卑怯な魔法使いは暗闇に笑う
編集者:ミコト
【魔法】と【魔術】。その違い。一見同じように見えるその2つの定義。
魔法界ではこう決まっている。
【魔法】は日常生活から戦いまで使える一般的な術。
【魔術】は主に呪いの類の特別な術のこと。
____________________________________________
そして今。
魔法界には三貴子と呼ばれる天才魔法使いの卵がいる。
その護衛として育てられた、秀才魔法使い兼戦士もいる。
そして、治癒師として育てられた、魔力のない卑怯な魔法使いもいる。
続きを読む
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
episode1
ドズルSide
「ドズル。この方たちが、お前の主だよ。」
僕が4歳のとき、父さんはおんりーたちのもとに連れて行ってくれた。
僕が仕える、【三貴子】のもとへ。
最高の魔力、能力を秘めていると言えど、まだ彼らは3歳。
僕よりも下の子。多分状況が飲めていないのだろう。
こちらの方を不思議そうに見ている。
「………ちょーかわいい。」
「ちょ、ぼんさん!?」
おらふ王子の頬をぷにぷにと触りだした少年は、ぼんじゅうる。
僕の幼馴染にして隣に住む、僕より一つ年上の治癒師の息子。
彼もちゃんと魔法使いなんだけど、魔力が少なくて、いまだ魔法を使ったことがないらしい。
この時くらいから彼の両親が戦に出払って、なかなか帰ってこない日が続いたので
僕の家で一緒に暮らしていた。
「いいじゃん。俺もいつかこの子たち専属の治癒師になるんだろうな〜。」
王子の頬の感触が気に入ったのか、触りながら彼は笑う。
ぼんさんはポーションづくりが幼い頃から得意だった。
材料は僕が取ってきたり、父さんや母さんが持ってきてくれたり。
ぼんさんの両親も帰ってくると珍しい材料をくれたりした。
僕は回復魔法とかが得意だったから、父さんたちが戦いに出た時は、2人していつ帰ってきても手当ができるように夜ふかししたものだ。
2人でいろんなポーションを作って、いろんな魔獣で実験するのは今でもやる。
「ドズル、ぼんくん。御三方を任せたぞ。」
「はい!父さん!」「任せてくださいっ!」
父さんに返事をして、3人の顔をもう一度見てみる。
みんなかわいい。この子たちを、僕らはこれから守っていくんだ。
ぼんさんと一緒に3人と遊んだ。すっごく楽しかったのを思い出す。
---
「ドズさん!どーずーさんっ!」
誰かが僕の体を揺らしている。この声は、おんりー?
いきなり思い出から現実に引き戻されてしまったのに、少し寂しさを感じる。
そうだ。もう僕は5歳ではない。現在僕は16歳。あれから12年経った。
僕らは今日、大魔法学校に入学する。
「ん……おんりー?」
「起きましたか?」
目を開けると、僕は箒にまたがったまま地上50センチ上で浮いていた。
下でおんりーが僕を揺らしていたらしい。体幹鍛えてなかったら落ちてたな。
前には学校。目的地に向かいながら途中で寝てしまったらしい。
「うん、あれっ!?ぼんさんは?」
「今MENが起こしてます。また2人で夜遅くまでポーションの実験してたでしょう?」
そうだった。
昨日は新しい毒のポーションを実験するために
実験用魔獣(でかいネズミ魔獣)と格闘してたんだっけ。
意外と良いデータが入ったから、2人で寝る暇もなしに改良して……。机に突っ伏して寝ちゃったのか。
地面に降り立つと向こうにぼんさんの愛用の箒、
改造ファンカーゴを持っている白髮の少年が見えた気がした、
「「ドズルさん!」」
「あ、おらふくん。MENも!」
走ってくるMENに背負われているのはぼんさん。
寝起きが悪いぼんさんらしく、MENの爆発でも起きなかったようだ。髪の毛がチリチリになっている。
「ぼんさぁん、起きて!もう学校着いてるよ!!」
「ん………。どずさ……ぁ……。」
やはり寝ぼけているのか僕を探してMENの頭を叩きまくる。
普段僕が担いで起こすからかな……。なんかごめんね、MEN。
「ぼんさーん、それ俺の頭ですー!」
「ん……めん……MEN!?」
MENの声が想定外だったのか、ぼんさんは一気に目が覚めたようだ。
すぐにMENの背中から飛び降りると、ずり落ちていたサングラスを掛け直していた。
そして自分が爆発に巻き込まれたのも薄々理解したのか、
治癒のスプラッシュポーションを取り出し自分にかけた。
「おはよー、ドズさん。」
「おはようございます。ぼんさん。」
それでもまだ体は覚めないらしい。
ふらふらとした足取りで入学式の会場へ向かっていく。
待って待ってと僕もぼんさんを追いかけて歩きだす。
「おいてかないでください。」
「待ってー!!」
みんなも走ってきた。
やっぱりこの5人でいるのが一番僕は好き。
episode2
入学式の会場はやはりだだっ広かった。
僕の席は一番前。一番目立つ場所。【三貴子】である3人ならわかるけど、僕たちもここに入るとは。
たくさんの魔法使いの卵の中でも特に優秀な者たちがこの学校に入学してくる。
僕らは【三貴子】の護衛。まぁ、もちろん試験で入ったわけではあるんだけど……。
「俺さぁ、本当にここでいいのかな?」
すっかり目の覚めたぼんさんがぼやいている。
そう。ぼんさんは生まれつき魔法が使えない。
魔法使いではあるんだけれど、魔力が少なすぎるのと、魔力が体力に変換される【純血】の魔法使いに限りなく近いから、魔法を使うと倒れちゃうんだよね。
最悪の場合命に関わる。
ちなみに最近の魔法界では9割以上が混血だったり、魔法界の血を持たない人らしい。
【純血】の魔法使いは本当に少なくて、僕が会った限りではぼんさんだけ。
「ぼんさん、薬学得意じゃないですか。」
「いや、ギリギリよ?薬学で全部挽回したようなもんだし。」
最後の最後までぼんさんはボーダーギリギリの点数だった。
実技で点が取れない分、筆記などで取らないといけないからだ。
「最終的に実技はポーションでなんとかしたけどね〜。」
「あれは流石に卑怯だなって思いましたけど。」
そう。ぼんさんは卑怯。卑怯で魔力の少なさをカバーしている。
人を利用して、ポーションも利用して、その場にある全てを利用する。
そういうところを、学校は評価したんだろうなと僕は思う。
「2人で内緒話ですか?僕も混ぜてくださいよ!」
おらふくんたちは試験を受けていない。
能力も魔力も試験を受けてもすぐ突破してしまうことを数字で示していたので免除されたのだ。
だから3人は知らない。
最終試験が予告もなく実技になって、開き直ったぼんさんがありとあらゆる卑怯をしたことを。
「ん〜、秘密秘密。」
ぼんさんは笑っている。僕は苦笑いに近い。
あの時は流石に引いた。あれはちょっとやばかった。
おらふくんはキラキラとした瞳でこちらを見ている。
君は変わらないでいてくれ。
「人多いっすね〜。」
「魔法使いってやっぱりたくさんいるんだ。」
「本当はこの5倍とかいるから。試験会場やばかったから。」
ぼんさんがおんりーとMENに試験会場について語っている。
僕もちょっとこれは……?と思ったほどの人数だったから相当やばかったのだろう。
2人は嘘だと笑っていたが、本当。
しばらくして式が始まった。
騒がしかった会場も、しんと静まり返る。
この学校では一番最初に属性を測る儀式があると言う。
それを入学式で全員分やると言うから相当時間がかかるだろうと思っていたが、
ちゃんとチームに分かれて測るようだ。
ただ、僕らは一番前に座っていたことからも薄々わかるように、
みんなの前でやるということを先程聞かされた。
僕らは大丈夫だと言った。最初はやはり【三貴子】。
「起立、礼、着席」
静かに男性の教師が言葉を述べている。
なにかの祝電とか学校での生活についてとか、言われてるけどあんまり使うものはなさそう。
この学校には寮があって、僕とぼんさんはそこで暮らすことになっている。
……流石にここから家までが遠すぎるからね。
おんりーやおらふくん、MENは家から通うらしい。僕らはその護衛に毎朝通う。
そんな事を考えていると、もう属性を測る時間になってしまったらしい。
まず測るのは王子、おらふくん。
緊張しているのか、笑顔が消えている。彼らしくもない。
校長先生は彼を前へ招き、何かの術をかける。
見ている限りとても高度な魔法。
予測だけれどその人の奥に眠る魔力を引っ張り出すものじゃないかな。
おらふくんの体から水色のオーラみたいなものが出てきて、ひらひらと白いものが舞い始めた。
雪だ。春なのに。室内なのに。雪がふっている。
「おらふ。君の属性は|雪《レル》。」
ぱっと目に見えるくらいの雪の結晶が出来上がり、おらふくんの頭についた。
これが属性の証らしい。これをつけると属性の力が安定し、より強力な魔法を使えるとか。
おらふくんの顔は明るくなって、一目散に僕らの方へ。
緊張したと言わんばかりにホッとした顔だった。
次は武器職人の息子のMEN。
彼には緊張など微塵もなさそうだ。
堂々と校長先生の前まで歩いていく。
魔法をかけられたMENの体からは、ポン、ポンと何かが弾ける音がする。
花火だ。小さな花火が上がっている。
「おおはらMEN。君の属性は|火薬《ドーン》。」
ぽんっとMEN愛用のTNTの形をした属性の証が、胸についた。
MENは今までになくニコニコしていた。
大好きな火薬が自分の属性で嬉しかったのだろうか。
次はおんりー。
彼は何も変わらない。幼いときからこんな感じ。
MENより控えめだがちゃんと一歩一歩を歩んでいる。
魔法をかけられたおんりーの体からは、雷のような光が出ていた。
それと同時に回りがぱっと明るくなる。
「お、おんりー、君の属性は|光《ルート》。
絶滅したと言われている、伝説の属性だよ……。」
校長先生が驚いたように声を上げる。
僕らは、まあおんりーだし?と納得した。
小さいときから誰よりも魔法が得意だったし。
おんりー自身は何も変わらず、
雷の形をした証を腕輪のようにしてつけて戻ってきたが。
そして……僕。
めっっっっちゃ緊張してる。うん、何この緊張感!?みたいな。
もしかしたら試験のときより緊張してるかも。一歩が震える。
目の前に立つ校長先生は、なんだか戦士のように筋骨隆々。この人、本当に魔法使いか?
なんて思ってたらいきなり魔法をかけられた。
心臓がドクンと大きく動く。体の奥底があったかい。
感じたことがない、不思議な感覚。いつの間にか僕を、炎が包んでいた。
でも、熱くはない。むしろちょうどいいくらい。
「ドズル、君の属性は|炎《ファナ》。」
小さな炎の形をした証が、僕の肩につけられた。
嬉しかった。何より暖かかった。おらふくんの気持ちがわかった気がする。
戻ろうとしたら、後ろに立っていたぼんさんの顔が目に入った。
不安そうだ。緊張とかそういうのじゃなくて。
ぼんさんはゆっくりゆっくり歩き出した。
一歩が重く、普段の軽い感じはどこにもない。
ローブがぶわっと風に揺れた。屋内だから風なんて入ってこれないはずなのに。
ぼんさんは祈るように手を合わせた。そんなぼんさんを、僕は初めて見た。
魔法がかけられた。……何も変化はない。オーラも、何も出てこない。
魔力が少なすぎて校長先生でも引っ張り出せなかったのか?とすら思ってしまう。
けれど、そうではないらしい。
校長先生は自ら何かを作ってぼんさんのローブの襟につけた。
「ぼんじゅうる。君の属性は|無《ノーマル》。相当珍しいな。」
二重丸の銀色バッジが輝いている。
ぼんさんの顔は、諦めを絵に描いたかのような寂しい笑顔だった。
式は進んでいく。グループ分けもすんだ。
ノーマル、という声は聞こえてこない。
僕は隣のぼんさんを見ることができなかった。
episode3
「ぼんさん……。」
「ん?どーしたの、ドズさん!」
入学式は終わって、少しの間の自由時間になった。
【三貴子】組は人気の少ない場所へ行った。
流石にあんなに貴重な属性を披露しては学生に囲まれること待ったなしと。
ぼんさんは先程までの悲しげな笑顔はなくなって、普段のぼんさんに戻っていた。
「そういえばドズさん、次は使い魔召喚するんだよね?」
「は、はい。」
この学校の入学式伝統行事パート2,使い魔召喚。
正確に言えば使い魔召喚と守護霊召喚。
自らの相棒となる使い魔と、自らを守ってくれる守護霊を見つける儀式。
「ドズさんはやっぱりゴリラかな?逆にゴリラ以外だったらびっくりだわ。」
「まぁ……自分でゴリラって言ってますしね。」
笑ったぼんさんのローブの襟には銀色の丸いバッジが付いていた。
ぼんさんの実力は、わからない。
幼い頃から魔法が使えなくて、ポーションづくりに熱中していたのは知っている。
だからだろうか?ぼんさんが魔法使いという確信が、僕は未だに持てない。
「行こう、ドズさん。」
---
「あ、ドズルさん来た!」
みんなはもう会場で待っていた。
案の定学生に囲まれ、背の高いMENの頭以外何も見えない。
これには僕もぼんさんも苦笑い。
特におんりーはみんながどいてくれないみたいでなかなか出てこない。
そうこうしている間に儀式が始まってしまった。
最初はやっぱりおらふくん。
魔法陣の上に立って、真ん中の台に自らの属性の証を置いた。
みるみる証から煙が上がっていく。
そしてその煙は、雪だるまへと形を変えた。
「わぁっ!」
ぴょこぴょこ動く雪だるまを横目に、煙はまだまだ上がっていく。
おらふくんの後ろで煙は形を成し、ユキヒョウとなった。
「君たちが僕の使い魔と守護霊なんや。」
おらふくんは慈しむように彼らの頭に手を乗せた。
二匹(?)もうれしそうに顔を寄せる。
守護霊はすぐ消えてしまったが、雪だるまは残った。
「よろしくな、雪だるまくん。」
先ほどと同じ順序で儀式は進んでいく。
MENの使い魔はMENフクロウ。MENがそう名付けた。
ちなみに守護霊は大きいイノシシ。猪突猛進太郎と言いかけたところで消えてしまった。
おんりーの使い魔はいなりー。おらふくんが付けた名前をおんりーが採用した。
守護霊は妖狐。美しく気高いキツネだった。
そして僕。使い魔も守護霊もゴリラ。使い魔の方はビックボスと名付けた。すごく可愛い。
守護霊はシルバーバックの筋骨隆々なゴリラだったらしい。僕は一瞬しか見れなかったけど。
「やっぱゴリラじゃんwwww」
ぼんさん半分ツボってたな……。
最後にぼんさん。
さっきまでツボってたのに今や静かに台の方を向いている。
僕ら以外の皆、ぼんさんの方を見ることもなく、自分の支度を始める中、
ぼんさんは僕らが思ってもいない行動に打って出た。
ぼんさんは自分のバッジを外さなかった。
そのかわり、自分の指を噛んで血を出したのだ。
「へ!?」
ぼんさんは驚く僕らを尻目に、ポタポタとたれる血を、台の上にかけた。
そしてぼんさんが何事かをつぶやくと、、、、。
バッと一瞬だけ世界が暗くなった。世界から光が消えた。
数秒経つとふっと停電が収まったときのように世界に光が戻ってくる。
僕は見た。ぼんさんの側にいたのは………。
三本足のカラスと小さなサングラスを掛けたカラス。
三本足のカラスは、羽を広げ、まるでぼんさんを守っているかのようだった。
僕は知っている。遠い遠い東の果ての国。
そこには普通のカラスよりずっと大きい三本足のカラスがいると。
カラスは王を都へと導いたと。
そして、そのカラスの名は。
「ヤタ、ガラス。」
その名を口にした途端、カラスは消えてしまった。
ぼんさんは肩に乗った小さなサングラスのカラスの方を見ていた。
「おまっ……鳥なのにサングラスしてんのかよ。
んじゃ、お前の名前はグラサンバードな。」
彼の手つきは今になく暖かかった。
僕も知らない、彼の奥深くを知れた気がした。
「ぼん、さん。」
言葉が詰まる。太陽の光を背に受ける貴方が神々しい。
サングラスから覗いたあなたの瞳が、やけに輝いて見えた。
「みんな!終わったよ〜!」
「ぼんさん、ほんとなにやってんすか!!」
「いきなり指噛むから心配したんですが!?」
「てかさっきの鳥なんやねん!?」
僕より先に【三貴子】組が駆け寄ってぼんさんを問い詰める。
ぼんさんは困ったように頭を引っ掻いて僕を見た。
僕は言葉が出てこない。かろうじて何やってんすか、とだけは言えた。
「かっこよかったでしょ?俺の守護霊。」
ぼんさんはへらっと笑った。
この一日で僕は、ぼんさんの知らなかったことを知った。
何年も、何年も一緒にいるはずなのに。
悔しかった。ポーションなんかじゃ、魔法なんかじゃなんとでもならない。
それはおんりーもおらふくんもMENも一緒のこと。だからみんな、怒っている。
「そうですね。ヤタガラスは人をゴールへ導く鳥です。」
きっとぼんさんはヤタガラスを知らない。
神々のカラスであり神性な鳥であることも。
むしろそんなこと、ここじゃ知っているのは僕くらいかな。
「やたが……?」
「ふふっ……。ぼんさん、わかってたでしょ?
僕らがやったやり方じゃ、魔力を消費するから自分にはできないって。」
そう。あのやり方は地味に魔力を消費する。
僕らにとってはなんともないけど、ぼんさんがやったら一瞬で倒れるレベルだから。
ぼんさんはそれをわかってた。
だからちょっと危険な獣が出てくるかもだけど血液召喚の方を選んだ。
そっちは自分に従う獣が出てくるとは限らないんだけど
魔力を消費しないからぼんさんにとっては最善手。
「今度授業かなんかやる時は先に僕の魔力分けときますね。」
「自分の魔力も分けますよ。」
「僕も〜!」
「俺のも全然大丈夫っすよ。」
「ありがとー!ほんっと助かる!」
本当にあなたは、卑怯なのか、全て計算済みなのか予想がつかない。
episode4
おんりーside
「ありがとうございました、ドズさん。」
「ぼんさんも〜!」
「また明日です!」
「「また明日〜!」」
ドズさんとぼんさんが箒に乗って飛び去っていく。
自分たちはそれを見送ってから、家への道のりを進む。
「帰ったら何しよ〜。」
「俺はドラゴン退治行くかな〜。そろそろタイム更新したいし。」
幼い頃から続けてきたドラゴン退治。
暇さえあれば出かけてしばきに行くから、
多分もう、倒した体数は五百体を超えているだろうけど。
「じゃあ僕も行く!」
「え、でもおらふくん。。王様と王妃様に怒られないの?」
「許可もらっとるよ!
おんりーとMENと一緒だったら大丈夫!
ドズルさんとぼんさんと一緒でも大丈夫やゆーとった!」
おらふくんはこれでもこの国の王子にして王太子。
そんな人がホイホイ死ぬかもしれないドラゴン退治に行っていいのだろうか。
流石に不安になる。
そして王様、自分たちに信頼置きすぎです。
流石に一人息子をドラゴン退治に行かせるのはちょっとでいいから渋ってください。
「あー、じゃ俺も行こっかな。新しい武器試したいし。」
「あれ。またなんか作ったん?」
「TNT大量発射装置と製造機を小型化して携帯可能にしてみた!」
MENの発明品は大抵火薬が絡む。
TNT大量発射装置と製造機とはMENが最近造った、TNTを作りつつ大量発射する巨大装置のこと。
半分兵器のような代物だが、平和なこの国では花火の発射とかに使われている。
「威力は?」
「そのまま。むしろ上がってるかも。」
「いいじゃん。」
威力とは一撃でやれるパンチ力か、周りの邪魔者を吹っ飛ばせる範囲型か。
どっちもドラゴンの巣を壊さなければいいけど。
なんて思いながら、新たな発明品にワクワクしている自分がいる。
「じゃ、3人で行こっか。」
「おんりー!斧持ったで!食料と薬もバッチリや!あと水バケツも!」
「火薬と砂もOK,いつでも行ける。」
久しぶりのドラゴン退治。自分たち一斉に一歩を踏み出した。
---
「はよこいやぁっ!!!!」
残り一撃。このままやれば自己ベスト更新できる。
邪魔な周りの魔物はMENとおらふくんが進化系TNT発射装置でふっとばしてくれている。
--- グォォォ……。 ---
来た。斧を振りかぶって頭に一撃。
ぱぁっと辺りに光が広がる。自己ベスト、更新だ。
「やった!!おんりーっ!!」
「おわっ!?ちょ、おんりー!!」
飛びついてくるおらふくん。魔物に囲まれているMEN。
やっぱりこの2人は面白い。
持ってきたパンを頬張り、疲れた体に栄養を巡らせる。
「早く帰ろ〜!」
「そうだね。じゃぁMEN、あとよろしく〜。」
「おぉい!!俺を見捨てるなーーーー!!!」
---
「ただいま、父さん。母さん。」
「おかえり、おんりー。今日はおらふ王子とMENくんとドラゴン退治か?」
家に帰ると、もう母さんが夕飯を用意していた。
普段は遅い父さんも家に帰ってきている。
「うん。今日はMENが新しい武器を発明したみたいで、それの実験もやったんだ。」
「面白そうだな。今度俺も見せてもらおう。」
父さんは騎士なのに剣以外の武器も大好き。
特に爆発系のものが好きらしくて、MENと意気投合している。
なんだかわかる気がするようなしないような。
「おんりー、学校どうだった?」
「えーっと、属性を見て、使い魔召喚の儀式があったよ。あ、いただきます。」
母さんのご飯はいつだって美味しい。
疲れも抜ける。おらふくんは執事さんに怒られてないかな。今度謝っとこう……。
MENはまた新しい武器考えてるんだろうか。
「ドズルくんとぼんくんは元気かい?」
「うん。やっぱりポーション研究に熱中してるみたい。」
ドズさんのお父さんと父さんは幼い頃からの友達らしい。
「さ、おんりー。明日も早いんでしょう。早く食べてお風呂入って寝なさい。」
「はーい、母さん。」
episode5
おらふくんSide
「お父さん、お母さん、ただいまぁ!」
「おかえり〜。おらふ。」
「おかえり〜。」
王宮へ帰るとお父さんとお母さんが待っとった。
僕は戦利品のお宝をお父さんたちに見せていると、執事さんが駆け寄ってきた。
「おらふ様〜!!!一体どこへ行ってたのですか!!」
「あ〜、ごめんごめんww。おんりーとMENと一緒にドラゴン退治行っとったんよ。」
相当走り回っとったのかな。
執事さんの額には大粒の汗が浮かんどる。
「いいやないか。元気なことはいいことやろ、おらふ。」
「おんりーチャンやMENくんにありがとうゆーとくんよ?」
「うん!」
お父さんとお母さんは僕の行動をとやかく言わん。
とにかく自由。僕の好きにやっとる。
人に迷惑をかけず、ちゃんと人としてまっすぐ生きてとは言われとるけどな。
「へ、陛下!?王妃様!?」
「おんりーチャンとMENくんついてるなら大丈夫やろ。」
「困ってもドズルくんとぼんくんもついてるから大丈夫や。」
お父さんとお母さんは4人への信頼が半端ない。
おんりーとかMENへの信頼はもちろん、ドズルさんやぼんさんへの信頼が特に重い。
わからんくもないけど。
「な、ならば私めに先にお伝えくださりませ!」
「いいやないの。おんりーチャンたち着いとるんやし、おらふの好きにやりーや。」
「お、王妃様ぁ………。」
執事さんはお母さんになにか言いたげやったけど、流石に言えないことなんやろうか。
すぐにどこかへ行ってしまった。
「お母さん。お父さん。今日な、今日な〜。」
---
MENSide
「たでーま、親父、母さん。」
「お〜、おかえり。MEN。」
「ご飯できてるわよ。」
ふわっと香るシチューの匂い。
さっき軽食を口に入れたばかりなのに、腹が鳴る。
「TNT発射装置、小型化してどうだった?」
「ん〜……もうちょい発射したときに拡散させたほうがいいかなって。」
親父は武器職人だから俺の武器についていつも知りたいと言っている。
俺も親父のつくる武器を超えるため、鍛冶場を見に行ったりもしている。
この家は俺の誇りだ。毎日楽しい。
「おんりーチャンとおらふ王子は元気?」
「すげぇ元気。今日もおらふくんTNTノリノリで発射してたし、
おんりーチャンドラゴン退治の自己ベスト更新してた。」
あらあら。とおふくろが笑っている。
息子がドラゴン退治に行っているというのに全く心配しないのが俺らの家族なのだ。
信頼が厚いというか、心配してなさすぎるというか。
「ん、いただきまぁす。」
母さんの作るシチューは美味しい。
いや多分世界で一番美味しいかも。
「MEN、ちゃんとドズルくんとぼんくんと仲良くしてる?」
「してるよ。」
母さんが心配するのも無理はない。
ちっちゃい頃から俺が2人に喧嘩ばっかふっかけて揉み合いになることもあったから。
まぁ、今も……だけど。
「学校はどうだ?」
「ん?すっげぇ楽しそう。
えっとさ、俺の守護霊がイノシシで、使い魔がフクロウだったんだけど。」
---
ドズルSide
「ドズさんっ!」
「なんですか〜。」
ご飯も食べ終わって、2人だけの部屋に戻ってきて。
今日あったことを日記に書いていると、ぼんさんが僕を呼んだ。
「この力のポーションと再生のポーションなんだけどさ、
こういう感じにしたいんだけどなんかいい材料あるかな?」
「なるほど。じゃあ量増やしてみますか?
あと強化用の薬持ってきましょう。」
「それいいじゃん!」
椅子から降りて鞄の中身を漁ってみる。
どこで入ったんだろうという種とか羽とか棒が出てきて見つからない。
「もー!!ドズさん!!まぁたドズってる!!」
そういいながらも探すのを手伝ってくれるぼんさん。
卑怯卑怯って自分で言っといて優しいんだから。
「あ、あった!!」
鞄の奥深くに、醸造台と瓶、そして材料その他を詰め込んだ缶。
ぼんさんの机の上で材料とポーションのもと、水を火にかける。
「もうちょっと量増やしてみる?」
「副作用強くならないといいですけどね〜。特に再生のポーション。」
そうして僕らは消灯時間を過ぎてもポーション研究に打ち込んだ。
ほんっと、先生に怒られなくてよかった。
episode6
ドズルSide
「おはよーございます!!ドズルさん!」
「おはようございます!!」
「ふぁぁぁ。おはようございます。」
【三貴子】組のおはようの大合唱で僕らの朝は始まる。
ぼんさんは箒の上でやっぱり睡眠中。
愛用の箒、改造ファンカーゴに乗ったぼんさんが空に浮いている。
「ぼんさん、また寝てるんですか?」
「うん。昨日もポーション研究に熱中しちゃっててさ。」
「TNTで落としますか?」
おんりーがMENに合図を送る。MENも乗り気だけど止めないとやばい。
おんりーは容赦がないからね……。
「いいよいいよ。さ、遅れちゃダメだし急ごう。」
僕も愛用の箒ベリンゲイ555に乗って飛んだ。
おんりーたちも着いてくる。ぼんさんは寝ながらついてきた。
なんで寝ながら箒を操作できるのか、わからない。
---
「今日は初授業だね。最初の授業、何だっけ?」
「確か自分の個人技を見るやつだった気が……?」
「げ……。俺できる?そんなの。」
すっかり目が覚めたぼんさんが文句を言い始める。
まぁ……実技だから、魔力のないぼんさんにはきついんだろうけど。
「大丈夫ですよ。ほら、魔力分けますから。じっとしてて。」
「自分も分けますよ。そのほうがドズさんにも負担少ないでしょうし。」
「僕もー!」
「んじゃ、俺も。」
ぼんさんはふえ?と間抜けな声を出し、僕らはぼんさんに手をかざした。
「わわっ!!待って待って!」
---
「これより授業を始めます。気をつけ、礼!!」
「「「「「お願いします!!」」」」」
Aクラスは僕らしかいない、いわば特別クラス。
先生たちによればとんでもなく珍しい属性(つまりは【三貴子】組のこと)のため、普通のクラスではなく、特別クラスで授業をすることになったとか。
「君たちの担任になりました、ネコおじといいます。
今日から君たちの全教科を担当させてもらいます!よろしくね!」
ネコおじ先生。入学式で見た教頭先生に顔といい声といい似ている。
血縁関係でもあるんだろうか?
ネコおじ先生はチョークを持つと、何かの説明を書き始めた。
「この学校で学ぶのは、
【魔法実技】の基礎・基本・応用と【魔法学】。
【魔法学】には、占星学、魔法薬学、魔生物学、魔成語、魔法歴史、人間学などのことです。
【魔法実技】では基礎魔法から応用魔法はもちろん、魔術もやりますよ。
では、ドズルくん。」
ネコおじ先生はこちらを向くと、僕を指さした。
僕はすぐに立ち上がり、先生の言葉に耳を傾ける。
「【魔法】と【魔術】の違いは何ですか?」
予習してきたところだ。
僕は教科書に書いてあった内容を思い出す。
「はい!【魔法】は日常生活から戦いまで使える一般的な術のこと、
【魔術】は主に呪いの類の特別な術のことです!」
「大正解!」
ほっと一息ついて席に座る。
予習してきてよかった。一日目から答えられないなんて嫌だしね。
「ドズルくんが言ってくれたとおりです。
そして普通の魔法使いは魔術の基礎基本まで使えても、それ以上は使えない。
応用、そして実践魔術は魔力に左右されないがゆえに使える魔法使いも限られてくる。」
カンカンカンとチョークの音。
魔術はそこまで難しいものであると心に刻み込む。
「実践魔術までこなせる魔法使いを、この世界では【魔術使い】と呼びます。
まぁ、余談はこれくらいにして、授業を始めましょう。」
今までのは授業に関係なかったんかい、と突っ込みたいのを抑えて、僕は前を向いた。
次に先生はおんりーの方を指さしている。
「さぁ、本題に入りましょう。おんりーくん。
【個人技】について簡単に説明してください。」
「はい。【個人技】は自分の属性と性格その他諸々を組み合わせてできる、
高度な魔法のことです。」
大正解、と先生は言うと、個人技について書き始めた。
おんりーは見るからにホッとしている。……おんりーでも緊張するんだ。
先生は一通り書き終わると、どこからから杖を取り出した。
「じゃあ、ドズルくん、前へ。」
「あ、はい!」
呼ばれたので前へ行くと、先生は何やら魔法をかけてくれた。
入学式の日のようだった。
「お!すごいじゃん、君の個人技!!」
先生は驚いたようだが僕には何も理解しようがない。
けれど、僕の視界は明らかに変化していた。
先生の顔の横になにかの数値。強さ、魔力、血液型まで。
「君の個人技は、鑑定眼です。
いろんな人のステータスを見ることができる優れものですね。」
なるほど、これは便利。
データで表してくれてるからわかりやすいし、ありがたい!!
「じゃあ次、おんりーくん。」
先生に呼ばれ、おんりーはこっちに来る。
僕は席に帰る気にもならず、その場で待っていた。先生は何も言わなかったし。
魔法をかけられたおんりーは、キラキラと体が輝き出す。
「おー。これは俺も見たことないな……。
君だけのオンリーワンの個人技だね!」
「Only One……。じゃあ、個人技の名前それで。」
僕が見てみた限りではおんりーのスピードや力の部分が上がっている。
前から高い魔力や魔法の威力も上がって、もう最強すぎる。
「いや、おんりー強すぎ。」
「自分まだ何もやってないですけど。」
「僕にはわかっちゃうの!!」
自分の能力の使い方はこんなところにも、と新たな視点を持ちつつ、次は誰だ、と3人の方を向く。
「次はおらふくん!」
「はーいっ!」
元気に手を上げ、とててててとこちらに向かってくる姿がなんとも彼らしい。
おんりーも席には帰らず、先生の後ろでおらふくんの姿をじっと見ていた。
魔法をかけられたおらふくんは、何も起きてないようだった。
まるで僕のように。けれど、そうではないようである。
「君の個人技は、射撃関連かな?多分だけど魔法弓………。」
先生はやってみたほうが早いとおらふくんに弓を引く姿勢を取るように言う。
その姿勢を取ったおらふくんの手に、薄い水色の弓が握られた。
「ほぇ!?」
おらふくんは驚いたように声を上げる。
彼の気持ちはわからなくもない。いきなり弓が現れたら誰でもそりゃ驚く。
「お、上手!」
「こ、これどうやったら解除できるんですか!?」
「あ、大丈夫。ゆっくり手を離せば戻るよ。」
恐る恐るおらふくんが手を離すと弓は消えた。
僕が先程見たステータスでは視力や下半身での支え、腕力等々が上がっている。
この能力、弓使い特化型か。
「次はおおはらMENくん。」
「ほーい。」
ぼんさんが治癒のポーションを用意しだした。
まぁ……しょうがない?MENだし。TNT大好き人だし。
おらふくんも先生の後ろに残るらしい。なんでだろう。みんな気になるのかな。
魔法をかけられたMENの体は予想通りパチパチ言い始めた。
「君の個人技は、【爆発】だね。
いろんな爆発物を作れるよ。……扱いには注意してね?」
僕の鑑定眼に映ったMENは、耐性と回復量が上がっていた。
金リンゴ食べた時的な感じなのかな?
というか先生が念を押すくらいだから相当危ないやつなんだろうな……。
「とりあえずこの教室をやりま「MEN、だめ。」
おんりー、本当にありがとう。
ここまで暴走したMENを、僕は止められる気がしません。
いや、止められるの僕らの中ではおんりーくらいでは??
「さ、気を取り直して最後、ぼんじゅうるくん!」
「……えっと。」
なんともまぁ微妙な顔をして立ち上がるぼんさん。
相当不安なのだろうか。額からは汗が吹き出している。
「ぼんさーん、大丈夫ですよ〜。」
「あ、えーっと。」
ぼんさんはゆっくりゆっくり足を進める。
先生に魔法をかけられた彼の体は紫色に輝きはじめる。
あれ。おかしい。僕の鑑定眼が働かない。
視界に入っている先生のデータは出ているし、おんりーたちのデータも出ている。
ぼんさんだけだ。……なんで。
そう言ってると、先生の眉がピクリと動いた。
「ねぇ君………。」
先生は何も言わずに顔を背けた。
ぼんさんはやっぱり、と苦笑いをしている。
でも、先生はぼんさんに何かを渡した。
「ねぇ。一回だけ、やってほしいことがあるんです。
ぼんじゅうるくん。」
「なんですか?」
ぼんさんは寂しげに笑っていた。
普段のように、でも無理しているように。
昨日の、属性判断の日のように。
「ドズルくん、毒のポーション持ってる?」
「え、あ、はい!」
先生に言われ、僕は(完璧にドズった)リュックの中から毒のスプラッシュポーションを取り出す。
昨日ぼんさんと改良した、少し強めのポーションだ。
「うん、ありがとう。よし。いくよ、ぼんじゅうるくん?」
「え、あ。」
ぼんさんが返事をする前に、カシャンとガラスの割れる音がする。
あ。と思ったが遅い。ぼんさんは改良版毒を思いっきり浴びてしまった。
「ぼんさんっ!?」
けれど、ぼんさんが苦しむ様子はない。むしろケロッとしている。
逆に先生がちょっと苦しそうになっていたので、
とりあえず治癒のポーションをかけ、ミルクを渡す。
「あ、ありがとう。ドズルくん。」
「え、お、俺?」
ぼんさんは何が起きたのかわかっていない様子だった。
僕は見た。ぼんさんが毒にあたった途端、ネコおじ先生が毒状態になったこと。
何が起きたのか、わかっていないのは僕も一緒。
「君の個人技は、毒反転と傷移し。
毒を反転させて薬にしたり、自分の受けたダメージを相手に移せるやつだね。」
先生はミルクを一息に飲み干すと、ぼんさんの頭に手を置いた。
ぼんさんはまだ、わけがわかっていないらしい。
「え。」
「君の個人技は2つ。うまく使えば無敵になれるよ。
これは魔力も消費しないしね。」
無敵、という言葉にぼんさんの目が輝き出す。
魔力を消費しないというのも嬉しい点。
治癒のポーションの材料がいつでも手に入るわけじゃないし、毒反転はありがたい。
「無敵かぁ……。無敵のぼんじゅうるもいいかもなぁ。」
「良かったですね、ぼんさん。」
ぼんさんは笑った。本当に嬉しそうに。
おんりーやおらふくん、MENも笑っていた。
僕らは幸せだった。こんな笑いが、ずっと続けばよかったのに。
episode7
MENSide
二時間目は魔法薬学の時間だった。
ぼんさんとドズさんが変にやる気出して、自前の醸造台出してきて笑った。
自分専用の持ってんのかよ。
材料も燃料も、ドズさんのリュックからポンポン出てきてきりがない。
せんせーが止めてくれなかったら、また面倒なことになってただろう。
「ほんっと、どこまでポーション大好きなんすか?」
「ん?僕はぼんさんの影響に決まってるじゃん。
ちっちゃい頃からずっっとつくってたからね。」
隣の席のドズさんは笑って答える。
せんせーに注意されたけれど、なるほど、と思ってしまった。
なら、ぼんさんは。そう思って奥のぼんさんに目を向けたけど、
瞳が真剣すぎて話しかけるのはやめた。
あんなぼんさん、俺、初めて見た。
「よし、じゃあ自由作成はそこまで!
できたポーションをみんなで見よう!」
せんせーの掛け声と一緒に俺達は立ち上がって周りの席を見た。
ドズさんの材料はきらめくスイカの薄切りにその他諸々。
治癒のポーションだ。
「強めの治癒のポーション。
副作用あるかもしれないけど、どんな怪我も一発だよ。」
「なるほど〜。」
流石はドズさん。
おんりーチャンの材料はマグマクリームとレッドストーンと火薬。
耐火のスプラッシュポーションか。
「あるとありがたい。」
「まぁ確かに?」
気持ちはわかる。
おらふくんの材料は金ニンジンと発酵蜘蛛の目。
透明化のポーションかぁ。
「ドッキリに使うんや〜。」
「あー、いいかも。」
相手心臓止まるだろうな〜とは思う。
「MENは〜?」
「俺は、、、」
俺の材料はブレイズパウダーとグロウストーンダスト。
王道で力のポーション。
「これで斧が一番効くだろ?」
「確かに………。」
納得してもらえてよかった。
そして、一番熱中していたぼんさん。
材料は……なんか色々合成してる。
紫色の煙が立って、ぼんさんの顔を悪役のように染めている。
「これ、なんすか?」
「ん?ドズさんと昨日考えた改良型負傷のポーション。
即効くから相手が自分を追い詰めだしたときにかけるといいよ。」
マジのやつ作ってきた。
ちょっとぼんさんに逆らうのやめようと思った瞬間である。
逆らったらとんでもないのぶっかけられそう………。
「ぼんさん、でもこれだと時間が短すぎませんか?
もう少し長くしたほうが逃げる時間も稼げるし……。」
「これ以上時間長くすると相手の命も危なくなっちゃうのよ。」
専門的な話をし始めた二人に、ドン引きしつつ、俺らはせんせーと一緒に一歩下がる。
ドズさんは一回実験してみます?と恐ろしいことを言い出した上、
ぼんさんもそれに賛成ときたから困ったもんだ。
「殺さずに歩けないくらいのダメージ与えられないもんかな。」
「難しいですよ、それは。
材料を㎎単位で調整していれるか、はたまた治癒と組み合わせてみるか。」
せんせーがそろそろ、と止めに入るも、二人は先生に気づきもしない。
終わった。2人共昔からこんな感じなんだよな〜……。
夢中になると止まらん。
「これ丸ごと一個入れてみて、大人魔獣でちょっと痛がってるかなくらい。」
「魔獣に使うならも増やしてもいいかもしれないです。
人とかに使うなら、あと……やっぱり㎎単位になっちゃうな。」
なるほど〜じゃないねーんだけど。
せんせー慌ててんだけど。おんりーそろそろ殴りかかりそうなんだけど。
「じゃあ後ちょっと増やしてみるわ。
あ、そういやドズさんの治癒ポーション、
副作用強く出ないように改良レシピ作っといたから見といて〜。」
「お。ありがとうございます!助かる〜っ!」
ようやく終わったと思ったら、
次はぼんさんが自分の醸造台でまた新しいポーション作りはじめた。
これじゃ寝不足にもなるはずだ。
ドズさんはこっちに気づいてぼんさんを止めようとしてるけど、ぼんさん、気づいてない。
「君たちは本当にポーションづくりが好きなんだねぇ。」
「あ、先生!ごめんなさい!」
「謝ることじゃないよ。好きっていいじゃん。」
先生の温かい言葉で、おんりーも斧をおろした。
ぼんさんは変わらずポーションづくり。
一生つくってんじゃねぇの、ってくらいつくってる。
「ドズさん、武術も好きでしたよね?」
「うん。今も好きだよ!ポーションづくりは授業の予習と、武術の怪我用。
応用的なのは全部ぼんさんに任せてるんだ。」
へぇ。ぼんさんってそんなにポーションづくり上手いのか。
たしかに俺も、ちっちゃい頃ドラゴン退治で怪我した時は、
ぼんさんが治癒のポーションくれたっけ。めっちゃすぐ治ったやつ。
「仲良しなんだねぇ。」
「はい!ぼんさん、ちっちゃい頃からポーションばっかつくってたから。
僕もちょっとやってみたくなって!」
先生の言葉に笑顔で答えるドズさんは、昔とちっとも変わっちゃいない。
そういうところがみんなに慕われるんだろうけど。
「それで|ポーションづくり大好きペア《今》に至ると。」
「ぼんさんほどじゃないから、僕は!!」
おんりーの言葉でどっと笑いが起きる。
その声で、ぼんさんも気づいてこっちを向いた。
「どずさ〜んっ!!できたよ、改良版。」
「お、後で実験しましょうか!」
「「「実験はいいっっっ!!!」」」
episode8
席順
おんりー MEN ドズル おらふくん ぼんじゅうる
ネコおじ先生
おらふくんSide
僕には不思議でたまらんことがある。
何で魔成語ってこんなにも意味わからへんのやろ。
先生の言葉、全部耳に入っとるはずやのに、全く理解できん。
みんなはなんでそんなペラペラ喋れるん?
隣のぼんさんは寝とるし……。
あかん。このままだとテスト赤点確定や!!
まだこの授業一時間目なのにもうわけわからんのやもん!
「ドズルさぁん、MEN〜!へるぷみー!」
「大丈夫?おらふくん。ショートしちゃってるじゃん。」
ドズルさんはめっちゃ優しい。
こういう時、真っ先に助けてくれる。
MENやおんりーもこっちに来てくれて、みんなで教えてくれた。
もちろん先生も!
「わかった〜!!」
「よかった〜。」
「一件落着!」
時間はかかったけど理解はできた。
けどテストで赤点取るか取らんかはその日の僕次第やな!
くかーっと寝息を立てているぼんさんを横目に、僕はノートを閉じた。
「ぼんさーんっ!!起きてください!!次の授業外ですよ――!!」
「ふぁぁぁ……。もう下校時間?」
「そんなわけないじゃないですか!寝ぼけてないで行きますよ。」
ドズぼんの二人はいつまで経っても変わらない。
何でやろ。僕らがちっちゃいときからこんな感じやった気もする。
ドズさんは小さくても赤パンだけやったし、
ぼんさんに関してはサングラス外しとるとこを見たことすらない。
「おらふくん?行くよ。」
「あー!おんりー!待ってやー!!」
何やろう。何かが起こりそうな予感がしたんや。
気の所為なら、いいんやけど。
---
「じゃあ始めましょう!三時間目は魔法実技です。」
「げっ………。」
ぼんさんがあからさまに嫌な顔しとる。
しゃーない。ぼんさんが一番苦手な分野と言っても過言やないもん。
「まぁまぁ。でも実技ってことは卑怯もありじゃないんですか?」
「じゃあやろう。」
「何でそれでやる気出すんすか!?」
卑怯でやる気出すんかい。本当にぼんさんっておもろいな〜。
ってかドズさん、狙ってたやんな?
ぼんさんのやる気の出し方心得てるやん。
「ただの卑怯じゃないのよ。新しいの思いついたからやりたくて!」
「それでも卑怯でやる気出さないでくださいよ。」
「はいはい、始めるよー、こっち向いてー!」
先生がパンパンと手を叩いて二人を止める。
そうでもしないと一生続いていくやろし……。
先生、ナイスプレーや。
「じゃあ今日は、敵と戦うときの練習をしましょう。
この魔人形たちを全員倒すまでこの授業は終わりません。」
何やって!?
先生、手に抱えとる数え切れん人形は何ですか?
それ全部倒さなあかんの?
「鬼畜ぅ………。」
「ドラゴン討伐のほうが簡単じゃない?」
「多っ!時間どんだけあっても足りひんやろ!」
嫌や〜!!下校時間すぎてもうたらまた執事さんに叱られるし〜!
ドズルさんニヤニヤするのやめてや〜!!嫌な予感しかせぇへんのよ!!
「先生!!これ何でもありですか?」
「もちろん!」
「ポーションも、卑怯もOK?」
「大丈夫!!」
やった、と二人がキラキラした目でこっちを見ている。
嫌な気しかせえへん。授業でひりつかんでええわ。
「やる気出すのはいいっすけど、何体いるんすかね。
数によっちゃ下校時間までに帰れるかどうかわからないっすよ?」
そや。そや。よう言うたわ、MEN。
けど、授業終わらんと帰れへんのも事実やし………。
やっぱやらなあかんの?
「大丈夫!困ったらこのぼんじゅうるが
魔力吸い取りポーションで解決してくれる!」
「なんすかそれ!?」
「めっちゃ卑怯やないですか!!」
「世界の理ってなんだっけ?」
「それはやめようか。」
あー、突っ込みの|四重奏《カルテット》が。
っていうかぼんさん、そんなのつくってたんや。
やっぱりぼんさんって薬学とか医学得意よな〜。羨まし。
「じゃあ始めようか!」
ぽぽん。魔力が込められた魔人形が大きくなって、僕らより大きくなっていく。
数多いよな、と前から思っとったけど、やっぱり多いやろ!!
数え切れんわ!!!
「あっちゃー。えーっと、200体くらいいるかな。」
に、200。しかもこいつら、結構強い。
これ、ただの魔人形じゃなくて強化版や!!強さが普通と桁違いのやつ!!
「とりあえず周りのやつ吹っ飛ばすから適当に逃げといてくれ。」
MENのTNTがぽんすかこっちに飛んでくる。
何体か吹っ飛んどるけどこいつら耐性でもついとるんとちゃうか、ぐらいに数は減らない。
「どりゃぁ!!!」
「ほいっ!」
おんりーとドズルさんが半分くらい相手にしてくれとる!
ありがてー!……って!そんなの言うとる場合とちゃう。
僕も加勢せな!
弓を作り出して構えて、何体かに命中させる。
弓は直撃すれば一発やな。
ただ、それにしても数多いわ。構えてる隙にやられてまう。
敵の少ない場所に走り込みながら、汗を拭う。
TNTにしろ、弓にしろ、一人で戦うにしろ、みんなで戦うにしろ、
単体にしかダメージは与えられなさそうやな。
「どうすればいいんや……。」
僕にできることは、ただ弓を引き続けることや。
おんりーとドズルさんの援護や。MENと一緒にな。………あれ、ぼんさんは?
ふと周りを見渡してみる。どこにもおらへん。
人一倍背の高いぼんさんや。やのにどこにも見当たらへん。
「ぼん、さん?」
不意に弓が引けんくなった。おんりーもビクッとした。
MENは正常に(?)TNTを発射してばかりだったけど。
「おらふくん!前!!」
だめや、手が震えとる。これは授業や、授業、授業!!
今は大魔法学校の一年Aクラス、三時間目の魔法実技の時間や!!
目を覚ませおらふ!!怖がってる場合とちゃうやろ!?
実践じゃこんな事考えてる暇はない!!
弓を引け!!目一杯!!僕は王子や!怖いものはあらへん!!
ドスッ……
相手の胸に矢が突き刺さった。
と思うと、相手は氷に包まれ、その氷が周りにまで広がって敵を足止めしてくれる。
「今や!!」
「おらふくんナイスっ!!!」
「MEN、周り任せた!」
「りょーかい!」
一気に戦況が動き出す。
ドズルさんとおんりーは2人で人形を一体一体倒していく。
MENはTNTで周りのやつをふっ飛ばす。
僕は弓矢で狙い撃ちや!
「ふぅ……だいぶ減ってきたね。」
チームプレイが功を奏し、数はだんだんと減っていく。
耐性も切れてきたのか、TNT一発で5体は倒せるようになってきた!
「よし!あとちょっと______」
「それを言うのは、まだ早いですよ?」
猫おじ先生がなにかのスイッチを持っている。
嫌な予感が蘇る。
先生から放たれる殺気。体が動かない。さっきとは違う感覚。
なんや、これ………。
「誰が、これだけだと言いました?」
ドンッ。地面からまた、数え切れんばかりの人形が湧き出てくる。
「嘘っ………!?」
「まだいんのかよ……。」
あかん。一回目より数倍、いや、十数倍いる。
無理や、こんなの。どうしろっていうんや。
僕の弓じゃ、一体一体しか倒せへんし。
おんりーやドズルさんの体力もこの数じゃつきてまう。
一回目以上に耐性はついとるやろし、火薬も難しい。
どうしよう。あぁ!!どうしよう!!
このままじゃ!授業でみんな死んでまう!
僕はどうすればいいんや!
「ぼーんさん。何してんすか。」
ドズルさんののんびりとした声があたりに響き渡る。
余裕たっぷりに、あの人は笑っていた。
「もう。最初からサボらないでくださいよ。
でも、今この数相手できるの、あなたしかいませんからね?ぼんさん。」
その瞳は、はるか上空、雲の上を見上げていた。
この心の高揚は、何なんや。
まるで幼い頃、ヒーロー物を見ていたときのような。
あの感覚が、蘇ってくる。
「もー!授業サボれる機会なんてそんなないのに〜!!」
空から、箒……改造ファンカーゴに乗ったぼんさんがおりてきた。
太陽と重なって、眩しい。
「言ってる場合ですか?僕ら死んじゃいますよ〜?」
「はいはい、わかりましたよーだ。」
ノリが軽い。命の危機だって本当にわかってるんやろか。
わかってないんやろな………。むしろこの状況ひりつきで楽しんどるやろ2人とも。
「ひりついてきたねぇ、ドズさん?」
「そうですね。結構面白かったり。あなたが寝てたらジ・エンドでしたけど。」
ほら。そういうところや。
変わっとらんし変わってほしくない。
そういうところが、二人なんやから。
とんっと地面に降り立ったぼんさんは、
僕らを守るようにドズルさんの隣に立つ。
「んじゃ、一発で終わらせちゃいますか〜。」
「久しぶりですね、やるの。では。」
「「御武運を。」」
二人は飛び回る。パリンパリンとガラスが割れる音がする。
ポーション?そう思ったら後は早かった。
「|粉砕魔法《パワー・イズ・ザ・ベスト》」
ドズさんの魔法で周りの人形が粉々に砕け散る。
それにしても脳筋が脳筋のためにつくったみたいな呪文やな。
それでも、残党はまだたくさん残っている。
すると次はおんりーが前に出た。
「置いていかないでください。
自分、まだ暴れたりないんですけど。」
そう言うとおんりーは目にも止まらないスピードで飛び始めた。
ヒュンヒュンヒュン。何度か風の音がした。
すると………残党の殆どがばらばらになって崩れ落ちた。
「すごっ……。流石おんりー!!」
「おらふくん、怪我ない?」
「うん!僕はピンピンしとるよ!!」
あれだけいた敵は、もう肉眼には映らへん。
先生が唖然としてるわ。
「せんせ、これで終わりでいいですか?」
「え、うん。」
ぼんさんは笑った。これで終わりなのが嬉しいのか。
ぼんさんらしいと言えばらしい。
……ぼんさん。この人が来てから戦況は一変した。
見た感じではポーションを投げただけに見える。
けれど、ドズルさんはぼんさんが来た瞬間、余裕を見せるようになった。
この人は一体、何者なんやろう。
「よっしゃ!!ドズさん、購買行こうぜ〜!」
「《《授業》》は終わってませんよ、まだね。」
ドズルさん自身、わかってへんのかもしれへんけど。
ぼんさんは、ドズルさんにとって特別な人なのかもしれない。
「そういえばドズさん。あの脳筋丸出しの魔法は何ですか?」
「あ、せや!|粉砕魔法《パワー・イズ・ザ・ベスト》!」
「あれ、笑ったほうがいいやつですか?大真面目な方ですか?」
「大真面目な方!!」
episode9
ネコおじSide
なんとも不思議な子たちだ。
僕の教師歴も早数十年を過ぎたと言うのに。
この子たちは僕の全てを覆してくる。
……少しは実践に慣れさせようと、
学生では倒すことなど到底無理な数を召喚した。
それは、ものの数分で倒された。何たる力だ。
そして、あのおらふ王子の氷の魔法。
あそこまで高度な魔法を使うとは。
土壇場とは言え、三貴子の名に間違いはないのか。
三貴子と言えば、MENくんのあのTNTで、人形は地味に削れていた。
発明。これは、彼の火薬の属性と組み合わせれば相当な強さを発揮する。
おんりーくんは言うまでもなし。
魔法を使うことなくともあの速さと身軽さ。一撃の重さ。
見ただけでわかる。彼を敵に回してはいけない。強すぎる。
ドズルくんはみんなをまとめるのが上手。
自身も戦いながら指示を出すのはそう簡単なことではない。
体も頭もフル回転で使っているということだろう。
本当に16歳なんだろうか?
……でも。僕の目に一番映ったのは、ぼんじゅうるくん。
来た瞬間にあれだけ状況が一変した。
ポーション一つ、投げただけで。
投げたポーションはきっと、力のポーション。
それも、普通のものの数倍以上の濃度のものだ。
どこで醸造したというのか。
僕が授業前に持ち物確認(透視)した限り、そんなポーションはどこにもなかった。
濃度の高いポーションを作るには、それこそ時間と労力がいる。
それを、あの数分の間に。醸造してスプラッシュ化まで。
しかも、彼は魔法を一切使っていない。
魔力の流れは感じられなかった。
でも、一瞬、彼が降り立ったその一瞬。魔人形が、怯えた。
彼に近づきたくないと、僕に訴えかけてきた。
「君は一体、、、、?」
ぼんじゅうる。
両親も魔法使い。治癒師として現在世界を回っている。
両親の属性は|薬《ドラック》。本人は無。
家系的に魔力は低く、彼自身はその家計の中でも特に低いタイプである。
個人技は世にも珍しい2つ持ち。
超人的な卑怯技は、何よりも目を引く。
魔力が低いながらも薬学・医学の知識は幅広い。
入試のテスト点など、ドズルが二位、ぼんじゅうるが一位。
この二人の点は平均を遥かに上回る。
しかも、この薬学・医学には実技もくっついており、
それで皆躓くのだが、彼らにそんな気配等なし。
特にぼんじゅうるなど本物の医者なのかと思ってしまうほどの手つきであった。
「本当に………何者なんだい?」
そんな言葉を放っても、君に届くことはないはずなのに。
---
おんりーSide
やっぱり不思議な人だ。
幼い頃から一緒にいるというのに、まだわからない。
自分が、本当のあなたを見ている気がしないんです。
「ぼんさん、学食行きますよ〜!!」
「まだ寝rムニャムニャ‥‥。」
「寝ないでくださいよ!!起きて〜!!!」
ほら、その顔だって、本当のあなたなのか。自分には理解できません。
ドズさんはわかっているんですか。ぼんさんの本当の姿。
どっちなんでしょう。自分が知る必要もないのかもしれませんが。
「おらふくん、MEN。先行こ。
あれじゃぼんさん起きるまで結構かかっちゃうよ。」
「せやね。ドズルさん!先行ってまーす!」
「うん、ごめんね!」
人を引き付けてやまないドズさんと、ぼんさん。
人を守ることに命をかける2人。
自分がその間に入るのは無粋なんですかね。
食堂へと目を向ける。
同じ学年?先輩?
わからないけど、自分たちの取っておいた席であろう場所が人で埋め尽くされている。
「あれが【三貴子】様か〜!」
「魔力えげつないんだってよ。」
「親が王に騎士にお抱え武器鍛冶だもんな〜。勝てねぇわ。」
「真ん中のおんりー様は絶滅したと思われてた光の属性らしいよ。」
あー、これ、面倒なやつだ。
ドズさんとぼんさんがいないからいつも以上に。
「どうする、おらふくん。MEN。」
「しゃーない。行くしかないやろ。」
「道どうやって開けようかなぁ。」
こういう場合、大体人が周りを囲って身動きが取れなくなる。
特に自分の周りは。
普段はぼんさんがポーションで空間をつくってくれて、
ドズさんがそれを保持してくれているのだが、今は3人きりときた。
「「「「お、おんりーくん!」」」」
「「「「おらふ王子!!!」」」」
「「「「おおはらMENくん!!」」」」
あ、まずった。
潰されないように頭を覆った、その時だった。
「|浮上魔法《バルーンレード》」
ふわりと体が浮いた。浮上魔法だ。
後ろを見れば、人だかりの外れに、二人の姿。
ぼんさんは眠いのか、ぽやーっと空中を見上げている。
「ドズルさぁん!!」
「はぁ、助かりました。」
「今のはピンチだったね〜。大丈夫?3人とも。」
魔法をかけてくれたのはドズさんだったようだ。
ホッとして彼らの方へ歩き出そうとする。
ちょっと待って、歩けない。なんだコレ。
「え?え?ど、ドズルさん、あ、歩けへん……。」
「え!?あ、ごめん。魔法ミスった……。」
と、彼が言ったかと思うと、すぐに落下が始まる。
結構高い。落ちたら怪我どころじゃ済まない。
受身の姿勢を取るがその必要はなかった。
パリン、パリン、パリン。
瓶の割れる音。自分たちの落ちるスピードはゆっくりになり、安全に地面へと降り立つ。
「もう!!ドズさん、また魔法ミスったでしょ?」
「ごめんなさい!浮遊魔法じゃなくて|操り魔法《マリオネット》かけちゃった……。」
操り魔法。集中力の続く限り、魔法をかけた人間を思い通りにできる魔法。
今は自分たちを持ち上げることに集中してたから、
いきなり言われて集中力が切れてしまったのだろう。
それでも、この魔法を十秒維持できるのは素晴らしいこと。
「もう………しょうがないな〜。」
「むっ……ぼんさんだってたまにポーションの配合間違えるじゃないですか!!
毒のポーション数倍の強さにしたときは被害まずかったでしょう!?」
また始まった。ドズぼんの大喧嘩。
まぁ、心配するほどのことじゃない。
「行きますよ、お二人共。」
「学食ってカニあったっけ?」
「え、わかんないです。」
ほら。もう仲直りしている。
……ぼんさんのカニ好きは筋金入りだな。
学食にカニ。あるのか?わからん。
購買にグミとか売ってないかな。歩きながらそう思った。
episode10
ドズルside
昼ご飯も食べて、五時間目。
今回は占星学らしい。これ、あんまり得意ではないんだよな。
おらふくんを挟んで向こう側のぼんさんは先程からずっと寝ている。
起きてくださいと何度言っても起きないから諦めた。
うん、諦めざるを得ない。
「それで、赤月の計算の仕方は……。」
う〜ん、計算は行けるんだけどね。他がちょっと難しい。
だいぶ魔力消費するからな〜……占星って。
ぼんさんが寝るのもわからんでもないか。
「よし、今日はこれまで。」
先生が教科書を閉じて教室を出ていく。
僕はふーっと一伸び、三貴子組はもう帰る準備を整えている。
リュックの中に見えたのは、石の斧と金ブロック。
「またドラゴン退治行くの?」
「はい。まだまだベスト更新できそうなので。」
「じゃあ僕も行く。ぼんさん起こすからちょっと待ってて。」
とりあえずぼんさんは起きなさそうなので担いでみる。
やっぱり軽い。身長は僕より高いはずなのにな。
なんて思いつつ、僕は二つのリュックサックを両腕にかけた。
「ゴリラ……。」
「なんかドズさんって感じ。」
なんか変なことした!?と突っ込んで、僕は教室の窓を開ける。
透き通るような青空。西へと傾く陽の光。
「行こっか。」
ベリンゲイ555と改造ファンカーゴを手にとって、浮遊魔法で浮かせたぼんさんを箒に乗せる。
おんりーたちも箒に乗って、窓から飛び出した。
ぼんさんは朝のように飛びながらも寝ている。
ちゃんと夜に寝ればいいのに。
ドラゴンは日の沈む方角にいる。その巣は何度も訪れた。
ドラゴンキラーズ。僕らにつけられた異名。
幼い頃から暇を持て余した三貴子と僕らは、ドラゴンの巣に行ってはドラゴンを倒していた。
どれだけ強いやつでも、みんなでかかれば怖くなかった。
「今日は何縛り?」
「魔法なしの石斧だけ縛りです。」
それでもおんりーのことだ、20分もかかることはない。
MENとおらふくんも斧をどこからか出している。
ドラゴンに対してオーバーキルになるんじゃないか?
まぁ……手加減はなしでいいか。
「ん〜……どずさ、ん…」
「ぼんさん、起きました?」
ぼんさんがようやく起きた。状況は多分飲み込めていない。
キョロキョロと周りを見渡している。
「そら、ちかい……なん、で?まだじゅぎょーとちゅうじゃぁ……。」
「ぼんさん、もう放課後ですよ〜。」
こっくりこっくりやりながら、ぼんさんはまた睡眠に入ろうとした……その時だった。
「なんで飛んでるの!?」
「あ、目醒めました?」
「え、え!?空っ!?」
ようやく自分が飛んでいることに気づいたらしい。
ようやくですか、と笑うと、ぼんさんは全力で箒を反対方向に向けた。
「ちょっと。どこ行くんですか、ぼんさん。」
「帰る!!ドラゴン退治は嫌ぁぁ!!」
「わかってるなら行きますよ〜。」
こういうときはやっぱり筋肉!!
僕はぼんさんの首根っこを掴んで引っ張っていった。
「サボらせません。」