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月夜の晩に
病院の屋上に佇む黒髪の男性。俺、|村上修斗《むらかみ しゅうと》は、夜の町を眺めていた。吐く息が白くなり、冬の訪れを感じる。ふと、冷たい風が修斗の足を後ろへと運ぶ。修斗は転びそうになったが、すんでのところで彼女に止めてもらった。
「また来たのか?」
修斗は少し呆れつつも振り向く。思った通り、白髪で茶色の瞳をした、|井上舞葉《いのうえ まいは》が立っていた。無表情な舞葉はある奇病に侵されていた。白髪病。その奇病はそう呼ばれていた。口から、特別なウイルスが入ることで、感染者は眠ることができなくなり、極度なストレスから髪は真っ白になる。更に、病気が進行すると、表情筋や、口を動かすことが難しくなる。舞葉は既にレベル4まで進行していたはずだ。白髪病のおさらいをしていたところで、舞葉は紙とペンを取り出した。
「私の寿命は、短いんでしょ?」
そう書かれた紙。修斗は眉を八の字にして、困った顔をする。それから、少し口をパクパクさせ、ようやく話す。
「あぁ、そうだよ。持って、一年だ。」
修斗は苦しそうに顔を歪める自分ですら、なんでこんなに苦しいのかは分からなかった。舞葉は表情を変えることなく、変えることができす、ただただ修斗を見つめる。そして、新たな紙を出した。
「今日で全部、終わりにしよう。」
修斗は書かれた文字に戸惑う。確かに、もう、彼女と一緒に。修斗は舞葉にそっと手を差し伸べる。舞葉はその手を嬉しそうに掴んだ。月光が二人を照らす。彼女の桜色に染まっている頬を、愛おしげに見つめる。
「じゃあ、ね。舞葉。」
舞葉は目をそらさずに、真っ直ぐに修斗を見つめ、微笑む。それは、修斗にとって最後の最高の贈り物だった。
「じゃあね。修斗。」
彼女がかすれた声で言うと二人は屋上のフェンスにもたれ掛かった。
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「昨夜、東神病院で、村上修斗さん、二十一歳と、井上舞葉さん、二十歳の二人の患者が屋上から飛び降り自殺をしました。村上さんは恋死病と言う奇病にかかっていました。恋死病とは、恋をしたら死んでしまう病気で…ー」
俺は、彼女より先に死んでしまった。それだけ。たったそれだけのことで、俺は、この世に……
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私は、彼ともっといたい。そう、死んでから思っても、遅いよね。でも、私はまだこの世に……
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「ねぇねぇ、ここって幽霊でるんでしょ?」
東神病院で、若い看護士達が噂話をしていた。
「知ってる知ってる!カップルの霊でしょ!」
それに、もう一人の若い看護士が反応した。
「コラ!仕事に戻りなさい!」
年配の看護士に叱られて、二人の看護士はクスクスと笑いながら仕事へ戻った。年配の看護士はため息を付く。
「二人が死んでから、もう十三年………。」
年配の看護士はあの日の事を思い出す。村上さんと井上さんが死んだのを最初に見つけたのは私だった。村上さんも井上さんもみんなに親しんでいて、看護士とも………。あの日、私は彼らの遺体を抱いて、泣いた。看護士服が血にまみれ、やがて、腐臭が漂ってきた。私は、泣くことしかできなかった。もし、もっと早く、そう思っているのを知っていたら。でも、過去には戻れない。だから、私は看護士服のポケットから二人の写真を取り出す。そして、ふわりと微笑む。
「今日も、頑張るね。」
より多くの命を、救うために。どこからか、二人の笑い声が聞こえてきた。
ユーザー名:Asami126
作品名:月夜の晩に
こだわり:二人の奇病かな………。村上さんは井上さんに恋をしたことで死んじゃうって所がまぁ、好き。
要望:特にないかな。我の別の作品も見て……ほしい。