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#4
数十分経ったあと、炭素は疲れ切った様子ででてきた。
「ごめんなさい、やっぱり後にするわ。取り敢えず…いきなりヒ素のところへ行くのはよしたほうがいいわよね?」
「ああ…近隣住民とかは?」
「なるほど。あと、あのアパート。えーと…あの…『ランタン・アパート』」
118人が住むには、一軒家で十分だ。
だが、ふたつだけアパートがある。そのひとつが、『ランタン・アパート』。管理人兼大家はランタンだ。
「なら、わたしはそっちに行くね」
「わたしは近くに行ってくるわ」
じゃあ、と言葉を交わした。
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5階だての灰色のアパート。3つの部屋がひとつの階におさまっている、小規模なものだ。
1階の1番左。管理室兼ランタンの部屋だ。『101 ランタン』の表札を確認して、水素はノックした。
返事がなかった。
ごんごんごんっ、と強くノックすると、奥から「はいはぁい…」とドアが開いた。
「こんにちは」
「こん…ってうわぁあ、水素さん!ごめんなさいっ、隣のセリウムかと思って…それで、なんでしょうか?」
黒いだぼだぼのワンピースには、不自然なぐらいに大きなフード。顔の半分は、それですっぽりとおさまっていた。灰色と茶色が混じった色合いの前髪と、同じ色の瞳と眼鏡。
「クロムが行方不明になった事件のこと。ほら、今朝の『ニッケ新聞』」
「へえ…ごめんなさい、わたし、新聞はとらないんです。ネットニュース派で…」
「何か知りません?」
「全くです。なんでわたし?」
「たくさん人がいるので、ここ。情報網があると睨んだんです」
「…ごめんなさいっ、もう帰ってくださいっ」
「え、なんで?」
動揺する水素の前のドアが、だんだんと閉まっていった。
「怖いんですっ…お願いですっ!!警察みたい」
「け、警察…?」
「どっか行ってくださいっ!!」
顔がフードですっぽりと覆いかぶさった。
「…わかりました」
状況が飲み込めない水素の前、ランタンは強硬手段に出た。後ろにぶら下げている、レーザーをぶかぶかの手で手にしていた。
「これでも?」
「っひゃああ!?ら、ランタンッ、お、落ち着いてっ!」
「なら早くわたしの部屋から去ってください!見られるのは慣れていないんです!アパートの中の住民に話してもいいので、お願いしますぅっ!」
「えっ!?」
「早く!5・4・3…」
「うわ、わあ、ごめんなさぁい!!」
水素は走り出し、そのまま隣の部屋へと駆け込んでいた。ばたん、とランタンのほうでドアが閉まる音がした。