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(下)二
結局、はるかは見つからなかった。
祭りの運営に声をかけて、名前を呼んでもらって、自分でも はるかの親を呼んで 一緒に周辺を探して、それでも見つからなかった。
翌々日になって、はるかの親は 警察に行方不明届を出した、と言った。
警察に任せた。———それでも、はるかが見つかることなんてないと感じた。
一日、三日、七日……
時間が過ぎるたびに、焦りと恐怖が積もっていく。
「お邪魔します」
ギイ、と音を立てて、はるかの家の玄関のドアを開ける。何度も何度も、開いてきたものだ。
でも、あのときとは確実に違うところがある。———黒い泥がかかっているかのように、空気が重い。
思わず呼吸を止めた。
「……いらっしゃい」
リビングの奥から出てきたのは、はるかの母親だった。目に隈がはっていて、目に見えてわかるほど痩せている。
何も声もかけられず、目を逸らした。
「……はるか、は」
恐る恐る聞いた。もうすでに、ニュースで流れている。
「……何も分からないの」
予想通りの返答が返ってきた。
それから、どこに視線を|彷徨《さまよ》わせて、目を伏せる。言葉を探しているようだった。
「……俺。」
口を開くと、はるかの母親はこちらを向いた。
「何も知らないんです。好きなもの、嫌いなもの、何を考えてて、何が楽しいのか。……いや、昔のことは知ってるけど、今のことは全然知らなくて。」
言いながら、情けなさと後悔で胸がつぶれそうになる。
結局俺は、はるかのことを知ろうとしなかったんだ。———幼馴染だから、何でも知っていると油断して。
ああすれば、こうすれば。そんな言葉が頭の中を渦巻く。今更何か思ったところで、今が変わるわけじゃないのに。
でも———。
「あの」
泣きそうになるのをこらえて、顔を上げた。
「はるかの部屋に、入ってもいいですか?」
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誰もいないって分かっているのに、コンコン、と扉を叩いてしまった。当たり前だが返事はない。
ドアを開けると、それは音もなく静かに開いた。
室内は薄暗く、ガランとしている。カーテンは閉ざされ、端から零れる日光だけが、この部屋を照らしていた。
部屋の中は雑多ではなく、簡素に整えられてある。
物は置いてあるのに、まるで何もないかのようだった。
「はるか……」
ぽつりと呟いた声が、本人に届くことはない。
いくら行方不明だからと、彼女に断りも入れず部屋を漁ることに、幾許か罪悪感を覚えた。
灯りをつけることもせず、音を立てないように気をつけながら、中に入る。
ベッドの上の枕と毛布は少し散らかって置かれていて、まるで少し前まで人がいたようだった。
机の上は紙やノートが薄高く積まれている。
俺が動いたのに合わせて空気が揺れたのか、カサッと微かに音を立てて、紙が少しだけ舞った。
積まれたものが崩れないように気をつけながら、一枚一冊取り出す。とあるノートを手に取り、パラパラとめくると、少々雑な字が目に飛び込んだ。
授業ノートのようだった。特に何の変哲もないので、閉じて隣に置く。
———パラ、と、何かの紙が机から舞った。
ひらひらと蝶々のように空気中を漂い、地面におちる。
「何……?」
そっと腰をかがめ、俺はそれを手に取った。