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怨恨ノ京 #9 播磨国まで二十八里(梅)
#9 播磨国まで二十八里(梅)
宇京、左夜宇、はるあきの三人衆は、播磨国に入った。
目指すは播磨国の加古川だ。
加古川には、播磨法師団の代表であった道満法師の墓があるという。
この頃、梅雨明けで、太陽がこれまでかというほど照りつける。
そんな暑い猛暑だったが、瀬戸の海からくる潮風や青空に浮かぶ入道雲は、涼しかった。
「これが瀬戸の海ですか…誠に美しい」
「瀬戸の海なんて、ただの海じゃねーか」
「よく見てみろ!瀬戸の海は沢山の島々が浮き、海も清らかな青だ。そんじょそこらの海と一緒にするな!」
最近になってはるあきは本性を出すようになった。
それは宇京への対抗心。
自分より身分の低い者に、タメ口なんて使われてたら、いい気にはならないだろう。
そんなこととは知らない宇京。
はるあきをデタラメ大威張り陰陽師、ぐらいにしか見ていなかった。
「もう歩きたくねぇ。あんた貴族のお偉いさんなんだろ?牛車でもなんでもいいから出しなよ」
「いやぁ、私も貴族制度がなければ、宇京と変わらないですからね。牛車なんて持ち運べませんし…」
左夜宇の答えに、宇京はわざとらしくゼエゼエ言ってから、はるあきに一つ提案する。
「なあ、はるあき。帰ってもいいか?」
「二人してなんだ!我の仇討ちを手伝うとかなんとか言って!牛車だの歩きたくないだのと!愚痴ばっかり!」
はるあきのこの言葉を最後に、誰も口を開かなくなった。
ただ一歩一歩重い足を進めるだけだ。
まあこんな長旅で、話題も尽きるだろう。
瀬戸の海を越え、少し山を進んだところに、寺が見えた。
その寺にはお坊さんが一人立っている。
するとこちらに気がついたお坊さんは、はるあきに向かって手を振り、はるあきも手を振り返した。
寺の立て札には、『|鶴林寺《かくりんじ》』と書いてある。
ようやく加古川についたのだ。
「和尚様!」
「はるあき。久しぶりじゃのう」
二人は感動の再会を果たした。
鶴林寺の和尚は、宇京と左夜宇に軽く会釈して、早速、寺に案内する。
「和尚様、我は晴明に勝つ事ができんかった」
「よいよい。仇を討つことだけが全てではあるまい」
その和尚の話は実に早い。
宇京と左夜宇に三十秒ぐらいの説明してから、部屋に案内した。
寺の中の部屋には先客がいるようだ。
先客は人家族だった。
皆、涙の面持ちで部屋は暗い雰囲気をしている。
「こちらは、播磨国国主・|播磨守《はりまのかみ》様じゃ」
和尚は三人に向かって紹介すると、はるあきは間も無く先客・播磨守に抱きついた。
「播磨守…!」
『播磨守』という名前に左夜宇は、何かを思い出したように目を見開いた。
播磨守も左夜宇を見て何かを思い出したように、左夜宇と目を合わせていた。
そして播磨守の横には、宇京たちと同い年くらいの少年と、少女がいる。
恐らく播磨守の子供だろう。
「|赤穂《あこう》!|和子《まさこ》姉さん!会いたかった!」
すると突然はるあきは、少年と少女の間にピッタリ入っていく。
その少年と少女も、はるあきの頭を撫でたりと、どこか懐かしそうにしていた。
左夜宇はただただ、播磨守と見つめ合うだけである。
宇京は一人取り残された気分で、ぼーっと時間が流れるのを見ていた。
デタラメ大威張り陰陽師(笑)