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奇病患者が送る一ヶ月 二日目
俺は今莉華と二人きりでとある場所へ向かっていた。
こうなったのも一つ、訳がある。
それは丁度朝の事。
俺が仕事をサボるために適当にうろついていた時に、莉華が何にもない外を見ていた。
「よっ、今暇?」
「…まぁ…。」
俺が能天気に声をかけると、彼女は淡々とした返事を返す。
「そっか、じゃあちょっと俺についてこい!」
「…は?」
そして現在に至る。
別に本当に何も考えずに声をかけた訳じゃ無いが、ただ道中で話す会話がないのだ。
今の子って普通何見てるんだろー。テレビ買わないとなぁー…。
俺達は会話なく地下室に続く長い階段を下り、ようやく地下室の扉が見えてきた。
ギィッという音をたてながら俺は扉を開ける。
「ここ。」
「ここは…?」
彼女は目の前にある、
まるで培養液のような療養液が十分に入ってある大量のカプセルみたいなやつに、
目を疑っているようだった。
まぁ、こんな現実味の無い光景を見て驚かない人なんていないけど…。
「簡単に言えば、地上では到底過ごせそうにない人が過ごす場所かな。」
「なんでこんな地下に…?」
「…一応危険だからな。壊されたら命に関わる話だし…最悪の事態を考えてここにした。
でも、お前ら患者は、俺ら医者が付いてなくてもいつでも来て良いぞ!」
「…そう。」
莉華はそう言うと、すたすたと奥の方まで見渡しながら歩いて行った。
興味出てくれたかな…?
なんてことを考えていると、不意に
「キャッ‼」
莉華がびっくりして悲鳴を上げる。
あ、肝心なことを言うの忘れてた。
「あら…?驚かしてしまったかしら?」
雷に打たれたような、呆気にとられたのか不思議な顔をした莉華の目線の先には、
療養液と酸素を取り込んだ…おっとこれ以上は企業秘密だったな…、
まぁカプセルみたいなやつに入っている、茶色の長い髪の女性がいた。
「初めまして、新しい子?」
その人は莉華に向けて手を振りながら、俺に聞いてくる。
「いや、この間からいたけど、姫の事紹介するの忘れててさ。」
「あら…、それは失礼な話ね。」
「ごめんって、ほら最近ちょっくら忙しかったろ?」
俺が頬を膨らませる彼女を必死でなだめていると、
「姫…?」
不思議そうな顔をしながら莉華が言う。
「あぁ…えっと俺が勝手に呼び始めたあだ名みたいな…、そんな感じ?
この人の本名は佐々木麻衣子さん。」
「えぇ、佐々木麻衣子です。よろしくね。」
彼女は改めて自己紹介を済ませて、整った顔立ちで笑みを浮かべる。
莉華は若干驚きながらも軽く|会釈《えしゃく》をしていた。
「でも…、なんで姫?」
「それは……。」
俺がその問いに答える事を少し遠慮していると、
「それは先生が麻衣子さんの事が人魚姫みたいって言ってたから、だよっ‼」
不意に後ろから声がして、思わず俺は振り返る。
「げっ!お前ら‼」
そこには二人の少女がいた。
さっき、俺が言いたくなかった事を割り込んで言ったのは梓、通称あず。
で、もう一人は、
「やほ、院長が見えたから遊びに来たよー。」
全身が真っ白で一見不気味な印象を与えるような見た目で、
少しだけ申し訳なさそうな顔をしている、冬華だ。
そんな顔をするぐらいならぜひともあずを全力で止めてほしかった…。
「人魚姫みたい…って、|此奴《こいつ》が…?」
まるで魚が歩いたみたいな話を聞いたように、若干引くような様子を見せる莉華。
やめようか、うん。俺流石に傷つきそうだ。
|此奴《こいつ》って、…え、|此奴《こいつ》なの?
俺がそんな事を悲しい気持ちで思っていると、莉華は振り返り俺を見た。
それはもう凄い顔で。
やめろ、その怒り狂った柴犬みたいな顔。お前がそんな顔するの初めて見たわ。
「うん、そうそう、この人が。意外だよね。」
とどめを刺すように冬華が続く。素直な子ってこういうところあるよな。
嘘を吐けとは言えないけど、せめて遠慮してほしかったよ。
「アハハ、まぁ先生もそういうお年頃だったんでしょ!」
こいつら…俺が反論しねぇからって好き勝手言いやがって…。
おやつのプリン抜きだからな…。
「でもわたし、お姫様って年齢じゃないし、さして美人でもないんだけどね…。」
佐々木さんは俯き、少し考えるような素振りを見せる。
「えぇー、めっちゃ美人じゃんかぁ。ね、いーんちょ!」
「は、待って、なんで俺に振るの?俺ではなくない?」
「なんでって、先生が最初に姫って言ったんでしょー?
綺麗だね、ぐらいは言ってあげないとぉー。」
あずが当たり前でしょと言わんばかりに言う。
「そうだけどさぁ。…俺が綺麗とか言ったら…ほら、なんか、変だろ⁉」
「…はぁ。」
何そのため息。莉華?おーい、莉華さーん?
「そんじゃあ俺仕事あるから!莉華は適当にそいつらとお遊戯でもしておけ!
じゃあ任せたぜ!」
「えぇ!逃げるの⁉」
冬華がそんな事を言った気がしたが、俺は本当に逃げるように地下室を出た。
あいつら、変な事教えなきゃいいけど…。
まぁでもあんな感じなら仲良くはなれそうだな。俺の長年の勘がそう言ってる。
俺は、とにかく長い階段を上り続ける。
……。…………あ゛ぁ゛…。足が…、疲れる…!
もう俺歳か?…いやいやいや…。何か考えながら上がってたらすぐ着くだろう。
莉華は結構最近に来た方だ。多分ここで入院してる患者の誰よりも最近。
彼女の奇病は|万華失声病《ばんかしっせいびょう》。
万華は満月の事、そして失声病は皆ご存じの失声症から。
病名そのままの意味で主に満月が出ている夜に声が出なくなる。
でも病名を付けた時には思ってもいなかったが、
莉華の奇病が進行し、現在では月が出ている夜に彼女の奇病が発生している。
この奇病が発症する事は、意外と珍しい訳ではない。
強いストレスを受けると失声症になるのと同じような感じだ。
ただ失声症と失声病の違いは、
心理療法に薬物療法、発声練習を併用しても長くても三週間で治るか否かだ。
この違いがかなり分かりづらいせいで、奇病って事に気付かないケースもある。
その上見分けをつけるのに三週間はかかるってのが、この奇病の悪いところ。
いや、まぁ声出なくなるのも普通に嫌だし悪いところだけどさ。
不幸中の幸いと言えるのか、致死性はないから安心だが…。
放っておけば、徐々に発症条件が広くなるのも面倒くさい。
次に冬華の奇病についてだ。
正直言って、本人がその奇病についての発言を拒んでいるから、よく分かっていない。
でも…少しだけ症状の話は聞いていたため、いくつか絞れてはいた。
そして最も有力なのが一つある。長年の経験と言うべきだろうか…出来れば憎みたい。
俺の考えが正しければ、…冬華は……。いや、やめよう。
まだ俺は考えたくない。
それから…あずの奇病。
これに関しては長くなるだろうから、また今度まとめよう。
最後に姫…佐々木さんの奇病。
彼女は脆弱病という奇病だった。
これは…俺がここで働き始めて間もない頃に初めて見つかったっけ…。
まぁ姫とはまた別の人だったから、今じゃもう関係ないんだけど、
でもこうやって同じ奇病が見つかると、その人の事思い出すな…。
脆弱病は簡単に言ってしまえば、本来よりも怪我をしやすくなると言うもの。
今じゃ歩く事もままならないから入院って形になってる。
そして、姫は…俺の母に似ていた。
「はぁー、…やっと着いたぁ…!」
俺がため息交じりに言うと、目の前に人影が見えた。
その人影の正体はと言うと…、
「探したっすよ、灰山せぇんせ?」
「ヒッ、ヒシヌマァ…、ドウシタ?ダダダダダダイジョウブカ?」
気味が悪くなるほどゲスい笑顔を見せる菱沼が、
この時の俺にとってその笑顔がどれだけ恐ろしいかったか…。
「どうした、じゃないっすよ‼何当たり前のようにサボってるんすか⁉」
あくまでも一応上司である俺の胸ぐらを当然かのように掴む菱沼。
待って、落ちる落ちる落ちる、ここから落ちたら俺、怪我だけじゃ済まねぇって。
「ほら、資料まとめるだけが俺らの仕事じゃな__」
「あ゛?」
「ハイ、スミマセンデシタ。」
「はぁ…、疲れた。無駄に体力を使わせないで下さいっす。」
俺も疲れたよ。今のでどっと疲れた。
てかなんか俺への当たり強くない?え、元々だっけ?
皆にはめちゃ優しいのに、え?俺何か悪い事した?うーん…、心当たりがないな…。
んな事よりも、なんでそんなに機嫌悪いn…あぁ、こいつ今日で五撤目だったか…。
…マジごめんね、フエラムネ買うから…。コワイよその目、睨むのやめてくんね?コワイ。
██████、
あと28日。
オチが無かった
驚くほど雑だけどごめんね
菱沼さんって院長にだけ当たり強いイメージある