様々な世界線を管理する機関【Multiverse-Core】
その組織に所属する【自立式旧型ヒューマノイド】である主人公は任務中に意識を失い目が醒めた後、意識を失った時代から約1000年が経ち、記憶(記録データ)を失っていた。
自分の名前や存在すら曖昧な状態で一つ思い出したのは“世界が創られた存在”であること。
かつての時空や世界を守りながら、存在意義であった記憶を探し続けて“創作”の真理に辿り着いた先に待つものは_
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目次
✯ 楽園に捨てられた野犬 ✯
永遠と続く平行線が二手に別れ、|本編軸世界《ユニバース》から|別世界《マルチバース》に枝分かれしていく。
流れていく次元の中で、本来あるべき|着地点《エンディング》へ降りるように線を少し割れた鮮やかな青色の|瞳《レンズ》の先で確認した。
「C5-333、|本編軸世界《ユニバース》の|登場人物《オリジナルキャラクター》の|鍵《キー》が|自殺《エンド》を迎えた。至急、|別世界《マルチバース》へ追加しろ」
|音声認識デバイス《耳》から|C5-168《リーダー》の声が聞こえる。
すぐさま、枝分かれしたものが再び|到達《ゴール》する前に線を引いて精密な作業を可能にするために細く、多関節になっている指先を動かした。
狭間の壁に映る無駄のない流線型のボディ。180cmほどのボディの外装は艶消し加工されたチタン合金で覆われており、関節部分には複雑なメカニズムが露出している。
頭部は滑らかなドーム型で、人間の表情筋に当たる部分はなく、感情は内蔵された音声合成システムでのみ表現され、瞳の位置には、周囲の状況を分析する鮮やかな青色の光学センサーが埋め込まれている。
その全体から冷徹さと高度な技術力が感じられる外見にはいつ見ても、惚れ惚れしてしまう。
惚れ惚れとしたボディの指先は司令を遂行し、平行線は二手に別れ続ける。
やがて、それもゆっくりとどこかへ行き着くだろう。
指先を離して次の司令を待とうと、平行線が続くドーム型の部屋を出ようと重々しい足で外の草木の生い茂った大地を踏みしめた。
遠くで鳥の囀りが聞こえ、水が流れる音も拾えるほど閑静な樹海。
上には自然に輝く太陽が陽を降り注ぎ、陰影をつける。
それがいやに奇妙で、不自然なように感じられた。
しばらく待っていると再び音声認識デバイスからリーダーの声がした。
「あー…あー…あー…よし、C5-333、帰還しろ」
「…了解」
リーダー、及びC5-168は様々な世界線を管理する機関“Multiverse-Core”の司令官を務め、真っ黒でスタイリッシュなボディが特徴的な自立式旧型ヒューマノイドの一人だ。
孤高で他のヒューマノイドの憧れの存在感でもあった。
リーダーの存在感に思いを馳せながら、足のホバー装置でエアを吹かして巨体を宙へ浮かす。
遠くに広がる青葉が見え、そのままの状態で宙に浮いたMultiverse-Coreの管理中枢核を担う灰色の円盤型の“No.0”を視認した。
点々とした赤いライトが光り輝き、青い空にとって異質感が否めない。
呆然として飛ぶ瞳に映る空に突如、青い一本線が引かれた。
それに自然と|合成音声《ボイス》が声から漏れた。
「…彗星……」
そう呟いた瞬間、空に更に彗星が降り注ぐ。
彗星は青い炎を纏い、よく見れば複雑なメカニズムの露出した金属の塊のように見える。
それを避けるように動こうとして、急に頭の中に警報が鳴った。
赤く点滅した瞳の中に『|Caution: Overhead Hazard, Object Approaching《注意:頭上の危険 物体が接近中》』とコールが出る。
それを確認しようとして、頭の中が激しく揺れた。
身体中のオイルが逆流するような気持ち悪さが襲い、身体中からドロドロとした青い液体が噴き出した。
ホバー装置が奇妙な音を立て始め、うまく飛べず巨体がゆっくりと下降していった。
その途中に再度、身体に何かがぶつかったと同時に痺れるような電撃の痛みが走る。
何かに貫かれたそれに視点がぐるりと一回転して、急激に地面が近くなる。
土が煙を立て、ズレたボディの機械のパーツに土がこびりついた。
しかし、それを青い液体が覆って綺麗にしていった。
何かが這うような感覚と不自然な眠気が襲う。
大勢の鳥が羽ばたく音とエラーを吐く身体、彗星の落ちる轟音の中で、暗闇に落ちるように意識を手放した。
鳥の囀りと、草木の間を風が抜ける音がする。
光った瞳の青色が暗闇の中でゆっくりと何かに侵食されている気がしている。
長い年月が経つような、そんな感覚が続いた。