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蒼色ストライクス 2話「春と雨雲」
三月の横浜スタジアム。
午後の練習が終わる頃、空には淡い雨雲が広がり始めていた。
清水麻成は、ブルペンの片隅でストレッチをしていた。
そこへ、少し息を弾ませた声が届く。
「麻成、今日も投げない? 雨が降る前にさ」
振り返ると、金渕光希がタオルを肩にかけながら立っていた。
髪先に汗が光り、その奥の瞳が期待と少しの不安を宿している。
「……またかよ。練習、さっきまでやってたじゃん」
「うん。でも、麻成と投げる時間は別腹」
さらりと言われて、麻成は不覚にも動きを止める。
別腹ってなんだよ、と言い返そうとして——言葉が喉の奥で消えた。
「……分かったよ。雨に濡れたら体育倉庫な」
「やった!」
光希は子どものように笑い、麻成の隣へ並ぶ。
その笑顔を見るたび胸の奥がざわめくのは、もう誤魔化しきれなかった。
二人は軽く準備運動をして、外野の芝生へ向かった。
雨粒がぽつりぽつりと落ちてくる。
「急ごうか、麻成」
「お前が誘ったんだろ……」
言いつつも、麻成の声はどこか柔らかくなる。
光希はそんな変化に気づいているのかいないのか、真っすぐな目でボールを構えた。
雨が強まり始めた頃、光希の投げたボールが麻成の胸元へ吸い込まれた。
捕った瞬間、光希が駆け寄ってくる。
「麻成、体育倉庫行こ。風邪ひくよ」
「……お前が言い出したんだけどな」
言葉では文句を言いながら、麻成は光希の腕を掴んだ。
雨の中、二人は並んで走り出す。
気づけば——光希の手が、そっと麻成の袖をつまんでいた。
麻成はその温度を、雨よりも鮮明に感じていた。