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目次
ジニア 第一話
カチャカチャ
カチャカチャカチャカチャ
パンッ
べり「こんばんはー」
今日もスマホの画面に向かう
いつか夜のルーティンとなっていた
真っ暗な部屋で淡い光を浴びる
べり「今日大変だったー」
フェンリル「おつかれー」
ミタマ「ー。ー」
かえで「何があったのー?」
暖かいこの空間
ここはリアルとは別の面を見せる場所
そう
インターネット
私はリアルが特別大変なわけではないし
友達だって、人並みにはいると思いたい
だけど一度ハマったら抜け出せない
そんな私もこの人たちとは1年くらい付き合っている
べり「昨日寝るの遅すぎてめっちゃ眠かった」
みぃ「平和w」
レイト「俺なんてずっと寝てた」
トトちゃん「私もだわ…」
私も含めて、10人
いつもこの人たちにはお世話になっている
フレア「いつもどんな時間に寝てるんだよw」
猫丸「フレアが言えないでしょ!」
わんこ「私なんて10時くらいには寝てるが」
かえで「わんこさんが健康児すぎるだけだって…」
まだ成人してないような人たちの集まり
言い換えてしまえばクソガキどもがインターネットに群がって毎日の夜を過ごしているのだった
そんな日がずっと続けばいいと思った
わんこ「じゃあそろそろ寝るね()」
みぃ「もうそんな時間だっけ…」
リアルの顔なんて誰も知らない
なのにここまで仲良くなれる
人間の温かさをかき集めて、今ここにあるようだった
全員ここに来た経緯は全く違う
ただ単に興味があってくる人
友達に誘われたりした人
現実逃避で来る人だってもちろんいる
私は多分
ただ単に興味があってくる人に当たるだろう
べり「じゃあ私も久しぶりに早く寝ようかな」
フェンリル「もうべり寝ちゃう?」
フェンリル「今日はここでお開きにするか」
かえで「だねぇ」
フレア「うわ暇」
みぃ「僕も暇」
猫丸「寝ようよw」
べり「じゃあ寝るわ、おやすみ〜」
まるで自分の親におやすみというような感覚でおやすみを言う
かえで「おやすみ〜」
猫丸「おやすみ〜」
みぃ「おやすみ〜」
フレア「おやすみ〜」
わんこ「おやすみ〜」
フェンリル「おやすみ〜」
トトちゃん「おやすみ〜」
レイト「おやすみ〜」
ミタマ「おやすみ〜」
おやすみと言えば必ずと言っていいほど返してくれる
寝る前に人の暖かさに触れることがこんなに幸せなんて
もっとずっと前から知っていたら良かったのに
アラームをセットして眠りにつく
スマホをベッドにぱたんと倒して自分も目を瞑る
そして今度は声に出してみる
「おやすみなさい…」
このまま起きた時も
また今日みたいな夜だったら
どんなに幸せだろうか
もちろんリアルの友達とも会いたいし、遊びたい
でも、一回くらい
この人たちと一緒にいられたなら
…楽しそうだな
この時はまだ…
まだ…
…
ジニア 第二話
ある日突然
状況は急変した
一度は起きたものの
まだ暗かったため再び寝てしまった
あの時もしも起きて気づいていたら
今、こんなことになってなかったかもしれないのに…
---
次に目を覚ましたのは大きな物音がしたからだ
檻を思い切り放り投げるような鈍い金属の音が響いた
目に飛び込んできたのは目の前の綺麗に横に並んだ鉄の棒
最初は状況が理解できなかった
そう、自分は檻の中に居たのだ
そして自分がいるところは周りよりも一段高い場所にいるらしく
この高台からどんどん檻が投げられている
隣にも、その隣にも
なぜか木の板が貼り付けられた檻が続いて置かれている
檻が投げられると同時に悲鳴が聞こえる
中に誰か入っているんだ
そう思った瞬間心拍数が急上昇する
自分の心臓の音が聞こえるほどに焦っていた
次は自分の番か…と
一体ここはどこなんだ
どうしたらもとの場所に戻れるんだ
あれこれ慌てて頭が混乱している
そのうちに体がひょいと上に上がる
後ろには大きなショベルカーのようなものが
私の入った檻を持ち上げている
「ひゃぁっ!」
檻はひっくり返って下に落下する
と思えば下は水だった
貼り付けられていた木の板はそのためだったらしい
一度は檻の半分が水に浸かったものの浮き上がる
私の入った檻は先に投げられていた檻の背中を追いかけるように流れていく
「そこに誰かいるの?」
どこかで聞いたことがありそうな声
必死に頭の中でその声の持ち主を探す
トトちゃん
こう、頭の中で浮かんだ
1番最近一緒にVC(ボイスチャット)でしゃべったのはトトちゃんだ
もしかしてこれはトトちゃんではないか
「ト、トトちゃん?」
少し吃り気味でそう返す
「え?べりちゃん?」
向こうも気づいたらしい
まさかリアルで
しかもこんな形で会うことになるなんて
誰かが仕掛けたこととしか考えられない
「これ、どういうこと…?」
トトちゃんも何もわかってなさそうだというのが本音である
予想は的中した
「こっちが聞きたいよ…」
VCで話していたとしてもリアルで話すとあまり慣れない
ここから先はしばらく沈黙という名の状況確認が続いた
ガタンッ
檻がどこかの壁にぶつかる
流れが止まったわけではない
道が曲がっているだけだ
壁にガンガンぶつかりながらも檻は流れに沿って向きを変える
分かる人には分かると思うが
ディ◯ニーシーのス◯ラッシュマウンテンみたいだ
そしてス◯ラッシュマウンテンの大目玉と言えば
そう、大きな滝を一気に落ちていくあれである
今まさにその水が勢いよく下に流れる音が聞こえる
あいにく前はたくさんの檻でよく見えないが
よく聞けば一緒に叫び声まで聞こえる
いつからか私は檻にしっかりと捕まっていた
ジニア 第三話
目の前に浮いていた檻が次々下に沈んでいく
水の音も最大まで迫ってきている
「いやだっ…いやだぁっ…」
「トトちゃん!」
「トトちゃんー!!」
いくら名前を呼んでもトトちゃんからの返答はなかった
もう、行ってしまったのだろう
頭を抱えて少し狭い檻の中でうずくまる
そして次の瞬間
重力がなくなった
体がふわりと浮いたと思えば
勢いよく下へ流れ落ちていく
ガバガバの檻の中には大量の水が流れ込む
そこからの記憶は
なかった
---
「…」
「………ん!!」
「……ちゃん!!」
「…りちゃん!!」
「べりちゃん!!!!」
そうはっきりと聞こえたと同時に目を覚ます
1番最初に目に映ったのはトトちゃんの泣き出しそうな
心配してそうな顔だった
「トト…ちゃん…?」
「そうだよべりちゃん!」
「生きてた!よかった!!」
私は仰向けになっていた体を起こす
「これ…どうなってるの…」
今起きている全てをこれと言って
分かるはずもないトトちゃんに問いかける
「わかんない…」
「べりちゃんと今話していることも」
「この檻のことも」
「全部夢みたいに感じる」
私の入ってた檻とトトちゃんの檻とで2つがこの陸の岸に流れ着いていた
でも前には川が続いており
どんどん空っぽの檻が流れていってる
「あっちに何かあるっぽいの」
トトちゃんは私の向いていた方とは真逆の後ろを指さした
陸はずっと続いている
その奥深い深い森のようだ
空も見えない謎の建物の中を通る川に
その陸を覆い尽くすように生える木々
自然を忠実に再現して閉じ込めたとも言い難い謎のその光景に
目を釘付けにされていた
「行ってみる?」
「うん…」
まだ直接話すことも慣れていないのに
急に面に向かって話せるわけもなく
少しぎこちない返事をしてしまった
でも多分これは私だけじゃなく
トトちゃんも似たようなことを思っているのかもしれない
少し進むとさっきまでいたビーチとはガラリと雰囲気が変わる
急に肌寒い風が流れ始めた
そこでやっと自分の今の格好に意識が回った
「なにこの服…?」
どうやらトトちゃんも気がついていなかったらしく
私がそう言った直後にトトちゃんも自分の着ているものを確認した
私もトトちゃんも
灰色と白の太い横縞の模様のワンピースを着ていた
少し色が違えば囚人服に見えなくもない
「べりちゃん最初からその服だったっけ…」
「え?」
「さっきまでは普通にパジャマだった気がするんだけど」
それはそれで恥ずかしいがどういうことだろう
この森に入ってから変わったとでも言うのか
「寒いね…」
話の脈絡のかけらもないような発言だが
本当に本当に寒かった
静かな森の若干湿った地面を素足でずっと歩いているのだ
たまに吹く風が追い打ちになってさらに寒い
「向こうに何か見えない?」
薄暗い森の終着点を示すように
ぽわっと暖色の光を放つランタンがひとつの木にぶら下げてあった
その木の後ろには灰色のコンクリートの壁がある
トトちゃんと顔を合わせて少し走る
ちょうどランタンの木の真下に来た時
ランタンが一二回ふわりふわりと揺れる
コンクリートの壁からは割れ目が入った
割れ目がどんどん増えていくと思いきや
それは真四角に穴を開けて入り口を作り上げた
「入って大丈夫かな…?」
「行こう」
ジニア 第四話
行く気満々のトトちゃんに手を引っ張られながら
コンクリートの壁にぽっかり開いた入り口へ向かって歩く
入り口はトンネルのようになっており
生ぬるい、THE・春のカゼェ!!!!っと言った風が向こうから吹き抜けてくる
森は静かでどこか湿っていて寒かった
まるでドライヤーの風を遠距離から受けている感覚だ
「あったかい…」
私はトトちゃんと一緒に
入り口の前で立ち止まってしばらくその風を浴びていた
でもその風はだんだんと弱く冷たくなっていく
入り口が閉まってしまうと本能的に感じた
今度は私がトトちゃんの手を思い切り引っ張ってそのトンネルの中に入る
「びっくりしたぁ…」
「でも見て、入り口閉じてっちゃうよ」
そうして私はトトちゃんと短いトンネルを走った
トンネルの奥には殺風景な大きな部屋があった
壁はあの灰色のコンクリートの壁だ
あるのは横長の木のテーブルがでかでかと部屋の中心に置いてある
そのテーブルの上にはガラスケースに入った水晶玉のようなものと
その周りには7着の服が置いてあった
置き方を見るに10着置いてあったが誰かが3着持って行ったように見える
「もう誰か来てるのかな」
テーブルしか置いていない
余白だらけの大きな部屋に自分の声が少し反響する
「3人…?かな」
私はまずガラスケースの水晶玉の方が気になり近づいてみる
透明で汚れひとつないガラスケースの中に入った水晶玉は
淡い七色に光り輝いている
まるで夜空に浮かぶオーロラだった
「ほえぇ…」
どこか情けない息を漏らしながらも水晶玉に目を釘付けにされていた
トトちゃんはそのうちに服をひとつひとつ見ていた
よく見ればもうすでに二着手に持っている
「ねぇこれどうー?」
白いワンピースに黒いベルトが付いたものと
紫と水色の中間の色をしたワンピースに左半分は紺色布がかかったもの
(両方後日画像出しますお待ちください)
「んーべりちゃんはこっちかな」
そう言って白いワンピースのほうを私に持たせた
そのときピシッと壁に切れ目が入るような音がした
絶対聞いたことがある音だった
もしやと思って後ろを振り返る
そこには1人の少女が立っていた
「こん…にちは…?」
まずトトちゃんから静かに挨拶をした
少女は戸惑っており反応はない
「あぁーっ!!!」
いつの日か顔写真を送ってもらった
確か私が懇願してやっと送ってもらったあの写真にぴったり一致している
そしてトトちゃんのこともあって
あそこで話していた人の誰かじゃないかとはもう思っていた
それがそうだったのだ
「かえで!!!!」
「えっ?べりさん?」
「べりさんだよぉー!!!」
私はいつもべりさんと呼ばれるたびにこの返事をしている
今回もまたあの時と同じように言ってみた
トトちゃんも少し嬉しそうな顔をしてかえでの元へ走っていった
「もしかして」
「みんなと会えるのかな」
ジニア 第五話
かえでがやってきたことにより少し場が暖かくなる
それからかえでとはここまで来た経緯
トトちゃんと私がどうやってここまで来たのかを話した
かえでもどうやら似たようなものらしく
寝ていたのに突然ここにいて檻に入れられ流されてきたのだと言う
そこからはもう…
「かえではこれが似合うよー!」
「えっ?ほんとかな?」
「うんうん!かわいい!」
「えへへぇ」
全員でかえでの似合う服を選んでいた
かえでとトトちゃんで服を選んでいる間に私の着替えが終わる
白いワンピースには腰の部分に太いベルトが巻かれており
結構長めのネクタイのようなものまでついている
思ったよりおしゃれだ
シワを伸ばそうとワンピースを叩いていたところ何か固いものが手に当たる
「これポケットが付いてる…」
右側のポケットに手を突っ込むと何か入っている
固い金属のような感覚が手に残る
それをそのまま掴んで外に出してみようとした時だ
固い金属がガチャガチャ音を立てながら変形する
外から見ても何か服の中で動いているようだった
びっくりして手を引き抜くとそれは勢いよく外に飛び出し辺りを飛び回る
「うわぁぁあ」
「!?」
「ほえ?」
私が大きな声を出したせいで2人もこちらを見つめる
「ポケットに変なの入ってた!!」
「へぇ!?へんなのって??」
トトちゃん達の方にそれは飛んでいく
よく見ると金属の丸い玉に白色の2対の翼が付いているようだ
「何これ僕の方にも!?」
かえでが着ようと広げた服からは薄茶色の2対の羽が生えた木製の丸が飛び出す
次は…
全員で顔を見合わせる
トトちゃんが右側のポケットを叩く
少しの沈黙の間にトトちゃんは左側を叩いた
予想は的中した
トトちゃんの左側のポケットから
今度はもふもふに包まれた|紺桔梗《こんききょう》色の2対の翼の丸だ
合計3つの丸が飛び出す
その丸は3つ全て連動するように空中をくるくる縁を描いている
だんだん天井に近づいていくようにも見える
「はぁ…」
小さなため息を漏らしながらもその光景をしばらく眺めていた
「天井伸びてね…?」
かえでが先に気付いた
言われてみれば本当に伸びている
天井が持ち上がったことにより今までは見えなかった大きな穴が壁に空いているのが見える
中には縄で作られたはしごのようなものがある
飛び回る球体たちはある程度天井が上がったら上に飛ぶことをやめ
穴の中のはしごを下ろしてくれた
そして各自飛び出た色の球体が戻ってくる
羽を広げても片手サイズしかない球体になぜだか愛着が湧く
「なんかかわいいねぇ君」
私がそう言って撫でまわしているうちにトトちゃんははしごに手をかけていた
「これ登れそうだよ」
「もうここしか進めるところないけど…」
「僕が先に行きたい!」
「あ、ほんと?」
「どうぞ」
「まってよぉー!!!」
「この球体どうするの?」
「適当にポケット突っ込んどいたったw」
「僕のやつは勝手に入ってった」
「ほえぇ…」
全員ポケットなうだと言うので私も金属製の球体をポケットに入れる
全身金属なだけあって意外とずっしりくる
「じゃあ行こっか」
穴の大きさはギリギリこの中で1番身長の低い私が立てるくらい
かえでともそんな何十センチも差があるわけではないが立つと頭をぶつける
トトちゃんは完全に無理だった
そのためほぼ赤ちゃんのはいはいでかえでを先頭にしてトトちゃん、私の順番で並んで歩いていく
穴の中の空気は澱んでおり風は来ない
明るさもどんどん進んでいくにつれて薄れていく
「この先真っ暗だよ…」
急に先頭のかえでが止まってそう言う
すると一斉に全員のポケットが光出す
あの球体だろう
何があったかとポケットから取り出してみれば球体の部分が光っている
「これで明るいねw」
「なんだろうねこの球体…」
「脱出をお手伝いしてくれるのかな?」
「だといいよね」
穴の中の灰色のコンクリートの凹凸に合わせて薄く影ができる
球体は自由に飛ばせて辺りを優しく照らしてもらう
かなり明るくなった穴の中を先ほどよりも早いテンポで進んでいった
今回結構長くなったなあ
登場人物のプロフィールも作りたいので参加者は以下を私にください
名前
身長
性別
希望カラー(べり、トトちゃん、かえで以外)
ご協力お願いします
来なかった場合はこちらで勝手に決めちゃいます
ジニア 第六話
ずっとはいはいの姿勢で進むのもだいぶ体が痛い
いくら周りが明るくなったからと言ってすぐに出口が見えるわけではなかった
だが状況は変わった
分かれ道だ
左右真ん中のちょうど3本の道がある
「これどうする…?」
「全員別れて行くでいい?」
「だよね、ちょうど3だし」
「えっ1人で行くの?」
「えっ?」
「なんでさっきから後ろついてきてるだけのべりさんがビビってるの」
「私真ん中行ってあげるから…」
かえではそのはいはいのまま直進して真ん中の道を進んでいった
「中広いよ!立てる!」
「まじ??」
トトちゃんが先に行こうとしたが右と左で迷っている
せまい通路の中で出来る限りこちらを向いて私の顔を見る
「べりちゃんどっちがいい?」
「私はどっちでもいいけど」
「言うと思った〜」
どっちでもいいなんて言ったらまずかったか
なんてことを考えながら左に進んでいくトトちゃんを眺める
「ほんとだ立てる!」
「よっしゃ楽勝」
「じゃあお先に失礼〜」
私が分かれ道に入る前にかえでとトトちゃんはそそくさと行ってしまった
というわけでもう右しか残されていないので
しょうがなく右の通路へはいはいで進む
かえでやトトちゃんの言うとおり先はジャンプしても頭を打たないくらいの高さになっていた
あの球体がチリンチリンと音を立てる
「君って鈴なの?」
「かわいい」
白い羽をパタパタさせて一生懸命に飛ぶ姿はとても愛らしい
かえでとトトちゃんの球体がいなくなって1人になっても十分な明るさを放っている
少し眩しいくらいだ
「あかりありがとうね」
そう言って歩きながらも球体に手を差し伸べてみる
感触は金属まんま
ひやっとした感覚と同時に表面の細かい装飾の繊細さが伝わる
これだけ光っていたら少し温かそうな気がした
だが別にそんなことはなかった
1人になってちゃんと前に進みながらもじっくり球体を観察する
何もない道を何もせず歩いていたら気が狂いそうだ
飛ばせるのをやめて手に乗せてみたり
羽をしまった状態で装飾を眺めてみたり
どうやらこの羽は消すこともできるらしく
私があまりにじっと見つめていたらわざわざ羽を消してまでして装飾を見せてくれた
白い塗装がされている金属に金色のライン
それに装飾はくすんだ青色のようなものでそれらが絶妙にマッチして
少し品のある模様を生み出している
本の手のひらサイズの球体でも十分に時間を潰すことができた
それからはコンクリートの壁をなぞって歩いてみたり
急に走ったり歩いたりを繰り返したりした
球体は何事もなかったかのようにしてついてくる
「この先には何があるの?」
「君は何を知ってるのかな」
それに応えるようにして球体はチリンチリンと音を鳴らす
言葉にならないそれでも
十分な話し相手だった
「かえでとトトちゃんはどうだろうね」
チリンチリン
決まってこの返事
回数が変わったこともリズムが変わったこともなかった
まるでただ一つのことを
ずっと伝えたいように思えた
イラストそろそろ準備できたらいいな…
ジニア 第七話
「べりさんもトトちゃんも大丈夫かな」
真ん中を突っ切って来たは良いものの
出口らしき明かりが見えて安心すると同時に少し心配になって来た
もしこっちが正解だったらどうやってトトちゃんとべりさんに伝えよう
またあの場所まで戻って直接伝えにいくにしても
もうすでに進んでいるトトちゃんやべりさんに追いつける気がしない
でもとりあえずはこのまま進んでみよう
薄く漏れる灯りの方へ急ぐ
外は見えないがだんだん灯りも大きくなっていく
「もうすぐだ」
最後は勢いよく走って外に向かう
それがよくなかったのか
あまりにも眩しかったため目を瞑ってただ真っ直ぐに走っていた
急に通路が途切れていたようで目を開いた時に映ったのは
断崖絶壁の川の上だった
できるだけ体を捻って後ろを見るとさっきの通路の穴がある
その穴は3つあった
そのことに安心している暇もない
今は川の上
そう、空中だ
このままだと川に思い切り落ちてしまう
球体につかまってゆっくり落ちるなんてことも考えたが
なんならその球体も一緒に落ちている
「役立たずぅうう!!」
そう叫びながら結局川に落ちることになった
大きな水飛沫をあげて川に落ちると何か違和感がある
ふと頭を触ってみるとなにかもふもふしたものが付いている
しかもそれを触るとしっかり感覚がある
「猫…耳?」
まさかと思い腰へ手を回してみる
これまたもふもふとした長い猫の尻尾が付いている
こちらはちゃんと川に流されながらも視認できる
「えっなんで…」
髪色も若干変わっており
綺麗な茶色に変わっていた
まるで僕のネット上のアイコンの姿だった
結果論嬉しいがそれより不思議に思う気持ちが強かった
思ったより緩やかに流れる川に身を任せしばらく流れていた
流れてきた木の板の上に乗って意外とのんびりしている
「かえでぇーーーー!!!!」
「!?」
音自体は大きくないものの
遠くから大きな声で叫んだようなかえでぇーーーー!!!!が聞こえた
はっと後ろを振り向くとそこにはまた流れてきた木の板を踏みつけ立っているべりさんの姿があった
大袈裟に手を振っておりとても笑顔でこちらを向いているが
それより気になることがあった
べりさんの髪色が銀髪になっている
目の色も綺麗な青色に変わっている
これはネットでのべりさんのアイコンと酷似していた
もしかしてあの通路の出口を通ると何かしら変わるのか
「かえでどうしたの猫耳なんて」
「知らないよ生えてきた!!」
「べりさんこそその髪どうしたの?」
「えっ?」
「はっ!?」
気づいていなかったようで一本に束ねた長い髪を見るなり驚いている
この先に見える限りは崖に挟まれた川だったが
しばらく流れて行くうちに上がれそうな陸地が見えてきた
ジニア 第八話
なんとかかえでと合流して陸地まで流れてきた
なんだかここは川が多い気がするのは気のせいだろうか
ずっと流れてばかりな気がする
「あれトトちゃんかな!?」
「誰か来てるよ!」
自分たちが流れてきた川にトトちゃんらしき人が木の板に乗ってこちらに手を振っている
遠くからだとトトちゃんの見た目の変化は分かりずらい
目の色が紫色に変わっているだけだった
「これで全員だね!」
「その目の色と服の色似合ってる!」
「もしかして選んだ服によって見た目変わってるんじゃない…?」
「ワンチャンある」
そしてしばらく今がどういう状況かも忘れてしばらく雑談をしていた
ここにくる前のネットでの話
ここはどこかという考察
この先どうするかなど話題は絶えなかった
「あの時本当にびっくりしたんだよ」
「だよね!!」
そのとき状況は変わった
葉の先が尖って生えた草たちを
ざくざくと踏み分ける音がしっかり聞こえた
その音がした瞬間にかえでもトトちゃんも急にぴたりと話すことをやめた
「…」
…
……
………
「ねえ!誰かいる!!」
「えっ?まじ!?」
「ここにきてやっと進展が…」
3種類の声をしっかりと捉えた
その声は聞き覚えのあるものではなかったが
若くも幼い男の子の声
少しお母さんみのある優しい女の人の声
男の子の声にも聞こえるが可愛らしくてどこか中性的な声
あのネットで出会った人たちに当てはめていくと
ちょうど3人ヒットした
ここで会う人が全員ネットで会った人たちなら通じるはずだと思い
こちらに向かってきたその人たちにべりと名乗る
「べり!?」
「教祖様!?!?」
この反応はフェンリルに間違いない
私はとあるゲームを色んな人に布教しまくっていたところ
勝手にそのあだ名がついたのだが
その中の一信者がフェンリルなのだ
「フェンリル!?」
トトちゃんとかえではまだ浮かない顔をしているが
私がわんこだなと狙いを定めた女の人がかえでに話しかける
「かーえーでー?」
「私のことはわかるでしょ!」
「えっ?」
「私たち顔見せながらもVCしてたじゃん!」
「覚えてない?」
「あっ…そうだった…?」
まぁ確かにVCで1回や2回話しただけでは覚えられないのも無理ないだろう
それでもかえでは声は覚えていたらしくすぐ打ち解けていった
「あれじゃあ、もしかして、猫丸?」
「なんでわかったの?」
「なんかそんな気がして」
トトちゃんが見事に当てる
まぁ、それより先に私は分かっていたんですけどね!
「でも不思議だね…なんでネットで知り合ったここが偶然集まるの…」
「流石に偶然じゃないよ」
「こんな偶然あるわけない」
「誰かが意図してやったんだと私は思うけど」
トトちゃんの問いにわんこが珍しく断言口調で話した
それでもわんこの意見は納得できるものだった
「ふぅ〜む…」
「とりあえず、私達の拠点に来る?」
「話を聞けばべりさん達今日来たんでしょ?」
「もうフェンリルと猫丸とは1週間くらい前から会っててさ」
「結構整ってきてるんだよね」
私はトトちゃんとかえでと一緒に威勢よく頭を縦に振る
「まぁ拠点とは言ってもなんかあった建物なんだけどね…」
猫丸が言ったその一言が妙に引っかかる
1週間何があったのかもぜひ聞きたいものだった
ジニア 第九話
その後フェンリルを先頭にしてその拠点とやらに向かうことになった
私達が流れてきた川を挟んで向こう側の森を抜ける
今までの景色とはがらりと変わる
綺麗な色とりどりの花が風に揺れている花畑だ
真ん中は道になっておりその周りを色も高さも違う花がぎっしり生えている
綺麗だなと思う感情より先にすごいと思った
「ここすごいでしょ」
「この真ん中の道ずっと進めば拠点があるよ」
猫丸がすごく楽しそうな笑顔でそう言う
「そういえば猫丸って男なの?」
まさかわんこがそう聞いた
1週間以上一緒にいるんじゃなかったのだろうか
「え?男だと思ってたの!?」
「男じゃなかったの!?」
「女だわ!失礼だな!!」
「1週間以上前に会ってるんだよね…?」
「なんで性別も知らなかったの?w」
私が言いたかったことを全てかえでが言ってくれた
「本当に知らなかった…ずっと男だと…」
猫丸の髪型は結構短めのショートヘアで
それでもって声も可愛らしい男の子のような声をしている
男だと思っても無理はないだろう
「猫丸、ごめんだけど僕も男だと思ってた…」
「むー!!」
「許さない!」
花に囲まれた綺麗な道を歩きながらもそんな話をする
猫丸はフェンリルを追いかけて私とかえでとトトちゃんの周りをぐるぐる回っている
「まぁまぁ落ち着いて」
「もうそろそろ着くよ」
わんこがそう言うので道の先を見てみるがなにもない
ただ、花畑がずっと続いているだけだ
一方道は途中で途切れている
なにか拠点らしき見えるものはなかった
「ちょっと後ろ下がっててねー」
わんこが1人で道の途切れた先まで歩いて行く
道の先に目をやると少しだけ土が盛り上がっていることに気づく
わんこはそれを思い切り足で踏んだ
そのままずっとこちらを見つめる
わんこの背中の花畑がどんどん上に持ち上がっていっている
その下から明らかに人工の建物が露出する
「うぇ!?すご!」
思わず変な声が出てしまった
かえでもトトちゃんもちゃんと圧巻されている
「ここが私達の拠点」
「アネモネのラボです!」
猫丸がきっぱりそう言った
誰がそんな縁起でもない名前つけたのかと思ったが
よく話を聞けばここはもともとあった謎の建物らしい
中はまるでだだっ広い博物館みたいになっているようで
入り口上にアネモネと書かれていたためその名前にしたそうだ
中に入るとまずは1番広い部屋になっていた
そこからいくつか枝分かれして部屋が沢山あるらしい
1週間以上経った今でも全ては捜索しきれていないとわんこは言った
ガラガラガラ
ガシャン
急に大きな音で背後の入り口が閉じる
最初はわんこ達が何かやったのかと思った
そうではなかった
「え?」
「ここ閉まったことあったっけ?」
「ないない」
ぽかーんと口を開けている私にかえでとトトちゃんを置いて議論が繰り広げられる
「誰が閉めたの??」
「この建物の持ち主じゃない?」
「えっ閉じ込められた???」
状況は良くないのが伝わる
ピリピリした空気が肌に伝った
ジニア 第十話
慌てふためくわんこ達
初めて知らないところに入る私たちの方がよっぽど不安になる
広い大きな部屋にはその声のみが反響する
「もしかして…」
フェンリルが隣の人にギリギリ聞こえるくらいの声でそう言う
次の瞬間フェンリルは一つの通路へ走り出す
何か思い当たるものでもあるのだろうか
そのフェンリルに猫丸、わんこの順に続いて走っていく
「これ私たちも行ったほうがいいかな…?」
「何も知らない3人だけでここにいるよりはいいはず」
トトちゃんの問いにかえでは自信なさげな心細い声で答えた
ゆっくり後退りするかえでの腕を引っ張る
「えぇっうわぁっ」
---
フェンリルの通って行った通路を歩いている間に次の部屋の様子が見えた
わんこの背中越しに光る瓶の中に入った
たくさんの花が並べ立てられているのが見える
部屋の大きさはさっきの部屋より一回り小さく
光り輝く花たちが敷き詰められたそこはなんとも幻想的
まるで絵の中に迷い込んだような不思議な雰囲気があった
1番真ん中には一回りも二回りも大きい瓶というよりガラスのケース
あの花の道にも咲いてなかった花が一輪咲いている
花自体はそこまで大きいものではないがガラスケースがいい仕事をしている
花びらの角度を見るからに
開いてからまだあまり時間は経っていないのだろう
部屋に入ってその花をよく見る
ガラスケースの下には「ジニア」の文字
透明で綺麗なガラスに金色の字でそう彫られていた
「この花…綺麗だね」
「こんな花なかったんだけど…」
「え?」
「この周りの花はあったんだけどね」
「ジニアなんて花初めて見る」
この建物はなんとも不思議だ
そういえばアネモネのラボのアネモネというのも
花の名前だった気がする
しばらくその花の姿に見惚れている
次はなにかモーターが動くような音が鳴って部屋が暗闇に包まれる
「入り口が塞がった!!」
「ねーもうなんでー!?」
フェンリルの驚きの報告に
猫丸はもう半分やけくそになって半分叫ぶように答えた
そんな中ぽわりと天井が光りだす
天井がモニターになっているようだ
そんなモニターに映像が映し出される
黒いローブを羽織った男
その男はこう言った
「もし」
「もしここから生きて帰りたいのなら…」
「この場所、アネモネで真実を見つけ出し」
「犠牲を捧げよ」
「これは遊びではない」
その男の声は低く
部屋に何回も何回も反響して響き渡った
だが1番最後のこれは遊びではないには思わず吹き出してしまった
いったい何の冗談だ
「…」
誰も何も言わないこの雰囲気がさらに辺りの空気を重くする
きっと大丈夫だから
ジニア 第十一話
「ジニアは…約3ヶ月咲き続ける」
「和名は、その長く咲き続けることから|百日草《ひゃくにちそう》と呼ばれている」
「僕がなにを言いたいか…分かる…?」
フェンリルがだんだんと戻りつつある部屋の明るさに包まれながら
ジニアの入っているガラスケースを見つめながらそう囁いた
「多分これは」
「このジニアが枯れるまでにここから脱出しろってことなんじゃないかって」
「僕は考える」
あの男はここまで言ってなかった
だが、この気になる花の配置
そしてわざわざこの部屋に取り付けられたモニター
フェンリルの言っていることも
なかなか理解できるのが恐ろしかった
いつのまにか明るくなっていた部屋
部屋の入り口も空いていた
「どうする…?」
かえでが震えて今にも消えそうな声でそう言う
「まだ行ったことないけど、また気になる部屋があって…」
猫丸は全員を連れてまたあの最初の部屋に移動した
外に出るための出入り口は相変わらず塞がっていた
檻のようになった鉄の隙間から風で揺れる花が見える
「大きな音と声が響いてる部屋があるんだよね…」
猫丸のそんな一言に冷や汗をかく
そんな部屋がある建物に
今自分は閉じ込められているのか
白いワンピースに付いていた花びらを取る
それをぐしゃぐしゃに握って床に捨てた
その花びらはすぐに床に落ちた
---
「ほら、べりちゃんも行くよ」
ぼーっとしていて気付かなかったが
私はずっとそのまま立ち尽くしていたらしい
トトちゃんに腕を掴まれて一緒に部屋に向かった
フェンリルの言っていた音は通路にまで響き渡っていた
最初はガシャガシャと鉄格子を揺するような音
でも足音か何かでこちらの存在に気づいたのか
無機質な音は人の声と変わっていった
「誰かいるんですか!」
「助けて!!」
こんなところでなにをしているのやら
先に着いたわんこたちと何か話している
「えっあっ」
「あそこに鍵があるんです!」
聞く限り複数人いるらしい
男の人の声が2つ聞こえる
「ちょっと急ごう」
やっぱり先が気になるトトちゃん
「うん」
さっきより歩くスピードを早める
曲がり角を左に曲がると猫丸の背中が見え隠れしている
部屋の中に入るとそこは完全に牢獄のようだった
予想通り2人の男の人が入っている
私はもうそれが誰かわかっていた
なぜならまたあのネットの人ならということだ
多分、ミタマとレイトだ
なぜ2人してこんなところに入っているのかは見当もつかなかった
なにより1週間以上前からここに来ているわんこ達に
いままで助けてもらえずここに閉じ込められていたのか
そう思うと少し悲しくなってくる
「やっと出られた!!!」
「本当にありがとう…」
2人の容姿はネット上のアイコンと全く一緒になっている
やっぱり変わってしまうのだろうか
「ごめんね、もっと早くここには来てたんだけど…」
「あ、やっととか言ったけどここに入れられたの今日だよ?」
レイトらしい見た目の人がそう言った
「え?」
みんな困ったような顔でレイトとミタマを見つめる
まあ確かに1週間以上ここにいたら餓死なりなんなりしてそうだ
少なくとも今こんなに元気ではいられないだろう
意味のわからないで相方をした2人を連れて
ここを探索することになった
ジニア 第十二話
レイトとミタマは私たちと同様檻で流されてきたらしい
そこからの経緯が違ってなにかあったらしいが
なぜか2人とも思い出せないようだ
私はこの時点で思いつくことがひとつある
それはもう後2人でいつも私と一緒に話していた
あのネットの人たちが全員揃うのだ
なので、ここにはもしかしてここにいるのではないかと勝手に思っている
その2人というのはフレアとみぃなんだけど
この建物広そうだし…
「べりー?」
「大丈夫ー?」
フェンリルが肩をぽんと叩いて話しかけてきた
どうやらぼーっと考え事をしていたらしい
「あっ、大丈夫」
「どうかした?」
「そろそろ他のところも行こうかなって…」
「了解」
レイトとミタマの様子を見ていたわんことかえでがこちらを振り向く
「べりさんも行ける?」
「ここからは別々で行動する予定なんだよね」
わんこが指差した方向には3つの通路があった
今ここにいるのは8人
3つで分けるとひとつだけ2人になってしまう
「どう別れるかって決めてたりする?」
猫丸がわんこに寄りかかりながら言った
「2人でもいいよーって人いる?」
わんこが全員の方を向いてそう言った
その時綺麗に二つの手が上がった
レイトとミタマだ
隣にいる2人は顔を見合わせた
そして何かを訴えるような目でこちらを見つめる
それをわんこは無慈悲な目で見つめ返してこう言った
「いいよ〜そこのお二人さんねー♡」
「仲良くよろしくね〜?」
「ミタマだけは…せめて男はやめてくr((((((」
何かを言いかけるミタマにトトちゃんがビンタする
「あ、ごめん」
「なんかやってみたくなった」
「えぇ…」
「じゃあレイトとミタマを除いて6人!」
「どう振り分けるー?」
今度はフェンリルが仕切って立て直す
私が思うにこんな訳のわからない場所から脱出しなければいけないこの状況
ここのチーム決めはとても重要なもののように思えた
けれどひとつ
絶対に譲れないものがあった
「フェンリルと一緒がいいです!!」
私はフェンリルの目の前でこう言った
フェンリルは少し引いたような顔をしながらも
私の手を引っ張ってフェンリルの後ろへ移動するように促した
「よっしゃー」
小声でそう言い小さくガッツポーズをする
「あ…」
「僕わんこさんとがいいなー」
何か言おうとした猫丸を差し置いてかえでがわんこに話しかける
「え?嬉しい…」
わんことかえでは手を繋いでなぜかぐるぐる回り出した
その様子を白い目でレイトが見つめていた
ミタマはこの前かえでに告白されたことがあり
言えばお互いラブラブのはずなのだ
だがわんこにそれを切り離され落ち込んでいるのか
ミタマはかえでを少し涙ぐんだ目で見ていた
「私べりちゃんと行くー」
トトちゃんはそう言うとフェンリルの後ろにゆっくり歩いてきた
「僕もわんことがいいって言おうとしたんだけどね」
「なんか奇跡的に当てはまったね」
猫丸もかえでとわんこの間に挟まって回り始めた
わんこが説明をするために回るのをやめると猫丸とかえでは悲しそうに手を離した
これがてぇてぇというやつか
ジニア 第十三話
「えーごほん」
「1週間前に猫丸とフェンリルと一緒にここに来たとき」
「ひとつの通路は実は言うと少しだけ探索してあります」
「その結果、泳げる人じゃないとそこは無理だという判断なんですが」
「どこか良いチームないですか?」
「ミタマレイトのとこはまず論外として」
わんこのその発言に全員クスクスと笑い始めた
確かにレイトミタマが運動できるイメージはないが
あと、2人だからっていうことなのかもしれない
とりあえずのところ異論はなかった
「確かかえでって運動神経良いよね」
「泳げるかどうかは知らないけど…」
「運動神経はいいけど」
「うーん…」
「それにわんこがこう言ってるし、わんこのチームが行けばいいんじゃ?」
「少しは知ってる人がいたほうがいいでしょ」
「そっち2人もいるし」
先程までチーム決めでフルボッコにされていたミタマの反撃だ
だがそれは意外と理にかなっており反論もしにくい
「あいつやりやがったぞ…w」
トトちゃんがそう言うと満面の笑みを浮かべたミタマがくるりとこちらを向いた
「もーわかったよしょうがないなぁ…」
「じゃあ私たちは右側の通路行くけど」
「そのほかは何の下調べもしてないよ?いいね?」
それを言われるとそうなのだが
やはり不安になってくるのは仕方がない
「僕真ん中の通路なら少し行ったことあるよ」
「だから僕たちのチームでそこ行ってみてもいいかな?」
フェンリルはわんこの発言を捻じ曲げるようにして言った
わんこがどうにもかわいそうに見えてくる
「え、じゃあ俺ら左側確定?」
「てかほんとにミタマと一緒は無理」
「いやいやもう決まっちゃったしねぇ〜」
「なるほどBLCPか…」
それでもわんこはミタマとレイトの構成は変えなかった
何か意図があるのか
それとも謎の心理戦を繰り広げているのかはわからない
「あぁぁぁあああ!?!?」
突然すごい悲鳴が聞こえた
声の裏返った男の声だ
誰だろうとも思ったが周りを見渡すとそれはミタマだったらしい
ポケットの中に手を突っ込むなり叫んでいる
もしかしてあの球体にまだ気づいていないのだろうか
ポケットから引っ張り出したミタマの手にはあの球体がへばりついていた
コウモリのような羽に黒光りする陶器のような感触の球体だ
それを見たレイトもポケットに手を突っ込む
「俺もなんかいた!?」
レイトのはスーパーボールみたいなゴム質で
少しノイズのかかったSF的な羽が付いている
「あ、それね」
全員も次々その球体を出していく
わんこ達も持っているようだ
トトちゃんとかえでに目を合わせてうなずくと
2人も球体を取り出した
流れに乗って私のポケットの球体にも手を伸ばす
待ちくたびれたとでも言おう仕草で羽を伸ばして飛び立つ8匹の球体
全員デザインが違って見ているだけでも少し面白い
誰の 球体部分 主な色 あれば模様 羽
beri 金属 白色 金色と青色のライン 白い鳥のような羽
トトちゃん 綿 紺桔梗色 下から紫のグラデーション 茶色っぽい猛禽類のような羽
かえで 木 茶色 茶色のハートマークがひとつ雀のような薄茶の羽
わんこ 和紙 藍色 特になし 針金をつなぎ合わせたような羽
フェンリル ガラス 水色 少し濃い水色でライン フワフワのホログラム
猫丸 木など葉っぱ黄緑色 特になし クローバーの葉
ミタマ 陶器 黒色 赤色のライン コウモリのような羽
レイト ゴム質 オレンジ 特になし ノイズのかかったSF的な羽
めちゃ時間かかったぞこれ…
ジニア 第十四話
そうして色々話し合った末
僕たちは3チーム(ひとつだけペアだが)に分かれた
僕は真ん中をべりとトトちゃんと一緒に行くことに
「じゃあみんな無事でいてね…」
「何かあったらまたここに帰ってくるんだよ!」
「うん…!」
このときはまだ全員笑顔で
見える希望に向けて歩き始めていた
僕が今こんなことを言うってことは?
そう、もう察してくれ
僕は前に真ん中の通路に来たことがある
あるが、それは悲惨なものだった
今歩いている通路の先には鉄の棘が床中に敷き詰められた
血の匂いが漂う部屋に繋がっている
そのことはずっと黙っていた
棘の部屋には空中に浮かんだ板があったはずなのだが
それに乗っていくと1人しか渡れない
なぜなら板は小さく1人しか乗れないくせに
向こう側に板を滑らせると突然燃え始め消える始末
これには当時の僕も驚いた
だってそのとき板は3枚あったから
そのうちのひとつを僕がダメにしてしまったせいで今は2枚しかない
2人行かせてのこりの1人は
わんこ達の方かレイトやミタマのほうに行かせるべきかもしれない
正直言って僕はどちらに行きたいかと言われると
板に乗りたいほうだ
もうそろそろあの部屋が見えてくるはず
僕の歩くスピードは明らかに落ちていった
2人になんと言おうか
だんだん僕と2人の距離が離されていく
「フェンリル…ここであってる?」
「嘘でしょ…」
「う、うん」
「誰が行く…?」
「え?誰が行くってどう言うこと?」
「あ!わんこー!!」
そこで気付いた
べりとトトちゃんは僕が見ていたあの光景とは全く違うものを見ているらしい
わんこと呼んでわんこらしき声でなんだ会えるのかと帰ってきたことからも
何かおかしい
僕はべりとトトちゃんに追いついて部屋を覗き込もうとする
だが床がなかった
厳密に言えば途切れていて
今は大きな水飛沫を上げて水に落ちている
「ふぁっ!?」
「フェンリル!」
ここはわんこの言っていた場所に違いない
繋がっていたのかもしれない
それより口の中に水が大量に流れ込んでくる
学校でプールの授業とかやったことない
泳いだことがほぼない僕は泳げなかった
右側に水飛沫が上がったかと思えば僕の腕は誰かに握られている
べりだ
「フェンリル捕まえた!」
水に浮いている発泡スチロールみたいなものの上に僕は上げられた
トトちゃんが立って見ているあの通路へは高さ的に戻れなさそうだ
今通路の先には僕とべり、そして今わんことかえでが飛び込んでいる
ミタマとレイトの姿はどこにもなかった
ジニア 第十五話
トトちゃんと猫丸だけが水に飛び込まずに見守る中
わんことかえでが見事な泳ぎでこちらまで来てくれた
ぷかぷかと浮かぶ発泡スチロールは
一辺3m程度の正方形
そこに4人今乗ろうとしている
「私泳げるからちょっと浮いてるね」
わんこがそう言って発泡スチロールから離れて3人を見守る
フェンリルも大丈夫そうだった
ただ私はなにかを見つけてしまった
2mくらいの深さはあるであろう水の中に
深く沈んだ人のようなもの
私は叫ぶことも何もせず
ただそれをじっと見つめていた
「べりさんどうしたの?」
かえでが問いかけてくる
多分今私は相当悪い顔をしているのだろう
そりゃあ水死体なんて見つけて笑ってたらただのやばいやつだ
「かえで…あそこ…」
「んえ?」
私が見ている視点に近づこうとかえでがこちらに寄ってくる
波打つ水面に見え隠れしてそれは明らかにそこにあった
「うわっ…」
「わんこさんこっち上がって…早く…!」
「え?」
「下見てよ下!」
わんこの位置からだとすぐ見えたのだろう
それを見るなりわんこは慌てて発泡スチロールの上に飛び乗ってきた
「なに…あれ…」
困惑する私たちの様子が気になったのか
トトちゃんが降りても良いかと聞いてきた
良いわけがないだろう
ここに死体があるのに
だが私は言わなかった
「降りてきちゃだめだよ」
「絶対」
「う…うん?」
猫丸も同様だ
それより早くこの先に進まなければ
こんなものの近くに長くはいたくない
「なんだろーこれ」
だいぶ落ち着いた口調でトトちゃんは壁を指差した
何かボタンがあるらしい
「僕の方にもあるよ!ボタンだよね?」
「さっきは押しても何も反応しなかったんだけど…」
「同時に押してみる?」
「おっけー!」
「さん!」
「にい!」
「いち!」
10年若返りしたんですかとでも言いたいような数え方をして
トトちゃんと猫丸はボタンを押した
あまりにもそれが面白いので死体のことなど忘れて私達は笑っていた
「えいっ!!」
2人が勢いよくボタンを押した
その瞬間後ろから水が吸い込まれるような
大きく太い音が響き渡った
今フェンリルが何か言っているが
それも水の音に隠されて聞こえないほどだ
もしかしてと思い水位を見てみる
最初よりだいぶ減ってきている
でもこのままだとトトちゃんや猫丸が降りて来られなくなってしまうのではないか
すごい勢いで減っていく水位に驚きながらも私は叫んだ
「降りてきて!!!」
トトちゃんと猫丸は返事もせず水に飛び込んだ
でもその頃には水はほとんどなくなっており
あの問題の死体がそのまま露出していた
しかもその場所が最悪だ
「なに…これ…」
https://files.mattyaski.co/null/34d193e7-ca23-40b5-bbb7-7866873c1fac.jpeg
べりです
今他の人たちも書いておりますお待ちください
ジニア 第十六話
トトちゃんの足元にはあの水死体が転がっていた
ちょうどその場所を踏んでしまったらしい
しかも水が抜けて全てが露わになったこの部屋は
あの池の水全部抜いてみたみたいになっている
つまり何が言いたいかと言うと
死体はひとつではなかった
あまり目が行っていなかった後ろの方にもたくさん並んでいる
四肢が欠損していたり
ところどころ溶けて無くなっているようなものもあった
驚くことに匂いは一切ない
いろんな服を着た男の人や女の人
小さい子供からかなり歳をとった老人まで
無差別にここに沈んでいた
「ゔっ…」
かえでが口を押さえて下を向いている
まぁ無理もないだろう
トトちゃんももう来る必要のない発泡スチロールの上に乗ってきた
「なにこれ…もう…」
ここから考えられることがある
ここに来たのは私たちだけじゃない
そのずっと前から何人もの人達がここで命を落としたのだろう
今の水だけが死ぬ要因になるのはよく分からないが
「先行こう」
「ずっとこんなところいたくないよね」
諦めかけるトトちゃんにフェンリルは優しく声をかけた
「そうだね」
「あと、水が抜けて見えたものはこれだけじゃないよ」
わんこが指差した先にはさっきまで見えなかった通路が見える
水はあそこから抜けていったのだろうか
もしそうならあそこにも…
そんなことを考えるのはやめて
かえでの手を優しく握って前に進む
トトちゃんは先陣を切って行った
たくさんの死体を踏み分けて進む姿はどこか強者に見える
この中に混ざることなく絶対に脱出してみせる
そんな強い意志を感じた
私はその後ろをフェンリル、猫丸と共について行った
その頃からだろうか
前へ前へと進める足が重くなる
視界もぼやけている
トトちゃんとわんこ、かえでが通路に吸い込まれていくように渦を描いている
額には冷や汗が流れ
そこから全身に力が入らなくなりその場で倒れた
「べり!?」
「べりさん!?」
曇ったガラス越しにフェンリルたちの声が聞こえる
凹凸のある床に溜まった水で服が濡れていくのを感じる
意識はずっと保ったままだった
こんな状況で倒れるなんてことそうそうない
真横に並んだ死体の顔がこちらを向いている
黒い布のマスクが何故か頭に縛り付けられている不思議な死体だ
こんなものと目を合わせていたくないが
自分でどうにかすることさえできなかった
そして自分なりにどうして倒れたかを考えてみる
少し全身に感覚を巡らせると腹部に痛みを感じた
私の倒れた水たまりは赤く染まっている
そして倒れた衝撃で出てきたあの球体の片翼も赤く染まっていた
やがて瞼も重くなりそのまま目を閉じる
いつの間にかフェンリルや猫丸の声も聞こえない
何か考えることもままならなくなってきた
ジニア 第十七話
--- その頃レイトミタマチーム ---
「男同士とか辛すぎ…」
「なんでこんなことになったんだ…」
「次合流したら即チーム変えしたいわ」
なぜかずっと気まずくなって何も話せないかと思っていたが
意外と話のネタはあった
まあほとんどチーム決めに関する愚痴だったが
それでもミタマとは一緒に捕まった仲(?)なので
なんとか会話を持たせることくらいはできた
「なんか水の音聞こえね?」
「気のせい?」
「向こう泳げる人がいいとかなんとか言ってたしそれじゃない?」
「こっちもはやく次の部屋を見てみたいもんだけど」
次の曲がり角で多分曲がり角4つ目くらいだろう
ここは何もない通路が無駄に多い気がする
「流石にそろそろ着いてくれよー」
ミタマはそう言いながら俺より先に曲がり角を曲がった
なかなか返事がないので俺もミタマの後をついていく
そこから見えた光景は
少し大きく縦長の子供部屋に棘が沢山敷き詰められており
何故かそこに木の板が2枚浮いている
どうして浮いているのかということよりも
その針がどうも赤黒く輝いていることを疑問に思った
「これもうすでに…」
「死んだんだろうな」
「木の板2枚あるけど」
「これ上に乗ってけってことでいいよな?」
そんな単純で済めば良いけど
こんなに被害者が出るくらいなのだからちょっと特殊なギミックでもあるんじゃないか
ためしに板に触ってみると少しだけ沈んだ気がする
空中に浮いているのにまるで水面を浮いている感じだ
「本当に乗れる?これ」
確認を取ったがミタマは何も気にせず板に両手をついて上に乗ろうとする
「あー全然余裕」
「いけるいける」
ミタマが乗った板を向こう側に押し出して滑らせる
少し傾いたりしながらもミタマはなんとか板から落ちることなく向こう側に着いた
不思議なことにいたは向こう側についた瞬間消えた
問題はここからだ
俺がミタマを押した代わりに俺を押す人はもちろんいない
つまりほぼ詰んだ
「頑張って、近くまで来たら俺が引っ張ってあげるから」
ミタマはそう言うが
まず板に乗ろうとする時点でフラフラ揺れるせいで乗るにも乗れない
ミタマがやっていたように両手を板について
跳び箱みたいにして体を板に乗せる
その勢いで板が少し前に進む
下にずらりと並んだ棘を見ると自然と腕に力が入った
「レイトもうちょっとこっち来てくれないと届かないよ…」
板の端を両手で握って少しずつ揺すりながらミタマに近づく
これくらいしか進む方法が見つからなかったが
他から見るとだいぶださい
「よっしゃ捕まえた!」
棘の尖っていない部分に右手を付いて
もう左の手で俺の乗っている板を掴む
だがそのまま引っ張っているうちに右手が滑ってミタマのすぐ下にあった棘が突き刺さる
ミタマが下がったときの勢いで板は無事反対側まで着いて消滅する
次の部屋への通路へ無事行くことができたが
そんなことよりミタマが大丈夫じゃない
鋭い棘はミタマの右胸を突いていた
深さは10cmくらいだろうか
すぐに棘からミタマを離す
右胸を抑えるミタマの左手は紅に染まっていった
ジニア 第十八話
倒れ込むミタマを引き離し背中に背負う
ミタマは唸り声を上げながらも必死に掴まってくる
わんこ達と合流できればいいのだが
今の俺には何もできなかった
出来るだけ早く足を進める
次の部屋までの通路はあとどのくらい続くのか
そんなことに集中していたから聞き落としていたのかもしれないが
少し意識を逸らした隙に何やら声が聞こえる
「うわここひっろ…」
疲れ切ったトトちゃんのような声だ
何かあったに違いない
「とりあえずここに寝かせて…」
わんこの声も聞こえてきたことから
もうトトちゃんのチームとわんこのチームは合流していたことを察した
わんこ達にミタマをどうにかしてもらおうと急ぐ
ちょうど角を曲がったところで
フェンリルの羽織っていたロングコートがちらりと見える
「フェンリル!」
俺は半分自動的にそう叫んだ
「レイト!?」
「ミタマどうしたの!」
奥にいたトトちゃんやかえで、猫丸もこちらを振り向く
かえではすぐこちらに来てミタマがまだ意識を保っていることを確認している
そしてべりがいないことに気付くと何かが目に入る
白いワンピースは一部赤く変色している
俺は受け入れることができなかった
その場にミタマを下ろすと走ってその場へ向かった
「べりは…?なんで…?」
「なにがあったの…?」
「大丈夫まだ生きてるって」
「慌てないで」
トトちゃんが一緒にしゃがんでそう言った
まだひとつの部屋しかクリアしていないのに
もうすでに2人も負傷者が出ている
わんこは何やら小さな箱を取り出して
何かの医療道具や包帯を手に取った
わんこがべりに何かするのは見ない方がいいなと察して
ミタマを心配するかえでと猫丸の方へと移動する
「ミタマさんどうしたの…?」
「棘だらけの部屋があって…そこで…」
「え?棘だらけの部屋が?」
フェンリルが何かを聞きつけたようでこちらにやってきた
「僕間違えてたんだ」
「真ん中の通路が棘の方だと思ってた…」
「でもよかった、板2枚しかなかったよね」
「うんまぁそれはそうなんだけどミタマがね…」
「ん"ん"っ…」
ミタマが少しだけ瞼を開ける
その瞳にかえでが映り込んだ瞬間口角がふわりと上がる
「俺は大丈夫だよ…」
「かえでは怪我してなくて…よかった…」
ここまでなっておいて他人を心配できるところは少し尊敬だ
わんこはべりの手当てが終わったのかミタマのところまで走ってきた
「うわぁ…だいぶひどいねこれは」
「べりさんと同じくらいやっちゃってる」
「え?べりとこれが同等なの?」
「うんw」
お互い結構な怪我をしていたらしい
まああそこまで血が出ていればそうだろう
べりはまだ目を覚まさなかったが
べりに至っては原因がよくわかっていないらしい
ミタマの手当ても終わってひと段落した頃それについての議論が交わされた
ジニア 第十九話
「そういえばべりさんのこれ動かなくなったんだよね…」
片翼に血がついたあの球体を猫丸が差し出した
試しに血がついていない方の翼をわんこが触る
「いって!?」
わんこの伸ばした人差し指から軽く血が伝って落ちる
まるで球体の翼がナイフのようになっている
「絶対これが原因じゃん…」
かえではそう言うと自分の球体をポケットから取り出した
取り出した球体は辺りを飛び始め
やがてかえでの手の中に収まった
かえではその球体を優しく撫でてあげた
「やっぱり僕のは問題ないんだけどなぁ」
「なんでべりさんのやつだけ危ないんだろう?」
俺の球体も取り出してみたが
ほぼかえでと同じような挙動をした後
自分からポケットへ吸い込まれるようにして戻っていった
ゴム質の球体は無性に投げたくなる
スーパーボールみたいに弾みそうだ
そんなことを考えているうちにべりが起き上がる
「あ、べりちゃん大丈夫?」
トトちゃんがそっとべりに駆け寄る
俺もその後をすかさずついていく
「ん〜?あれ?私どうしたの…?」
上半身だけ起こしたべりは目をぱちくりさせながら周りを見渡している
ぽかりと空いた口がべりの心情をそのまま映し出している
べりの目線はそのまま自分のワンピースに落ち着いた
「えっ?えっ???」
まるで本当に頭の上にはてなマークが浮かんでいるようだ
(これじゃあどう◯つの森である)
「べりさん怪我してたんだよ?覚えてない?」
「えっと倒れたところまでは…」
かえでや猫丸もべりを心配して集まってきた
「多分この球体に刺されたかなんかしたんだと思うんだけど…」
猫丸がそう言ってべりの球体を床に置いたままべりのいるところまでずらす
べりはそっとワンピースの赤くなった部分に手を置く
「いてっ…」
そのまま反射で手を離ししている
こんな様子じゃあ移動なんてできないだろう
それにしてもべりをこのまま1人だけ置いていくわけにもいかない
ミタマだって連れて行くにも少し不安が残る
わんこがまた例のあの箱からひとつ小指サイズの瓶を2つ取り出す
それをミタマとべりに手渡した
「飲んでおいて」
「痛み止めだった…はず」
「あとはやく治る」
「わんこのその箱は何?」
「気になってたんだけど」
トトちゃんがわんこの茶色い本当に筆箱くらいの大きさしかない箱を指さしてこう言った
「トトちゃん達と会う前に拾ったんだよね」
「中に入ってるものが尋常じゃないくらい有能なんだけどまぁ少ない…」
「1週間のうちにあったことって結構あるんだよ」
「猫丸もフェンリルもなかなかの物持ってたはずなんだけどね…?」
「あーね」
「あれのことか」
わんこにそれを出すよう催促されてもフェンリルは適当な返事をして流した
猫丸は何やら片手で握れるほどの大きさのクリスタルを持った
それを少し上に掲げて説明を始めた
「これを使えばなんと最初の部屋に戻れちゃうんです」
「指定した人だけをあの大きな部屋に移動させられちゃう優れもの!」
「…まだ一回しか使ったことないけどね」
「あの僕たちが必死に集めた食糧庫もあの部屋から繋がってるし」
「絶対行く必要は出てくるよね」
「でもまたここまでくるのだるいわぁ」
「って、思いますよねぇ??」
猫丸が少しうざい広告のように説明をしている
何故かツボったのかべりはくすくすと笑っていた
「これ、確か来た部屋までは戻れます」
「それに関してはやったことないけど」
じゃあなんで知ってるんだよと言おうとした
猫丸は自分から言ってくれた
「何故知ってるのかって?」
「わざわざご丁寧にメモ用紙が貼られてあったからですね()」
皆ちょっとがっくりした反応をしている
そんなに溜めるならもう少し面白いものを自然と期待していた
「てなわけで…お腹すいたよね」
「戻ろっか?」
「うん確かに」
「ここ来て何も食べれてないや…」
今まで少し暗かった皆の顔に少しの笑顔が浮かんだ
これでも猫丸の努力なのだろうか
もしも以下の方服のデザインの希望があればください
フレア
フェンリル
猫丸
わんこ
ジニア 第二十話
べりとミタマはあんなにはやく治りきるわけがないのでそのまま待機することに
その付き添いとして僕とわんことレイトは残ることにした
特にミタマの怪我はひどく
わんこの箱から色々なものが飛び出した
「えーっとこれとこれとこれが…」
「それ全部ミタマに飲ませる気?」
「それだけでお腹いっぱいになっちゃいそうだよ…」
「だってミタマ思ったより傷深いんだもん」
「貫通してないだけマシってところ」
ところでわんこのアイコンはまんま狼のような犬のようなものだったが
今ではきちんと人型で犬の耳や尻尾も生えていない
そういえばレイトも猫耳やらがついていたが今はない
なのに僕はどうだろうか
フェンリルという神話の狼のアイコンだが
水色の狼の耳が生えてふさふさの尻尾までついている
嫌いではないが違和感がすごい
似たもの同士のかえでとは仲良くできそうだ
「はいじゃあミタマこれね」
「えぇ」
そう言ってミタマの目の前には5つほどの小瓶が並べ立てられた
瓶は透明なものから茶色のものまで
中身が見えているものはとても飲む気になれない色をしている
「べりさんは切れてるだけだからいいけど」
「ミタマはひどいからね…」
それにしても飲むだけであんな傷直せる方がすごい
「おかげでもうあんまり箱の中は残ってないけどね…w」
「お、おぅ…」
ミタマはだんだん瓶から遠ざかっていく
「こらーだめだよ〜?」
わんこは置かれた瓶をひとつ手に取る
蓋を指で弾くように開けるとミタマの口に押し付けた
「だめだわんここういうの好きじゃん…」
レイトが思わずそう言うとわんこの口角が大気圏に投入した
「ゔっ…」
「まっず…」
わんこはそんなミタマを見てニヤニヤしている
そしてわんこそばのようにして次々瓶をミタマの口に流し込む
わんこだけに
そして急にクリスタルが出現し縦になぞるような挙動を描く
そこから話し声が聞こえてきて猫丸達が変えてきたことを察した
クリスタルで切り裂かれた空間から猫丸がひょっこり顔を出す
「ただいまー!」
猫丸とミタマで目が合う
少し涙目で瓶に入っている液体を流し込まれているミタマを見るなりなんなり
猫丸は少し引っ込んでこう言った
「あ、今はやめといた方が良かったですかね…」
「変なことしてねぇわ!!!」
猫丸はわんこにそう叫ばれるとくすくす笑いながら出てきた
その後ろに続くトトちゃんとかえでの手には缶詰や鍋などの料理道具
薪などもかかえて出てきた
「大丈夫?持つよ」
僕はかえでの持っていた薪を受け取り
そっと一本ずつ床に置いた
かえではマッチを擦って薪に火をつける
トトちゃんは缶詰の中身を鍋に移した
その間に猫丸は長い木の棒を縄で縛って作った鍋をかけるようなものの足を広げて
焚き火を中心にして設置する
そこに鍋をかけてぐつぐつと煮込んでいる
灰色のコンクリートだけの部屋が少し豪華になった気がした
そして焚き火は時間の経過とともに薄くなって行く地味に手の込んだ照明の代わりになった
ぼんわりと暖かい炎の光が部屋を満たした
ジニア 第二十一話
ぼんわりと暖かい炎の光が部屋に満ちた
そこを全員で囲んで背中に影を作っている
鍋の蓋をそっと開けてわんこがお玉でくるくるとかき混ぜる
トトちゃんはわんこの近くでそれを見ていた
「いてっ」
突然僕の頭に何かがぶつかる
次の瞬間床に猿のぬいぐるみが転がっていた
よく見ると首の部分がほつれてわたが飛び出ている
「なんだこれ…?」
そのぬいぐるみを拾い上げる
ミタマやべりがそのぬいぐるみを覗き込んだ
「えーかわいい」
「お猿のジョー◯やん」
「おいやめとけ最近は著作権というものがな…」
急に知らない声が聞こえる
後ろを振り返ると背の高い男が1人立っていた
「うわぁ!!!」
咄嗟にそのぬいぐるみを投げつける
見事に外れて壁にぶつかった
その勢いでお猿のジョー◯の首は悪化し
もう糸だけで繋がっているような状態になってしまっている
「お去るのジョー◯で草」
べりが何かうまいこと言ってるがそんな場合ではない
その男は知らぬ間にわんことトトちゃんの元へ歩いていた
「おいしそー」
「えっ?誰!?」
「あれ???」
「もしかしてトトちゃん??」
「なんで分かるん???」
「いやだってアイコンとまんますぎて…」
「てかよく見たらみんないるじゃん」
「なにがあったの」
「いやこっちのセリフなんですけどー!」
全くもってトトちゃんの言う通りである
フレアと名乗る男は首の取れかけたお去るのジョー◯を拾い上げる
「君たちどうやって来た?」
「俺今まで誰とも会ってこなかったんだけどなんでここにこんな大人数いるの」
「許さん」
何があったかをわんこが丁寧にフレアに話した
1番最初の檻のこと
まだべり達にも話していない1週間のこと
そしてべり達と合流した時のこと
全部を話した
「へぇ…」
「フレアはどうやって来たの?」
「本当に今わんこが言った通り」
「ただ俺の場合来る時ここ開いてたんですけど」
「え?開いてた?」
「は?」
どうやらフレアが言うにはここアネモネのラボは入り口が空いていて
そこから勝手に今さっき入って来たところらしい
「入って来てどうやってこの部屋まで来たの?」
「えーなんか死体いっぱい並んだでかい部屋通って来たが」
「もうあそこは一生通りたくないな」
「あーね…」
おそらく水の部屋からここまで来たんだろう
確かにフレアの歩いた後は湿っていて
灰色のコンクリートが濃く変色している
「というかもうここまで来たらみぃもいそう…」
「いない方がおかしいんじゃない?」
というわけでとりあえずはここからの脱出より
みぃを探すことが優先された
一体この広いラボのどこにいるのだろうか…
ジニア 第二十二話
「誰もここにいる人以外の人間見てないよね…」
「あの変なモニターの人は除外して」
「見てないなぁ」
「モニターって?」
わんことフレアがスープをお椀によそいながら話している
「フレアに案内しないとね」
わんこが最後のお椀にスープをよそってフレアに手渡した
フレアはわんこにお礼を言うと焚き火の周りを囲む私たちの輪に入った
ちょうどかえでとトトちゃんの間だ
(この順番、かえで→トトちゃん→べり→フェンリル→猫丸→レイト→ミタマ)
「ではいただきます」
並々と注がれたお椀のスープにスプーンを漬ける
ポタポタとスープを垂らしながら口元までスプーンを運ぶ
缶詰の割にしっかりしていてとても美味しい
味は甘い芋類にきのこやにんじんを入れたポタージュだ
すごくまろやかで暖かくて
湯気が顔をなぞるのがなぜか好きだ
「めっちゃおいしいねこれ」
「残念ながらもうこの缶詰はないんだけど」
「後何があったかな…」
猫丸の話を聞く限り
例の1週間の間では墜落した飛行機や沈没船
誰もいないキャンプ場などにも行ったらしい
何もわからない状態でここまで行動した猫丸達には感謝しかない
だって今こうやってご飯が食べられるのもそれのおかげなのだから
食べ終わったお椀は猫丸がまた部屋移動をして最初の部屋に戻って洗った
なぜか水道ひとつは通っているらしく
わんこはそこで空いた瓶に水を入れた
「じゃあ行こっか」
「最後の1人、みぃさんを探しに」
かえでがかっこよくそう言ったは良いものの
1人増えたことによるチーム替えが課題となった
一応、怪我をしている私とミタマは別チーム確定演出だった
「あの男だけのチーム作るのやめてください死にます」
レイトからそう苦情が入ったので今のチームのまま
レイトミタマチームにフレアを突っ込むだけということはなくなった
殴り合い蹴落としあった議論の末チームはこうなった
Aチーム
トトちゃん
わんこ
フレア
Bチーム
かえで
ミタマ
猫丸
Cチーム
べり
レイト
フェンリル
Cチームが色々荒れそうな気もするが気のせいだろう
私が絶対にフェンリルとがいいと言ったのと
レイトが私とがいいと言ったせいでこんなことになっている
無事やっていけるかは少々心配であるが流れに身を任せよう
「じゃあどこがどのチームに合ってるかくらい合わせておきたいから」
「最初は3つの通路の先の部屋の下調べ行こうね」
「はーい」
こうしてまずは下調べから始まった
それぞれチームの代表で1人がひとつの通路を調べに行く
Aチーム代表はフレア
Bチーム代表は猫丸
Cチーム代表は私
最初から初めてのフレアを1人行かせるのは不安しかない選出だけれど
決まったならしょうがない
私は右側
フレアは真ん中
猫丸は左側の通路を調べることになった
ジニア 第二十三話
別の道へ足を踏み入れるフレアと猫丸を横目に見ながら
自分は右側の通路に向かって歩く
もうこの長い通路は正直飽き飽きである
そしてまだ微妙に腹の傷が痛む
歩くたびにズキズキするが
それくらい我慢できる
何より早く様子を見て帰って
フェンリルとレイトを連れて行く方がいいだろう
通路が少し暗かったのでポケットからあの球体を出そうと手を突っ込み漁る
何もその手に触れるものはない
そういえばあれは危ないからって置いてきてしまった
しょうがないのでそのまま薄暗い通路を進む
面白いことに自分がいるところから先はだんだんと暗くなっている
もう奥は見えない
ここから引き返すか
それとも様子だけ見るだけで良いのでこのまま進むか
私は後者を選んだ
でも想像通りやがて何も見えなくなり
たまに壁にぶつかりながら歩く羽目になってしまった
そのたびそのたびに傷が痛む
やがて我慢ならなくなった私はしゃがんでほぼ四つん這いで進むことにした
そしてしばらく進んだ後
ひとつの灯りが見える
それは本当に小さな光でよく見なければ見逃してしまうほど
「綺麗だなぁ…」
小さな光なのになぜ目を惹きつけられる
私は半分無意識にその光へと歩き出していた
プシューーーーー
どこかから何かが漏れ出すような音が聞こえた
すぐ異常を感じた私は後ろを振り向き引き返そうとする
そしてさっき通ってきた道にシャッターが降りていた
さっきからずっと甘い匂いがする
どこか気持ち悪いが
嫌いな匂いではない
頭がふわふわする
その頃には傷の痛みが消えていた
深く息を吸い込むと全身が甘い匂いに満たされる
酸素が全て甘い匂いにすり替えられているような気がして
私は過呼吸のようにしてそれを吸っていた
だんだんと睡魔が襲ってくる
こんなところで寝たらまずいことくらい分かっている
はやくこの状況を全員に伝えなければいけない
私は目を擦りながら
降りたシャッターの下部分を持って上に持ち上げる
それは意外と簡単に開いてすぐ戻ることができた
私は全力ダッシュで来た道を戻る
手を前に伸ばしながら壁を感じ全て避けてきた
「みんなぁっ!!」
私のその第一声に反応する人はいなかった
厳密に言えば誰もその場にはいなかった
焚き火の跡すら残っていない
これは絶対部屋を間違えている
どこで間違えてきたのだろう
分かれ道などなかったはずだ
そこで私は気付いた
今、自分は夢を見ている
自分から目覚めることはできない
そういえば痛みも何も感じない
あの時からか
あの甘い匂いのせいで私はあの時寝てしまったのだろう
今私がここでできることはあるのだろうか
わけもわからない自分の脳内で形成されたこのアネモネのラボを探索したところで意味なんてない
ただ私はそこで1人の少年を見つけた
「君は…誰…?」
「僕はみぃだよ」
「!?」
私の夢の中にみぃがいる
いつのまにか意識が薄れて戻る頃にはその少年は消えていた
あのうざいほど見た灰色のコンクリートもなくなっており
無限に続く白い地平線が目の前で揺らいでいた
ジニア 第二十四話
「どこに行ったの…?」
私はみぃと名乗る男の子を探した
全く記憶にない構造の通路を探したり
そこを通り抜けて次の部屋まで行って探したりした
途中から視界がだんだん掠れ始める
そろそろ夢から覚めるのだろうか
気付いた時には私はあの部屋にいた
焚き火の跡が残っている
間違いなくあの部屋のはずなのに
そこには誰もいなかった
もしかしたらフレアか猫丸になにかあったのかもしれない
フレアが行ったはずの真ん中の通路に目を向ける
ちょうど少し進んだところの曲がり角で1人男の子がこちらを見ていた
あれは確か
夢で見たあの男の子
あの時はそこまで気が回らなかったが
大きめの黒い猫耳付きパーカーをだぼっと着ている
「みぃ…?」
「べりさん…僕…」
確かにこう聞こえた
そしてみぃは少し下を向いて話を続けた
「みんなは…どこ…?」
「え?みんな?私も知りたい」
「一緒に来る?」
「みんなもみぃのこと探してたんだよ」
「行きます…!」
みぃはにんまりと笑ってこちらに走ってきた
大きなパーカーを着ていて気付かなかったが私より背は高いくらいだ
猫丸と同じくらいの155cmほどだろうか
私は152cmなので別にそう変わりがあるわけでもないが
よく見れば左手に赤い球体を握っている
見ただけだとアクリルのように見える
翼は赤色やオレンジ色のビーズを糸に通して繋いだものと言えばいいだろうか
とても綺麗だ
「べりさん?どこ見てるの…?行こう…?」
「へっ変なとこ見てないよ!?!?」
「うん行こう!!!」
やっとの初対面なのにただの変態だと思われたらたまったもんじゃない
(そうだけど)
さっきのこともあって危なくても私は自分の球体をポケットにしまった
何も言わずにどんどん奥へ進んでいく私に
みぃは半分走ってくるようにして付いてくる
私が行った右側の通路のようにだんだんと暗くなってきたので
ポケットから球体を取り出して灯りをつけてもらう
とてもその姿は私を刺した球体には思えない
それに続いてみぃもあの赤い球体を飛ばした
二つの灯りが交差する中フレアのいた痕跡を見つける
少しくぼんだところに溜まった泥に靴の跡が付いている
ひとつだけだ
たまたまここを踏んだのが1人だったのかもしれないが
ここにいるのはフレアだけな気がしてならなかった
その予想は的中した
向こう側からふわふわとひとつの灯りが飛んで見える
おそらくフレアの球体の灯りが見えているのだろう
何気にフレアの球体は見たことがなかったが
見える範囲で伝えるなら
あの角のたくさんある消しゴムに
緑色の炎のような翼が揺らいで付いている
結構かっこいい
「お、べりー!」
「フレアじゃん!みぃ見つけたよ!」
「はっや」
みぃは私のすぐ後ろに隠れてしまう
私はフレアだから大丈夫だよと言うとやっと出てきてくれた
「みんながいないんだけど知ってる?」
「いや知らん」
「この先行き止まりだし左側の猫丸のほう行こう」
「あーい」
学園パロの方は書き溜めがありますので
テストが近づいて来たら出そうと思います
これからもよろしくお願いします
ジニア 第二十五話
猫丸の方の通路は意外と短かった
そしてたどり着いた部屋で
全員が立ち止まっていた
「どうしたの?」
「何があったの???」
「あ、べりちゃんとふりゃおかえり」
「ここトラップだらけでさぁ」
「とても奥に進めそうにないんだよ」
「猫丸からヘルプきたから全員ここにいるってわけです」
トトちゃんが冷静に説明してくれた中
猫丸は壁に服を棘で貫かれ
大の字で固定されていたり
レイトに関しては絶対ヒントがある系のパスワード入力ボードに適当に文字を入力して
全てブーという音が鳴って返されている
ミタマはその様子を眺めていた
「あ、みぃいたんだよ」
「ほら」
また私の後ろの隠れていたみぃをトトちゃんに見えるように前に押す
みぃは少し頭を上に上げてトトちゃんだということに気づく
アイコンと同じ見た目をしているだけでどれだけ助かったことか
みぃはトトちゃんと目を合わせてこう言った
「僕、みぃです」
「トトちゃんお久しぶり…?」
「うわーかわいい」
「しょたじゃん」
「べりちゃんが好きそう」
「え!?!?」
そんな会話をフレアは遠目で見ていた
だがその中猫丸を助けようとしていたかえでとわんこもトラップにかかる
2人もうまい具合に服を刺されて壁に貼り付けられている
どうやら床がスイッチになっているらしく
2人が今乗っている床を押し込むことで棘が出るらしい
「かえではそこから一歩下がって」
「わんこは前に出て猫丸にジャンプしてもらって押し飛ばして」
フェンリルがなかなかに高度な指示を出す中全てやってのけた
3人が解放されたかと思いきやフェンリルまで床を踏んでの繰り返しをしている
その間もずっとレイトのほうからブーブー聞こえていたのに
途中からガチャっという音が聞こえた
「え!w」
「いけたんだけどw」
「ノーヒント強すぎだろ…」
「一応考えはしたんだよ?」
「これがこうであっちがこうだからそっちがああで…」
一生続きそうな説明をしているレイトを追い越し開いた扉に全員で乗り込む
こっちが正解の通路だったらしい
私の行った通路はなんだったものか
「俺たちもなにかしなきゃだな…」
眺めていただけの私やトトちゃん
みぃに聞こえるようにフレアが言った
ただ次の部屋は今回とは訳が違った
いつもと同じ通路を通り抜けて部屋に着くと思っていたら
両脇に深い深い穴が空いた細い一本道に
巨大な鉄球がぶら下がっており左右に揺れている
しかもひとつではなくいくつか連なっている
運動会で使うような大玉転がしの玉がぶら下がっている感覚だ
「これ誰から行く…?」
やる気で1番最初に進んで行ったかえでも後ろに引っ込んでしまった
まぁそうなるだろう
こんなところ1人ずつしか行ける訳ないが
10人全員が向こう側にたどり着くことは相当難易度が高い
何か他の道はないものだろうか
ただ今かえで製作中
ジニア 第二十六話
やる気で1番最初に進んで行ったかえでも後ろに引っ込んでしまった
まぁそうなるだろう
こんなところ1人ずつしか行ける訳ないが
10人全員が向こう側にたどり着くことは相当難易度が高い
何か他の道はないものだろうか
そこでひとつ
あまり得策ではないかもしれないが思いついたことがある
この前怪我をしたこの球体だが
これなら上の部分のロープだけを切って鉄球の動きを止められるのではないだろうか
「この球体投げてみるから」
「みんなちょっと下がって」
私はポケットから
例のあの金属の白い鉄球を手に出してみる
その球体は少し戸惑ったような挙動をしたが
私が促すとすんなり翼を開いてくれる
そのまま鉄球の上を繋いでいるロープに向かって投げてやる
白い右翼でまず1番手前のロープに当たる
ロープは翼に触れた部分からミチミチと音を立てながら繊維のひとつひとつが千切れていく
やがて球体がロープの向こう側にいるころには
鉄球は通路を完全に塞ぐようにして落下している
だが通路が全て埋まったわけではなく
ちょうど右に来た時に落ちたため左側は通れる
そんな感じで奥まで続いていた鉄球、合計6個を全て落とすことに成功した
私の元に戻ってきた球体をポケットにしまって前に進む
左右に落下した鉄球のすぐ横を通るにしても
真横は落ちたら死ぬであろうくらいの穴が空いているので慎重にいかなければ
私がそろりそろりと向こう側に着いた頃
1番後ろのみぃが歩き始めている
探索効率を上げるためにも私とすぐ後ろにいたフェンリルとで先に向かった
フェンリルが次の部屋へ踏み込もうとした時
ガシャンと金属のなる音と
縄の擦れるような音が両方聞こえた
そしてフェンリルの悲鳴が上がる
「べりぃ!!!たすけてーー!!!」
真っ暗でよく見えなかったが
少し先でフェンリルが吊るされているらしい
わんこの取り出したキャンドルに火を灯して照らして見ると
フェンリルが両手両足に縄がかかって天井からぶら下がっている
小さいキャンドルの灯りでもぶらんぶらん揺れる姿をしっかりとらえた
---
参考画像()
https://files.mattyaski.co/null/1fd2b29b-8e01-4527-918e-cd2e8ffd3730.png
---
「いいですなぁ…」
「ですなぁ…」
「やっぱべりもわんこもだめだこいつら…」
レイトが呆れ呆れフェンリルの元へ近づき縄を解こうとするもギリギリ届かない
そこで後から来たトトちゃんに頼んだが、届かない
まあレイトとトトちゃんの身長差はトトちゃんが1cm高いだけなのだが
1番高いのはとなるとフレアである
180cm近いのではないかという身長でフェンリルの足の縄をほどいていく
フェンリルの足の縄を両方とき終わり
フェンリルが地に足をつくと
ものすごい形相でこちらを睨んできた
そのまま手の拘束もほどくとぽっと部屋に灯りが灯った
謎に始まったあの月下御伽話ですが
完全にネタに全振りしているがゆえ更新は激レアです
しばらくおやすみしてしまいましたがまたジニアも再開させていきます
学園パロのほうは11月10日〜となりますよろしくお願いします
ジニア 第二十七話
部屋に灯りが灯ったことによって露わになるその部屋はあまりにも残酷だった
壁には赤い血のようなものが飛び散り
いつかここに来た人の死体がゴロゴロ転がっていたり
手足がそこらじゅうに落ちていたりもした
「ダメな人戻って」
「すごい死体の山だ…」
私はそう言ってはやく先に進む道はないかと探した
だがその部屋から次に進む通路は何も見えない
強いて言えばあの死体の山の後ろにでもあるのだろうか
絶対に触りたくないが
「べりさんは大丈夫なの?」
「ここの探索任せちゃってもいい?」
「僕たちは猫丸のあの石で最初に戻って色々探してくるよ」
「わかった」
「こっちは大丈夫だからね」
「残れる人は一緒に探して…って」
「もういないじゃん」
1人では心許ないので誰かと一緒にいてもらおうと思ったが
私以外全員猫丸と一緒に行ってしまったらしい
しょうがないので探索を続ける
何故か一本置いてあったほうきで
死体の山からひとつひとつ転がして部屋の壁を確認する
上の数体をどかしたところで通路の上が少し見えた
なかなかに狭い通路らしい
「くっさ…」
死んでから数日、いや数ヶ月経ったものまであるらしく
だいぶ腐敗が進んでひどい悪臭を放っている死体があった
そして一つ気になったことがある
特に目立った外傷がないものもあるが
その死体の6割程度が腹にあの球体を刺して死んでいるのだ
デザインは材料はかぶれど全員違うデザインをしている
自分自身の身に起きたことも加味してかなり不気味であった
退けていく死体は下の方になればなるほど古くなっていく
唯一服装で何かわかるものとして
飛行機か何かの運転手らしい服装をした死体があった
それでも体はだいぶ崩れているので相当前のものだろうか
そんな死体達を退けて私は通路の奥へと進んだ
「え…外…?」
私が通路に入るため少ししゃがんで1番最初に見えたものは
ふさふさと暖かい風に揺られる柔らかそうな草花達
久しぶりに見る緑色に少し感動してしまっている
そういえばあのジニアの花は今どうなっているのだろう
私はそんな緑色を目の前にしてテンションが上がり
猫丸達のことも忘れて1番最初に外に出てしまった
目の前は木がたくさん生えている
何故かここの建物の穴の周辺だけ木がうわっていない
次に聞こえたものは銃声だった
色んな人々の叫び声
懸命に助けを呼ぶ声が聞こえる
「どうして…?」
私達以外の生きている人間がいるのだろうか
いるとするならばぜひ話を聞きたいが
少なくとも相手はそんなことをしている暇があるような状況ではないらしい
そんな音が聞こえている中1人で進む勇気はなかったため
猫丸達を待つためにも私は柔らかい草花の上に大の字で寝っ転がり
昼寝をすることにした
ここまでで伏線がどれくらい張られているのかということですが
1番最初からもう張ってありますが多分気付かないでしょう
それでも少しずつ気付けるものはあるので是非お楽しみください
ジニア 第二十八話
…
……
べ……
べ……り……べ
べり!
べり!!べり!!
「おい!べり!!」
「んにゃぁ…」
腕に何か揺すられるような感覚を覚える
誰かに起こされているようだ
「んにゃぁ…じゃないよべり!起きてよ!!」
重い瞼を少しだけ持ち上げてみる
ふさふさの尻尾をブンブンと振ったフェンリルとかえでが目に映る
この2人になら一生もふもふされても…いいな
「べりさん!起きて!本当に!今すぐ〜!!!」
かえでがあまりにも元気よく揺すってくる
流石の私も目をこすりながら体を起こす
真っ先に目に飛び込んできたのは
真っ黒に焼き焦げた木々たち
真っ青になったフェンリルとかえでの顔も相まって何か起きたに違いない
「え??何があった??」
かえでがだいぶ早口になりながらも状況を説明してくれた
猫丸たちはあの後ちゃんと最初の部屋に戻り
そして私の退けた死体たちの部屋を通ってここまで来たらしい
問題はここから
その後アネモネのラボが自爆待機に入り
猫丸たちはそんな中寝ている私を全力で守ってくれたらしい
確かにあんなに存在感のあったアネモネのラボは全て消えている
残っているのは残りカスのみだ
でもその後に現れた謎の集団と戦うため
結果フェンリルとかえでだけ残って他のみんなはいなくなったらしい
私もよくそんな中でずっと寝ていられたものである
「だから、助けに行かなきゃいけないの!」
「合流しなきゃ!」
フェンリルの必死そうな顔からも
今の状況が最悪であることがよく伝わる
私はかえでとフェンリルにそれぞれ両腕を引っ張り上げられそのまま立つ
こっちこっちと大きく手を振るかえでとフェンリルの後をついて行くことにした
でも本当に当たりの木は燃えて無くなっている
寝る前の微かな記憶ですらそれくらいわかるのだ
なのに私の服は真っ白でなにひとつとして汚れていない
どんな守り方をしたらあんなでかいラボが消えるくらいの爆発で
生きていられるのかどうしても不思議だった
考え事をしていると耳に入る音も入らないものだ
進んでいるうちに気付けば火花の散るような戦場が見えてくる
ちらっとトトちゃんの姿が見える
それだけで少し安心した
みぃは相手を槍で転がしその場に生えたツルに引っ掛け拘束
そのままそこに大きな斧を振るうフレアの姿があった
そんな斧どこからとは思ったが
よく見ると全員何かしらの武器は握っていた
そして使い終わったフレアの斧はあの球体へと姿を変える
まさかあの球体は本当に武器だったらしい
それなら私の球体もと思ってポケットから出してみる
片方の翼を手で握ってみると
もう片方の翼が1.5倍程度の大きさに伸びてナイフのような形になる
「私が怪我した原因これかーいっ!!!」
急に叫んでしまったので
かえでとフェンリルはこちらを振り向いた
「僕たちもできるよ!それ!」
かえでの球体からは木が部分部分で繋がったような鞭が
フェンリルのガラスの球体は水晶玉のような形まで膨張した
フェンリルはどうやら魔法が使えるらしい
「へっへーんすごいだろ」
フェンリルが他の人とは違った武器を出してみせると叫び声が響いた
わんこの声だ
なぜかわんこだけ球体が武器に変化しないらしく敵のいい的にされている
「行かなきゃ」
かえでが鞭を大きく振るってわんこの元へ走っていく
「僕たちも行こう!」
「うん」
フェンリルと私もその後に続いて走った
最近TRPGにハマり自分でシナリオを書いてみようかと思っております
でもね思ったんだ
自分で書いたシナリオじゃあ自分ゲームできないやんけ(((
(何のことかわからない人すみませんでした)
ジニア 第二十九話
長いレイピアのようなものを首に突きつけられて
わんこはその鈍く光るレイピアの先を見つめて涙目になっている
相手は髭がけむくじゃらに生えた身長の高いおじさんだ
そんな顔になってしまうのも当然である
「だーめっ!」
かえでが大きく縦に鞭を振りかぶる
木製の鞭はわんこに向けられたレイピアに垂直に衝突する
その勢いでレイピアは地面に刺さった
「おいっテメェ何してくれる!」
レイピア持ちは地面に刺さったレイピアを上に持ち上げ引き抜く
その間に怯えて動けなくなったわんこをフェンリルは救出した
レイピア持ちは何もせずにただ突っ立っている私の方向へ攻撃を仕掛けてきた
「うわきっしょ…」
自然とこう漏れてしまったことは内緒だ
私は大きなおじさんが細いレイピアを持つことに違和感を覚えながらも最初の一撃を難なくかわす
凄い勢いで突き出されたレイピアは
私の上を通り過ぎてレイピア持ちもこちらに倒れ込んできた
「失礼しますね」
自分の真上にいるおじさんの腹に思いっきり球体のナイフを差し込む
泉のように溢れ出す真紅で純白の翼は染め上げられた
ナイフをさらに上へ上へと深く差し込むと
レイピア持ちは自らの手でナイフを抜きその場に捨てて
腹を押さえながら仲間の元へ去っていった
その先にはトトちゃんやフレア、猫丸など
多くのこちらの仲間も戦っている
「べりさん大丈夫!?」
フェンリルやかえでが私の元へ来てくれる
わんこは傷ひとつなかったらしくピンピンしている
「大丈夫」
「それよりみんなと合流しようよ」
「うん!」
戦う術のないわんこを私の背中に置いて戦場へ向かう
ちょうどトトちゃんの持つ長いランスの先が相手を貫いている
左手で持つ巨大な盾を相手に押し付けるタックル攻撃までもう習得しているようだ
それを不思議に思った私は周りを見渡してみる
するとまあ同じような武器を持った人たちが倒れている
他の人の動きを真似したのだろうか
でもじゃあこの人たちはなんなのだろう
フェンリルとかえでがトトちゃんのところまで走っていく
でもその頃にはもう誰1人として残っていなかった
トトちゃんは私の方をくるりと向くとこう言った
---
久しぶりの曲の導入です
https://youtu.be/ABvi5qegodY?si=j_Ncf-Xv04MNNVS1
是非これを聴きながらどうぞ
---
「べりちゃん?」
「はやくおいで?」
私はなぜかその言葉に不安を抱いた
なぜだかはわからない
その後少しぼうっとした後にフェンリルから催促を受けて私も向かう
そして私は泣いていた
静かに声は立てず
溢れる涙が頬を伝った
そこにあったのはたくさんの死体
フレアが斧で切り付けたような死体に
みぃが心臓を槍で貫いたような死体
痛々しい打撃の後に穴が空いているものが圧倒的に多かったがこれはトトちゃんだろうか
「ミタマさんとレイトさんはどこに行ったの?」
「あっ確かに見てないな…」
トトちゃんはランスに付いた返り血をハンカチで拭き取りながら言った
私は信じられなかった
私がいない間に何かあったのは確実だろう
フレアやみぃも何食わぬ顔で武器の手入れをしていた
そこで私はトトちゃん達とは少し離れた場所までフェンリルを連れて行き問い詰めた
「私がいない間に何があったの?」
「絶対何かあったでしょ」
「気付いてるんだからね!」
「お、落ち着いて」
「言わない方がいいと思ってたんだけどね…」
「知らないだけ損だろうし見せたほうがいいか…」
「球体貸してくれる?」
そう言ってフェンリルは私の球体を両手で持つと
反対側だけガシャリと捻って球体の中身を開ける
こんなことができるなんて思っていなかった
球体の中身は何もなく空洞で
フェンリルが捻った部分は反対側と繋がっている
つまり今は真ん中に1cmほどの隙間が空いた状態だ
そこから上へと何か光が伸びる
画面のようにして空中に映し出された画面はどこか近未来的だった
そしてその画面に映るのはどこか見覚えのある人の影
「これ…」
「うん、最初のジニアの部屋でも見た人と同じだと僕は思うよ」
「だよね…」
良い予感はしなかった
だってこいつのせいで…
こいつのせいで今こんなことになっているんだ
溢れんばかりの今までの怒りを
ぶつける対象もないその怒りを
相手を見つけた途端に叩き込む
それでも映像は続いた
というか、今まで何も一言も発していなかったのだが
「ここにいる、もしくはこれを聞いている諸君」
「おめでとう…とだけ言っておきましょうか」
「それでも君たちは混乱しているだろう」
「ここはどこなのか」
「こんなところに連れてこられた理由」
「そして、目的」
「全てはまだ明かさないことにする」
「本当は君たちはもうすでに…」
「これも言わないことにしよう」
「私が今君たちに伝えることはこれだけだ」
「戦え」
「そして生き延びろ」
「私がこう言うと仲間を作ったり同盟を組む者も生まれるだろう」
「それはそうだ」
「私が今回ここに連れてきた人間の数は今までの実験とは桁違い」
「全人類」
「これが今回のゲームの対象」
「だが1番最後まで生き残れるのはただ1人だと言うことを忘れてはならない」
「どうぞ心ゆくまで楽しむが良い」
「このデスゲームをね」
ぎゅっと食いしばった歯が軋む
汗ばんだ両手は自然と拳を握りしめていた
「なに…これ…」
「一応、みんな見たんだけどね…」
私はもう
こいつがなにを言っているかなんて考える余裕もなかった
今私が思っているのはただひとつ
家に返して欲しい
また学校に通わせて欲しい
いつも通りのネットサーフィンをさせて欲しい
あの仲間達と話をさせて欲しい
今までの生活を返して欲しい
ひとつとは言ってみたものの
色んな願いが溢れ出てくる
「あぁあ…」
胸が苦しくなる
そんな気持ちが声にならない息として自然と吐き出た
フェンリルが優しく背中をぽんぽんと手で叩いてくれる
「うぅっ…」
「大丈夫だからね…大丈夫だから…」
今回は久しぶりに曲も入れてみました
選曲も結構悩んだんですよ
やっぱりYouTubeまで開いてもらう労力(?)考えると長い方がいいかなって思って
今日は文字数もいつもの2倍以上はあります
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右がかえでです
かえで書くためにちょっと人間練習したんですよ!!!
明らかに前に書いたberiよりは良い
そしてクトゥルフ神話TRPGの件なんですが
自分もシナリオ書いてみようと思います
色々調べてからになると思うので相当先になるでしょうけど…
ここまで読んでくれてありがとうございました
前より少し間が空いてしまいましたがこれからもよろしくお願いします
ジニア 第三十話「はじまり」
「大丈夫だからね…大丈夫だから…」
そんなフェンリルの優しい声を掻き消すような大きな音で
このエリア全体に響き渡るのはあの声だった
あの男の低い声はもう聞くだけで嫌になる
「残り5729736172人」
「食糧船を港に着けておいた」
「なくなる前に取りに行け」
「では」
定期的にこのアナウンスを聞くことになるのだろうか
それにしても57億…?
世界人口ならもっといたはず…
「あんまり減ってないなぁ…」
「最初のラボで何人死んだかって感じかな」
「えっ?みんなラボから出てきたの?」
「うん」
「僕たちがあのアネモネのラボに来る前からここには人が来てた」
「他にもラボはたくさんあるしね」
「ラボを突破するまで誰にも会わないように計算されていたらしい」
「へぇ…」
それならあのラボを突破できぬまま死んでしまった人がたくさんいたって不思議ではない
だがしかし何人というチームを合わないように設計できるなら
だいぶここは広いことになる
まぁ57億もの人が集まっているなら本当に地球ほどの広さはあるかもしれない
あれ…?ここまず地球なのか…?
考えれば考えるほどわからないことが浮かんでくる
やがてこれらも明かされるのだろうか
でも今は本当に戦って戦って
少なくとも最後の方まで生き残るしかなさそうだ
「ほら、もうトトちゃんたちのところに戻ろう?」
「ミタマとレイトも探さないといけないし」
「だね」
私は気持ちを切り替えてトトちゃんのところへ戻ることにした
トトちゃんもトトちゃんでわんこやみぃと何か話していた
「べりちゃん大丈夫?」
「今からミタマとレイトも探しに行きたいけど」
「食糧がだいぶ争奪戦になりそうなんだよね」
「だから別れて探した方が絶対良いかなって今話してたんだけど」
「そうだね…誰が食糧のところ行く?」
「そこがだいぶ荒れそう」
すると全員の視線がわんこへと集められた
「わんこは除外だね…」
「うわーん」
お経くらい棒なうわーんが聞こえてくる
本当に行きたくなさそうなのが目に見えて伝わる
「それに対してトトちゃんは絶対食糧だよねw」
「あぁうん、そのつもりでいた」
「あとフレアとみぃも連れてきたいな」
「べりちゃんとフェンリルとわんことかえででれいみた探しに行ける?」
「はーい」
「わーおれいみたかぁ…」
フェンリルが不思議な笑みを浮かべている
「じゃあ港に行きたいんだけど…」
「どこだろうねw」
「そこからかぁ…」
トトちゃんたちのチームとは合流がだいぶ遅れそうである
そこから全く反対方向に別れることにした
若干遠くの方に見える人たちが向かっている方向へトトちゃんたちが
私たちは全く誰もいない方向へあえて行くことにした
あの2人なら変な場所に勝手に行きかねないからだ
「じゃあね、もしお互い目的のものを見つけられたら」
「このアネモネのラボ…があった場所に来るように」
「はーい!」
かえでだけがずば抜けて他の皆より明るく元気な声で返事をした
雰囲気を盛り上げようとしてくれているのだろう
そのままトトちゃんたちと私たちは最後まで
お互いの姿が見えなくなるまで手を振って別れた
ジニア 第三十一話「食糧争奪戦」
フレア視点
「遠くに何かない…?」
どうやらその船が来ている港というのは複数あるようで
色んな人が向かう方向へ俺たちも歩いていたところそれらしきものを見つけた
「でもこのまま人が近づいたらいつ戦いになるか…」
みぃが心配をするのもよくわかる
見える限りここには大勢の人たちが集まるだろう
戦えと言われて集められているのだから争いになって当然だ
それでもトトちゃんはこのまま進むと言う
「武器を展開」
俺もトトちゃんのその言葉に続く
斧はかなりの重量があるので常日頃武器を出しながら過ごすわけにはいかない
だから球体の状態に戻して持ち歩くしかない
トトちゃんのランスだって大きな盾や槍が邪魔だろう
みぃの槍だってトトちゃんと比べ盾はないにしても長い
トトちゃんの球体が広がりそこを中心にして盾が展開される
槍もしっかり伸び切った時だ
パンッっと大きな銃声が響く
全員近接武器だと言うのに他の奴らは銃まで持っているのか
そしてそこからその銃声をスタートとして
色んな音が聞こえてくるようになった
金属の擦れ合う音に誰かの叫び声
しっかり言葉として理解できる声で誰かが呼びかけていたりもする
「このまま突っ切ろう」
もう船は目の前になっていた
だが船の上でも誰かが戦っている
食糧はまだ残っているだろうか
「付いてきてね」
トトちゃんはそういうと急に走り出し船の中へ向かう
俺もみぃも一緒について行く
1番最初に船の中へ上がり込んだトトちゃんの元へ色んな武器が飛んでくる
それらを全て大きな盾で受け隙を見て槍を喰らわせている
ランスって強いのかもしれない
でもそんなことはなかった
「ランスって重いんだよ!?」
「フレアもみぃも速く食糧取ってきてよね!」
「う、うん」
戦うトトちゃんに急かされてみぃと一緒に船の中へと降りる
かなり長い階段を降りるとそこには誰もいない大きな部屋があった
まだここまできた人はいなかったのだろう
乱雑に置かれた袋の中を覗くとそこにはたくさんの缶詰や乾麺が入っている
食糧とはおそらくこれのことだろう
「みぃ行こう」
俺とみぃでひとつずつ袋を抱えて外に出る
食糧としてはまあまあな量が確保できた
上に上がればそこは死体で山積みになったトトちゃんのエリアが広がっていた
来る人来る人を全員相手にしていたのだろう
「トトちゃん!帰るよ!」
みぃが俺に袋を投げながらそう言う
みぃはトトちゃんの重いランスを気遣いトトちゃんを後ろから押して船を脱出する
すぐさま袋を自分に縛り付けるとそこからが本番だ
外に待機してる連中は誰かが船の中まで行って食糧を取ってくるのを狙っていた
自分たちはなにもしないつもりらしい
つまりこの中で1番ヘイトを集めているのは誰だ
「俺だ…」
ジニア 第三十二話「負傷者」
「速くフレア逃げて!」
「行って行って行って!!」
トトちゃんはそう言って向かってくる敵に盾を向ける
みぃは槍を構えたままこちらを向いている
ついてきてくれるようだ
「わ…わかった!」
俺はとりあえずしっかりと食糧を抱きしめ来た道を戻っていく
道中の敵はみぃが足元を槍で引っ掛けバタバタと倒す
「おーいフレア〜」
「レイト見なかった〜?」
そんなやけに落ち着いたのんびりとした声はミタマのものだった
いつのまにか右側にミタマがおり一緒に走っている
「え?お前らべりたちが探しに行ったぞ」
「レイトも一緒に」
「あーまじ?」
「俺もレイトは全く見てないのだが…」
「まぁあいつのことだからべりのために戻ってくるでしょ」
「そうだと良いけど今はここをだな…」
「フレア危ないっ!」
みぃが急にそう叫んだ
咄嗟に上を見上げると大きな石が飛んできている
一体周りはどんな武器を持っているのか…
「ここは俺とみぃに任せて」
「フレアは早くべり達とでも合流してろ」
ミタマは今まで周りに浮いていた球体を握りしめて武器を展開する
長く伸びた大きな棒の先には鋭く曲がった大きな鎌がついている
「じゃあね」
「また会おう」
「おん、ありがとう」
俺はそのままミタマとみぃを置いて
ただ走った
---
みぃ視点
「ミタマはなぜここに?」
「みんなと違う方向に何かあったからふらーっと近づいてみたらね」
「迷子になっちって」
「そしてたまたまみぃ達が見えたから合流できた」
「へー」
適当な返事で返しておく
他人の事情など知ったことではない
「冷たいなぁ」
「うん」
そしてそろそろ槍を使う手も疲れてきた
敵はもうこちらへは来なくなっている
今は船の上が荒れているらしい
「トトちゃんどこに行ったのかな」
ミタマが何も思ってなさそうにそう言う
トトちゃんは船を降りてすぐ別れた
もうそろそろ来てもいい頃なのだが
「ごめん…遅れた」
ずりずりと重いものを引きずるような音と一緒にトトちゃんの姿が現れる
相手の死体は山積みになっていたが
トトちゃんもダメージを受けてしまったらしい
槍をしまって盾を持つ左腕をずっと押さえている
そこからは赤い血がぽたぽたと垂れている
「トトちゃん!?」
「大丈夫!?」
僕は自分の槍を地面に投げ捨てトトちゃんの盾を持つ
トトちゃんを背負うことまではできなかったが
肩を貸してなんとかアネモネのラボのあたりまで行きたい
そうすればやがてわんこが帰ってきて…
いやだめだ
治療キッドはもうほぼ空っぽのはず
どうすればいいのかわからない
「とりあえずこんなところにいてもどうにもならないし」
「アネモネのラボまでは行こう?」
ミタマは僕の投げ捨てた槍を片手で拾う
このまま帰ることくらいはできるかもしれない
「あれ…ミタマ?」
「いつのまに…?」
「まあ色々ありましてね」
「レイトは一切知らないからそこはよろしく」
「無責任な…」
「ミタマと一緒にレイトも行ったんでしょ?」
「そうなのか?」
「レイトなんて見てないんだが…」
ジニア 第三十三話「捕まりすぎな少年」
レイト視点(1時間前)
「こいつは実験台だ」
「向こうの牢屋にでも入れとけ」
「わかりました隊長」
「これで2回目かよ…」
「いいからさっさと動け」
「…」
首にまるで犬にようにして繋がれた鎖をジャラジャラ鳴らしながら
俺は言われるがままに別の牢屋へと移動する
何をされるかはよくわからないが
他の一緒に閉じ込められている人たちの様子を見るに
ろくなことはないだろう
同じ服を着ている複数の男が周りを彷徨く牢屋へと移動した
さっきの場所より警備がしっかりしている気がする
所々汚れ錆のついた
鈍く光る牢屋のドアを男は地面に引き摺りながら
俺はその奥に広がる薄汚い牢獄へと押し込まれた
首に繋がれた鎖をドアに縛りつけながら男は言った
「お前はすぐここから出られるから安心しろよ」
「まぁ出たところで待っているのは…おっとここまでは言っちゃいけないね」
「じゃあせいぜい束の間の休憩を楽しんでおいてくれ」
「そうさせてもらうよ」
服の上から何か湿ったような感覚を覚える
後ろを振り向くとボロボロに錆びたパイプから
何か液体が垂れていることに気づく
その透明な液体は絶えることなく垂れ続けている
ただの水だろうか
気になった俺はその液体に直接触れてみることにした
感触はまんま水なのだが
しばらく触っているとだんだんと手がぬるぬるしてきた
そして少しずつ皮膚が溶けていっていることに気付いた
俺は液体に触れることをやめ服で適当に手を拭う
そこでまた新たに気付いたが
この液体に触れていた服の金属部分は
皮膚なんかと比べ物にならないレベルで溶けていっている
そして牢屋の隅に置いてあった小さな瓶でその液体を受けてみる
これでドアを溶かして脱出できるかもしれない
溜まった液体を思い切りドアにかけてみる
液体はじゅわぁっと煙を出しながら金属をどんどん飲み込んでいく
小さな小さな窓から風が吹き込んでくる
「おい、お前何してる!」
「あと10分だって言うのに…」
別の見回りに来ていた男に風で流れた煙でバレてしまった
瓶は取り上げられ男が何かのレバーを少し下げると液体も止まった
この液体で何をするつもりだったのだろう
俺はまだ溶け切っていないドアから男の様子を監視する
すると誰かが別の場所からやってきて何か話をしている
壁に取り付けられたランプをひとつ取って男2人はこちらへ歩いてきた
「出番だよ」
繋がれた鎖は解かれてまた男の手に渡る
正直全員同じ服を着ているせいで男たちの区別はついていないが
こいつは俺を1番最初に捕まえたやつだと察した
「何をぼーっとしてる」
「はやく行くぞ」
そう言われて思い切り鎖を引かれる
あまりの勢いに前に転びそうになる
男にぶつかっただけで済んだが
男の服の中に何か固いものがいくつか入っているような感覚があった
「ぶつかってくるなよ」
「はい…」
そして俺は別の部屋へと移動させられた
ジニア 第三十四話「夢見る乙女」
beri視点
私はずっとフェンリルとかえでと共に歩いている
特に何も見つかるものがないままアネモネのラボの跡地は見えなくなっていった
「アネモネの花言葉ってなんだっけ」
「ジニアだけはあんなに大きく飾ってあったから覚えてるんだけどね」
「確かアネモネの花は入り口付近に飾ってあったはずなんだけど」
「僕覚えてるよ」
「花言葉…なんだっけ」
フェンリルたちが急に花の話をし始めた
もう跡形もなく消え去ってしまったあのラボだ
どうせろくな花言葉でもないだろう
「あ!思い出した」
「見放されたとか」
「見捨てられたって花言葉があった気がするんだけど」
「そんなに暗かったっけ?」
「はかない恋とか恋愛系の花言葉だったと思うんだけど」
「フェンリルは夢がないなぁ」
「恋愛系の花言葉のほうがドキドキするでしょ!」
フェンリルとかえででアネモネの花言葉論争をしている
正直私はどちらでも良いと思っていたので
しばらくの間黙ってそれを聞いていた
「べりさんはどっちだと思う?」
恋愛系の花言葉を押しているかえでが私に助けを求めてきた
アネモネのラボであったことを花言葉にするならば
やっぱり見放されたに近い気もするが恋愛系の花言葉もいいかもしれない
自分の中でも意見がまとまらない
「べりは見捨てられただと思うよね?」
「鬱系好きでしょ?」
「僕ちゃんと覚えてるからね」
フェンリルの言う通りだ
否定もできないが鬱系のお話が好きなことについてはちゃんと理由がある
そして私は誰も否定しない意見をフェンリルとかえでに差し伸べた
「アネモネはね」
「君を愛すって花言葉もあるんだよ」
フェンリルとかえでを抱き寄せて
少し声を低めにして言ってみた
ネタに寄せるのも良いかもしれない
「なにそれ」
「本当?」
かえではくすくすと笑いながら疑いをかけてくる
「本当だよ」
「真っ赤なアネモネの花はそんな意味があっても良いでしょう?」
「確かに…?」
納得したのかしていないのか
はっきりしていないがフェンリルとかえでの花言葉論争の結果は
君を愛すという半分ネタで言ってみた花言葉で落ち着いた
私は一時期花言葉に興味があって調べてみたことがあるのだ
その時のことを思い出して話すのも案がいいかもしれない
「ジニアの花言葉がなんたらかんたらってフェンリル言ってたよね」
「あれはなんだったの?」
「ジニアは別名百日草って言うんだよ」
「長く咲き続けることから絆とか」
「遠い友を思うなんて良い花言葉が付けられてるんだけどね」
「この花がやけに大きく飾られてたことが僕は不思議でしょうがないんだ」
フェンリルがここまでちゃんと覚えていられるのも
本当に不思議と思っていて本気で考えていたからかもしれない
あの時から確かにフェンリルは言っていた
100日
約、3ヶ月
もうあれからいくつ日が過ぎたかなど覚えていないが
それでも約3ヶ月くらいだろう
そうしたらジニアの花は、枯れる
とは言ってももう枯れる以前に吹き飛んでしまっているのだが
「あとアネモネのラボの跡地ってしっかり見た?」
「ガラスの破片とか」
「そんなもの一切なかったんだよね」
「他のコンクリートとかは残ってたりするのに」
「おかしいよね」
「やっぱりジニアの花言葉」
「絆でみんな残った…とかない!?」
「そんなことあるわけないじゃん…」
「普通に考えてみてよ」
フェンリルのその言葉で私の頭の片隅に置かれていたアイデアが顔を出す
もしかしてアネモネのラボが吹き飛ぶ前に
誰かが花だけ回収したのではないだろうか
そのことは謎に包まれたまま
レイトとミタマを探すことすら見失いかけながらも
3人でずっとずっと歩いて行った
ジニア 第三十五話「レンガの投獄」
「あれなんだろう」
フェンリルとかえでと歩き続けて30分程度経っただろうか
フェンリルが目の先を指差して言った
「ん?」
「何か見える?」
「かえで見えないの?」
「私には見えるんだけど」
「うっそーべりさんに負けた」
「そんなに悲しまなくても…」
「あっ見えた」
「なんなんだよ!!!」
しばらく歩いてはっきり見えるようになった
その明らかに今までの風景と変わった人工物
そびえ建つ人工物は壁がレンガでできており
少し古臭いような雰囲気がまた不気味に見える
「行ってみる…?」
「とりあえずべりとかえでで行ってきたら?」
「僕はここで待ってる((」
「いいわけないだろ!!」
「お前もついて来るんだよ!!」
その場にとどまろうとするフェンリルの腕を引っ張る
かえではあまり乗り気ではなさそうだがちゃんとついてきてくれていた
少し枯れたような草を踏んでいくと
建物のそばに誰かがいるのが見えてくる
それは複数人おりこちらを向いて何か話しているようにも見えた
フェンリルが私の後ろにそっと隠れた時
事態は急変した
「撃て!!!」
一発で脳内にこの漢字で変換されるくらいの勢いで
太い男の声が大きく響いた
「伏せて!」
今まで1番ビビり散らかしていたフェンリルが立ち上がり
球体を水晶玉のようなものに変化させる
まあ材質はガラスっぽいのだがそれは黙っておこう
フェンリルがその水晶玉を大きく高く持ち上げる
するとその水晶玉からしゅるしゅると何か幕のようなものが垂れてくる
その幕はこちらに放たれた銃弾を次々と弾き返し鋭い音を上げている
「このまま進もう!」
「ここにレイトがいる気がする…!」
フェンリルは頭の上に水晶玉を乗せて走るような形で動き出した
幕から出てしまったらひとたまりもないだろう
ということで
私とかえでもフェンリルについていかなければならなかった
なんという策略だろうか
「おいここまで来てるぞ!」
「前の連中の警備はどうなってやがる!」
「そんなもんここで倒しゃあいいんだよ!」
大きな男は物騒な赤く黒光する斧を大きく振りかぶる
「斧は防げない!」
「逃げて!」
フェンリルは私を半分蹴るようにして突き飛ばした
スレスレのところでフェンリルは斧をかわしてこちらに来た
「ごめんね」
「行こう」
初めてフェンリルを少しかっこいいと思った
フェンリルの差し出した手を優しく握って起こしてもらう
だがその間にも男の攻撃は止まなかった
止まなかったどころか奥にいた人にもバレたらしく
ここにどんどん人が集まってきていた
「べり?」
そんな中小さくこう聞こえた
明らかにレイトの声だ
どこにいるのかと周りを見渡すがそこには物騒欲張りセットのジジイしかいない
全員揃えて真っ赤に染まった武器を構えている
そんなものお揃いにするくらいだったら
もう少し身なりに気を使った方がよっぽどいいだろう
今度はかえでがフェンリルと私の手を引っ張って別の部屋へと移動する
「ここから回っていこう」
「レイトを見たんだよ」
「べりさんよりも目いいでしょ!勝ったよ!」
「勝ってない!あのジジイがいなかったら私も見えてた!」
そんな言い合いをしながらも
3人で通路を駆け抜けていった
ジニア 第三十六話「長距離最弱王レイト」
レイトが見えたと言うかえでの背中をフェンリルと一緒に追いかける
ここの建物はずいぶん道が入り組んでいたり行き止まりがあったりする
私1人だったら100%迷子になっていただろう
しばらく進んでいくとなんとも言えない不気味な雰囲気を漂わせる牢獄の部屋まで来た
「レイトここに入れられてたのかな…」
「でも私が見たのは歩いてるレイトだからもう出てはいるんだろうけど」
かえでは牢獄のひとつひとつを覗きながらそう言った
「おい!!いたぞ!!!」
突然大きな声がする
牢獄の看守に見つかってしまったのだろう
「あっちから逃げよう」
フェンリルは外へ出られそうな通路を指差す
その通路の先は明るい
そのまま進むフェンリル、私、かえで、看守の順にその通路へ飛び込んでいく
「べり!?」
聞き馴染みのある声がした
上を見上げると長い長い木の棒に吊るされたレイトがこちらを見下ろしている
「こいつに近付くんじゃねぇ」
「お前らもこうなりたくなけりゃさっさとここを出てけ」
後ろには看守
目の前には大きなチェンソーを持った男がいる
ここから逃がしてくれそうな気配は一切ない
出てけって言ってるのに!
その次の瞬間
私たちは淡い水色に包まれた
よく見るとフェンリルが水晶玉を宙に浮かせている
それはここに入る前フェンリルが展開した幕と同じだった
その幕は高く持ち上がっておりレイトにまで届いている
私が球体をナイフに変化させレイトの吊るされている木を半分くらいのところで切断する
落ちてくるレイトをかえでが受け止めてロープを解く
そこまでが安全にできたのもフェンリルのおかげだろう
「ありがとう」
「迷惑かけたね」
「いえいえそれほどでもぉ〜」
フェンリルの幕の交換が切れる前にとあの通路を通り牢獄の部屋まで辿り着く
でもその先へと続く道は男どもに塞がれていた
「通れないじゃん…」
「俺に任せて!」
レイトは自分の球体を展開させ武器を形成する
レイトの武器の形状は中央が球体
そこからホログラムの翼が曲がったようにして逆方向にそれぞれ伸びる
そうしてできた形はまるでブーメランのようだった
レイトは目の前にずらりと並ぶ男たちにそのブーメランを投げつけた
レイトのブーメランは男たちの顔に食い込みながら宙を舞い
やがてレイトに手の中まで戻ってくる
その間に別の通路から私とかえでとフェンリルは外に出ることに成功した
「レイトさんは!?」
「置いてっちゃったけど大丈夫!?」
「えーまぁいいだろあいつ」
「なんか強そうなの持ってたし〜?」
私が適当に返すとそのすぐ後ろからレイトが追いかけてきた
驚くほど息を切らしており少し離れたこちらにまで聞こえてくる
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
「お…い…つい…はぁっ…た…」
1番後ろにいたかえでの肩にレイトが手を置く
「お、レイトじゃん」
「大丈夫だったね」
フェンリルまでそう言って平気な顔をして3人は進む
レイトはやがてかえでの肩から手が離れてしまう
「まってぇええ」
そのままアネモネのラボあたりまでゆっくり走って行った
とっても投稿に時間がかかりました申し訳ない
これから毎日は厳しくなるかもしれません
ですがそれでも投稿はしていきたいのでよろしくお願いします
ジニア 第三十七話「消えた先輩」
--- 15分前 ---
食糧も無事に手に入り
怪我を負ったトトちゃんを庇いながらアネモネのラボ(があった場所)まで移動する
僕とフレアの手には食糧の入った袋が山のように抱えられ
ミタマはトトちゃんに肩を貸しながら歩いていた
アネモネのラボ(があった場所)が見えてきた頃だった
「誰かいるよ…?」
少し弱々しい声でトトちゃんがそう言った
そのトトちゃんの視線の先にはアネモネのラボの跡地があるのみ
そこに何かあるのだろうかとミタマは目を凝らす
するとそこには大きなガラスのケースを抱えた1人の少女がうずくまっていた
トトちゃんとミタマは歩くスピードを早めてその少女へと近づく
「君どうしたの?」
「大丈夫?」
ミタマが少女に声をかける
少女はミタマとトトちゃんの方へ振り向く
先程まで泣いていたかのように顔は赤く、濡れている
少女がこちらを向いたおかげでガラスケースの中身が少しだけ見えた
そこには一輪の花が入っていた
「これってもしかして…」
トトちゃんには思い当たる節があるようだ
ちゃっかりその様子を眺めていた僕はフレアを呼んだ
「俺はこんなの見たことないな」
フレアは僕が仲間になる少し前に仲間になっていたことを思い出す
初期組はこの花の正体を知っているのだろうか
「君大丈夫?」
「この花どうしたの?」
トトちゃんは自身が怪我をしていながらも優しく少女に寄り添う
少女はトトちゃんのほうを向いて
ただじっと見つめている
「うーんこの子もどこかで会ったことがあったりする人なのかなぁ」
「多分私じゃわからないや」
「レイトを迎えに行った人たちに聞こう」
とりあえずはその少女を囲むようにして全員が座り
かえでたちの帰りを待った
---
レイトを無事発見することができたので
合計4人でラボの跡地へと足を進める
日が暮れてきたのか徐々に気温が低くなってきている気がする
ひんやりとした風が頬を撫でる
「あれもうトトちゃんたちいるじゃん!」
「待たせちゃった!」
少し前を歩いていたかえでがそう言った
そこからトトちゃんたちの待つ方へ少し駆け足で向かう
すると知らない子が1人紛れていることに気づく
「べりちゃんたちおかえりー!」
「ちゃんとレイトもいるじゃんえら」
「おいレイトお前どこ行ってたんだよ…」
レイトを心配していたような声とそんなもの関係していないような声
両方とも一度に耳に流れ込んできた
「待たせちゃった?」
「ごめんね遅くなって」
フェンリルは地面にゆっくり座るとそう言った
「あっそうだこの子について質問があるんだけど」
「べりちゃん知ってたりしないよね…?」
トトちゃんは大きなガラスケースを抱えた女の子を見つめる
見ただけでは全く知らない人であった
「てかそれより1人いなくね?」
「わんこどこ??」
突然レイトがそう言う
すると全員「あっ確かに」みたいな顔をして少女を見つめる
「えっ!?」
「わんこ先輩がいるんですか!?」
少女は初めて口を開けた
まさかのわんこについては知っているようだ
「わんこ先輩に会いたいです!」
「どこにいるんでしょう?」
「えっと…」
「それが分からないんだよね」
トトちゃんは苦笑しながらもそう言った
フレアとみぃは辺りをキョロキョロと見回している
「あれわんこじゃね?」