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三
指示室に一人の男が座っていた。
街中を歩けば誰もが振り返るような、容姿の秀麗な青年である。長めの白髪を涼しげに分けて黒のスーツを着こなし、黒々とした深い瞳で監視カメラの映像を眺めている。
彼は幹部の九井侑。真面目な性格の上、歳が同じ相手に対しては明るく無邪気な一面もあり、多方面から人望が厚い。
幹部は工場Uにおいて五人存在している。彼らは工場を統括し、従業員に命令を下す。存在自体が秘匿されており、従業員たちは誰一人として幹部の情報を知らず、顔さえ分からない。
侑はそんな謎めいた五人のうちの一人なのだ。
監視カメラには、305室に向かう郁衣が映っている。工場の中には無数に監視カメラが隠されていて、常に従業員の動きが幹部に伝わっている。そしてその監視カメラの映像が集まるのがここ、幹部しか入ることのできない指示室なのである。
カメラ越しに郁衣を見つめる瞳が微かに曇る。既に彼は郁衣に意識を向けてはいなかった。
その目はどこか遠くの、他人に見えない過去を見ている。
彼の瞳の中を小さな子供が通りすぎる。それは彼の弟だ。彼が過去に残した深い後悔。今でも彼の心を抉り、傷つけ続ける苦い思い出。
喉が喘鳴のような音を立てはじめる。侑は首を振って耐えた。やめよう。今は仕事中だ。彼は心の中で呟き、再び監視カメラを睨んだ。