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本編24
もし、司先輩が今欲しい言葉をかけられなかったら?
もし、すれ違ったら?
…そんなこと、後からどうにでもなる
先輩がいなくなってからじゃ遅い
「司先輩は…何をしようとしてるんですか……?」
「え………」
あああああしまった……!!何してるんだ俺は…!
こんなこと急に言われても答えられるわけない………今の司先輩なら尚更…
「オレは……」
「……何もかも、やめようとしている」
「何もかも……?」
「ショーも、学校も、努力も、希望を持つことも…」
「全部、諦めている」
「……っ」
そんなの…ダメに決まってる…
司先輩がこれまで積み上げてきたものが…たった一度の勘違いで全て、壊れようとしている…
「…すまん、変なこと言ってしまったな…」
「い、いえ、俺の質問が悪かっただけなので…」
「……ほんとに、すまん」
「こんな、こと…誰に相談すればいいのかわからなくて…」
「相談したところでどうにかなるわけではないからな…」
「また裏切られるのが…怖くて……信じてもらえなかったら、とか…冗談だろ、って笑われるのが…怖かったんだ…」
そう話す司先輩の目には、涙が溜まっていた。泣くのを必死に我慢しているのだろう…
こんなになるまで気づけなかった自分がとても情けない
「っ…は、ぁ……あ…はー…っ」
「!?つ、司せんぱ…っ」
呼吸がうまくできてない、過呼吸だ
優しく背中をさすり、必死に声をかける
「司先輩、大丈夫ですか…っ落ち着いて、深呼吸を……」
「う……」
こんな司先輩を見たのは初めてだった
いつもかっこよく、頼りになる、あの元気な司先輩はどこにもいない
どうして…どうして先輩がこんな目に遭わなければならないんだ
「……ほんとに、すまん…冬弥にはこんな姿、見せたくなかったんだがな…」
そう言って司先輩は優しく微笑んだ
引き攣った笑顔
こんなの、先輩の笑顔じゃない
「先輩……っ」
「なんでもっと…頼ってくれないんですか…」
次は自分の番だ。俺が先輩を助けるんだ
そう思っていたのに、何もできない
絶対諦めたくない、絶対守る、助ける
口先だけだ。結局俺は………
「そうだ……冬弥、一つ聞いてもいいか?」
「…?…はい」
「学校は、楽しいか?」
「…………」
「…わからないです…先輩がいないと…何か物足りない…」
「前よりずっと、寂しくて、静かで……」
「…そうか……」
「……オレ、どこで間違えたんだろうなあ…」
「あ…っ」
空気がずんと重くなる
俺もいつのまにか泣いていた
ぐっと堪えないと、とまらない
何してるんだ俺は…先輩とちゃんと話をするって、想いを受け止めるって言ったのに
こんなところで止まっていたら何もできないだろう……
「司先輩、その……」
「俺はずっと、何があっても司先輩の味方です。俺は司先輩のことを信じています」
「だから…司先輩も、俺のことを信じてくれませんか?」
少しの沈黙の後、先輩は涙声でこう言った
「冬弥のことは、昔からずっと信じてるぞ」
その言葉に、逆に俺が救われてしまった
やはり司先輩は、すごい人だ