公開中
和解
住人がいた。多くが頭に洗濯ばさみをつけていた。
首都だった。一日中仕事に明け暮れる人しかいなかった。
頭痛がした。悩み事が絶えない。
気付かない。脳が事に耐えない。
気付けない。洗濯ばさみのこと、街に来訪者がいたこと。
巨人がいた。天を覆う姿に漸く気付く人がいた。
信者がいた。弾圧された巨人伝説を密かに信じ続けた。
教会にいた。街の最北端、最高地点で巨人に手を合わせ祈った。
器用だった。巨人の指は信者の頭の洗濯ばさみを取った。
頭痛がない。痛みが消えた、信者は全てが吹っ切れた。
宣教をする。街路を縫い、踊り狂った。
現実になる。巨人が現れた今、伝説を信じない者が少数になる。
行列になる。教会の最上階で巨人に頭痛を治してもらう。
首長がいた。その頭の、一際大きな洗濯ばさみも巨人は器用に摘まみ取った。
和解だった。
ここの人は人生の選択肢に悩み、板挟みになると、頭に選択挟みが噛みつく。
噛み付かれ、頭痛を感じる。
巨人には選択挟みが見えていた。
頭を下げた信者を目の前に、巨人は何をすべきか感じ取った。
"洗濯が増えるこの時期、洗濯ばさみなんてどれだけあっても困らないね"
そう思い、頭から洗濯ばさみを頂戴した。
料理、掃除、洗濯、どれもこなせる家庭的な巨人だった。
当然、手先も器用である。
根強かった。巨人をよく思わない保守的な勢力も。
事件だった。神童が保守勢力の家に生まれた。
忌嫌われた。身長がとてつもなく高かったからだ。
六歳だった。齢六つにして大人の身長を悠に超え、親の頭の選択挟みを取った。
模範だった。革新派に対抗するためのキーマンになる男になると両親は直感した。
復讐だった。巨人のデマを流し、神童の前に住民を並ばせた。
完璧だった。勢力関係は逆転した。
初耳だった。神童は十四歳にして自分が宗教的な渦の中心にいることを知った。
夜中だった。こっそり教会に入り、巨人の来る明け方を待った。
十秒だった。朝日と共にやって来た巨人と目が合った刹那、
神童だった。神童だった少年は別の街へ行くことを決意した。
彼の背は高かったが、それ以降伸びることはなかった。
彼は神童ではなかった。
中二でやれやれ系主人公に憧れる普通の感覚を持っていた。
だから首都を出た。
今ではこの英談を気の知れた友人にだけ、疲れた感じを出して語っているらしい。
煉瓦、憧憬、照明