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又旅浪漫
建設会社の横にごちゃごちゃと鉄が置いてあり
じゃりじゃりとして用を足したくなる道を進むと
その先に白ネコの家がある。
流石は建設会社というべきか。
ドラム缶という|鉄筒《てつづつ》をくり抜いた空洞に
断熱材という引っ張り出したくなる綿を
綺麗に詰め込んだもはや立派な家である。
横に倒し四段の山形に重ねてあるのだが
その最上階にひょいっ、と登る。
洞窟の岩に比べれば朝飯前より前である。
トントン、トン
短い尻尾で三度、木製のドアを叩く
この質感、やはり家である。
「どうぞ。キヨシご苦労さん」
木製のドアの一部を鼻で押し
下から上へパカっと持ち上げる。
そこに行儀よくも迫力のある座り方で
鎮座しているのがオスの白ネコ、ギンさんだ。
全身純白の毛に覆われ
長い尻尾の先端は鍵状に折れ曲がっている。
ちょっと怖いが沢山の野良ネコを従え
日々仕事をこなす、|所謂《いわゆる》"デキるネコ"だ。
ちなみに仕事内容は
|紙箱《かみばこ》や布切れを使い格安のネコ家を建設するというもの。
「いつもより遅かったな。
それにまだ心拍数が凄いじゃないか。」
「はい、走り過ぎで死ぬかと思いました」
呆気なく見透かされ正直に返答すると
ギンさんの目が"品物"を見る目に変わった。
「質は問題無しか。今回も良い香りだな。
さっきお前の所のヒトがうちのヒトに
良い香りの物を持って訪ねて来たが、
やはりネコにはこの香りだよな。」
俺の家のヒトも"ニンゲン用のマタタビ"
を栽培している。きっと配達だったのだろう。
ネコは|主人《あるじ》の仕事に近い仕事をする。
何故かは知らないが、そうである。
イエネコ、ソトネコ、ハンネコ、
各自、その時の主人に近い仕事をこなし生きる。
不思議である。
まだマタタビが少し効いている俺が
会話中にも関わらずぽわぽわと
余計な事を考えているとギンさんが言う。
「早く見せてくれないか。」
ギンさんは怖いネコ、すぐに返答だ。
「ああすいません。どうぞ、こちらを」
リッサンお手製の首から下げた"それ"を笹袋ごと渡した。