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日🔥と雷⚡️の使い手、鬼になりました。 弐
「なぁ炭治郎、俺も異能って使えると思うか?」
暗くなった山道で、善逸が弾んだ声を上げる。期待に満ちた瞳が、隣を歩く炭治郎をじっと見つめていた。
異能――それは鬼にしか使えない特殊な能力、“血鬼術”と呼ばれるもの。だが、すべての鬼が使えるわけではない。持って生まれた力の差、それが如実に現れる術でもあった。
「使えるといいな」
炭治郎は苦笑しながら、やや曖昧に返す。
「なぁ炭治郎!」
「なんだよ、笑」
少ししつこいと思いながらも、その陽気な調子に釣られて、炭治郎の表情も和らぐ。
「今夜さ、街に出てみない?」
善逸が声を潜めて言った。
「……まぁ、鬼になっちゃってるから夜なら大丈夫か」
炭治郎は目を細めて空を見上げる。そこにはまだ微かに残る夕陽の残光。
「まさか、人を襲おうってんじゃないだろうな?」
「だって、俺たち鬼だもん!」
善逸はどこか開き直ったように笑った。
「そうだよな……笑」
軽い会話のなかに、微かに滲む“変化”の影。かつて人間だった彼らが、今は夜にしか生きられない存在
――“鬼”であることを、あらためて認識させられる。
夜が深まり、二人は人里へと向かって歩を進めた。
「……月、綺麗だなぁ」
善逸がふと、頭上を見上げて呟いた。
「そうだな」
炭治郎もその視線を追う。雲一つない夜空に、丸い月が浮かんでいた。青白い光が、静かに二人の足元を照らす。
「……あ、着いたぞ! 街だ!」
善逸が指さす先には、明かりのともった建物が並び、人々のざわめきがかすかに聞こえてきた。
「なんか緊張するな、笑」
「まぁ、初めてだもんね」
善逸もどこか浮き足立っている。
「でも、日が昇るまでには戻らないとだぞ?」
炭治郎は表情を引き締めて言う。
「うん!」
(……って言っても、いつ日が昇るんだろう?)
善逸はそんなことを考えながら、胸の高鳴りを抑えるように、街の明かりのなかへと歩み出した。
---
「すいません、お嬢さん」
炭治郎が声をかけたのは、街角で一人、買い物袋を手にしていた若い女性だった。驚いたように振り向いた彼女の目が、炭治郎の姿を捉えて一瞬戸惑う。
「わっ……なんですかっ//」
「よかったら……このあと、俺とどうですか?」
にこりと笑ってみせる炭治郎。その笑顔には、かつての人間としての優しさと、今の鬼としての“何か”が、わずかに混じっていた。
「えっ……あ、はい。よかったら……!」
どこか引き込まれるように、女性は頷いた。
しばらく軽い会話を交わし、互いの距離が縮まっていく。だが――。
「……あの、失礼だったら申し訳ないんですけど」
ふと、女性が不安そうに切り出した。
「……ん? どうかしましたか?」
「その……なんで刀を持ってるんですか?」
彼女の声がわずかに震えていた。炭治郎は少しだけ笑みを深めると、こう答えた。
「これは、悪い奴を斬るためですよ」
「えっ……」
「それに……見えちゃいましたか? 角」
炭治郎は額のあたりに手をやる。その存在が、彼の“正体”を明確に示していた。
女性の顔が青ざめていく。
「楽しかったです」
彼はそう言うと、にこりとまた笑った。
その笑顔は、やはりどこか――人間のものではなかった。
---
一方そのころ、善逸は街の別の通りを一人歩いていた。
(なんか面白い人、いないかな〜……)
人間の匂い、明かり、笑い声――すべてがどこか懐かしくて、けれど遠い。
そのとき――
「きゃぁあああああああああっ!!」
甲高い悲鳴が、街の奥から響いた。
善逸はピクリと反応する。
(……違う鬼か?)
駆け寄ると、怯えた人々が道の端に集まっていた。その中の一人が善逸に気づき、縋るように叫ぶ。
「あなた! 剣士なの!? 助けてよ!」
「えっ、ま、まぁ……?」
言い淀む善逸に、さらに別の男が駆け寄ってくる。
「助けてくれ!! あの化物が……!!」
善逸はその先を見る。路地の奥に、血にまみれた影――明らかに鬼の姿があった。
「お前もかぁ〜……」
低くくぐもった声で、その鬼が呟く。
「俺の“えさ”が、どんどん増えていくなァ……くくくっ」
(……鬼殺隊、いるじゃん。でも……まぁ、いっか)
善逸はほんの一瞬だけ迷ったが、次の瞬間には静かに刀を抜いていた。
「いいよ。助けてやるよ」
月の光が、善逸の刃を白く照らす。