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第九話
【前回のあらすじ】
沙雪のナデナデによって警戒を完全に解いた猫葉。
そうして猫葉を含む6人は食卓を囲んだ。
そして、そこで猫葉がこの屋敷に訪ねてきた理由が明かされる。
その理由は、なんと猫葉の山が奪われてしまったからなのだ…
しかし当の彼女はまるで気にも留めておらず、空気を和やかにした。
こうして灯和たちの屋敷にまた1人家族が増えたのだった。
__ジャー…__
**猫葉「ニ゛ャア゛アァ゛アァァ゛!!?水は嫌じゃあぁぁ!!!」**
沙雪「落ち着いてっ…!!大丈夫だから…ねっ!?」
**ジタバタッッッ!!**
やはり猫は猫だ。水は苦手なのだろう。
しかし、猫葉は森の中を抜けてきたこともあり、泥だらけだ。
心苦しいが、心を鬼にして洗い続けるしかない。
沙雪「今から石鹸で洗うから、目瞑っててね。」
モコモコモコ…
**猫葉「ニャア゛ァ゛ァア゛!!目に染みるー!!!」**
沙雪「もうちょっとだから頑張って…!!」
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ふきふき……
沙雪「お疲れ様ー…」
__猫葉「…………にゃあ……グスン…」__
……かなりテンションが低い。
先程まで暴れ回っていたとは考え難いほどの変わりようだ。
沙雪「よく頑張ったね…!」
ナデナデ…
猫葉「……ん…きもちいい…」
スリスリ……
猫葉を慰めつつ、私たちは浴衣に着替える。
やはりこの浴衣は気持ちがいい。
未だに湯気が立つ体を浴衣で包み、私たちは風呂場をあとにした。
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沙雪「あがりました…!」
猫葉「…………んなぁ……」
天舞「おけ。じゃあ次俺入ろっかなー。」
竜翔「じゃあボクも一緒に入るー!」
沙雪「……あれ?灯和は?」
竜翔「森と動物たちの様子を見に行ったよ!」
沙雪「そうなんだ…」
火影「沙雪、全員の布団を敷くのを手伝ってくれ。」
沙雪「はい…!」
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天舞「あがったぞー。」
竜翔「火影おさきー!」
火影「そうか。」
そう言って火影さんは天舞たちが歩いてきた場所に向かった。
お風呂上がりの二人はいつもと印象が違った。
天舞は外ハネが落ち着いて、竜翔は目にかかるくらい前髪がおりていた。
二人とも癖っ毛だったからか、少し落ち着いた雰囲気になってた。
ぐいっ
__猫葉「……………ん……」__
沙雪「……あ…」
猫葉がこくんこくんと頭を揺らして、私の袖を引っ張っている。
いくら元気溌剌だとはいえ、山をいくつも超えて走ってきたのだ。
これだけ疲れていてもおかしくない。
沙雪「猫葉ちゃんはもう寝よっか……?」
猫葉「………んぅ…」
コテッ
沙雪「…あ…寝ちゃった……」
天舞「じゃ、布団まで連れて行くかー。」
竜翔「ボクも手伝うよ!」
沙雪「よいしょっ…!」
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__猫葉「…スゥ……スゥ………」__
猫葉は私の袖を掴んだままぐっすりと眠りに落ちてしまった。
その姿からは、さっきまでの活発な雰囲気は全く感じられなかった。
目の前にいるのは、ただ寝ているだけの幼い少女だった。
沙雪「可愛い…!!」
天舞「こいつ寝てたら可愛いんだよな。」
竜翔「だねー…」
__トテトテ…__
スッ
天舞「おー、上がったか。」
天舞の視線の先を見ると、そこには浴衣姿の火影さんが立っていた。
いつもは着物をしっかり着ているからか、いつもより雰囲気が柔らかく感じた。
金の耳から滴り落ちる水が綺麗だった。
火影「猫葉は寝てしまったのか。」
沙雪「は、はい…疲れてたみたいでそのまま……」
竜翔「……ふわあぁぁ…」
天舞「俺らも寝るかー!」
竜翔「沙雪ちゃんはどこで寝るの?」
沙雪「…………あ。」
全く考えてなかった。
昨日までは私は気絶していたから、一人で寝ていた。
しかし今回はそうはいかない。
火影さんの横は無理だ。緊張で死んでしまう。
天舞と竜翔も理由はないけどなぜか緊張してしまうから避けたい。
でも、猫葉が私から離れる気配はない。
私はどうしたら………
火影「……なら沙雪を隅にして、猫葉を動かすか。」
竜翔「じゃあボクは猫葉の横!」
天舞「じゃあ俺はその横なー。」
沙雪「!あ、ありがとうございます!」
天舞「いいってもんよ!」
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沙雪(………落ち着かない…寝れない……)
私は疲れているのに異様に冴えた目だけを動かした。
灯りが消えて、部屋は夜闇に飲まれていた。
そんな中に襖から漏れる月光が光の道をつくっていて美しい。
私は他のみんなをみとうと目を動かしたけど、猫葉の顔以外は暗くて見えない。
__ゴソ…__
その時、私以外の人が布団から出る音が聞こえた。
その人物は、少しずつわたしに近づいてきた。
沙雪(……?だれ…?)
その人物が私の枕元まで来た時、ようやく正体に気付いた。
沙雪「……火影…さん?」
そこには、月明かりに照らされた火影さんが座っていた。
火影「眠れないのか?」
沙雪「………はい…」
私はゆっくりと体を起こす。
すると、先ほどまで見えなかったみんなの顔が見えた。
竜翔は尻尾が当たらないようにうつ伏せで気持ちよさそうに寝ていた。
天舞は寝相が悪いのか、盛大に転がって布団から出ていた。
沙雪「……どうしても緊張しちゃって…」
火影「眠れないのも仕方がない。」
沙雪「………あ、そういえば灯和は……?」
火影「…時間がかかっているから、今から迎えに行く。」
「…………ただその前に……」
とんっ
私は火影さんに軽く押され、元の布団に倒れる。
そして、額に優しく手を置かれた。
火影「お前を寝かす方が先だな。」
沙雪「…?」
すると、火影さんの手から不思議と温もりを感じた。
とても安心する、心地いい温もりだった。
まるで、ふかふかの毛を持つ動物に抱きしめられているようだ。
だんだん頭の回転が遅くなり、瞼が重くなるのを感じる。
沙雪「…………んん…」
火影「………」
……今…今一瞬だけ………
火影さんが笑ったように見えたような……
しかし、ほとんど落ちた瞼でそんなことがわかるわけがなかった。
そうして私は、深い眠りの中へと落ちていった。
__火影「……おやすみ。」__
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第九話 〜完〜