしないでくれ、乱歩」
仕方ないのでチャイナ服を着てきた。
似合っている、と云われてまぁ嫌な気分ではない。
次は与謝野さんが選んだものになった。
「……なんかコスプレって恥ずかしいよね」
「似合ってますよ!」
「妾より医師っぽくないかい?」
「写真撮るよ~」
「それじゃあ次はこれをお願いしますわ」
ナオミちゃんは今日一の笑顔をしている。
何故かは、服を見れば判った。
「拒否権は……?」
「あ、此方のバニーガールになさいますか?」
「キガエテキマス」
そうして僕はロリータ服を着てきた。
時計を持った兎とか、笑っている猫とか。
童話モチーフの服らしいけど、凄く見覚えがある。
森さんに着せられたヤツと一緒だ、多分。
「やっぱりお似合いですわ!!」
物凄いシャッター音に歓声。
今すぐ着替えたい。
「次は此方を!」
「──、」
渡された服を見て、少し動揺してしまった。
多分、僕のことをナオミちゃんを始めとした探偵社員は知らない。
ならば軍服を渡してくるのは本当に偶然。
「……着替えてくるね」
受け取った手は少しだけ、ほんの少しだけ震えているようだった。
「駄目だ」
「……ぇ、」
「次に君が来てくるのはこれだよ」
ひょい、と軍服が取り上げられたかと思えば別の服が渡される。
ディアストーカーハットにインバネスコート。
パイプ煙草とステッキもついている。
「……乱歩」
「良いから早く着替えてきて!」
会議室へと押し込まれて、静寂に包まれる。
暫くの間、僕は呆然としていた。
「……いつまでも逃げてはいられない」
着替えて事務室に戻ると、また撮影会が始まった。
よく飽きないなー、とか思っていると扉が開く。
「…ねぇ桜月ちゃん、彼らに如何してこうなったのか聞いてもらえないかな」
「…すみません、私が訊きたいです。あと___」
--- 「なんでボス迄探偵社にいるんですかっ!?」 ---
「…もう一度言わせてください。如何してこうなったのか私も知りたいんですけど何事ですか⁉」
太宰君の姿が見えないと思ったら、桜月ちゃんと一緒にいたのか。
にしても、やっとこのファッションショーから解放される。
「えっとね、本部を出る直前にボスを引っ張っていこうとしたら、彼は彼で状況を何となく把握してるみたいで、探偵社に移転してくれて」
「来たら名探偵が推理して待っていたからお茶と茶菓子で持て成されたルイス・キャロルに反して、超警戒されまくりで一人眠りこけていた俺」
「…桜月、この御方は何を着ても似合っていらっしゃるのですわ、それが例え女性の物でも」
ナオミちゃん???
「…兎のぬいぐるみあげる、...えっと、」
「僕はルイス・キャロルだよ、よろしくね」
「…うん、よろしく...ルイスさん、これあげる」
ふわふわもこもこなにこのぬいぐるみかわいい((
というか自己紹介してなかったじゃん。
「…ルイスさん、あの、私達の状況の説明は」
「それなら僕が凡て推理しているから大丈夫だよ」
ラムネの瓶を持ちながら話に入ってきた乱歩。
この感じだとすぐに話が進められそうかな。
それはまぁ、嬉しいんだけど──。
「…取り敢えずそろそろ僕着替えてきていいかな」
「あら、残念ですわ!」
「でも、その恰好の儘でも違和感はなさそうですね!やっぱり都会って凄いです…!!」
賢治君、|都会《それ》は関係ない。
多分だけど。
そんなことを考えながら、ササッと着替えてきてソファーへと腰掛ける。
桜月ちゃんはお茶と茶菓子を貰っているようだった。
表情は、とても真剣。
「…単刀直入に云います。私達の置かれた状況は途轍もなく崖っぷち...相手は3人で張り合えるような相手ではない____”私達3人からの”依頼です」
--- 「力を貸して下さい」 ---
「今回の依頼については、私が報酬をお支払いします。__お願い、です…所属する組織からして、私やボスが信頼ならないのは分かります、それに、ルイスさんのことも、突然”別の世界”なんて云われても信じがたいのも分かります、それでも、っだけど、...!」
探偵社員の反応を伺いたかったが、そうもいかない。
桜月ちゃんの声が緊張を含んでいる。
それに焦りも。
視線を向けると彼女は俯いて、膝に爪を立てていた。
「……桜月ちゃん」
そっと、僕は手を伸ばす。
手が触れたところでハッとしたのか、力が抜けた。
痕が残るより前に膝から下ろすことが出来て良かった。
「…僕は友達を、この世界のヨコハマを、見殺しにはできない。その為に、戦い抜く覚悟を持っています___探偵社の皆がそうであるように」
僕も人のことは云えない、か。
自分が思っているより何倍も緊張している。
でも、この覚悟は嘘じゃない。
今の僕は迷わない。
この力を、あの経験を。
全て惜しみなく使う。
きっと、そうしないと僕の想いは届かないから。
「…その依頼、承った」
視線の先にいた福沢さんは、しっかりと頷いた。
本気をぶつけないといけないと、そう思って紡いだ言葉が届いて嬉しいし本当に安心した。
探偵社の協力を得られるほど、助かることはない。
「はぁ…流石に緊張したね」
「でもルイスさんのお陰で探偵社の力が借りれることになったし、本当にありがとうございます…!」
「そう云ってもらえるなら嬉しいな」
僕だけのお陰では、ないけどね。
話が終わった瞬間に桜月ちゃんは探偵社の皆と話しているようだった。
テニエルと僕は特にこれといってやることがない。
「……。」
腕を目元に当てながらソファーに寄り掛かっていると、ふと思い出した。
--- ”兄弟”じゃなく、敵を選ぶのか? ---
--- 彼はどちらの味方かな? ---
いつだって、優しい人が傷つく世の中だ。
「…Don't you think the world is really shit?」
誰からも返事はない。
英語だったし、小さく呟いたからテニエルも聞こえなかった。
そう、思っておくのは間違いだったのかもしれない。
僕は──否、僕達はテニエルの様子がおかしいのに気付けなかった。