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【閑話】舞台裏で。サムエル編
私の過去の話でもしましょうか。
ただの、私の仲間にはありふれた話です。
5歳ごろ、自分が悪魔だと発覚しました。
そして、そのまま何もわからないまま大神殿に連れられ、悪魔への教育を施されることになりました。
幸い、私には才能があったようで、すぐに闇魔法を使えるようになりましたし、知識も身につけるのが早かったようです。
やがて、それは上層部が見過ごせないくらいになり……。
私は、悪魔、として影で過ごすのではなく、神官、として表で過ごすことになりました。
頭の良さを活かし、33歳、私は異例の速さで枢機卿なりました。
他の方には、次期教皇と言われておりますが、実際は悪魔であるために教皇になることはできません。
教皇様も私には、悪魔としての仕事と緊急時に役に立ってくれればいい、とのお考えで私を枢機卿に任命したそうです。
こちらとしては迷惑なのですけどね。
そして、緊急事態がやってきました。
今まで、聖女様は一人、活動されている方がいました。しかし、その方がお亡くなりになってしまい……。安らかな最後だったのは素晴らしいと思うのですが、他の聖女様には働く意志がありません。
今の状況なので仕方ないとも思うのですが……
教皇様は、昔から伝わる、異世界から聖女様をお呼びする方法を一カ国で一個、執り行うことになりました。
なぜか、伝わっているのには数種類があったのです。
話し合った結果、日付、時間は一緒にすることになりました。
それを執り行うのは、枢機卿または私のように表で過ごしている悪魔。
私はその両方に当てはまるものですかもちろん巻き込まれ……
二人を召喚してしまいました。
しかも、どちらも聖女様です。
それも、片方が片方に乗っかって。
お二人は仲がよろしいのでしょうか。
はじめのうちはそう考えましたが、その後話を聞いているうちに仲は良くないな、と思うようになりました。
それだったら、私たちの神殿には、可哀想な方の方をお呼びしたい。
そう考え、あちらの聖女様が王宮に夢を抱いてくれていたおかげもあり、可哀想な方の聖女様……ユミ様を神殿は手に入れることに成功したのです。
ちなみに、他の国では、1人ずつを、二カ国で成功したようです。
彼女たちが働いてくれれば聖女不足は大々的に解消されるでしょうね。
そう期待したのに……
彼女たち(ユミ様を除く)は何かしたでしょうか?
未だ活躍してくださっているのはユミ様お一人。
きっと、他の聖女様はユウナ様のようにくつろいでいるのでしょう。
今度、どこかで殴りにでも行きましょうかねぇ。
さて、ユウナ様に会いに行くことにしました。
出会って、少ししたら、私の意思は彼女を見限る、と決めていました。
もちろん、私の役には立たせますけどね。
そして、ユミ様にも。
彼女はこの世界の状況を憂いてくれているのが、良く伝わってきました。
ユミ様はさらに、聖女奪還の際も活躍してくださりました。
これは、彼女にはそれ相応の地位を挙げなくてはなりません。
そこで、ユミ様を、過去にはミア様お一人であった、大聖女の任につけることにいたしました。
そして、今も、その舐めに恥じないご活躍をしてくださっています。
そんなふうに充実した毎日を送っている私に、突如、任務がやってきました。
悪魔関係の仕事です。
第一王子ムニダス様が、現国王陛下を殺したときのことです。
いやはや、大神殿の情報網はやはり侮れません。
そして、私は第一王子を殺す、という任務を承りました。
悪魔の仕事なんてこんなものですよ。
聖女のように清らかな仕事とはいい難い。
だけど、いたほうがいいこともある。
……今回はどちらに当てはまるのかは人によるでしょうね。
私としては、いたほうがいいことの方であると信じたいのですが。
枢機卿である私が広場に行く名目としては、聖女ユミ様についていく、ということにいたしました。
不審には思われなかったようです。
そして、あのバカ王子、失礼、第一王子様の話を聞いたわけですが……
気がつくと、私の周りには誰も人がいませんでした。
おや? これは私のしたい行動を読み取ってくれた小人さんが頑張って誘導してくれたのかな?
それだったら私の目的がバレている可能性も考えなければなりませんが……
ユミ様を見る限り大丈夫そうです。
一体何があったのでしょうか?
ま、そんなわけでバカ王子があとからやってくるところに向かいました。
しかし、大量の護衛がいます。
しかも、ユウナ様までいらっしゃる。
正直邪魔です。
そういえば……と、バカ王子がユウナ様の話をしていたのを思い出しました。
ちょうどいいかもしれません。
ユウナ様に話しかけることにしました。
「ユウナ様、お久しぶりです」
「久しぶり、どうしたの?」
「今、殿下がユウナ様のことについて行っているので行ったらどうか、というお誘いですよ、ただの」
「ムニダスがあたしのことを話してくれているの? 行ってくる!」
なんと扱いやすい子供なのでしょうか。
幸せそうでいいですね。
お陰で仕事をちゃんと遂行できそうです。
「それでサムエル殿、何の用事でしょうか?」
聞かれましたが無視することにしました。
どうせ今からの魔法でバレるのです。言う必要はないでしょうし、時間の無駄ですからね。
(闇ーー汝に制裁あれ)
心のなかでそう唱えると、闇で作られた刃が彼らを襲います。
いつ見ても恐ろしい光景です。
自分が悪魔で良かった、と唯一思うのはこういう時です。
そろそろでしょうか?
そう思ったときに、彼らが帰ってきました。
「第一王子、ムニダス様。あなたはもう邪魔なものでしかなくなりました。さようなら」
間違えましたね。
もう少し、挨拶をしてから目的を言えばよかったかもしれません。
ただ、もう目的は言ってしまったので……
(闇ーー汝に闇の惑いを)
そうすると、闇の霧が現れて、彼らとその護衛を包みます。
これで大丈夫でしょう。
私は立ち去ることにしました。
そうでした、教皇様に報告をしておきませんと。
(闇ーー汝の下へ向かえ)
無詠唱というのは便利ですね。
◇◆◇
私は現場に戻ることにしました。
すると、ユミ様とその護衛、さらにはもう一方、知らない方がいました。
話を聞くに、バカ王子を殺した魔法についても話していたようです。
それなら、と口を挟むことにしました。
その後の会話はうまくいっていました。
私が犯人だとバレるようなことは言っていなかったはずです。
しかし、想定外のことがおきました。
聖女ユミ様に、浄化を頼んだのですが、なぜかは分かりませんが、治癒魔法が使われたのです。
すると、二人、意識を取り戻す方がいらっしゃいました。
あの魔法の急所をつくことができたようです。
まったく、あの魔法は悪魔しか知らないように秘匿されていましたのに。
それを簡単にくぐり抜けるのですか……
もともとあの魔法は牢屋に使われていたものです。
動き回るほど苦しくなる。つまり、拘束された状態だったらなんともないわけです。
脱獄でも試みない限りは。
だから、偶然生き延びることは可能なんですが……
彼らは、私に反応しました。
これは、私があの犯人だとちゃんと分かっているようです。
治癒魔法がなければ……
気絶して、緩やかに死を迎えるだけだったでしょうに。
そして、私の正体はバレました。
これはきっと怒られる案件ですね。
面倒なんですが……
「はい、私が犯人ですよ」
取り敢えず、意識が戻った二人とこの護衛は私の護衛にでも引き取りましょうかね。
面倒ですので。
聖女ユミ様は……
どういたしましょうか?
彼女なら黙ってくれそうですが‥…