金色の大地に眠る鉄の墓標は、若き騎士達の誇り高き棺なのだろうか。今も増える鉄の墓標を故郷を守るために散った戦士達はいかに見るのだろか。これは、西部戦線からアフリカ戦線、東部戦線、終焉のベルリンまでを駆け抜けた者が見た騎士達の物語。
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鋼鉄の騎士(第一話 鋼鉄の騎士、始動)
実際にあった事件、歴史を参考にしていますが、伝記の類のものではございません。原作はアスミック社様のシュミレーションゲーム「鋼鉄の騎士」です。ご了承ください。
また、ナチスドイツの行なった行為は到底許せない行為であり、擁護するものではございません。
ここは、一九三九年の在ドイツ日本大使館。只今深夜であり、カーテンを閉めて洋風な書斎で書類に目を通していた。
『Heil Hitler!!!!(ヒトラー閣下万歳)』
窓を閉めているためやや籠って聞えるが、それでも大声が真夜中のベルリンに響いているのが分かった。そいつらの持つ松明が眩しい程焚きついている。
「また親衛隊と突撃隊が騒いでいやがるぜ。」
書類を机に積み替えながらサインしているのだが、あの大声の中ではさすがに気が散ってしまう。右に持っていた万年筆を強く握ってしまい、折れる音と共にインクが漏れて書類に落ちていった。
「あ・・・・・・・・。」
ベルリンの煌びやかな洋風の街並みの街頭には一面に鍵十字の旗がつるされている。ここはナチス政権下のドイツだ。アーリア人の優位を掲げ、不況と第一次世界大戦の敗北による劣等感、余りにもおかしい賠償金を課されたドイツ帝国の復権を望む国民の心を掴んで一党独裁体制を敷いている。世界が不況にあえぐ中で、軍事産業と国家事業による労働者救済措置によって一早く回復したドイツはAnschluß(アンシュルス。ドイツがオーストリアを併合した出来事。)を行い、領土的野心を増大させた。第一次世界大戦後のため戦争を忌諱するフランス、イギリスは傍観するも、領土的野心がここで止まるはずもなく国際緊張は日に日に高まるばかりであった。その様なドイツは国際的に孤立し、英米による対日包囲網の形成によりそれなりに追い込まれた大日本帝国は中国大陸での軍事行動を開始。ドイツと共に国際的に孤立し、孤立した者同士で関係を深めている。
そのような中で、日独友好の為に送られたのが私達軍人で構成された視察団であった。直ぐに帰る予定であったが、戦争が近い事を察した日本政府が私たちの乗る船が洋上拿捕を受ける事を恐れて現地待機、軍人は何故か国防軍編入となったのであった。
私の名前は田須岬である。「岬」と言う名前であるが、帝国陸軍所属で中国戦線で戦車中隊を率いていた少佐であり、ドイツ国防軍でもその地位は引き継がれている。今日からドイツ国防軍に編入の為、やや黒い厳つい制服に身を包んで気を新たにした。少し制服が大きいが誰も気にしないだろう。鏡の前で軽く調節して在ドイツ日本大使館の宿舎を後にした。私は今日からドイツ国防軍の第二装甲師団の第二戦車旅団第二中隊長を務めることとなった。視察した時、ドイツの戦車はそれなりに発達しており日本陸軍にまじまじと見せつけたい物だが、まさか自分が乗るとは思わなかったな。
という訳で第二装甲師団本拠地まで電車で向かい、新隊長としてあいさつ回りに向かう。ベルリン駅は通勤ラッシュにより混んでいたが、指定席を取っていたおかげで何とか席は死守できた。
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向かう事一時間半。小さな駅から降り、徒歩で向かっているとドイツ国防軍兵が何人かいた。それは勇ましいというより少年のような感じである。きっとまだ若いのだろう。戦場を知らぬ者の顔。何と清々しいのか。そう思いながら練兵場へ向かった。
第二旅団の兵士たちが砂地に並べられた戦車を整備しながら何か話している。聞き耳を後ろで立てておこう。
「・・・・・・何か、新中隊長が来るらしいぞ。」
「しかも歴戦の猛者だとか。」
「そして外人らしい。」
「へぇ・・・・・。しかし、総統閣下もよくお許しになったもんだ。外国人嫌いなのに。」
「それをねじ伏せるぐらいの実力持ちなのだろう?」
軽い足音を鳴らして私は彼らに近づく。
「誰ですか?!」
全員がこっちを向いた。
「その中隊長とは私の事だよ。田須岬少佐だ。鉄の掟を守り、戦車で戦場を駆け抜ける者だ。よろしく。」
『アジア人?!』
全員がその反応。そして、顔が驚きの顔から緩むと冷たい目線をこっちに向けてきた。まぁ、想像していたが。
「一応、中国戦線で戦車に乗って戦ったことがあるが。ノモンハンでソ連戦車と闘ったこともあるぞ。」
「実戦経験者か・・・・。敵を殺したことはあるのでしょうか?」
面白い質問が中央のややごつい見た目のから飛んできた。舐められないためにも本当の事を言っておこう。
「ある。何人も。軽戦車で敵の戦車をノモンハンの時には三両ほどやった。撃つときは最初は迷うもんだが、『撃つぞ』と思わなくてはやられる世界だ。『やられる前にやる』これが私が戦場にいた時の教訓だ。」
沈黙の空間が広がる。ところで・・・・・
「第二中隊は何処かね。」
「ここです。」
皆、すぐさま整列し敬礼した。あ。ここかぁ。
「先ほどは失礼しました。第二中隊長車砲手、アルバート・メルツ伍長です!!」
さっきの中央の見た目がごついやつ。砲手か・・・・。
「中隊長車運転手、アルノルト・ハウザー上級上等兵です!!」
若めの元気なのね・・・・・。
「装填手のディートリヒ・エルトマン上級上等兵です!!」
私の噂をしてた、この中では背の低い、見た目が子供みたいだな。
「無線手、ヒューゴ・ゼ―リング軍曹です!!」
こっちもごつい見た目だ。
「よし、よろしくな。」
私は一人一人、顔を見て力強く握手をし合いった。
「ところで、中隊長車は・・・・・。」
「あ、これです。」
アルノルトが指をさしたその方向にあったのは・・・・・。
--- Ⅲ号戦車D型 ---
データ
全長:6.41 m
重量:22.7 t
速度:整地(40キロ)不整地(19キロ)
火砲:Pak37ミリ砲を改造して搭載した46.5口径3.7 cm KwK 36(120発)
7.92mm機関銃MG34 ×2
無骨な見た目によって、力強く見える。やはりドイツ戦車は進んでいるのだ。日本軍もここまで進んでいればよいのだが。無理だろうな。日本製エンジンが非力すぎるのだ。戦車の心臓が弱かったら何の意味も無いのだ。いくら良い発想が生まれようとも。そんな杞憂を抱きながらドイツ戦車中隊に身を投げる私であった。この時知らなかった。ヨーロッパを焼く業火に身を投じることにもなろうことを。
鋼鉄の騎士始動!!運命が尽きるとき、彼らの戦車は誇り高き墓標となる!!
鋼鉄の騎士(二話 草鞋を踏みつけて。)
実際にあった事件、歴史を参考にしていますが、伝記の類のものではございません。原作はアスミック社様のシュミレーションゲーム「鋼鉄の騎士」です。ご了承ください。
また、ナチスドイツの行なった行為は到底許せない行為であり、擁護するものではございません。
七月十二日。私はドイツ国防軍第二装甲師団第二戦車旅団第二中隊中隊長の肩書の下、防衛側歩兵中隊対攻撃側戦車中隊に分かれて私の実力試し兼模擬戦を行っていた。私は掩体に隠した戦車の車体上面のキューポラを開けてから上半身を出して双眼鏡を覗くと、そこには砂塵を巻き上げて突っ込む我が部隊の戦車。今回の模擬戦の目標は陣地の奪取だ。
『第二小隊、ハイムマン隊は東の人工林の方向に潜伏!!すでに敵がいる場合は榴弾で掃討しろ。第三小隊は第二小隊の後続として火力支援を行え。』
私の次々と送る指示に小隊長達は困惑したような空気が無線から伝わった。因みにドイツ戦車には殆ど良質な無線機が装備されており、これのおかげで車両同士の連携が可能になっている。これがドイツ戦車の強さの源泉だろう。
「俺達直属第一小隊はどうします?!」
下にいる砲手のアルバートが今にもという顔で言ってきた。
「もう少し待て。」
俺は双眼鏡を人工林に向ける。東の森は、陣地に突撃する戦車の側面をとれる位置になっている。だからまずあそこを潰してやる。そして、双眼鏡から見えたのは突っ込む第二小隊のⅢ号戦車五両、ハイムマン小隊だ。
「あそこに敵役の部隊が潜伏してんだろうな・・・・。」
木々を倒して森に侵入した。こっちからもその音が地鳴らしとなって体に響く。
「おい、歩兵部隊が逃げてくぜ!!」
操縦手のアルノルドが興奮気味に喋った。
「ふぅん・・・・。」
武器を置いて陣地に逃げ帰る歩兵。その側面をつくように私達は前進を開始した。私はマイクをオンにすると、
『第一小隊、Panzer voraus(パンツァーフォー)戦車前進!!第二、第三小隊も突っ込め!!』
掩体から全車から飛び出した。埃が立って車外に顔を出していた私は少し咽たが我が隊の前進は止まらない。
「あ。」
陣地から白旗が上がった。
「ミスター田須!!演習終了です!!」
ヒューゴが嬉しそうに報告してくる。こっちの勝利だ。
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「いやぁ、やられたなぁ・・・・。」
相手となった歩兵中隊指揮官のゲルト・バスティアン中佐は隊舎の酒保で買ったビールを片手に頭を抱えていた。どうやら、あの後どうすれば勝てたか考えているらしい。聞いた話によると、彼は東の森、本丸の陣地に対戦車砲を隠蔽していたらしい。そして十字砲火で突っ込んでくる戦車に対して撃破判定を与えようとしたとのこと。確かに待ち伏せは良い策だと思うが・・・・。私は彼に盃に注いでもらって飲みながら語った。
「待ち伏せねぇ・・・・。確かに待ち伏せは良い方法だが、それは『警戒せず突っ込んでくる戦車に対して』だ。大体、歩兵だけで戦車と闘わせる方に無理があるぞ。こっちに戦車がある時点で勝ちは確定だったんだ。」
「ははは、実戦経験者の言うことは違うね。」
「そうかね・・・・・・。お褒めに預かるよ。ハハハ。」
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時は流れ、八月下旬。新聞はある事を連日一面で報じていた。
「ポーランド領内のドイツ人が迫害されたいる・・・・・。か。」
私は洋風(本場だが。)のモーニングを紳士の様に楽しみながら新聞を読んでいる。紙面の写真には泣きじゃくる女性が載っていた。急にこんな記事を各社一斉に出していたので、絶対怪しい。
「本当だったらひどいですね・・・・。」
モーニングの話し相手としておごると言って無理やり連れてきた装填手のエルトマンが突っ込んできた。顔が既に切れ気味だ。
「なぁ、新聞が書いている事が全て本当とは思わん方が良いぞ。」
「へ?!」
「新聞は部数を稼ぐことが目的だ。よって印象に残る記事を出す必要がある。・・・捏造してでもな。これに国家が関わっていたらもっと面倒なことになるぞ。」
「そうですか・・・・・。」
強く扉を開ける音が後ろからした。反射的に後ろを向くと、そこにいたのは急いで来たらしいアルノルトが立っている。何だ?
「何のんきにしているんですか!!ミスター田須!!緊急徴集です!!緊急徴集!!」
「へ?!」
新聞紙を置き、清算だけ行おうと急いで荷物をまとめて財布をポケットから出した。あわただしく動く私達をあたふたしてみていた店番の姉ちゃんに金を渡す。
「おつりは・・・・」
「おつりは無しで!!じゃぁ!!」
何が起きるのだろうか。そんな恐怖が腹の底に起きたが、隊舎へ突っ走る私であった。
近頃も国際緊張が高まっていますね。戦争がせめてこれ以上発生しないことを祈るのみです。