妖怪の住む山に迷い込み、仲良く暮らしていた沙雪一同。
しかしある日、酒呑童子である灯和が「胸騒ぎがする」と不安気につぶやいた。
その瞬間、轟音と共に地面が割れ、邪悪な笑い声が山を包み込む!!
あまりに突然の出来事に彼らは混乱に陥って…!?
平和だったいつもの日々は、突如中断されてしまった!!!
個性豊かな6人による、大切なものを賭けた闘いが、今、始まる。
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目次
【第壱話】平穏に忍び寄る晦冥
〜沙雪 side〜
こんにちは。私は神月沙雪です。
私は事情があって村から追放され、とある人たちに助けられました。
そして今は、この山奥の屋敷に住んでいます。
この山は自然が豊かで、動物たちものびのびと暮らしています。
…ただ、一つだけ『普通』とは呼べないことがあり、それが…
__ダダダダダダ……__
|沙雪《さゆき》「………!?」
??「__………んにゃあ__あああ**ああ!!!!**」
**ズザーー!!!**
沙雪「わあぁ!?ど、どうしたの猫葉ちゃん!?」
|猫葉《ねこは》「んにゃ!?なんじゃ沙雪か!ワシはただ走っておっただけじゃ!!」
__たったったっ……__
|灯和《ひなぎ》「待ってよ猫葉ー!って沙雪ちゃん!こんなところにいたんだ!」
猫葉「む!お主が遅いのがいけないんじゃっ!!」
沙雪「まぁまぁ猫葉ちゃん…」
__*バサッバサッ……*__
|天舞《てんま》「…ったく、お前走んの速すぎんだよ!」
猫葉「ワシが一番じゃあ〜♪」
__てくてくてく……__
|竜翔《りゅうと》「おーい!今日はたくさん山菜取れたよー!」
沙雪「……あ!竜翔くん!火影さん!」
|火影《ほかげ》「これだけあれば、炊き込みご飯と天ぷらくらいはできるだろうな。」
**猫葉「天ぷらっ!!?」**
**天舞「天ぷらっ!!?」**
火影「声がでかい。」
竜翔「今から用意するから待っててね〜!」
沙雪「あ、私も手伝う!」
灯和「じゃあ僕は薪でも取ってこようかな〜。」
天舞「お、なら俺も行くわ。猫葉もくるか?」
猫葉「ふふん、手伝ってやらんこともないぞっ!」
私は屋敷の家族たちと、いつもこうして仲良く暮らしています。
ここまでの会話なら、ただの家族の会話に見えるでしょう。
………しかし、私以外の彼らは人間ではないのです。
え?どういうことかって?
実は彼らは、日本では有名な**妖怪**なのです。
怖がりで人見知りだけどとても優しい『`酒呑童子`』の灯和。
天真爛漫なムードメーカーの『`大天狗`』の天舞。
世話焼きでちょっと苦労人な『`緑龍`』の竜翔。
冷静沈黙で少し毒舌だけど家族想いな『`天狐`』の火影さん。
元気溌剌で超ポジティブな『`猫又`』の猫葉。
私はこの5人と一緒に暮らしています。
確かに周りから見れば『普通』ではないかもしれません。
でも私にとっては、唯一無二の家族なのです。
私はこの屋敷で、平和で幸せな毎日を過ごしています。
*__ゴロゴロ……__*
灯和「………?」
天舞「ん?どうかしたか」
灯和「あっ、ううん!なんでもないよ!早く行こう!」
(……………なんだろう………)
---
〜?? side〜
*ゴロゴロ…*
*ザーーー……*
雨が止むことなく降り続けている。
無機質な廊下に私の足音が冷たく響く。
__コツ…コツ…コツ……__
やがて、目的の場に着く。
目の前には、水面のように揺らぐ鏡があった。
??「………『|樹霊山《こたまさん》』を映し出せ。」
その瞬間、鏡面が激しく歪む。
その様子はまるで、すべての生き物を飲み込んでいるかのようだった。
暫くすると、鏡には青々とした山が映し出される。
木々が育ち、動物がくつろいでいる。
??「…………こんなところにいたのか。」
そして、私が探していた人物がそこには映し出されていた。
白髪、瑠璃色の着物、黒い羽織、鈍く光る2本のツノ。
そして、耳に光る金のタッセルイヤリング。
??「お前は何百年も私から逃げていたが、遂にそれも終わりのようだぞ?」
その周りには、他の妖怪が数人うろうろしている。
あいつは同類を集めて何がしたいのだろうか。
私にはあいつらの行動の意味がさっぱりわからない。
わからなくていい。どうせつまらぬ理由だ。人間とはそういう生き物だ。
私は私のするべきことを執行するのみ。
??「……人間界に堕ちた、醜く哀れな妖怪たちよ…」
「…今宵、お前たちを地獄に叩き落としてやる。」
*ゴロゴロゴロッ…*
***ピシャーーン!!!***
??「………そこでずっと怯えていろ。灯和。」
---
第壱話 〜完〜
【第弍話】襲撃
【前回のあらすじ】
いつも通り、灯和たちと幸せな日々を送る沙雪。
その日も、なんの変哲もない一日を送っていた。
その一方、影では謎の人物が灯和たちの命を狙っているようで…!?
〜沙雪 side〜
今日の天気はどこか変に思えた。
昼過ぎまでは晴天だったのに、夜になった途端急に雲が出てきた。
雨が降り出しそうなほどの厚くて黒い雲が空を覆っている。
あんなにゆったりしていた動物たちも、どこかへ隠れてしまっている。
……そして、その現象は動物たちにだけ起こっているわけではなかった。
灯和「……………(ソワソワ)」
沙雪「……?」
先ほどから、灯和の様子がずっとおかしい。
ボーッとしてたり落ち着きがなかったり……
何かを隠してるのは一目瞭然だった。
沙雪「…灯和、どうかした?」
灯和「あっえっ、いっいや?なななんでもないよ!?」
沙雪「……動揺しすぎでしょ…本当に?」
灯和「う、うんっ!!(汗)」
そんなわかりやすい嘘に、私は顔をしかめる。
どうやら私以外も、それに気づいているようだった。
天舞「なーお前さっきからなんか変だぞ?」
猫葉「そーじゃそーじゃ!」
竜翔「灯和って隠し事するの下手だよねー…どうしたの?」
火影「何かあったのなら言ってみろ。」
灯和「えぇ…!?なんでそんなに気になるのさ……?」
火影「灯和があれだけ動揺すれば気にもなるだろ。」
天舞「そうだぞー。大人しく言えよ。」
みんなに詰められて、灯和は体を縮める。
暫くの沈黙の後、灯和は小さなため息をついた。
__灯和「………わかったよ……」__
竜翔「で、何のせいでそんなに落ち着かなかったの?」
灯和「…………ずっと…胸騒ぎがするんだ……」
沙雪「?胸騒ぎ…?」
みんなが首を傾げる中、灯和が怯えたように俯く。
火影「理由はわかるのか?」
灯和「ううん、それがわからないんだ……でもずっと悪寒がするんだ……」
天舞「どんな感じなんだー?」
灯和「こう…後ろから睨まれてるような……狙われてるような感じがして………」
__「………すごく…怖い……」__
そう小さくいうと、灯和は自分の肩をさすった。
よく見ると、少し涙目になっている。
……よほど長い時間、一人で怯えていたのだろう。
それに気づいたのか、火影さんと竜翔が軽く灯和に寄る。
竜翔「………うーん……なんでだろう…」
猫葉「…変じゃのぉ〜。それだとまるで
***ゾワッ***
**猫葉「!!ジャーーー!!!!」**
**火影「っっっ!!!!」**
灯和「ひっ!?」
竜翔「うわぁ!?何何!!?」
突然の大声に私たちは飛び上がった。
横では、火影さんと猫葉が同じ方向を見つめている。
*猫葉「ヴーーーー………」*
沙雪「え!?どっ、どうしたの!!?」
__火影「………殺気だ……」__
火影さんがポツリと呟いた言葉に、みんなが凍りつく。
猫葉は毛を逆立てて、どこかに向かって唸り続けている。
竜翔「え……?さ、殺気って…?」
火影「……これは恐らく動物の本能的な勘だが…強い恨みと殺意を感じた…」
「………灯和と猫葉が感じたのも…私と同じものだろう……」
天舞「はぁ!?じゃあそれは誰が向けてきてんだよ!!?」
火影「……わからん。ただ…とんでもなく強い殺気だ。」
猫葉「………!おい、どうしたんじゃ灯和?」
その言葉に、私はハッと灯和の方に向き直す。
灯和は、外を見つめた状態で固まっていた。
天舞「どうしたんだ?」
灯和「………ねぇ、今揺れなかった…?」
竜翔「……揺れたね。小さいけど地響きしてた。」
沙雪「う、うそ…全然わから
__ズウゥゥゥゥン………__
沙雪「………っ!!」
天舞「……確かに揺れたな。」
火影「ああ。」
竜翔「…なんなの……!?」
猫葉「…………」
灯和「……………」
息が詰まるような沈黙が私たちを包み込んだ。
そこには、ただ風が吹く音が響いていた。
__ヒューー……__
__ヒューーーー…………__
バキッッ
***ドゴオォォォォォン!!!!!***
沙雪「っっ!!!??」
爆音と共に足場がなくなる。
下を見ると、地面が大きく割れていた。
そしてその隙間から、黒い触手のようなものが無数に伸びてくる。
*シュルルルルッッ!!!*
その触手は私たちに向かって素早く伸びてきた。
沙雪「……っ!!?」
**灯和「!!沙雪ちゃん、竜翔、掴んでっ!!!」**
沙雪「!?はっはいっ!!」
私は咄嗟に灯和の手を掴む。
その瞬間、私と灯和と竜翔が触手に掴まれる。
***ギュウウウ!!!***
灯和「っ!!」
沙雪「ひっ…!!」
竜翔「!!火影!天舞!猫葉!!」
竜翔の声に私は後ろを振り向く。
それとほぼ同時に、私の横から触手が素早く伸びる。
そしてそれぞれが触手に掴まれていた。
天舞「あぁ!?なんじゃこりゃ!!?」
猫葉「ニャー!!?なんなんじゃあ!!?」
火影「………っ!!」
沙雪(何が起こってるの…!!?)
***ズズズズ……***
触手は少しずつ地面の割れ目へ吸い込まれていく。
自分たちの周りがだんだんと闇で覆われていく。
私はパニックで話すことすら忘れる。
灯和「………沙雪ちゃん……」
沙雪「!」
その優しい声で私たちは横を向く。
そこでは、灯和がこちらを横目で見ていた。
灯和「……絶対に離れないでね……何があっても僕が守るから。」
その声は、恐怖からか震えていた。
しかし、目には覚悟が強く浮き出ていた。
私はその目を見て、どこか安心する。
沙雪「……わかった…!」
私たちは顔を見合わせ、頷く。
そして、そのまま闇の中へと引き摺り込まれていった。
---
第弍話 〜完〜
【第参話】ようこそ妖冥界へ。
【前回のあらすじ】
面倒くなっちゃった☆(は?)
いやね?本編書く前に気力がここで削がれるもんで……
ということでこれからは前回を閲覧ください。
〜沙雪 side〜
*ビュウゥゥゥ…!!*
**沙雪「きゃああぁぁぁ!!?」**
**竜翔「わあぁぁぁ!!!」**
触手は空中に私たちを投げ出して、そのまま地面へ消えていった。
私は空気圧で動けず、灯和に抱かれたまま落ちてゆく。
目線を動かすと、鬱蒼とした森が目の前まで迫っていた。
灯和「…っっ!!!」
ガシッ!
***ぐるんっ!***
竜翔「わぁ!?」
沙雪「きゃっ!」
突然体が一回転し、私と竜翔は小さく悲鳴を上げる。
それから間も無く、体に大きな衝撃が伝わる。
**どすんっ!**
その瞬間、顔にうけていた風が突然に止む。
私は警戒しつつもゆっくりと体を持ち上げる。
竜翔「いてて……あ!沙雪ちゃん!大丈夫!?」
沙雪「あ、うん!竜翔くんは?」
竜翔「ボクも平気!」
__灯和「…………………重い…………」__
沙雪「え!!?」
咄嗟に下を見ると、私たちの下敷きになった灯和の姿があった。
多分、枝を掴むなりして私たちが上になるようにしてくれたのだろう。
沙雪「ごっ、ごめんねっ!!!」
竜翔「うわぁ!?だ、大丈夫灯和!!?」
灯和「……うん…僕は平気だよ………それよりも…」
そう言いながら、灯和は体を持ち上げる。
灯和は着物の土を払いながら空を見上げる。
私たちもそれにつられて見上げる。
灯和「………ここどこだろう……」
沙雪「……変な感じ…」
周りには空が見えないほどの木々が茂っていた。
しかし私たちの山と違い、どこか薄気味悪く、威圧感があった。
空には、全てを飲み込むような黒い雲が浮かんでいた。
そして、その雲からは、耐えることなく雨が降り続けていた。
---
〜天舞 side〜
**天舞「ふんぬぅああぁ!!!」**
**猫葉「んにゃああぁ!!!」**
**すぽーんっ!!**
天舞「……っはあーー!!!つ゛か゛れ゛た゛〜……」
猫葉「ふぅ〜…地面に突き刺さるお主、かなり滑稽じゃったぞ……」
天舞「うるせー…お前だって猫のくせに背中から落ちてただろうが…」
**猫葉「急に木の上に放り出されたらバランスも取れぬわっ!!」**
天舞「………で、ここどこだよ?こんな草原来たことないぞ?」
猫葉「妙な気配がするのぉ…」
天舞「ん〜、ちょっと待っててくれ。よっ!!」
***バサッバサッ!!***
猫葉「おーい天舞ー、何か見えたかー?」
天舞「えーと…お!あっちに森があるぞ。」
*バサッ…*
天舞「…っと!じゃあ取り敢えずいってみるか?誰かと遭遇できるかもだし。」
猫葉「それもそうじゃな〜。よし、行くとするかの。」
__てちてちてち……__
---
〜火影 side〜
火影「…………っ…」
突然触手に掴まれたかと思えば、急傾斜の岩山に投げ出された。
そのせいでで尖った岩山を転げてしまい、体を何度も強く打ってしまった。
幸い、尻尾のおかげで大きな怪我はなかった。
火影「……他の奴らは…」
私は全神経を耳に集中させる。
しかし、耳には風の音が聞こえるだけだった。
__*ズキッ……*__
足の痛みで集中も長く続かず、私はかすかに顔を歪める。
恐らく衝撃で足を挫いたのだろう。
火影「………とにかく、探してみるしかないか。」
私は近くに落ちていた枝で足首を固定して立ち上がる。
そして足を引き摺りながら、遠くに見える森に向かって歩き出した。
---
--- *おいで。おいで。* ---
--- *ようこそここは『妖冥界』。* ---
--- *妖怪たちが集う場所。* ---
--- *この世の秩序を護る場所。* ---
--- *ヒトに堕ちた妖怪は、* ---
--- *この世の秩序を壊すから。* ---
--- *みんな君を待ってるよ。* ---
--- *ずっとずっと待ってたよ。* ---
--- *「早く食いたい」「早く殺りたい」* ---
--- *みんなみんな狙っているよ。* ---
--- *おいで。おいで。* ---
--- *さあ、おいで?* ---
---
第参話 〜完〜
【第肆話】刺客
〜?? side〜
??「………来たな、灯和。」
手鏡に映る灯和の姿を見て、私は小さく息を吐く。
その息が辺りの空気を揺らがせ、雲が動く。
??「………さて、警戒すべきは…」
私の目には、一人の青年が映っていた。
足を引き摺りながら岩山を一人で下っている。
狐耳と九つの尾が岩の灰色に目立っていた。
彼は恐らく強い神通力を扱える。《《私の張っている結界》》とは相性が悪い。
??「………早く排除しなければ…」
私は椅子から立ち上がり、背後で待機していた家令に指示を出す。
そして私自身も激戦にそなえ、灯和の元へと向かう。
??「……………灯和………」
---
〜火影 side〜
__ズル…ズル……__
しばらく歩き、私は森のすぐ近くまで来ていた。
近くの草は湿っぽく、どこか居心地が悪い。
不気味に揺れる木々がわずかな風に揺らいで音を立てる。
しかし、周りは霧でほとんど見えなかった。
火影「…………」
足を痛めているせいで、歩くスピードがとても遅い。
焦れば焦るほど痛みが大きくなる。
*ズキッ*
火影「…っ………」
無理に動かしたせいか、痛みが桁違いに強くなっていた。
私はあまりの激痛に、地面にうずくまる。
火影(………これ…本当に捻挫してるだけか…?)
__ザッ…__
*??「よう兄ちゃん、あんたが今夜のわいの遊び相手か?」*
火影「!!」
**バッッ!!**
突然の声に私は後ろに下がり前を向く。
そこには、私と同じほどの背丈の男が立っていた。
しかし、とても人間とは思えなかった。
手足からは虎のように鋭い爪が生え、背中からは蛇が覗いていたのだから。
背後の大きな黒い羽がゆらゆらと揺れる。
目の前の男…恐らくは`鵺`が私に語りかけてくる。
??「ん?どないしたんや?挨拶しただけやんか。」
火影「お前は誰だ。名乗れ。」
??「おうおう、そう怖い顔せんといてくれや!」
そういうとその男はケラケラと笑う。
しかし、こちらを覗く黄金色の目からは、ギラギラと鋭い殺意を感じた。
火影「…名乗れと言っているんだ。」
??「わいの名前は**|焔颶《えんぐ》**や。ま、覚えんでもええで!」
**「どうせあんたの命は今夜限りやねんからな!」**
火影「私は火影だ。」
焔颶「…ん?なんや兄ちゃん、えらいすました顔するやんか…」
***「……あんたのその顔、めっちゃ歪ませ甲斐あるわぁ…!!」***
---
〜沙雪 side〜
沙雪「…いないね…皆……」
灯和「うん…心配だなぁ……」
竜翔「………ずっと生き物の気配は感じるんだけどな…」
三人で歩き始めて、もう何時間になるだろうか。
人間である私でさえも感じるほどの強い妖気だ。
逸れた三人に何も起こっていないことを祈りながら足を進めていた。
と、その時、灯和が私の方を振り返る。
灯和「………ねぇ沙雪ちゃん。」
沙雪「?どうしたの…?」
灯和「これ…使わないのが一番だけど、念のために持っておいて。」
そう言って灯和は私の手と自分の手を重ねると、力を込める。
***ポワッ!!***
するとその瞬間、青い炎が巻き上がり、私は思わず少し後ずさる。
しかし、不思議と熱さは感じなかった。
しばらくすると、手の上に白い刀が置かれていた。
沙雪「…!?これは…?」
灯和「う〜ん…まあ、お守りみたいなものだと思ってて!」
「…僕は扱えなかったんだけど、多分沙雪ちゃんなら大丈夫だよ。」
沙雪「う、うん…!」
私がそう言うと、灯和は嬉しそうに微笑んだ。
しかし、前を向くとすぐに緊張が走った表情に戻る。
__竜翔「…………灯和……大丈夫かな…?」__
__沙雪「………ここに来てからずっと様子変だよね………?」__
__竜翔「……もしかして…昔ここでなにかあったとか__
--- ***とまれ。愚かな妖怪と少女よ。*** ---
沙雪「!?」
竜翔「うわっ…!!?」
灯和「…っ!!?」
**バッ!**
突然の低く響くような声に、私たちは固まる。
たった一言で、私の腕はすでに震えていた。
私は気づけば目の前に差し出されていた灯和の腕を握っていた。
灯和「………誰…?」
--- ***お前が一番よく知っているだろう?*** ---
灯和「……?」
__*ザッ…ザッ…ザッ……*__
足音が少しずつ近づいてくるのがわかった。
私と竜翔は灯和の後ろにまわる。
灯和は足音がする方向をずっと見つめていた。
__灯和「………燈羅刹。」__
そう呟いた瞬間、灯和の手の中に巨大な金棒が現れる。
足音はすぐ近くまで来ていた。
やがて、霧の中から人影が出てくる。
*??「…忘れたとは言うまい。この何百年、ずっと逃げ回っていたのだからな。」*
**灯和「!?」**
沙雪「……!?」
竜翔「え…?」
灯和の手に一気に力がこもったのが見てとれた。
顔を見ると、冷や汗が頬を伝っていた。
*??「………おっと、竜の少年たちへの自己紹介が遅れたな。失礼した。」*
竜翔「!なんで知ってるの…!?」
人影がはっきりとしていく。
高い背丈、黒い癖のある髪、鋭く光る赤い目、少し尖った耳、赤い着物。
そして、黄金のタッセルイヤリングと、赤く染まった2本のツノ。
……見覚えがあった。いや、いつも見ている気がした。
??「私は`大嶽丸`の**|冥嶽《めいがく》**。この『妖冥界』の国王であり、守護者である。」
「…そして、お前たちの目の前にいる酒呑童子、灯和の兄だ。」
---
第肆話 〜完〜
焔颶
https://picrew.me/ja/image_maker/625876/complete?cd=VmuaII9YKD
冥嶽
https://picrew.me/ja/image_maker/695783/complete?cd=uBbAbvwntz
【第伍話】望まれない存在
〜沙雪 side〜
冥嶽「お前たちの目の前にいる酒呑童子、灯和の兄だ。」
沙雪「…!!?」
脳の理解が追いつかなかった。
しかし、確かに見た目も背丈も似通っている。
その時、ずっと固まっていた灯和が口を開いた。
灯和「………今更僕に何の用だよ、兄さん……」
その声は低く、今まで聞いたことがないほどの緊張と警戒が混ざっていた。
しかし冥嶽さんはそれに動じることなく続ける。
冥嶽「何を言っているんだ。そんなことわかりきっているだろう?」
灯和「………………」
冥嶽「お前たちの存在は妖冥界を脅かすからな。消しに来た。」
『消しに来た』その言葉は、一瞬異国語のようにも聞こえた。
意味をようやく理解した時、私の体は知らない間に小さく震えていた。
私のそんな様子を見た冥嶽さんは、私の目を見て尋ねてきた。
冥嶽「……そうか。お前たちは何も知らないのだな。」
沙雪「な、何をですか…?」
冥嶽「灯和は、《《元々この国を私と統治させるはずだった、元皇子》》だ。」
竜翔「!?」
沙雪「え…!?」
(灯和が…この国の元皇子…!?)
灯和「……っ」
冥嶽「しかし灯和はこの国の鉄則を破り、人間界へと逃げたのだ。」
***「…そんな罪深き罪人を、生かしておける訳ないだろう…?」***
沙雪「!!」
竜翔「……!!?」
その地を揺らすような重圧感がある声に、私と竜翔は思わず後ずさる。
木々が大きく揺れる。まるで目の前の存在に恐れをなして震えあがるように。
灯和は金棒を片手に冥嶽さんを睨んでいる。
冥嶽「もちろん、その仲間であるお前たちも、見逃す訳にはいかない。」
そういうと冥嶽さんは、左手を体の斜め後ろへと下げる。
***ボワッッ!!!***
沙雪「!!」
竜翔「うわっ!?」
突然左手に紫の炎が巻き上がる。
炎が瞬間的に大きくなり、私たちへ火の粉が飛んでくる。
灯和「!!!」
**バッ!!**
その瞬間、灯和が私たちを抱えて大きく後ろへ飛び退いた。
沙雪「わっ!?」
竜翔「……!?」
体が大きく傾いた私と竜翔は、慌てて冥嶽さんの手元を見る。
その手には何か光るものが握られていた。
……それは、鈍く光る濃紺の刀だった。
異様な色の炎を纏い、空気をも歪ませられるような雰囲気だった。
冥嶽さんはそれを横に構えて、灯和に言い放った。
**冥嶽「………国のために、死んでくれ。灯和。」**
灯和の顔が僅かに歪む。
今まで見たことがない、苦悩に苛まれた表情だった。
口元に力がこもる。額に冷たい汗が流れる。
その時、灯和が私たちを手から降ろし、前を向いたまま静かに囁いた。
灯和「………竜翔、沙雪ちゃん、ごめん。巻き込んだ。」
竜翔「…気にしてないよ。」
沙雪「私たちはどうしたらいいの…?」
灯和「……っ…竜翔、今すぐに《《沙雪ちゃんを連れてここから逃げて》》。」
竜翔「!!」
沙雪「…!?な、なんで…!?それじゃあ灯和が
灯和「ごめん。今回だけは絶対に譲れない。《《沙雪ちゃんの命に関わる》》。」
沙雪「!!?」
灯和「兄さんは大嶽丸…別名『鬼神』。天候や神通力を操る、神に近い存在だ。」
「……沙雪ちゃんたちを、僕の勝手な事情で傷つけるわけにはいかない。」
沙雪「……っ!」
灯和「…何かあったら`|翠鈴《すいりん》`に強く願って。きっと助けてくれる。」
私は腰に目をやる。
そこでは、灯和にもらった刀が露草色に淡く輝いていた。
*ゴロゴロゴロッ……*
気づけば空は先ほどよりも厚い黒い雲で覆われていた。
私たちを中心に渦をつくり、時々重い雷鳴が響いてくる。
それを見た灯和は竜翔へ叫んだ。
***灯和「!竜翔お願いっ!!!」***
竜翔「…!うんっ!!」
__*ぐいっ!*__
その瞬間、竜翔は私の腕を引っ張って走り出した。
私は戸惑いつつも転ばないように走り続ける。
………その瞬間だった。
***ドカアァァァン!!!***
竜翔「わっ!!?」
沙雪「きゃあっ!!」
後ろから、耳を裂くような雷鳴が聞こえた。
突然の轟音に、私たちは二人揃って地面に倒れ込む。
しかし竜翔は素早く立ち上がって、私を抱えて走り出す。
沙雪「っ!灯和…!!!」
**竜翔「灯和ならきっと大丈夫!!きっと…っ!!!!」**
竜翔の剣幕に、私は何も言えなくなる。
私はその言葉を信じて、竜翔と共に森の外へと走った。
空に広がる雲は、ただ黒く染まっていった。
---
〜灯和 side〜
灯和「っっ!!ゲホッ……!?」
__*ビチャビチャビチャッ……*__
口から吐き出した血が足元へ零れ落ちていく。
殆ど息ができず、必死に空気を吸う。
冥嶽「…ほう?彼らが受けるはずだった雷をお前が受けたのか?」
__灯和「…………はぁ…はぁ…はぁ…」__
冥嶽「どうせ彼らの命は長くないというのに…お前は変わっていないな。」
__灯和「…………それは…こっちの…セリフだよ………兄さんは…相変わらず…冷たいね…………」__
冥嶽「……その強がりが、彼らが逃げ切るまで持てばいいな。」
そう言うと兄は妖刀…`|宵闇《よいやみ》`を僕に向ける。
僕は崩れ落ちそうになる体に必死に鞭を打って、燈羅刹を構える。
冷たい風が間を通り抜けていく。黒雲の狭間が僅かに光る。
冥嶽「お前たちは望まれていない存在だ。だからこそ私がここで消さねばならん。」
灯和「………そんなこと…絶対にさせない…っ!!」
霧に覆われた森が、禍々しい紫の光で満たされていく。
そこにはただ、低く唸る雷鳴だけが響いていた。
---
第伍話 〜完〜
宵闇
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翠鈴
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