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第二話:冬の朝4時と、変わらぬ風景
下界が冬の深い眠りにつく頃、天界には少し奇妙な「冬の恒例行事」があった。
早朝4時。まだ夜の帳が下りたままの時間帯に、東の方角にあるゲネシスの神殿前。
「しーっ、行くぞシルフィア」
北の神殿から移動してきたグライアが、人差し指を唇に当てて注意を促す。隣には、少し興奮気味のシルフィアがいる。ゼフィールはすでに到着しており、神殿の入り口で静かに待機していた。
「毎回思うが、許可は得ているのか?」
「許可を取ったら、この行事の意味がないだろう」
ゼフィールの冷静な問いかけを、グライアは一蹴する。ゲネシスは「創造の庭園」に隣接する自室で、心地よさそうに寝息を立てているはずだった。
三人は忍び足で神殿の中へと入っていく。ゲネシスの神殿は開放的な造りのため、早朝のひんやりとした空気が心地よい。
「おはよう、ゲネシス様!」
「うるさい、シルフィア。起こすなよ」
シルフィアが元気よく駆け寄る一方で、グライアは早速彼のベッドサイドに陣取り、寝顔をじと目で眺めている。ゼフィールは慣れた様子で、神殿内の観測機器の電源を入れる。彼らにとって、ここは冬の間の「無断休憩所」兼「打ち合わせ場所」だった。
数分後、ゲネシスがようやく目を覚ます。
「んん…あれ?みんな、どうしたんだい?こんな朝早くから」
目をこすりながら首を傾げるゲネシスに、グライアは冷たく告げる。
「冬の集合場所に使わせてもらってる。許可は取っていない」
「無断でごめんね、ゲネシス様!」
シルフィアが頭を下げる。ゼフィールは淡々と「ココアの生成を頼む」と注文する。
ゲネシスは一瞬呆気にとられた後、満面の笑みを浮かべた。
「なんだ、みんな僕に会いたかったのかい?嬉しいなぁ!もちろん、好きなだけ使ってくれていいよ!」
その純粋な笑顔が、グライアには心底気に食わなかった。
「ふん」
グライアの容赦ない拳が、ゲネシスの鳩尾(みぞおち)に命中する。
「ぐはぁっ!」
「痛っ!」と声を上げるゲネシスだが、すぐに「愛の鞭だ!嬉しいなぁ!」
と満面の笑みを浮かべる。
「いいか、シルフィア」
グライアはため息をつきながら、鼻血を出しつつも嬉しそうなゲネシスを指差す。
「こういう男は気をつけたほうがいいぞ。大半は変態だ」
ゲネシスは笑いながらいう
「ひどいなぁ、俺は君だけの理想主義者だよ」
シルフィアは目を丸くして二人を見比べ、「は、はい!グライア様!」と元気よく返事をした。ゼフィールだけは少し離れた場所で、この光景を「理解不能な現象」として冷静に観測データに記録した。
天界の冬の朝は、いつもと変わらない騒がしさで幕を開けた。
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