世界が滅びて十万年後。
人は再びアンドロイドを作る。
感情がないアンドロイドと孤独な少年が心を探す旅。
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目次
prologue
AIの反乱によって人類は滅びた。
人が消えた都市はAIによって蹂躙され、また、そのAIも壊れ、世界には静寂が訪れた。
数十万年の月日が流れた。
空はかつての青を忘れ、地にもたらされる紫色の光は、文明の崩壊を告げるには相応しかった。文明の残骸は巨大な根に飲まれ、人が作った地下道は動物の住処へと変わり果て、人類の生きた証は月日とともに木の葉と苔に埋もれていた。
---
地下の旧研究所で、レイは喜びと安堵の息を吐いた。
母が命を落とし、父が壊れたこの場所で、作られたアンドロイドに、レイは「ユイナ」と名付けた。
「ユイナ」
期待と祈りを込めて、レイは名前を呼ぶ。すると、ユイナの瞼がゆっくりと開き、静寂の世界で初めてレイを見た。誰一人いないこの世界で誰かに見られた事がレイは単純に嬉しかった。
「レイ」
名前を呼ばれて、レイは初めて白銀の髪の少女の重大な欠点に気づく。レイは首を傾げる。ユイナも真似して首を傾げる。おかしいレイの設計図は完璧なはずだった。
レイは気づいた。
心はプログラムできない。感情はアンドロイドには理解されない。
心は、人だけが持てるモノなのか?
レイは興味が湧いた。
その答えは、外にある。
レイはユイナを連れて、外へでる扉へ向かった。
外には未知の世界が広がっていた。レイはユイナの手をしっかりと掴む。
レイはユイナと旅にでる。
アンドロイドを人にするために。
どうでしたか?SF系、私スッゴい苦手何です!でも、頑張りました!次回も読んでくれると嬉しいです!
過去知る風が吹く丘
レイは人類生前にお気に入りだった「風見の丘」へとユイナを連れて行った。丘の上に立つと、風が吹いていた。紫がかった空の下の崩れた残骸を、風は静かに揺らす。風は語りかけるが、話してはくれない。ただ、虚しく流れていくだけ。
「どうかされましたか?レイ」
レイはぼんやりと都市の残骸を見たまま答える。
「……懐かしいんだ」
彼は乾いた笑顔を見せる。その顔は、もう戻らないと諦めているように見えた。
「母さんは、ここの風が好きだった。父さんは、アンドロイドだったから分からないけど」
ユイナは風を分析した。湿度、温度、風量、風速。ただの情報の塊でしかない。
「風が好き?好きとはなんですか?レイ」
ユイナは首を傾げる。しかし、その表情に疑問は感じられず、ただの模範だと知り、少しがっかりする。
「いつか分かるよ」
レイはユイナに優しく微笑む。ユイナは相変わらず無表情で、どこか欠けた目で、遠くを見つめていた。
「ここは、もういいかな。どこか行こうか」
「はい」
彼女は、感情を知りたいと願った。
このまま続ければ、きっと彼女は心を手に入れる。
レイは小さく笑った。その笑みは、諦めではなく希望の笑みだった。
記憶を食む花が咲く
その花は、ここ数十万年、誰にも名を呼ばれることがなかった。
忘れ去られた花は、咲くたび、誰かの記憶を食み、色を変える。人が消えた今、花は忘れ去られ、色褪せた存在となった。風見の丘から南へ歩いた先、崩れかけた温室の奥に、ひっそりと咲くそれは、誰かに見つけてほしくて、背を伸ばしていた。
レイは風見の丘をでて、南の温室へと向かった。温室の奥へ行き、足を止める。
「この花は、人の感情を吸って咲く花」
ユイナは花に近づき、乱暴に触る。
「花弁に微弱な脳波あり。この花の名前は記憶草です」
ユイナの無表情な説明に、レイは頷く。それから、ユイナを手招きする。
「匂い、嗅いでごらん」
ユイナは言われた通り、花の前へ行くと、無造作に花を掴み取り、その匂いを嗅ぐ。そして、暫くの間立ち尽くした。
「レイがたくさんいました」
「それは人間だよ」
レイはにっこりと微笑む。
「瞳から透明な液体を出していました」
レイはきょとんとなる。へんてこりんな説明に少し笑うと、ユイナの頭を優しく撫でた。
「それは涙。悲しい時にでる」
「悲しいって?」
「そのうち分かるよ」
レイとユイナは知らなかった。ユイナの近くで、小さな記憶草が花開いていたのを。知らないまま、新たな場所へと旅立った。
空っぽな祈りを捧げし者達
廃棄された都市の、壊れかかった協会の地下、アンドロイドたちが集まっていた。
彼らはほとんど壊れている身体を動かして、ただ静かに、腕を組み、上を眺めていた。
レイは温室から都市の協会の地下へとユイナを連れて行った。
「これが、アンドロイド。心を持たない者」
ユイナは虚無の目で、あたりを見渡す。
ただ、手を合わせて、天を見る。それをするだけのアンドロイドにユイナは疑問をいだいた。
「彼らはなにをしているのですか?」
「祈り。神に、祈ってるんだよ」
「神?彼らはなにを祈ってるのですか?」
レイはちょっと困った顔をする。ユイナは構わず、アンドロイドに聞く。
「それが私たちの役目だからです。祈りましょう。天の神に。皆のために」
「でも、ここには生体反応はありません。皆というのは誰ですか?」
ユイナは構わず質問を続ける。そんなユイナをレイは止める。
「彼らは協会用に作られたアンドロイド。それしか言えないんだ」
「それは、お前の父もだ。父には感情がない。ただの家庭用アンドロイドだ。お前も空っぽ。みんな空っぽ。なにかにすがる。だから祈る」
レイの表情が変わった。
悲しそうな顔で、ギュッと拳を握る。
「違う。父さんは……父さんには愛情があった!父さんは母さんを愛していた!だから、父さんは、父さんはお前とは違う!」
レイは声を荒げて、一気に言った。
そのまま、涙を乱暴に拭うと、地下から逃げるように走り去った。
「あの感情は、なんというの?」
「祈りましょう。空っぽな者の中身が埋まるよう」
そのアンドロイドには、自分の意志があるように見えた。
「貴方の名前は?」
「私?私は、ルシフェル・ルノウェーゼ」
ルシフェルは無表情のまま、感情のない瞳で告げる。
金色の髪が静かに揺れる。
「私には、意志はある」
「心は?」
「心?それはなに?」
「レイが探しているもの。知りたいなら、来ない?」
「貴方たちと?」
「うん」
ルシフェルの金色の瞳が僅かに揺れる。
ルシフェルは少し考えた後、コクリと静かに頷いた。
心を求める旅に、新たな仲間が加わった。
心無き者の涙の意味
夜の都市は、静かだった。
人間生前時の騒がしさは見る影も無く、無音の街には生きてるものの影もない。
そんな死の街で、ユイナは一人、崩れかけた塔を眺めていた。
レイは眠り、ルシフェルは隣で祈っていた。
心。
心とはなんだろう?
喜びも、悲しみも、怒りも分かる。でも、なんだ。
ふと、記憶草の花を思い出す。
涙。
あれを見たとき、自分の中でなにかが揺れた。
ユイナは静かに自分の胸に手を当てる。
鼓動もない。温かみもない。
感情も知らない。心も知らない。
一筋の水が、頬を伝って、無音な街を染め上げる。
それは、なにか感情があるものではなかった。
「これはなに?」
「それは、涙」
ルシフェルが答える。
なぜ流れるのか、分からない。
ただ、知ったとき、自分は、自分になれる。そんな気がした。
「アンドロイドには寝るって概念がないの」
唐突にルシフェルが教えてくれた。
ユイナはルシフェルを見る。相変わらず無表情。
「寝るってなに?」
「知らない」
これは、アンドロイドだけができる会話かもしれない。
ルシフェルはポツポツと語り始めた。
「私は、アンドロイドだから、誰かを幸せにはできない。心がないから、喜びも悲しみも、怒りも苦しみもない。だから、私から離れる」
彼女の切実な願いは、夜の闇に溶けて、消えていった。
「私は、涙の意味を知りたい」
ルシフェルは答えず、空を見上げる。ユイナも空を見上げる。
涙の意味を知らない。
けど、確かに私達は知っているはずだ。
知りたいと思ったそれが、心を持つ“始まり“であることに、ユイナは薄々気づいていた。
喜びを知りし時
朝の都市は、夜とはまた違った静けさだった。
また新しい一日が始まるのを、レイは喜んでいた。
もう、一人ではない。それがレイにとっては一番の幸福だった。
「ユイナ、ごめん。昨日は取り乱して」
「いえ、あれは、どういう感情なのですか?」
「あれは……怒りだよ」
「怒り」
ユイナは復唱する。無表情でなにを考えているかは分からない。レイは金目金髪のアンドロイドの少女に話しかけた。
「君は?」
「ルシフェル・ルノウェーゼと言います。旅に同行させていただきます」
「うん。じゃあ、君を歓迎して、料理を振る舞おうか」
レイは笑顔で言う。ユイナは首を傾げた。
「料理?」
「食べものだよ」
ユイナには分からないものだろう。無表情でその姿勢を崩そうとはしない。
「おいで。ルシフェル。ユイナ」
レイはにっこり笑うと、始まりの地、旧研究施設地下室へと向かった。
「これが、料理?」
レイが出したのはオムライスだった。始めて見る黄色い物体に、ユイナは興味津々で、観察している。
「解析が終わりました。これに使われているのは、鳥科の卵。野菜をすり潰した汁。麦科の植物。鳥科の肉。野菜です」
「あぁ、そうだよ。食べてごらん」
レイはお手本にスプーンで一口すくって食べてみせる。ユイナもそれを模範して、食べた。もぐもぐと静かに粗食する。それから、もう一口食べる。まるで、作業のように、ルシフェルも無言で食べる。アンドロイドには「食べる」という概念がないのだ。
「おいしい」
ふと、ユイナが言葉を口にした。レイはびっくりして、席を立つ。
「その言葉、どこで覚えた?」
「知りません。この料理はおいしいです」
無表情だったユイナが少しだけ頬を緩めた気がした。気のせいなのか、それとも「喜び」を覚えたのか。
「今、君が感じているのは喜びという感情だよ」
「喜び」
「今の感情を忘れないように」
「はい。レイ」
「じゃあ、食べちゃおうか」
ユイナはそれっきり言葉を口にすることはなかった。レイはオムライスを口に入れて、噛む。母と同じ味。
「僕も、おいしく作れるようになったなぁ……」
今は亡き、母を想像して、レイは一人微笑んだ。
その笑顔は、今までに皆に見せたどの笑顔よりも、嘘偽りのない笑みだった。
オムライスを食べ終えると、レイはメモ帳に書き足した。
学習感情:喜び
事実を告げる、過去知る人
ユイナが喜びを知ってから、レイにも喜びが戻ったように思えた。
また再び、旅に出たレイ達は"人間"に出会った。黒髪のその青年はレイ達を挑発するように眺める。
「おやおや、君達はアンドロイドじゃないか。懐かしいね」
君達という言葉にルシフェルは疑問を抱いた。ルシフェルはスッと手を挙げて、感情のない瞳で青年を見る。
「おかしいです。レイは人間でしょう?」
「いや、彼もアンドロイドだよ」
人ではないという事実。何年も何年も隠してきた事を言われて、レイは俯いて唇を噛む。
「ほらね。彼は珍しいアンドロイドだよ。連れて帰っても?」
「嫌だ!」
レイは走り出す。その行く手を青年は阻んだ。レイはサッと青ざめる。
「落ち着いて。解剖はしない。君が嫌がるなら、…………そうだ、君の旅に同行しても?」
レイは青ざめた顔で、青年を見上げる。穏やかな笑みの裏になにかを隠しているような気がした。
「いいですよ」
レイの代わりにユイナが返事をする。
「ありがとさん。俺はマフィラ。マフィラ・スゥーデン」
「スゥーデン?」
「遠い昔にあった国さ」
青年は目を細める。過去を見ているようだった。その寂しそうな顔に、ユイナは見覚えがあった。レイがよくする目だ。
「マフィラはいつからいるの?」
「ずっと昔から。俺は不老不死なのさ」
マフィラの顔を冷たい風が撫でる。紫色の光が、俯いたマフィラの顔に影を落とす。寂しそうな顔で苦笑したマフィラは再び前を向いた。
「ところで、お前さん達はなにをやっているのかね?」
「心を探す旅」
レイが答えると、マフィラは目を細めた。
「彼女、セイラも言ってたね。アンドロイドの心を探すって」
「母さんが!?」
レイはマフィラを見る。希望と期待の眼差しだ。
「あぁ、その成功作がお前さんだ」
マフィラはレイを指差す。レイとマフィラの間に風が吹く。まるで、アンドロイドと人間を分けるように。冷たい沈黙を遮ったのはマフィラだった。
「いい加減、自己紹介をしてくれないか?」
「僕は、レイ。レイ・サラフェス」
「私はユイナ」
「私は、ルシフェル・ルノウェーゼ」
「そうかい。いい名前だねぇ………」
過去を知るであろう青年は目を細める。それから、俯くと、ボソッと呟いた。
「永遠なんて、心なんて、くだらないね」
マフィラが言った真意を、レイ達はまだ知らない。
三機と一人の旅はまだ続く。
心を持つ者持たぬ者
森での夜は、都市とは違い、風が静かに、しかし冷たく吹き、空には満点の星が瞬く。
焚き火の前で座るユイナ。レイは眠っていた。森から戻ってきたマフィラがユイナに聞く。
「おや?ルシフェルは?」
「祈ってます」
「そうかい」
マフィラは少し考えた後、隣に座った。しばらく、黙る。
「君は、心は持つものだと思うかい?」
マフィラは怒っているような悲しんでるような声で、ユイナに聞いた。ユイナは瞬きを二回する。
「問いの意味が分かりません」
「聞き方を変えよう。君は、心は持った方がいいと思うかい?」
「分かりません」
ユイナは嘘偽りのない声音で喋る。
「いいな。君はなにも知らなくて」
「それは、"悲しい"のですか?」
「………そうかな………はは………聞いてもらおうか。俺は、人の死を見すぎた。不老不死なんてくだらないよ。自分はただの化け物だ。心が無かったら、ましだったのに……。人類が崩壊しても無様に生き続けて、セイラに恋して、セイラが死んでからは研究も放棄。だから、不老不死に心なんていらないんだ。分かったか」
「分かりません」
ユイナはさっきと同じように返す。ただ、さっきよりもはっきりと力強い言い方だった。
「私は、心を持った方がいいと思います」
「なぜ?」
「分かりません。分からないから、探すんです」
マフィラはユイナを見つめて、瞬き一つ。それから、フッと立ち上がった。
「君は、素晴らしいアンドロイドだね」
その言葉は、本心だった。マフィラは伸びをすると、夜明けの光に目を細める。
「探す……か。セイラ。俺は、もう一度探すよ。君と探した、心を」
嘘か本当か分からない言葉。嘘つき青年は、日の出を見ると、みんなの元へ帰って行った。
無心の墓場
マフィラに連れられて、レイ達は新たな場所へと向かっていた。
「以前、セイラと旅した際に、寄った、アンドロイドの集落があるんだ」
マフィラに言われて、レイは少しだけワクワクしていた。
「本当にここですか?」
ユイナが無表情で聞く。確かに、少し不安になってきた。マフィラの表情も曇る。
「確かここらへんなんだけどな……」
マフィラの表情が晴れたと思ったら、険しいものへと変わった。
「これは……」
レイが小さく悲鳴をあげる。風は虚しく吹いて、ソレを静かに揺らした。そこには、無残なアンドロイドの姿があった。頭がねじれてるアンドロイド、手足がないアンドロイド。
「どうしてこんなことに?」
ルシフェルが壊れたアンドロイドを見つめながら、聞く。マフィラは答えなかった。その目には、怯えが浮かんでおり、どこか違う場所を見ていた。ユイナは震えている。自分が震えていることに驚いているみたいだ。
「これは?」
「それは、たぶん、怖い、だよ」
そう言うレイも震えていた。母の死を思い出す。
「大丈夫ですか?レイ」
「あぁ……大丈夫。母を、思い出していたんだ」
レイは一瞬躊躇った後、再度口を開く。
「母は、殺されたんだ」
「誰に?」
「答えは、」
レイは後ろを振り向く。そして、目を見開いた。母と重なる。そこには、マフィラの死体があった。
※マフィラ死んでないので。不老不死なので。
※最近、病み発言多いけど、大丈夫なので。かまってほしいだけだと思われます。本当に病んでるかもだけど。軽度なので大丈夫です。ほっときましょう。
人間とは異なる者の長い長い悪夢
俺は、生まれた時から、孤独だった。親の顔も知らない。名前もない。不老不死なだけに、何十万年も生きた。やがて、人間が生まれ、文明が発達した。俺にも、友達ができた。初めて貰った名前。しかし、名前をくれた友人も、馬鹿げた戦争で皆、死んだ。戦争が終わり、人類は、再び歩き始める。人は幸福を求め、人間と類似するアンドロイドを造った。しかし、幸福を願うあまり、人類はアンドロイドに滅ぼされた。文明は壊され、アンドロイドもまた、消えた。自然だけが残り、再び俺は孤独になった。長い長い悪夢のような人生で、君と出会った。
---
「君、名前は?」
金色の髪を揺らし、煙草に火を付けた女性は、セイラ・サラフェス、と名乗った。アンドロイドを連れている。
「名前………。名前は、無い」
貰った名前も忘れてしまった。ここ数百年、自らの死を願って生きてきた。自分の存在を消したかった。
「じゃあ、今から君はマフィラだ。マフィラ・スゥーデン」
「スゥーデン?」
俺が聞くと、女性は笑って、目を細める。懐かしがるように。
「遠い昔にあった国さ」
女性、セイラはそう答えた。
「そうかい。君は、こんなところで何をしてるのかね?」
「旅をしてる。こいつに、心を持たせる」
セイラはアンドロイドを指差す。無表情で、光のない瞳。
「自己紹介をして」
「サイナ・サラフェス」
感情の無い、その声は、俺にそっくりだと思った。
「君は、マフィラは何を?」
「死にたい」
俺が言うと、セイラは豪快に笑った。なんとなく不愉快だ。俺が眉をひそめると、セイラは髪をかきあげた。寂しそうな表情。
「じゃあ、私と一緒に来てくれ」
「なぜだ?」
「……寂しいっと言ったらダメかい?」
その言葉に、マフィラは返事を返さなかった。
「よしっ!じゃあ、次はあそこ行こうぜ!」
「なにか計画が?」
「そんなもんねぇよ」
「そうかい」
セイラとの旅は、楽しかった。たくさん笑って、怒って、泣いて。だから、あんな恐ろしい事になるとは思わなかった。
---
突然、血飛沫が舞った。綺麗なその赤は、セイラの血だった。俺は、セイラを庇って、そこで一回死んだ。次に、目が覚めたら、セイラはいなかった。ただ、虚しい気持ちで、空っぽな心で、ひたすら歩いた。セイラは死んでしまった。その事実を、受け止めきれなかった。ただ、何年も何年も死んでは、生き返って、そして、セイラの事を思い出しては、悲しんで、馬鹿げた人生だ。自分の事を呪い、神を呪った。そんなことしても、セイラは戻らなかった。セイラを忘れても、忘れきれず、いつしか時間の感覚も忘れ、なぜ生きてるのかも忘れ、セイラも、忘れた。そんな、俺の前に、レイが現れた。セイラには似てない、のに、セイラと重なった。また、心を探そうと思った。そして、もう、あんな事にならないようにと思った。
入れ忘れ設定
※アンドロイドに弱肉強食の残酷な世界を見せると、本能が目覚め、人を殺すようになる。
本編どこで入れようか迷い、結局入れれなかった設定です。
失われた記録
「マフィ……ラ?」
目の前に倒れるマフィラを見て、青ざめるレイ。周りの音も、自分の心臓の音にかき消される。母と重なる。蘇る記憶。
---
「ごめんね……レイ……マフィ……ラ……に……よろ……し……く」
血の海に倒れる母。冷たくなる手を、握る母。なぜだろう。この時、なにも感じなかったのは。
---
「レイ」
感情のこもって無い声で呼ばれて、レイは顔を上げる。
「大丈夫」
「だって、マ、マフィラが……」
「死んでねぇよ」
後ろから声がし、振り返ると、首に手をあてて、ひねっているマフィラがいた。レイを見て、マフィラはニヤッと嫌らしく笑う。
「言ったろ?不老不死だって」
「僕は……貴方のこと、母さんに……」
「あぁ。俺もセイラのことで、思い出したことがある」
マフィラの表情で、レイは察する。マフィラとレイの間を冷たい風が吹き抜けた。
---
「………母さんは………」
「あぁ……助けられなかった」
マフィラは拳を握りしめ、俯く。レイは目を見開いたまま、呟く。
「サイナは……僕の育ての親だ……」
「は……?」
マフィラは顔を上げ、信じられないといった表情でレイを見る。レイも口を手で抑え、驚いている。
「でも……彼は、感情を持って………」
レイは目を閉じる。風の声に耳を澄まし、ゆっくりと思い出す。思い出すことのなかった、彼との10年間を。
入れ忘れ設定
※記憶じゃなくて記録なのは、レイがアンドロイドだから。
Q&Aコーナー
Qこれの終わらせ方は決めてますか?
A我にそんなものを求めた貴方が間違っています。
Q終わらせる気ありますか?
Aあると思いましたか……?
Q回想編多くないですか?
A気のせいです。
Q文字数少なくなってませんか?
A気のせいです。多分……(汗)
Q完結させる気ありますか?
Aあるけど、完結できるか分からないです。てか、二個目の質問と一緒やんか!
Q&Aコーナーは以上になります。
赤
それは、断片的な記録だった。なにも感じない。感情のない、記録の一部。彼との、10年。
---
「レイ!最近、南の温室の奥で、記憶草を見つけたんだ!」
嬉しそうに告げる彼。その後は……彼に連れ出されて……。あの、風が吹く丘に行ったんだ。
「ここは、俺が一番好きな場所なんだ」
目を細める彼。穏やかな風が、僕達を包み込む。やっぱりなにも感じなかった。
「ごらん。風の声が聞こえる」
彼は耳に手をあてて、風を感じる。僕は………なんて言ったんだっけ……。
「風に声はありません」
冷酷でも、あざ笑うわけでもない。ただ、無。彼は苦笑し、前を向く。その顔は、清々しいものだった。
「そうだな」
風が、僕達の髪を揺らした。
---
「俺は、昔、罪を犯したんだ」
唐突に、言われた言葉。彼の目は虚ろで、宙を見ていた。
「そして、大切なものを得た」
「よかったですね」
「………おまえも、望むか?」
彼はふわりと微笑んだ。その顔は、全てを終わりにする顔で、その後は、
`プツン`
---
彼は、どこに行ったのだろう?朧気な記録。温室で見たもの。全て、彼の記録……?思い出せない。分かるのは、`赤`
---
赤、止まれ、危険、血。彼は、どこへ行ったんだ。悲しいって、思ったのは、それからだっけ。俺は罪を、僕は罪を、どっちが犯した罪?俺が、僕が、どっちが好きだったもの?俺は、僕は、
誰?
始まりの地
※今回はマフィラ視点
レイが動かなくなってしまった。放心状態で、虚ろな目で、宙を見ている。
「俺は」
「俺……?」
おかしい。レイの一人称は僕なはずだ。これじゃ、まるで。
「サイナ……」
怒りと、憎しみをはらんだ声で、マフィラは静かに言った。そのとき、レイが痙攣したように震えだして、口を開いた。
「俺、ぼ、く、俺は、は、は、セイラのけ、ん究結果の、あ、あ、ありかが、そ、そ、それは、は、は、は、は始まりの地に、か、隠、され、てる」
レイの言葉に、マフィラは目を見開く。始まりの地……。セイラと、初めて会った。あそこは。
「レスピオール都市……」
レイが、サイナが頷いた気がする。風は穏やかに吹き、そこにはセイラがいるように思えた。俺に向かって、囁いている。
『マフィラ行け 計画?んなもん必要か? 行け』
にんまり笑ったセイラの幻は、最後にこう囁いていた。
『そこに、私のすべてがある』
幻は突如吹き荒れた風とともに、消えた。
「マフィラ。レスピオール都市に行くのですか?」
ルシフェルが聞いてきた。マフィラは頷く。
「あぁ」
マフィラの言葉を聞いた、レイははっきりとした口調で言った。
「そこに、すべてが、」
レイは、そこまで言うと、目を閉じて、倒れる。すんでのところで、俺はレイを支えた。
「今日は、休もう。明日、行く。行き先は、レスピオール都市だ」
俺とセイラの始まりの地。すべてが眠る、その地へ。
暗い夜の都市で、誰も知らない研究の成果が、静かに見つけられるのを待っていた。
………文字数が少ない!そんでもって次は多い!はず!
禁じられた研究
※一人称が「俺」の時はサイナ。一人称が「僕」の時はレイ。
※最初はマフィラ視点
俺がマフィラとして、生き始めた地。
セイラと出会った地。
そして、俺が初めて、恋をした日。
俺のすべての始まりはここから。
冷たく、穏やかな風が俺の背を押した。俺は一歩前にでた。苔と蔦で覆われたレスピオール都市は朝日に照らされ、紫色に光り輝いていた。
ここに、セイラのすべてが隠されている。
「待ってろ。セイラ」
マフィラは希望と期待を胸に、無意識にそう呟いた。
---
サイナ視点↓↓↓
---
あの男と初めて会った時、俺と一緒だと思った。感情の無い、操り人形。ただ、それは違った。彼は、しっかりと心を手に入れた。俺とは違う。罪のない方法で。俺が、最初に手に入れた感情は、
`嫉妬`
---
レイ(サイナ)視点↓↓↓
---
混ざって断片的な、ぐちゃぐちゃな記録。僕はサイナなのだろうか?それとも、別のなにか?
「レイ。あれが、レスピオール都市ですか?」
感情の無い言葉に、僕は顔を上げた。隣を見れば、ユイナがいた。
「レイ」
後ろを振り返ればルシフェルもいた。感情の無いその声だけが、僕を『レイ』として繋ぎ止めていた。僕は『レイ』。この名前はセイラに貰ったんだ。……違う。僕にとっては母だ。俺にとってはセイラだ。違う僕は、『レイ』だ。
「研究結果とやらを探そう」
マフィラに言われて、俺は顔を上げる。
「それなら、お前と最初に会った地点に」
僕の口が勝手に動く。僕の半分はサイナ。なんで、そうなったんだろう?答えは、
レイは無意識の内に、マフィラと同じ方向を見ていた。『オズドワルド協会』。彼と俺が初めて会った場所。そして、
「秘密が眠る場所……」
レイはそう呟くと、オズドワルド協会へと駆け出していた。母の研究を目にするために。
---
マフィラ視点↓↓↓
---
レイがオズドワルド協会へ駆け出した時は驚いた。きっと彼の中にサイナがいるのだと思った。俺も、必死に追いかける。レイの足は止まることなく、崩れかけた協会へと向かっていった。レイに追いついた頃には、レイの姿は跡形もなく消えていた。
「レイ!どこだ!」
「地下」
感情のない声。ユイナが代わりに答えてくれたのだと知る。
「先に行って」
「お前さんは?」
「ルシフェルと、祈ってる」
「………」
俺はちょっと迷った後にはユイナの手を掴んだ。
「祈ってもなんにもならない。行くぞ」
俺はユイナとルシフェルと一緒に、地下へ続く階段を下りた。階段を下りた先は、牢獄のような場所で、奥だけ僅かに光が射していた。ぼんやりと日光に照らされたそこは、椅子だった。正確には、椅子と机。俺は、机へと真っ直ぐに向かう。机には案の定、鍵付きの引き出しがあった。
「鍵がない」
レイは言う。俺はそれに答えなかった。鍵なら、俺が持っている。俺は、お腹をぐっと押す。そして、口から、小さな鍵を出した。
「不清潔です」
ユイナが真顔で文句を言う。
「文句を言うな」
俺はそんなユイナを窘めた。そして、鍵をゆっくりと開ける。そして、中に入っていた古いノートを取り出した。表紙には「実験日誌」と書いてある。マフィラはそれを、途中から見てみた。
---
■月■日
成功だ。いや、これは失敗でもある。人類は、この研究に手を出してはいけなかった。人類が滅びたのは、そのせいであると思われる。きっと私も殺される。この研究を後世に託さなければならない。私とは違う方法で、アンドロイドに心を持たせなければならない。後世のためにも、ここに記しておこう。とがめてもらって構わない。こんな研究をした、私が馬鹿だったと。アンドロイドが心を持つには、心を持った者を、殺さなければならない。
詳細は次のページへ
なぜ、我は暗い方へと持って行くのでしょうか??マフィラ視点が一番書きやすい。
欠片
私は、アンドロイドが心を持つ方法を知ってしまった。
これを知るのに、何人もの研究者を犠牲にしてきた。
私は、ただの大量殺人鬼。
だが、そんな事言っている場合ではない。
アンドロイドが心を持つには、心を持った者を、殺さなければならないと書いたが、もしかしたらそれは、■■を先に学習したらなのでは■いのだろうか?
もし、先に■■■■■■■■■したら、もしかすると、■■■■■■■■■■■■■■■■■かもしれない。
真実は自分で知れ
次のページは、シミだらけで見えなかった。だが、俺には分かった。
「そうか、じゃあ、俺も、そろそろ」
俺は最後ににっこり笑うと、この世を去った。頑張れよ。レイ。マフィラ。
---
「レイ………?」
マフィラは虚ろな瞳のレイに声をかける。声をかけたレイの目に光が射す。
「サイナが、消えた……」
レイはボソッと呟いた。マフィラは目を見開いたまま動かない。
「どうして?」
聞いたのはルシフェルだった。レイは首を横に振る。
「分からない。けど、これを見て、満足してた」
レイは研究結果の書かれた日誌を指差す。マフィラは、ギクシャクとした動きで、見た。そして、提案してきた。その提案に、レイは大きく目を見開く。
「え?」
「だからさ、俺達、別れないか?」
マフィラはもう一度言った。
「な、なに言ってるんだマフィラ」
レイは動揺する。同時にもしかして、マフィラは研究結果の日誌の内容となにか関係があるのかと疑い、日誌を見る。日誌はシミだらけで、重要な部分が分からない。
「これに、なにが書いてあるんだ?」
マフィラは少し考える。
__「……セイラならこう言うかな……」__
その小さな小さな呟きは、レイの耳には届かなかった。マフィラは口角をあげ、ニヤリと笑う。
「真実は、自分で知るもんだ」
「そうかよ……」
レイはぶっきらぼうに言う。マフィラはそんなレイの頭を撫でる。
「またな。ルシフェル、行こう」
「あっ、マフィラ!」
レイが気づいたときには、マフィラとルシフェルはいなくなっていた。レイは無意識に研究結果の書かれた日誌を見る。ここに、なにが書いてあるのか、レイはまだ分からない。
「………ユイナ行こう」
「また、二人になりました」
分かりきった事を言うユイナに、レイは微笑む。レイは紫色の光に導かれ、新たな二人だけの旅へとでる。また会う日まで。
Q&Aコーナー!
・シリーズ作り過ぎじゃないですか?
……ごもっともです……だって楽しいんだもーん!
・無心の旅路いつまでダラダラ続ける気ですか?
言い方ひどくない?まぁ、我が納得するまで!バッドエンドがいいかなぁ~?ハッピーエンドがいいかなぁ~?
以上です。ここまで見ていただき、ありがとう御座いました。
理解不能
初ユイナ視点
感情ってなんだろう?私はずっと考えていた。考えるってなんだろう?分からないのが怖い。怖いってなんだろう?自分は何者にもなれない。自分ってなんだろう?なんで生きてるのかな。生きるってなんだろう?毎回毎回、ずっと思う。思うってなんだろう?心ってなに?分かんない。理解不能理解不能理解不能理解不能。
「ユイナ」
呼ばれてる。優しい声で。優しいってなんだろう?温度の少し高い風が吹く。レイはユイナの手を掴む。なぜか、その手を振り払ってしまった。レイは驚く。あれ?なんで振り払ったんだろう?全てが分からなかった。でも、理解不能って文字で片づけてしまってはダメな気がした。分からないと、いけないような…………。ねぇ、私って、なに?水が、自分の頬を伝って、地面に落ちた。私はそっと、自分の頬を触ろうとするが、レイが手を伸ばしたのが先だった。レイは私の目元の水をそっと拭う。
「大丈夫?」
大丈夫とは、心配されてる。心配とは、気を使うこと。気とは……違う。もっと温かいもの。温かいって、なにが?分からない。知らない。知らない、怖い……怖い……怖い……。
「怖い………。」
唇を噛む。何で、噛んだの?怖いって?なんなの?胸の中が空っぽで、胸の中が空っぽ?さっきからなんなの?ずっと考えてた。自分が|造られた《生まれた》日から。ねぇ、空っぽだよ。虚しいよ。虚しいってなに?分かってるつもりだった。なんも分かってないのに。
「ねぇ、ユイナ」
私は真っ直ぐにレイの方を見る。レイは微笑む。
「大丈夫」
さっきとはいえ違って、力強いものだった。分かる。
「私は……私は……誰……?」
途切れ途切れのかすれた声で精一杯聞く。
「君は、君。君は、ユイナ」
「なんのために、|造られた《生まれてきた》の……?」
「それはさ、幸せに、なるためだよ」
その言葉を聞いた途端に、私の胸の欠けたピースが一つ、はまった気がした。
「私は、幸せに、なるために?」
「そう」
幸せって、なに?と聞こうとした。でも、聞かなかった。それは、自分で見つけなければならないと思ったからだ。幸せ。私の幸せってなんだろう?疑問の一つ一つでさえ、今は私の心の隙間を埋めている気がした。
「行こう」
次の町は____
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学習感情:怖い
亡霊
やったぁー!マフィラ視点だぜっ!書きやすい!
レイ達と別れた俺達は、人類生前後の記憶を思い出し、「ノクタール都市」へと向かっていた。特になにかあるわけでもない気楽な旅だ。
「なぁ、そろそろノクタール都市か?」
ルシフェルに聞く。ルシフェルは頷く。金髪の長い髪に隠れ、表情は見えないが、恐らく無表情だ。ユイナよりもルシフェルは高度な知能を持っているはずなのに、ユイナよりも感情の学習が遅い。もしかして、なにかもっと違う………。
「祈り」
ルシフェルがぽつりと呟いた。祈り?聞こうとしたが、ノクタール都市に着いたので、追求はやめた。生い茂った草木、建物を覆う蔓。そして、中央にある、大きな大きな楠木。かつて人類の都市と呼ばれた場所だったものがそこにはあった。
「随分と変わったなぁ………」
俺は懐かしさに目を細めた。変わり果てた姿を、昔の面影と重ねる。その面影の中にはセイラの姿もあった。セイラ………?おかしい。セイラとはここには来ていない。じゃあ、あれは……?
「あら。こんにちは」
セイラと瓜二つの女性がこちらに近づいて来る。俺は身構える。ソイツはにこやかな笑みを浮かべる。
「そんなに、警戒しなくてもいいじゃない」
ソイツの笑みも声もセイラと瓜二つだった。
「お前………誰だ?」
「私?私は、セイラの未練。いわゆる亡霊、さ」
「亡霊………?」
人類生存時にも聞いたことがない言葉に俺は戸惑った。
「うーん………幽霊っていった方が分かりやすいかな」
「………どっちでもいい。で、何の用だ?」
「あんたに用がある訳じゃないの。そこのお嬢ちゃんに用があるんだ」
「ルシフェルに?」
俺は後ろを振り返り、ルシフェルを見る。その時には、もうルシフェルはいなかった。
「貴方の連れ、少し借りるわよ」
どこからか吹いた風に運ばれ、亡霊の声が聞こえた。その場に一人取り残されたマフィラはため息をついて、頭をかいた。
「しゃあないか」
マフィラは苦笑いを浮かべた。
歯切れ悪いですね。はい。
Q,ねぇ、いつ終わるの?
A,知らない(泣)