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彼岸の君
灰色の段差に腰掛けてポケットからスマホを取り出した。
少し煙たい匂いと生花独特の匂いが混じってため息を一つ。
静かすぎるほどのこの場所に私は似合わないみたい。場違いだ、そう言われたような気がした。
「今回もダメだったよ…結局写真と文面ではどうとでも言えるのね。
ほんと、世間にはダメ男しかいないのかしら。」
『おいおいwそれは失礼じゃないか。現に僕と出会ったんだから。』
「そんな事無いか。宗也とも出会えたんだからね。宗也は全然、ダメ男じゃなかったw」
『だろ?おんなじ出会いでも俺は特別だからさ。』
「今回こそあたりだって思ったんだよ?
自己紹介欄に【コーヒ好き、出会いに感謝。】って書いてあって宗也じゃん!って思っちゃったもん。
でも…あなたが特別だったのかもしれない。宗也に出会ってから一度も運命を感じなかったもん。」
『コーヒー好きだからって俺みたいにいいヤツとは限らないさ。』
「あ~あ!騙されちゃった。」
『その男見せてみろよw俺が品定めしてやるw』
「宗也にもそいつの写真見せてやろっかな。私を置いてった罰として。」
『あ~なんとなく、咲輝が引っ掛かりそうだなw』
「な~んて。見えないか。返事なんて…期待するほうが馬鹿だね。」
『いや…そんなことない。ちゃんと見えてるよ…ちゃんと。』
「あたしさ~もう宗也と一緒のとこ行っちゃおっかな~。
生きてても意味ないしさw」
『来るな…こっちには絶対来ちゃダメさ。…絶対。』
「こんなこと言ってたら宗也に怒られちゃうか。…じゃあ私は帰るよ。」
『いつも、ありがとな。』
「うん、ありがとう。」
『話…通じたの…?』
「そーいや、花と酒忘れてた。ここ、置いとく。ドライで良かったよね。」
『…そーだな。』
「じゃあ…また彼岸ぐらいに来るわ。」
『こっちには…来るなよ。』
砂利の上においた柄杓入りの水桶を掴んで水道場に向かった。
花立に高さが合わなかった茎を捨て水桶の中身を流した。
忌まわしい思い出も、一緒に流れるように。
車に戻る前の坂でもう一度振り返った。
「会いたいよ――。」
そういって私は墓地を後にした。