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26.
昼食を食べたあと、再び練習を始めた。
「今度こそ、私の魔法受けてよね。」
「うん。『上級聖魔法 八神結界』」
これ、絶対壊れないよね。硬そうだもん。
「『上級零魔法 想奏壊滅』」
私の魔力を強制的に放出する。
「『上級零魔法 |無限空間《インフィニティワールド》』」
私の魔力と体力を実質無限にする。
無限にはならないけど、これで十分。
「『中級零魔法 |小規模爆発《スモール エクスプロージョン》』」
周囲の魔力をまとめて放つ。
小さな爆発だけど、その分威力は増す。
すぐに地響きがなって、土や小石がパラパラと降ってくる。
美音はどうなったかな・・・。
「・・・結構ギリギリだったけど、僕の勝ちだね。」
そう言って結界を消した美音。
「結界にヒビって入った?」
「いや、入らなかったよ。」
ヒビすらも入らないなんて。結構火力高かったはずなんだけどな。
「『想奏壊滅』のときに魔力がすごいことになってたね。」
「うん、強制的に魔力を放出する技なんだ。」
「放出してた割には、魔力減ってなかったよね?」
「それは『|無限空間《インフィニティワールド》』のおかげ。ずっと魔力と体力を回復してるの。」
美音は驚いたように目を見開いた。
「ずっと回復してるの・・・? よく魔力が減らないね。」
「実はちょっとずつ減ってるんだ。本当は無限じゃないんだよ。」
それを聞くと納得したように頷いた。
「なるほど、これが美咲の新しい魔法なんだ。」
「うん。『零魔法』って名前にした。無属性的な感じかな。」
私が魔法を知らないゼロの状態から生み出した魔法。
それが『零魔法』なんだ。
「次は誰と手合わせしようかな。」
「シャルムさんと美和さんは買い物に行っているから・・・・。」
美音が思い出したかのように言った。
「そうだ、星奈か彩良を呼ぼうか。」
「あぁ、美音の友達の人たち?」
私の質問に、美音は頷いた。
「言えばすぐ来てくれると思うから、ちょっと行ってくるね。『転移』」
やっぱり転移って便利だね。
これからの移動、全部これにしちゃえばいいのに。
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「僕は星奈ほど強くないよ? みさみさ、本当にいいの?」
「私も美音ほど強くないから。能力を使いこなせてないし。」
どんな能力でも出せるけど、基本はデメリットがあるから使い勝手はよくない。
『滅亡させる程度の能力』は確実だけど、時間がかかる。
雑魚敵なら一瞬だけど、すごい人は一週間とか。
私の能力って万能だけど、チートではないみたい。
「それじゃ、はじめよっか!」
「2人とも構えて・・・・、はじめ。」
私達は、互いに魔法を使った。
―――そのはずだった。
「・・・出ないね。」
「もう一回試してみるか。『上級雷魔法 風神雷神への雨乞い』」
雷が降るどころか、空にも変化がない。
普段なら雨雲がかかっていくのに。
美音やシャルムも使えないらしく、不安そうな表情。
なぜか美和さんは問題なく使える。
「スキルも試してみよう。『重力操作』」
葉がふわりと上空にはばたいた。
「スキルは使えるみたい、使えないのは魔法だけかな。」
「いや、美咲。もう一つ使えないものがある。」
「他に使えないもの? それはいったい―――」
「お嬢様、見ててくださいね。『植物を操る程度の能力』」
植物は止まったまま、変化はなにもない。
「僕達は能力と魔法が使えなくなってる。」
「みわっちのやつは、能力でも魔法でもないからだろうね〜!」
少しずつ冷静さを取り戻し、状況を確認していく。
そのとき、地面から何かが生えてきた。私は思わず飛び退く。
生気のない虚ろな目、手に持っているのは錆びた剣。
これはまるで―――
「こいつらはゾンビなのかな? 僕、一応戦えるからいくね!」
そう、目の前に現れたこれらはゾンビのように不気味だった。
すぐに彩良さんは何かを持ってゾンビを思いっきり殴った。
「彩良は剣の扱いが上手いんだ。ああ見えても戦闘では役に立つ。」
美音はそう言った。そこには少し焦りが見えている。
「僕の戦闘は能力に頼ってる。スキルは戦闘用じゃないしね。」
この戦闘では足手まといだ、と言わんばかりの表情。
「それ、使って。」
私はアイテムBOXから妖刀を出して手渡す。暴れたそうに刀は鈍い光を反射している。
この会話をしている間にも、ゾンビは増え続けている。
美和さんの攻撃は火力が高いけど、範囲はそこそこなものが多い。
シャルムが魔剣を使うのには魔力がいる。いつ魔力切れをおこすかわからない。
「・・・・美咲は?」
「私の妖刀は1本じゃないから。『アイテムBOX 妖刀 桜』」
美音が持っているものとは違い、桜色の紐がついている。
「なぜか範囲攻撃が得意な刀ができたからさ。ぴったりでしょ?」
魂を斬る、ってとこを重視してたのにラッキーだよね。
「実はこれが桜の初陣なの、見せ場作らないとね!」
「『剣術 愚者の共通点』」
この技は、こっちに背を向けている敵に対して効果的なんだ。
よく言うでしょ?「背中を見せたらやられる」ってさ。
刀が的確に背中を切り裂く。結構いい感じじゃない?
でも、目の前に集中してるとあの汚い剣で斬られそうになる。
単体だとそこまで強くないけど、わらわらと湧いてくる。
「これを出してる犯人とか、倒さないとだめじゃない!?」
「ですが、この近くにいるとは限りませんよ!」
叫んでいるシャルムの息が切れてきた。
「美音! スキルでシャルムの回復してほしい!」
本人は自信がなさそうだったけど、ここでは唯一の回復手段なんだから。
「あれ、美音? どうしたの、シャルムは向こうにいるよ。」
美音が近づいてくる、何を言わずに。
その虚ろな瞳に私を映して。
金属がぶつかる音がした。
美音が襲いかかってきたのと、私が攻撃したのは同時だったらしい。
「ちょ、みなとっち!? なんで洗脳されてんのさ!」
見た感じ、体に異変はないけどゾンビ化してしまったらしい。
「美咲! 我のほうへ来い!」
美和さんのほうに避難する。
彼女は美音に蹴りを食らわせたあと、私の顔を見る。
「美咲、スキルでゾンビをすべて上空へ飛ばしてくれ。」
真剣な表情で、無茶な難題を投げてくる。
「私にそんなことできないよ、まだ使いこなしているわけじゃないし。」
「数秒、いや一瞬でいいのだ。頼む。」
「・・・・わかった、やってみる。『重力操作』」
普段の何杯も集中して、全身のエネルギーを使って、天へ飛ばす。
多分10mくらいしか飛んでない。これに何の意味があるのだろう。
「見つけたぞ、黒幕の場所を。」
私の頭の回転は止まった。唐突に告げられた事実に驚くしかなかった。
「北西の方向、山の方だな。」
我は魔力の嗅覚が鋭いのだ、とかなんとか言っている。
・・・嗅覚だけでわかるものなの?
「だが、ここのゾンビを食い止めなければならぬ。」
家や村の方向に向かって、ゾンビが向かっている。
それに美音もいつ起きてくるかわからない。
村には星奈さんがいるけど、一人で太刀打ちするのは難しい。
「なら、私に任せていただけませんか?」
そう名乗りを上げたのはシャルムだった。
シャルムが黒幕と戦う、そういうことなんだろう。
「・・・わかった、任せる。」
「いいのか?シャルムは一人で戦うことに長けていない。」
「大丈夫。シャルムだから。」
「・・・だそうだ、我も賛成する。無理はするでないぞ。」
「えぇ、行ってまいります。」