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目次
異能聖戦 ~青春は戦場となる~ 第一話
【キャラクター紹】
月島 颯太(つきしま そうた)
14歳
男性
イメージ画像:https://picrew.me/ja/image_maker/1453974/complete?cd=9iBhtON0Id
白花 澪(しらはな みお)
13歳
女性
イメージ画像:https://picrew.me/share?cd=ohjLCV5XF6
理事長(本名:???)
20代
男性
イメージ画像:https://picrew.me/ja/image_maker/2151243/complete?cd=muGSXJYbTF
< スキルシティ 異能軍事学園 >
「敬礼!」
ピシッと言う音と共に校庭に集まった何百人もの生徒がキレイに敬礼している。
「ふぁ……」
理事長の話を聞いていると真横から寝ぼけたあくびが聞こえてきた。
「ピシッとしろ。あくびしてるのはお前だけだぞ」
「わかってるよ……ふぁ」
ダメだ。俺の言葉が脳に届いていない。どうなっても知らないぞ。
俺の隣であくびをしまくっているコイツは|白花《しらはな》 |澪《みお》。
幼馴染で、俺の|相棒《バディ》だ。
ん?あ、俺が誰だか言ってなかったな。俺の名前は|月島《つきしま》 |颯太《そうた》。
ここは異能軍事学園と言う特殊な学園。この学園には|異能力者《スキルパーソン》が通っているんだ。
ここで育てられた|異能力者《スキルパーソン》は将来的に治安維持組織に入るようになっていて誰もが一度は憧れるという職業、|異能執行人《スキルエンフォーサー》になれる。
|異能執行人《スキルエンフォーサー》は言わば能力を持った警察官のような感じだ。管轄は軍だけどな。
「これにて開幕式を終了する」
なんやかんや話していたら、開幕式そのものが終わってしまった。
ま、いいんだが。
「では、各生徒は事前に組んだ|相棒《バディ》と共に待機していてください。まもなく試験が始まります」
そうそう。今日は試験で、開幕式っていうのは試験のだ。
この学園の試験は一般人が自由に観戦出来るようになっていて、いつも観客(野次馬)が外に現れるんだ。
とここで、試験と聞いて大抵の人は筆記試験とかを考えてるだろう。
これから始まる試験はランク昇格試験。つまり戦って自分のランクを上げる試験だ。
ランクというのは|異能力者《スキルパーソン》の強さを分類しているものだ。
・Fランク……無能力者
・Eランク……一応|異能《スキル》を使える
・Dランク……応用しやすくなり、まぁまぁ役に立つ。
・ランクC-
・ランクC……十分戦闘に使えるようになり、無能力者ぐらいなら倒せる。
・ランクC+
・ランクB-
・ランクB……軍の特殊部隊やCランクの|異能力者《スキルパーソン》数人なら簡単に倒せる。
・ランクB+
・ランクA-
・ランクA……町などを壊滅できる。特異能力者。
・ランクA+
・ランクS……全人類を敵に回しても勝てる実力。空想のランクとも言われている。
・ランク?……不明
と言った感じに分かれている。
あと、意外に思うかもしれないが、この世界のほとんどの|異能力者《スキルパーソン》は|異能《スキル》を2つ持っている。一つの方が珍しいんだ。ちなみに3つ持ってる人もいるとかいないとか……。
「準備が完了しました」
放送を聞いて周りを見ると、いつの間にか学園を囲むように青いバリアが半円の形で張られていた。
そして、青色のバリアから電撃のような青い衝撃波が飛んで来る。
これを浴びると、バリア内が仮想空間になるのだ。こうすれば、武器を使えるし、殺しても死なない。もちろん、外は現実。
試験のルールは二人一組のチームでバトルロワイヤル。上位5組が昇格できる。
能力と武器の使用はOK。
戦闘不能、もしくは死亡すると、自動的に外の現実世界の待機所に戻る仕組みだ。
とまぁ、最低限の事は説明できたな。そろそろ始まるし、切り替えてこう。
「準備は大丈夫か?」
「する必要ある?」
「ないな。無茶するな」
「それこっちのセリフ」
「誰に向かって言ってるんだか」
やれやれ……といった感じで白花と少し話し、気持ちを切り替える。
「それではランク昇格試験、スタートです!」
(さて、まずはどう動くか……)
月島が考えていると一人の男が、不意をつくように背後から攻撃を仕掛けてくる。
気配に勘付いた月島が後ろを振り返ると、ナイフを持った男が大きくジャンプし、
「月島!いつまでも強者ぶってんじゃねぇぞ!」
と叫びながらナイフを振り下ろしてくる。
目を見張る光景を目にした直後、月島は口の端がニヤリと持ち上がった。その直後、
「反重力」
眼前に迫った男の体に手を伸ばし男に触れた瞬間、男はありえない速度で遥か後方へ吹き飛び、バリアにぶつかって気絶してしまった。
「テメェこそ、勝てると思ってんじゃねぇよ」
しかし、そんな月島の背後に気絶したはずの男が現れ、全速力で接近してくる。
(そいつは|異能《スキル》で作った分身!こうも簡単に引っ掛かってくれるとは。楽勝楽勝♪)
「俺の背中には、守り神がいるかもしれねぇぞ?」
ぼそりと呟く言葉を聞いた男は誰に向かって言ってんだ?と思いつつ接近し、切り掛かろうとする。
(くたばれ月島!)
その瞬間、目の前に白花が現れる。手に持った短刀型手裏剣を投げつける。
「やっべ!」
と言い、右へステップして取り敢えず避ける。次の攻撃に備えて白花の方を振り返るが、
「いない⁉」
驚いたことに、白花がキレイさっぱり消えてしまったのだ。
すると、白花が放った短刀型手裏剣がカーブして迫る。
「なに⁉」
(なんで曲がってくるんだよ――⁉)
驚いた男は高速で接近する短刀型手裏剣をとっさにジャンプで回避するが、その背後に突如現れた白花がリボルバーの銃口を後頭部に突きつけ「遅い」と一言言って弾丸を撃ち出す。
「サンキュー」
地面に降りて来た白花に向かって礼を言う。
「このあとどうするの?」
「うーん……」
周りを見ると、先ほどのように襲い掛かってくる生徒はおらず、それぞれが戦っている感じだった。
「誰も襲ってこないし、遠くからちょっかいだしてやるか」
そう言って月島はレミントンMSRというスナイパーライフルを取り出す。
「遠距離はあんまり好きじゃないんだよね。私は私で狩りしてくる」
「気を付けろよ」
「余裕余裕♪」
白花はそのまま月島から離れていった。
ふと周りを見ると、白花に向かって無防備に突っ込んでくる生徒が見えた。
(無防備……?)
疑問に思いつつ、取り敢えず短刀型手裏剣を投げる。それでも突っ込んでくる生徒だったが、次の瞬間――。
「幽霊体」
小さな声でポツリと呟くと、短刀型手裏剣が生徒の体をすり抜けた。
(すり抜けた⁉しかもなんか体が透けてる?)
こういう想定外の|異能《スキル》を使われた時は、まず仮説を立てて、戦いながら確かめ、倒す方法を自分で見つけ出すしかない。
(まずは、あのすり抜ける状態で攻撃できるかどうか確かめないと……)
無防備のような完璧な防御で突っ込んでくる生徒が近づくのを待つことにした白花。攻撃の瞬間を見極め、ギリギリで避けるつもりだ。
(見た感じ透明化?みたいな感じだけど、ありとあらゆるものをすり抜ける状態なら、おそらく私の目の前であの状態が解かれるはず……)
五感を研ぎ澄まして、そのタイミングを待つ。
眼前にまで迫った少年は、逃げないことに驚きつつ、0距離で首を狙い右足を軸にハイキックを繰り出す。足先がすぐそばまで迫ったその時、少年の透けた体が実体化した。
(やっぱり――!)
瞬時に理解した白花は一瞬にして姿を消した。
(テレポートの|異能《スキル》を持ってて良かった)
少年と距離をとった白花。少年と目を合わせる。少年は子供っぽく、袖の中に手をしまっている。
両目がちょうど見えないように伸びた前髪で、顔は鼻と口元しか見えない。
「へぇー。やるねぇお姉さん」
「君もデタラメな|異能《スキル》使ってきた挙句、女子に向かってキックボクシングの技を仕掛けてくるなんて、見かけによらない暴れん坊君ね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
ニカッと笑って答える少年。まだまだ余裕がある様子だ。
「じゃあ、これはどうかな?」
そう言うと少年の周りに砂が舞い始め、大きな砂嵐が少年を囲んだ。
「砂を操るって感じかな?」
「せいかーい♪」
少年が砂嵐の中から出てきた。周りを見ると、白花を囲うように9つの砂嵐が現れていた。
空中にまった砂煙のせいで辺り一面茶色一色になっていた。
「実はお姉さんの事知っててね。テレポートする|異能力《スキル》をもってるんでしょ?」
答えずにただ余裕そうに笑う少年を見続ける。
「でも、制限がある」
声色を変えた少年はテキパキと話し始めた。
「その|異能《スキル》でテレポートするにはテレポートする先を視界に捉え、距離感を的確に測らないとテレポートできない。この視界じゃどこにもテレポートできない。そうだよね?」
「あちゃー。嵌められたなー」と取り敢えず適当に言っておいた――。
「でも、まだまだ勉強不足だね」
お姉さん事、白花は突然言い放った。
(勉強不足?確かにこの状況なら動けないと思うんだけどな……)
不思議に思ったものの、少年はどうでもいいか、といった感じでだんだんと9つの砂嵐を中心にいる白花に近づけていった。飲み込まれればただじゃすまない。
少しずつ、じわじわと近づいてくる砂嵐を見ても、冷や汗一つ出さない様子にイラついた少年はいっきに砂嵐を白花に向けて放った。
白花は9つの砂嵐が混ざり合って出来た巨大な砂嵐の中に閉じ込められた。巨大な砂嵐はもはや暴風雨のようで、校庭にいるほとんどの生徒が驚いていた。
「なーんだ。言葉だけじゃん。大した事ないなー」
余裕だったな。と言わんばかりに捨て台詞を放った少年。こんな事言っても返事の一つも返ってこないだろう。
「ほんと。口だけは達者だね」
返事が返ってきたことに驚き、振り返った少年。しかし、見えるのは巨大な砂嵐のみ。
気のせいかな?とその場を去ろうと砂嵐を背に歩き出したその時。
突如として体に吹き付けていた砂煙の感覚が消えたことに気が付き、もう一度振り返ると、白花が何事もなかったように立っていた。
「私の二つ目の|異能《スキル》は念動力。自分以外の無機物を除いてありとあらゆる物体を自分の意思で動かせるから、砂嵐なんて小石同然よ」
感情のこもっていない静かな顔で言い放つ白花。
(最初は驚いたけど、要は砂は効かないというだけで幽霊体は効くってことじゃんか)
冷静になった末に余裕を取り戻した少年は、煽るように言った。
「でも、幽霊体になった僕への有効打はないんでしょ?砂嵐を防げたくらいじゃ僕には勝てないよー」
そう言い放った少年は、やれやれと視線を斜め下に落とした。
「その幽霊体にさせなければいいだけの話だけど?」
突如として自分の背後から声が聞こえ振り返ると同時、驚きのあまり開いていた口に何かが入った。
冷たい感触。白花の手にはリボルバーがあり、銃口が突きつけられているのは考えずとも分かった。
発砲音と共に力なく倒れた少年を見て。白花はその場を去った――。
―その頃、月島は―
校舎の屋上から双眼鏡で辺りを見渡す。すると、校庭の隅に棒立ちで突っ立っている女性が見えた。
目をつぶっている。
(スナイパーの基本。動いている敵は狙わない……)
冷静に基礎を振り返りながら狙撃のためにスナイパーライフルを構える月島。
揺れるスコープの中に女性を捉える。息をスーッとはき、揺れを抑制する。
一瞬、揺れが止まったその時、女性の頭をスコープの中心に捉えた。
トリガーを引き、銃口から飛び出してきた弾丸は空気を切り裂き、狙った場所へ一直線に飛んで行く。既に弾丸は女性の眼前に迫っていた。その瞬間――。
突然目を見開いた女性は体を捻って弾丸を避けた。まるで見切っていたかのように。
そして、月島をキッと睨みつけると、その場から跳躍するように走り出し、一瞬にして距離を縮めてきた。右手に剣を取り出している。瞬きもの時間の間に距離を詰めて来そうだ。
(来る――!)
俺は愛用している自分専用の刀『|和正刀《わせいとう》』を抜刀し、タイミングを見極め上段から素早く打つ。
女性は剣でそれを受け流す。
(なんだこの人、手に全然力を入れてねぇ。力の入っていない、自由に泳がせるような、重さの無い軽い剣使い……システマ剣術か。だとしたら、持っている剣は『カフカス・サーベル』ロシア帝国軍が南下政策の際に使った剣。実際に見るのは初めてだな。どう対処するか……)
「おやおや?君は月島君だよね?刀の扱いが上手いと聞いていたんだが、押され気味だねぇー?」
「チッ。デタラメ野郎が。めちゃくちゃな動きしやがって」
カキンッ、カンッと刃の音が響く。月島も刀の扱いはかなり得意だが、相手の刃にこすり合わせるように剣先を近づけてくる独特な動きに、対処出来ずにいた。
(クソッ。ああすればこうするで、キリがねぇな。仕方ねぇ……)
「|時間停止《タイムストップ》!」
月島がそう言い放つと、世界が固まった。
(持続時間は最大約10秒。この間は打撃や物理的な攻撃は解除しても効かない。出来ることは……)
月島は女性の左肩に手を置き、
「取り敢えず、10倍」
そう言うと手を放し、女性から少し距離を取る――。
私は月島と剣戟を繰り広げていた。
月島は刀の扱いが非常に上手いと聞いていたが、私のシステマ剣術は初めて味わったからだろうか?
かなり苦戦していた。そして、剣戟の末、月島に隙が出来た。次の攻撃で月島の負けは確定した。
(見切りの|異能《スキル》と俊足の|異能《スキル》を持つ私を相手にここまで戦えただけでも凄いねぇ。でも、これで終わりね――)
「チェックメイト」
そう言った次の瞬間、空間に歪みが生じたかと思うと私は屋上の床に引き付けられた。
「っ――⁉」
誰にも触れられていないのに地面に叩きつけられている。まるで自分の体重が何倍にも膨れ上がったみたいに重い。起き上がるどころか、動くことすらままならない。
「どういう……こと?」
理解できなかった。なにもされていないのに地面に叩きつけられるなんて。
「簡単さデタラメ野郎。お前の体に掛かる重力を10倍にしたんだ。俺は触れた人間に掛かる重力の大きさを変えられるんだ」
「はぁ?君がいつ私に触れた⁉」
「いつって聞かれても、今さっき”時間を止めている時”だけど?」
「なっ――⁉」
そう。俺にはもう一つの|異能《スキル》、『時間操作』がある。
これを使った訳だ。いくらデタラメ野郎でもこれは避けられないだろうと思ってな。
「じゃあな。デタラメ野郎」
そう言って俺は、置いておいたスナイパーライフルをうつ伏せになっている彼女の後頭部に突きつけて撃った。
「チェックメイト。お疲れ様っと……」
飛び散った際にスナイパーライフルに掛かった血をピュッ、ピュッ、と払う。
「終わった?」
声が聞こえて振り返ると、白花がいた。おそらくテレポートして来たんだろう。
「ああ。たった今な」
返事をしながら校庭の方を見るとかなり数が減っていた。ざっと10人くらいまで。
「残り5組です。ここから先は昇格確定の実力者揃い!一位のチームはどこになるでしょうか?」
「だってよ。2×4で相手は残り8人。どうするの?」
「うーん。まぁアップは終わったし、最後は全員まとめてド派手に片付けるか」
そう言って口端をニヤリと持ち上げ、吹いてきた風が薄い灰色の髪を乱暴に揺らし、ポケットに手を入れて屋上から校庭にいる残りの生徒を見下ろす。
「4人だ」
「え?」
「4人……お前に任せる」
「じゃ、残り4人は任せていいんだよね?」
「当たり前だっつーの。4人くらい朝飯前だ」
「OK。じゃあ10秒で片付けるっていうのはどう?」
「んなもん5秒で十分だ」
「だね」
そう言うと二人は校舎の屋上から飛び降りた。
月島は禍々しい黒いオーラを纏った右手を伸ばして、地面に触れた瞬間に範囲攻撃を仕掛けた。
(学園全体を範囲として、かなり体に負荷がくるが……30倍)
次の瞬間、学園全体が黒いオーラに包まれた。
そして、時間操作の|異能《スキル》を利用して、さらに相手の動きをスローモーションにする。
姿勢を低くし、集中のために息を吐く。
「和正流混合刀技、|夢想《むそう》|雲耀《うんよう》|剣《けん》――‼」
そう言うと、無意識の域で雷のような速さの攻撃を繰り出す。
白花は30倍の重力の中、自分の体を念動力で浮かせることで動いていた。
テレポートの|異能《スキル》を使い、一瞬にして、短刀型手裏剣とリボルバーで敵を仕留めていった。
二人の攻撃はほぼ同時に終わり、相手が倒れると、重力は通常に戻った――。
< 数時間後 理事長室 >
コンコンッと扉をノックし「失礼します」と月島と白花が言った。
「理事長。言われた通りきましたけど、何の御用でしょうか?」
部屋に入り理事長に尋ねる。部屋にはいかにもな席に座る理事長と、秘書や護衛などがいた。
俺がそう聞くと理事長は「まぁ取り敢えず座って座って」と優しい声で言ってきた。
「で、なんで私たちを呼んだんですか?」
しびれを切らした白花が疑問をぶつける。コイツに遠慮と言うのはないのかだろうか。
「ああ。なぁに、簡単なことだよ。お祝いだ。一位おめでとう!」
「え?あ、ありがとうございます」
え?これだけ?このためだけに緊張して来たの?緊張した意味無かったんだが。
「ということで……」
そう言うと理事長は机の下から何かを取り出し、それを見せながら言った。
「打ち上げといきますか」
「は?」
机の下に事前に置いていたのか、理事長はビールの瓶を取り出し一口飲んだ。
唐突の出来事に俺が声を上げると、秘書が近づいてきた。
「すまん。理事長の悪い癖なんだ」
「なんて癖だよ。教員が持っていい癖じゃないだろ」
「理事長はとてつもないアルコール中毒でな。5分に1回うまい酒を飲まないと貧乏ゆすりが始まり……」
「嫌なやつだな」
「15分に一回うまい酒を飲まないと思考が停止し……」
「一日三食酒ざんまいかな?」
「30分に一回うまい酒を飲まないと暴走する」
「とんだクソ野郎じゃねぇか。しかも”うまい酒”かよ」
「寝ている間は酒瓶を置いておけば10分に一回ぐらい無意識に飲む」
「どんだけ飲みてぇんだよ。酒以外の飲み物飲んだことあんのか?」
「ない。しかも”うまい酒”というのも気分で変化するからお口に合わないと一瞬で暴走と化す」
「もはやカスだな。そんなんじゃまともに生きて――」
「行ける‼」
「どこから出てくるんだその自信は……」
はぁ、この学園の理事長そんな奴だったのかよ。てかよくそんなんで理事長なれたな。
「と、そこでお願いなんだが……」
(お願い?)
今更なんのお願いだろうか。てかこんなイカれた人のお願いなんてまともじゃなさそう。
「なんですか?」
「君もお酒を飲んでみな――」
「NO‼」
「えええええええええええええええええええそんなあああああああああああああああああああああああ嘘だあああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
「おいまた理事長がぶっ壊れたぞ‼」
「酒だ!早く酒を持ってこい!日本酒やらなにやら全部だ‼」
「なんなんだこれは」
「☆ザ・カオス☆ね」
「はぁ」とため息をつき、そのまま理事長が落ち着くのを待った……。
--- ― ”うまい”酒せっしゅ中 ― ---
--- ― お口に合わず暴走中 ― ---
--- ― 逆流ちゅう ― ---
< 1時間後…… >
「なんでだ‼」
理事長は顔面0距離で言って来た。
「なんでって、そもそも未成年だし……」
「なぜ!人類の宝であり誇りである最高かつ最強の飲み物‼☆O☆SA☆KE☆っを飲まない⁉」
「いやだから……」
「月島君。君には失望したよ。人間失格だ」
「いやそこまで⁉」
こんなイカレ理事長の管理する学園でこれからも学生生活をしていくのか……。
「あの……そろそろ本題に入ってもらえないかな?私あまりここに長居したくない」
そう言ってちらりと理事長の吐き出したゲテモノが入っている袋を見た。
流石に積極的で自由奔放なこいつもゲテモノを前に引いていたようだ。
「不快な思いをさせてしまってすみません」
秘書が理事長の代わりに謝る。
「ふぅ。仕方ない。月島君は諦めて別の生徒を勧誘しよう」
「「「ダメに決まってるだろ‼」」」
はぁ。早く本題に入って欲しい。まさかこのためだけに呼んだんだんじゃないだろうし。
・・・。
いや、ありえなくもな――。
「じゃあ、本題に入ろうか」
ソウデスヨネ イクラ イカレクソカス リジチョウ デモ ソレハ アリエマセンヨネ アハハハハハハ。
普段の冷静でどこか真面目な顔つきに戻ったかと思うと理事長は落ち着いた声で聞いてきた。
「単刀直入に聞こう。月島 颯太君。君はなぜこの学園に入った?」
「……」
「どうしたの?」
唐突で核心を突く質問に俺は黙ってしまった。白花が心配してくれているが、何も言えなかった。
「月島君」
理事長は真剣な表情で話し始めた。
「私は君がまだ小さいころ、君のお父さんと知り合いだったのもあって、何回か君と会ったことがある。これは知ってるな?」
「……はい」
俺自身は覚えてないが昔部屋に飾られていた写真に、理事長と似た顔の人が一緒に写っていたためそうなのだろうと思った。
「小さいころの君は父親に似た正義感の強い、優しい人間だった」
「……」
俺はただ、黙って聞くしか無かった。
「だが3年前、10歳になった君を入学式で見かけた。声は掛けなかったが、目を見ただけで分かった。今の君にあるのは、正義感ではなく、復讐心に見える」
「……気のせいです――」
「8年前」
(――!)
「8年前、君の両親に何があった?」
「それは――!」
「月島君。……答えてくれ。ただ知りたいだけなんだ」
「……」
俺は思い出していた。二度と思い出したくないような”悪夢”を――。
― 8年前 ―
夏休みのど真ん中。幼い俺は父さんと遊園地に遊びに来ていた。
晴れ予報だったにも関わらず、空は黒い雲に覆われ、雨がザーッと降っていた。
しかし寒気は無く、むしろヒリヒリとした熱が体に伝わって来ていた。
辺り一帯に逃げ惑う人たちの悲鳴と、銃声、爆発音が響いていた。
銃を持った男。
ナイフを持った男。
仮面を付けた男など、明らかに普通じゃない人たちがたくさんいた。
父は動けない俺の両肩をガシッと掴み、雨水が滴る顔で言って来た。
「お父さん……」
「いいか颯太。お父さんはあの人たちを止めないといけない」
「どうして?早く逃げようよ」
「お前が逃げろ。お父さんは大丈夫だ。|上級異能執行人《アンバンストスキルエンフォーサー》だぞ?」
「でも……怖いよ……」
「そうか。なら護身用にだな……」
そう言って父はいつも大切に持っていた刀を取り出した。
「これって、いつもお父さんが使ってる……」
「『和正刀』だ。いざとなったら、コイツが守ってくれる。安心しろ。”コイツ”をもう一人の俺とでも思ってくれ」
そう言うと父は立ち上がった。
「必ず帰ってくる」
立ち去る父の背を見て俺は言った。
「絶対だよ!約束だよ‼」
「ああ!」
遠くから、小さくなった返事の声が聞こえて来た。
その後、遊園地から出ると、母さんが来ていた。
「颯太!」
「お母さん!」
再開の感動で、俺は母さんに抱き着いた。
「良かった。生きてて……」
涙声で言った母さんの言葉に生きてる実感がわいた。
でも、その時だった。
「うああああああああああああ」
誰かの悲鳴が遊園地の外まで響いてきた。父の声だ。
「あなた!」
すぐに気づいた母は居ても立っても居られず、炎に包まれた遊園地に飛び込んでいった。
「お母さん!」
必死の声で叫んだが、母さんは振り返らず、帰っても来なかった――。
< 現代 >
「そうだったのか……」
俺の回想が終わり、理事長は先ほどよりも優しさのこもった声で話しかけてきた。
「因みに、君のお父さんの死因は何と聞いている?」
「何者かと揉み合った末、落下死したと聞いていますが……」
「そうか」
理事長はそれを聞くと、部屋の奥にある窓のそばに立ち、こう言った。
「君は、君のお父さんを殺した人物を知っているか?」
「いや……」
確か事件の後、それに関してはまだ捜査中とか言ってた気がする。
「お前の父さんは、現場にいたとある|異能《スキル》テロリストに敗北したんだよ」
「え?」
唐突な告白に、俺は声を上げた。
「君のお父さんを殺したのは――」
--- ― デス|トロイ《ランクS》ヤ―級|異能《スキル》テロリスト『ユニーク・ボンバー』だ ― ---