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#02
――数週間後――
「アインスちゃん、お昼ご飯できたわよ!」
サッチが声をかけると、アインスはキッチンのドアを開けて顔を出した。
「わー、今日はまた豪華だね!サッチ兄さんの手料理、楽しみだよ」
アインスは嬉しそうに言って、サッチが作った料理の皿を見つめた。
「だろ?これでも毎日練習してるんだからな。ちょっとは成長してるだろ?」
サッチがちょっと得意気に言うと、イゾウが横からツッコむ。
「練習って、お前それ、ほとんど食べる専門だろ」
「うるさいなぁ。俺だって頑張ってるんだよ」
アインスは二人のやり取りを見て、思わず笑顔をこぼす。こうした何気ない日常が、何よりも幸せだと感じていた。
「じゃあ、いただきます!」
アインスは箸を取って、勢いよく食べ始める。サッチが何か言いかけたが、アインスが目を輝かせながら料理を口に運ぶと、すぐに口を閉じた。
「美味しい!本当にサッチ兄さんの料理、最高だよ!」
「よし、よし。それなら次も頑張るか!」
食事を終えた後、アインスはふと思い出す。
「そういえば、最近新しい海賊団が近くに現れたって、どうなったの?」
イゾウが腕を組みながら答える。
「今のところ、大きな動きはない。でも、気を抜かない方がいい。何か裏で動いている奴らがいるかもしれん」
「なるほど……」
アインスは少し不安そうに視線を落とす。
そのとき、マルコが部屋に入ってきた。
「アインス、元気そうだな」
「うん、みんなのおかげで、すごく元気だよ」
アインスはマルコに微笑んだ。彼も何だか少し顔を赤らめながら、座った。
「お前、最近どうしてるんだ?」
イゾウが尋ねる。
「うん、ちょっと島の周りを見回ってきた。変わったことはないけど、やっぱり警戒を続けるべきだな」
マルコが冷静に答える。
アインスはその言葉を聞いて、少し安心した。
「何かあったら、すぐに教えてね。私もできることがあれば協力するから」
彼女は小さく拳を握る。
「お前も強くなったな。最初はどこか頼りないと思ったけど、今は頼もしい」
サッチがニヤリと笑いながら言う。
「最初から頼りないなんて言わないでよ!」
アインスは顔を真っ赤にして反論した。
その後、みんなで簡単な仕事をこなしながら、日常が過ぎていった。
――その夜――
「お疲れ様、アインス。今日もよく働いたな」
イゾウが優しく声をかける。
「ありがとう、イゾウさん。でも、なんだか気になることがあるんだ」
アインスは少し考え込むように言った。
「気になること?」イゾウが首をかしげる。
「うん、あの白装族の男が言ったことが、どうしても頭から離れなくて……『大切な人ができたら潜在能力が開花する』って」
イゾウは少し黙ってから、静かに言った。
「お前はその言葉に囚われすぎだ。力を使うことが怖いって思ってるんだろ?」
「うん……でも、もし私が本当に誰かを守るために力を使わなきゃいけないとき、私はどうすればいいんだろう?」
イゾウはしばらく考えた後、ゆっくりと答える。
「それはお前が決めることだ。どんな力でも、使うべき時が来たら、自然に使えるようになる。無理に抑えつけるものでもない」
「でも、もしその力が私を壊すようなものだったら……」
「壊れはしない。お前には、もう一つ大切なものがあるからな」
アインスはイゾウの言葉に安心したように頷く。
「そうだね…私には、大切な仲間がいるから」
その夜、アインスは再び穏やかな夢の中で目を覚ました。
日常が、また静かに戻ってきた。それでも、彼女の心の中には確かな変化があった。何かを守るために――
その力が、きっといつか役立つ時が来るだろうと、彼女は心の中で強く信じていた。