世界が滅びて十万年後。
人は再びアンドロイドを作る。
感情がないアンドロイドと孤独な少年が心を探す旅。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
prologue
AIの反乱によって人類は滅びた。
人が消えた都市はAIによって蹂躙され、また、そのAIも壊れ、世界には静寂が訪れた。
数十万年の月日が流れた。
空はかつての青を忘れ、地にもたらされる紫色の光は、文明の崩壊を告げるには相応しかった。文明の残骸は巨大な根に飲まれ、人が作った地下道は動物の住処へと変わり果て、人類の生きた証は月日とともに木の葉と苔に埋もれていた。
---
地下の旧研究所で、レイは喜びと安堵の息を吐いた。
母が命を落とし、父が壊れたこの場所で、作られたアンドロイドに、レイは「ユイナ」と名付けた。
「ユイナ」
期待と祈りを込めて、レイは名前を呼ぶ。すると、ユイナの瞼がゆっくりと開き、静寂の世界で初めてレイを見た。誰一人いないこの世界で誰かに見られた事がレイは単純に嬉しかった。
「レイ」
名前を呼ばれて、レイは初めて白銀の髪の少女の重大な欠点に気づく。レイは首を傾げる。ユイナも真似して首を傾げる。おかしいレイの設計図は完璧なはずだった。
レイは気づいた。
心はプログラムできない。感情はアンドロイドには理解されない。
心は、人だけが持てるモノなのか?
レイは興味が湧いた。
その答えは、外にある。
レイはユイナを連れて、外へでる扉へ向かった。
外には未知の世界が広がっていた。レイはユイナの手をしっかりと掴む。
レイはユイナと旅にでる。
アンドロイドを人にするために。
どうでしたか?SF系、私スッゴい苦手何です!でも、頑張りました!次回も読んでくれると嬉しいです!
過去知る風が吹く丘
レイは人類生前にお気に入りだった「風見の丘」へとユイナを連れて行った。丘の上に立つと、風が吹いていた。紫がかった空の下の崩れた残骸を、風は静かに揺らす。風は語りかけるが、話してはくれない。ただ、虚しく流れていくだけ。
「どうかされましたか?レイ」
レイはぼんやりと都市の残骸を見たまま答える。
「……懐かしいんだ」
彼は乾いた笑顔を見せる。その顔は、もう戻らないと諦めているように見えた。
「母さんは、ここの風が好きだった。父さんは、アンドロイドだったから分からないけど」
ユイナは風を分析した。湿度、温度、風量、風速。ただの情報の塊でしかない。
「風が好き?好きとはなんですか?レイ」
ユイナは首を傾げる。しかし、その表情に疑問は感じられず、ただの模範だと知り、少しがっかりする。
「いつか分かるよ」
レイはユイナに優しく微笑む。ユイナは相変わらず無表情で、どこか欠けた目で、遠くを見つめていた。
「ここは、もういいかな。どこか行こうか」
「はい」
彼女は、感情を知りたいと願った。
このまま続ければ、きっと彼女は心を手に入れる。
レイは小さく笑った。その笑みは、諦めではなく希望の笑みだった。
記憶を食む花が咲く
その花は、ここ数十万年、誰にも名を呼ばれることがなかった。
忘れ去られた花は、咲くたび、誰かの記憶を食み、色を変える。人が消えた今、花は忘れ去られ、色褪せた存在となった。風見の丘から南へ歩いた先、崩れかけた温室の奥に、ひっそりと咲くそれは、誰かに見つけてほしくて、背を伸ばしていた。
レイは風見の丘をでて、南の温室へと向かった。温室の奥へ行き、足を止める。
「この花は、人の感情を吸って咲く花」
ユイナは花に近づき、乱暴に触る。
「花弁に微弱な脳波あり。この花の名前は記憶草です」
ユイナの無表情な説明に、レイは頷く。それから、ユイナを手招きする。
「匂い、嗅いでごらん」
ユイナは言われた通り、花の前へ行くと、無造作に花を掴み取り、その匂いを嗅ぐ。そして、暫くの間立ち尽くした。
「レイがたくさんいました」
「それは人間だよ」
レイはにっこりと微笑む。
「瞳から透明な液体を出していました」
レイはきょとんとなる。へんてこりんな説明に少し笑うと、ユイナの頭を優しく撫でた。
「それは涙。悲しい時にでる」
「悲しいって?」
「そのうち分かるよ」
レイとユイナは知らなかった。ユイナの近くで、小さな記憶草が花開いていたのを。知らないまま、新たな場所へと旅立った。