公開中
萩沙は何を見たのか
徳
夕暮れの公園。少し肌寒くなってきたから、上着の袖をぎゅっと握って二人の後ろを歩いていた。
私の視界には、160cmの二人の背中。148cmの私から見れば、それは少しだけ高い壁みたいで。
「紺、あっちのベンチ座る?」
「ん、萩花が隣ならどこでもいいよ」
そんな、いつもの甘い会話。そこまでは良かった。
二人がベンチに腰を下ろして、ふっと空気が変わった瞬間、私は足を止めた。
紺ちゃんが、萩花ちゃんの頬を包み込む。
萩花ちゃんは、拒絶するどころか、とろんとした目でそれを受け入れている。
夕陽が二人の輪郭をオレンジ色に縁取って、まるで映画のワンシーンみたいに綺麗で……。
(……あ、待って。これ、見ていいやつ?)
そう思ったときには、もう遅かった。
吸い寄せられるように二人の距離がゼロになる。
重なった唇から、小さく「ちゅっ」て、甘くて、柔らかくて、心臓に直接響くような音がした。
「……っ!」
心臓が跳ねた。
情緒が、一気に崖から突き落とされる。
16歳。私より年下の二人が、あんなに迷いなく、お互いの体温を確かめ合ってる。
萩花ちゃんの作るお菓子より、ずっと、ずっと甘い匂いがそこから漂ってきそうで。
胸が苦しい。尊いのか、羨ましいのか、それとも中気したのか分からない。
視界がちかちかする。私は震える手で、ポケットから使い古したメモ帳をひり出した。
【メモ:17時14分。公園のベンチ。散歩とは、魂を混ぜ合わせる儀式だった。無理。】
「……はぁ、はぁ……。に、二人とも……まだ、終わらないの……?」
私は顔を真っ赤にして、メモ帳で顔を半分隠しながら、溶けそうな情緒を必死に繋ぎ止めていた。