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9.困惑
クラン様のお心を開いたら金貨百枚の報奨…!
この知らせは、今までの報われなかった努力をもう一度しようと思えるほどには私に影響を与えてきた。
私はノア。平民出身。そして自称クラン様の信者。
今日は月曜日。あの法令が発布されてから初の学校がある日だ。
「ねえ、聞いた?」
「もちろん!私、クラン様にもう一度アタックしてみようと思いたったの!」
「えぇ…ノア、よくやるわね…」
「そりゃもう!私はクラン様のファンだから!」
「あぁ…自称のね。」
彼女はクリーナ。同じく平民出身だ…が、家は商人と、裕福めな暮らしをしていたそう。
私たちと同じように、今日の教室は騒がしい。理由は…あ!
「「「クラン様、おはようございます!」」」
ちょうどその原因であるクラン様がやってきた。正確にはそのお父様だけど。
「__おはようございます?__」
「ねえ、聞いた?クリーナ。クラン様が挨拶を返してくれたよ!」
「まぁ!クラン様が返してくれたわ!」
「本当だ。あの方、喋らないというわけではないんだ…」
他の人も似たりよったりの反応だ。むぅ。私だけで目立ってまたクラン様に話しかけるチャンスを…っと狙っていたのに。しかし、席についたクラン様に、誰も話しかける素振りを見せない。
チャンスだ!
「クラン様、今日も相変わらず綺麗ですね!」
「そう。」
「何でそんなに薄い反応なんですかー?」
ううぅ…私、嫌われているのかなぁ。嫌われることはしてないと思うけど…まあ言っていることが他の人も言いそうなものだし…当たり前と言えば当たり前か。
「これが普通だもの。」
「絶対違うと思います!クラン様は、もっと明るいお方です!」
だって…!
「そう、ではそう思っていればいいわ。けれど、これがわたくしよ。明るというのは幻想でも見ているのよ。少し冷静になりなさい。」
「__そんなことないのに…クラン様は、もっと明るかった。忘れてしまったのか、本当に変わってしまったのか…__」
あわよくばクラン様に聞こえてくれていないかな。
神殿でのクラン様は、もっと明るかった。私には気づいてくれていないけれど、それでも過去の自分を隠す必要なんてなさそうなのに…いや、これは私本位の考えだ。公爵令嬢であるクラン様は違う考えをお持ちかもしれない。
けれど…明るいクラン様をまた見てみたい。そりゃあ今のクラン様も好きだけど。
「公爵令嬢として、よく分からない者を連れて出かけることは出来ないわ。分からないかしら?」
あぁ…クラン様が絡まれてる。あれ?私も他の人から見たらあんな感じなのかな?それだったら嫌われるのも分かるかもしれない。
「いや、分かります。えっと…その…急に突拍子もない事を言ってしまい、申し訳ありませんでした!」
「今回は許します。」
一瞬で周りが静かになった。それほどまでに発言には威厳があった。
《《今回は》》許します、かぁ。今後は許さないつもりなんだ。はっきりしているところも相変わらず素晴らしい…!
「…!ありがとうございます。このような…。」
「クラン様、先日ドラゴンを倒したと拝聴しました。一体どうやって、倒したのか、教えて欲しいです!」1
「あぁ!それ、わたくしも気になってたわ!」2
「私も興味がありますね。」3
今度は魔術が強い3人がクラン様がドラゴンを2人で倒したことについて聞いている。ドラゴン…この街の近くには出ないはずなんだけれどな。それが出てきて、さらに普通どおりに戦えちゃうところとかも、尊敬の対象だ。
「翼を切って、急所を護衛に刺させただけよ?」
「翼を切る?」1
よくぞ代弁してくれた。竜の翼は硬いと聞いたことが私でさえある。そんな簡単に済む話であるはずがない。
「クラン様、一体どういうことですの?」2
「だから、風魔術で両翼を切ったのよ。弱い竜だったしね。」
「竜が弱い…」3
「すまん、私も理解できないのだが…」1
竜は弱くないですよ!兵士が100人集まってやっと倒せるんだもん!
「ドラゴンの攻撃はどうやって止めたんですか?」2
「風魔術を使って、相殺させたのよ。」
「魔術で相殺する…つまり、攻撃を事前に読み取って、それと同等の力で防御したということだよな?」3
なるほど…って、え?そんなことできるの?人間の能力超えていない?少なくとも、学生の能力は超えているね。うん。
「そういうことだと思うけど…信じられないな。」1
「討伐にはどれぐらいかかったんですか?」2
「両翼を削ぐのは一瞬だったんだけどね…はぁ…護衛が急所を狙うだけに30分かけたのよ。おかげで魔術の腕…あぁ、なんでもないわ。」
「30分間も相殺し続けたのか…」1
「授業ではそんなふうに見えなかったのに…」3
本当そう。授業では本気じゃなかったってことだよね?30分も使える魔術があるのなら、王直属の護衛にもなれるよ。けど、今までそんなことにはなっていないという事は、隠しているっていうこと?
「クラン様にはわたくしたちには分からないような崇高な考え方がきっとあるのよ!」2
「かもしれないな。」3
そうかも知れない。今、この場で共通認識ができた。クラン様のこの実力は、クラン様の許可なしには多言しない。みんなきっと、そう思っている。
「答えてくださってありがとうございました。」2
「そう、それは良かったわ。」
そう言ってクラン様は少し微笑んだ。
「…はぁ…。」
見惚れちゃうよ…。あぁ…やはりクラン様は最高の御方だ。