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最初から探偵社 #1
敦side
──一杯の茶漬け
梅干しに刻み海苔。
それに夕餉の残りの鶏肉。
それを熱い白湯に浮かべ、塩昆布と一緒にかきこむ。
旨かったなあ。
孤児院の台所で人目を忍んで食った夜の茶漬け。
ていうか、腹減って死ぬ。
僕の名前は中島敦。
故あって、餓死寸前です。
孤児院を追い出され、食べるもの寝るところもない。
かといって盗みをはたらく度胸もなく、こんな所まで来てしまった。
生きたければ盗むか、奪うしかない。
けど──
『お前など孤児院にもいらぬ!』
『どこぞで野垂れ死んでしまえ!』
五月蝿い。
僕は死なないぞ。
生きる為だ。
次に通りかかった者。
そいつを襲い、財布を奪う。
「少し待てってこの狂人!」
「狂人じゃありませんよ。あ、ルイスさんも一緒にどうです?」
声が聞こえた方へ視線を向ける。
すると、橋から二人の男性が体を乗り出して今にも落ちてしまいそうだった。
金髪の男性が、蓬髪の男性を必死に抑えている。
「あっ」
そんな間抜けな声を出す僕に対して、二人の男性は川へと落下する。
「た、助けないと──!」
急いできた川へ飛び込み、二人を引き上げる。
咳き込む僕と、蓬髪の男性を抑えていた金髪の男性。
その髪は夕日でキラキラと輝いていた。
「無事で良かった……」
深く息を吐く僕の隣で、蓬髪の男性も目を覚まして起き上がった。
「助かったか。……………………ちぇっ」
「全く、君は相変わらず……。あぁ、君が助けてくれたんだよね」
ありがとう、と金髪の男性は笑う。
「君もか。私の入水の邪魔をするなんて──」
「邪魔なんて、僕はただ助けようと──ん、入水?」
「知らんかね、入水。つまり自殺だよ」
「は?」
「私は自殺をしようとしていたのだ。それなのに君も余計なことを──」
「は……はぁ…」
もしかしなくても、僕はいま怒られているのだろうか。
そんなことを考えていると金髪の男性は蓬髪の男性を叩いた。
次に蹴って、また叩いて。
「君の! せいで! またびしょびしょに! なった! じゃないか!」
「痛い痛い! だから、わざとじゃないんですって。だから叩くの止めて、」
「人に迷惑をかけない清くクリーンな自殺が信条とか云っておきながら君は──!」
どんな信条だよ、なんてツッコミを入れる間もなく、遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえる。
川を挟んだ反対側だ。
おーい、と僕達へ声が掛けられている。
「ルイスさんに迷惑を掛けるな、この唐変木!」
「ヤダなぁ、ルイスさんが一緒に入水してくれるって云ったんだよ」
「誰が云ったって?」
また叩かれ、蓬髪の男性は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「ん、ルイスさん?」
「僕の名前だよ」
金髪の男性が手を差し出す。
「ルイス・キャロル。これでも26歳の英国人さ」
「あ、中島敦です」
手を握り返すと同時に、僕の腹の音が辺りに響いた。
ここで鳴るなよ、なんて恥ずかしがっているとルイスさんは小さく笑った。
「何処かの唐変木と違って財布があるからね、お詫びに何か奢るよ」
「ルイスさんまで唐変木呼びやめてくれません? というか流されたのなんで知ってるんですか?」
「流れていくの、普通に見えてたからね。これを期に入水なんてやめるんだよ、太宰君」
「……太宰?」
「あぁ、私の名前だよ。太宰、太宰治だ」