侯爵令嬢エミリア・ルーチェはある日、頭を強く打ち付けたことで前世の記憶の一部を思い出す。記憶の中には、この世界によく似た「乙女ゲーム」というもののこともあった。そのストーリーの中ではエミリアは嫉妬に狂いヒロインを虐める悪役令嬢だったのだが…。
「なんてこと、エミリアが今日も最高に可愛いわ!!」
「エミリア、君は僕達の天使だ!!」
現実では、エミリアは最強な四人の兄と姉に溺愛され幸せすぎる日々を送っていた。
「王子様?ヒロイン?そんなの全然興味ないっ!!兄さまや姉さまと一緒に居られるなら、それで十分よ」
兄姉と楽しく暮らすため、ヒロインを虐めず平和な学園生活を送ろうとするエミリア。
しかし、どうやらヒロインも転生者で、エミリアを悪役に仕立て上げようとしているらしく…!?
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目次
悪役令嬢は四人の兄と姉に愛されて幸せなので、ヒロインを虐める必要がない。①
異世界もの書きたいなーという思い付きで始めました。気楽にお読みください。
うららかな春の日差しが心地よい午後。エミリア・ルーチェはルーチェ侯爵家の庭で乗馬を楽しんでいた。最初の頃は馬とのスキンシップが下手で苦労したものだが、最近ではかなり慣れてきた。だから、油断していたのだ。
ブーン、と、不快な羽音がエミリアの耳に入る。恐る恐る音の方向に目を向けて、体が固まった。
「_ッ、ハ、ハチ!!」
黄色と黒の縞々模様に、お尻のあたりからのびる鋭い針。禍々しい外見をした世にも恐ろしい生物の姿に、エミリアは絶叫する。その声に驚き、乗っていた馬も混乱しじたばたと動き回る。それにバランスを崩して、エミリアの小さな体は吹っ飛ばされてしまった。傍に控えていた侍女が慌てて手を伸ばすが、届かない。
ゴン、と鈍い音がした。いくら柔らかい芝生の上だからといって、頭から落ちればただではすまない。強く頭を打ち付け、エミリアは気を失った。
長い夢を見ていた。夢の中でエミリアは二十代の若い女性だった。名前は恵美。彼女は日本という不思議な国に住んでいた。魔法はないのにエミリアの暮らす世界よりはるかに便利な未知だらけの世界だ。
恵美は乙女ゲームというものがとても好きだった。薄い板の上に浮かび上がるイラストとの疑似恋愛を楽しむ酔狂なゲームだ。だが、それが彼女にとっての心の支えになっていたらしい。
趣味を楽しんだり、仕事に行ったり、恵美はほどほどに充実した生活を送っていた。それが崩れたのは社会人になって三年目の春の日。彼女は道路に飛び出した子供を庇って亡くなってしまった。
(あーあ、私の人生ここまでかあ。来世は乙女ゲームのキャラに転生とかしたいなあ。無理かなあ、はは)
そんなことを考えながら、恵美は意識を失ったのだ。
「…うーん?」
目が覚めると、そこは見慣れた自室の天井だった。体は柔らかい布団に包まれており、恐らく自分は気絶して、そのまま部屋に運ばれたのだろうと推測できる。とりあえず生きていたことに安堵して、エミリアは起き上がった。
「…エミリア!?ああ、よかった!!貴方に何かあったらどうしようと、わたくし気が気ではなかったのよ!!」
四番目の姉ミーアが、エミリアを抱きしめる。どうやらずっと、看病をしてくれていたらしい。
「ミーア姉さま…心配させてごめんなさい」
エミリアはミーアをぎゅっと抱きしめ返し、正直に謝った。
「大丈夫よ。貴方が無事ならそれでいいわ」
エミリアは怒られなかったことにほっとしつつ、優しい姉をここまで心配させてしまったことを反省した。
「本当にごめんなさい。…そういえば、他の兄さまや姉さまは?」
ミーア以外の兄姉たちはどうしているか気になり、尋ねる。しかし、ミーアが質問に答える間もなく部屋のドアが勢いよく開いた。
「「「エミリアッ!!!」」」
「リリアーナ姉さま、アレン兄さま、ウィリアム兄さま!!」
同時にやって来た三人の兄と姉。三人は勢いを少しも落とさず、ベッドに走ってきた。
「大丈夫だったかい?知らせを聞いて驚いたよ」
「ハチが出たんだって?かわいそうに」
「エミリアは虫が苦手だもんな」
一気に喋りかけてくる三人に、エミリアは戸惑う。返事をする暇もなく次の言葉が投げかけられるので、会話のキャッチボールができないのだ。
「貴方達、一旦お黙りなさい!!エミリアが困っているでしょう!!一人ずつ、順番によ」
ミーアの一括でようやくその場が静かになった。
「エミリア。大丈夫だったかい?」
最初に口を開いたのは、一番目の姉、リリアーナだ。艶々とした黒髪を短く切りそろえ、凛々しい騎士の服を着ている。紳士的な口調も相まって、まるで王子様の様だと男よりモテる彼女はエミリア命の姉バカだった。
「はい。大丈夫です、リリアーナ姉さま。それにしても、今日はとても早いお帰りでしたね」
「君が心配で仕方なくてね。魔獣の討伐はボスだけ私が倒して、あとは部下達に押し付けて帰ってきたんだ。彼等には『鬼だ!』って泣かれたけど」
リリアーナは第一騎士団に所属している。第一騎士は魔獣という怪物の討伐にあたる国内きっての武闘派集団だ。そんな第一騎士団の団長である彼女は、国一番の剣士と言われている。
「それは…部下の方達に申し訳ないことをしてしまいました」
「大丈夫。あれくらいでくたばるような奴は第一騎士団には居ないよ」
そう爽やかな笑顔で告げる姉に、エミリアは苦笑した。リリアーナは部下にとても厳しい。残された部下達のことが気の毒で仕方なかった。だが、姉がそこまでして自分のもとに駆けつけてくれたことが、少しうれしくもあるのだった。
「次は僕の番ですよ、リリアーナ姉さん。僕だって、エミリアのことが心配で仕方なかったんだから」
そう言うのは二番目の兄アレンだ。柔らかい髪を長く伸ばして一つにくくって肩に垂らしている。紺色のローブには光を受けてキラキラ反射する金色のバッジが一ついていた。それはこの大陸の国王達が選出した、「世界的魔法使い」であることを証明するもの。この国でも三人しかつけることを許されていない、エリートのしるしである。
「アレン兄さま!心配かけてごめんなさい」
「いいんだよ。エミリアに不用意に近づいたハチが悪いんだ。後でこの敷地内への虫の侵入を防ぐ結界張っとくから、安心してね」
「お兄様…それすごく大規模な魔法じゃないですか?」
ここは侯爵家だ。当たり前だが土地も広い。そんなところに結界を張って、しかもそれを継続できるのは恐らくどの国を探してもアレンくらいしかいないのではないだろうか。
「…ところで、兄さま」
「なんだい?」
エミリアはアレンの顔をじっと見つめて言った。
「兄さまがもうすぐ学園に臨時教師として来るって本当ですか?」
「そうだよ。学園長にずっと頼まれてたのもあるしエミリアがもうすぐ入学するだろう?僕らの天使に悪い虫がつくと困るからね」
「…ありがとうございます」
いつもなら嬉しいはずの言葉に、素直に喜べない。エミリアはぎこちない笑みを作った。
「はいはい、そこまで。アレン兄さん、そろそろ俺に代われよ」
次にエミリアの前に立ったのは三番目の兄ウィリアム。髪を丁寧にセットし、お洒落なジャケットを格好よく着こなしている。
「大丈夫だったか?エミリア。商談は早くに切り上げてきたから、今日はずっと家にいるよ。お前が心配だしな」
「本当ですか?嬉しいです!」
ウィリアムは昔から人の懐に入るのがとても上手く根っからの商売人だった。現在は「エミリア商会」なるものを立ち上げ、運営している。商会はここ数年で大きく成長しルーチェ侯爵家の大きな資金源となっているのだ。
なぜエミリアを商会の名前にしたかというと、それは勿論ウィリアムがエミリアを溺愛しているからである。どんな相手でも必ず有利な条件をもぎ取る侮れない男として一部から恐れられる彼は、エミリアにだけはデレデレだった。
「エミリアの大好きなアイスも注文しておいたから、また食べような」
「え!?本当ですか!」
にこにことエミリアの頭をなでるウィリアム。その手を横にいたミーアがパシッと扇ではたく。
「お兄様、ずるいですわ。わたくしもエミリアとお話ししたいのよ」
「ミーアお姉さま!今日は看病してくれてありがとうございました」
「いいのよ。可愛い貴方のためならね」
ミーアは繊細なレースが施されたドレスを身に着け、長い髪をバレッタで留めていた。扇を白くて細い手で持ち優雅に仰ぐ姿は絵本の中のお姫様の様だ。
「ミーア姉さまはいつ見ても綺麗ですね」
「あら、嬉しいこと。でも貴方の眩しさには敵わないわよ」
ミーアは扇で口元を隠しつつも嬉しそうに笑う。仕草の一つ一つが洗練されており美しい。彼女は社交界の花と謳われる淑女で、学園を卒業してからはエミリア商会の広告塔として活躍している。彼女が身に着けたドレスやアクセサリーは飛ぶように売れるのだ。
「エミリア、本当に大丈夫なの?困ったことがあったらすぐに言ってね。何でもするわ」
「本当に大丈夫ですよ、姉さま…」
勿論だがミーアもエミリアにはメロッメロのデレッデレである。
四人の兄と姉全員と話し終わった後、エミリアは申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、兄さま、姉さま…私実はもう眠くて…」
「ああ、そうだね。無理しないほうがいい。私たちは出ていくからゆっくり休むといいよ」
リリアーナが優しく言う。他の三人も姉の意見に従い、部屋にはエミリア一人しか居なくなった。
エミリアは足早に部屋にある大きな鏡の前に移動すると、自分の姿を確認する。
父と同じ黒い髪と瞳の兄姉たちとは違う、金髪碧眼。亡くなった母と同じらしい。顔立ちは美男美女揃いの兄姉たちに似ているので、かなりの美人といえそうだ。
「やっ、やばいやばいやばい!!これ、ゲームの中にいたエミリアと全く同じ姿じゃない!?」
エミリアは叫んだ。なぜここまで焦っているかというと、ようやく自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと理解したからである。夢の中の恵美という女性は、間違いなくエミリアの前世の姿だった。原理はわからないが、どうやら恵美はお望み通り大好きな乙女ゲームのキャラクターに転生したらしい。ただし、悪役令嬢だが。
(大体、何で悪役令嬢!?そんな王道な…!!)
エミリアが眠り込んでいた間に見た不思議な夢…もとい、前世の記憶。それに出てきた乙女ゲームというもののストーリーにはエミリア・ルーチェというキャラクターが登場するのだ。このキャラクターはヒロインがどの攻略対象と恋をしているときにも現れる悪役で、二人の恋をことごとく邪魔する。だがそれがますます恋を燃え上がらせ、最終的には断罪され平民になるのだ。
(どうしよう…断罪されたら、私、兄さまや姉さまと一緒に居られない…)
平民になれば、大好きな家族と一緒に居られなくなってしまう。それに。
(攻略対象の一人が、アレン兄さまなのよね)
乙女ゲームの中には様々な攻略対象がいた。その一人がアレンなのだ。大好きな兄が好きな人と結婚できるのならばそんなに嬉しいことは無いが、大好きな兄に断罪されるのはごめんだ。
(どうにかしてアレン兄さまをヒロインから遠ざけて、私もヒロインとは極力かかわらないようにしないと…)
エミリアはこれから訪れるかもしれない未来に怯えながら、決意した。
「私は、悪役令嬢になんか絶対にならないんだからっ!」
もともとは一話完結だったはずなのに、話が膨らみすぎて終わりそうにありません…。
できるだけ早く更新できるように頑張るので、このお話が面白いと思ったら第二話も呼んでくれると嬉しいです!
ご指摘も感想もお待ちしております!
悪役令嬢は四人の兄と姉に愛されて幸せなので、ヒロインを虐める必要がない。②
なんと!ファンレターをいただきました!!
優しい応援にほっこりしました。ありがとうございました。これからもエミリアの奮闘を見守ってあげてください。
それと、ユーザーページをつくりました。お恥ずかしいことにユーザーページを作れるのを知りませんでした…。教えてくださった方、ありがとうございました。
「どうしよう…?」
自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知った翌日。エミリアはウィリアムが届けてくれたアイスを食べながら、思考を巡らせていた。
アレンと自分がヒロインに接触しないようにしよう!と意気込んだものの、そのためにどうすればいいのかがいまいちよく分からない。空になったアイスの容器をテーブルに置くと、エミリアは本棚から日記帳を取り出した。
(とりあえず、ここに今わかる情報を書き出しておこう)
一つ目。自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したこと。
二つ目。アレンが乙女ゲームの攻略対象であること。
三つ目。ヒロインは平民の特待生で、希少な聖魔法を使えること。
情報を箇条書きにして書いていくと、三つ目の所で手が止まった。ヒロインは聖魔法という回復系の魔法が使えて、そこに魔法オタクのアレンが興味を持つ事からアレンルートは始まる。
悲しいことにアレンルートでも当然エミリアは悪役令嬢なのだが…。ここで一つ疑問が生まれた。
(アレン兄さまが私を断罪するなんて、ありえるの?)
この世界のアレンはエミリアを溺愛している。乙女ゲームのストーリーのようにエミリアを断罪し家族の縁を切るなんてことはありえるのだろうか。そもそも、エミリアの性格もゲームとは違う。それなら、ストーリー通りに話が進むとは考えづらい。
いろんな事を考えてしまってエミリアの頭がパンク寸前だったとき。コンコンとドアが叩かれた。
「どうぞ」
慌てて日記を本棚に戻すと、エミリアは返事をした。
「お邪魔するよ」
そう言って部屋に入って来たのはリリアーナだった。騎士の制服ではなく、男物のシャツとズボンを身に着けている。
「リリアーナ姉さま!」
「エミリア。もう体調は大丈夫かな?」
「はい!」
「そうか。私の可愛い天使が元気になってよかったよ」
にこりとリリアーナがほほ笑む。王子様の様に格好いいその笑みに、エミリアは顔を真っ赤にした。
「リ、リリアーナお姉さまこそ格好いいです。その服はどうしたんですか?」
「おや、忘れてしまったのかい?今日は兄弟皆でエミリアの学園生活に必要なものを買いに行くんだよ」
「あ!そ、そうでした…」
この数日、余りにも色々なことがあり過ぎてすっかり忘れてしまっていた。大好きな兄姉とお出かけだとずっと楽しみにしていたのに。
「まだ時間に余裕があるから、着替えておいで」
「はい…。ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
大急ぎでエミリアが着替えて部屋を出ると、そこには既に兄姉たちが待っていた。
「よし。行こうか」
皆で外に出ると、二台の馬車が門の前にとめてあった。
「おい。なんで二台なんだ?」
ウィリアムが言う。
「五人で馬車に乗ると危ないから、人数を分けてくださいと言われましたの」
ミーアが答えた。その瞬間、エミリアを除く四人は火花を散らし始める。
「ここはやっぱり、男女で別れるべきじゃないかな。そのほうがエミリアも楽だろうし」
「ええ。リリアーナお姉さまの言う通りですわ」
「はあ!?ずるいですよ、リリアーナ姉さんもミーアも!!」
「そうだそうだ!!俺とアレン兄さんが不利だろ!」
「何を言ってるんだい?私はあくまでも一般論を言っただけだよ」
「いやいや!!そもそもリリアーナ姉さんは男みたいなもんだろ!!」
そうして十分余りの口論の末、兄弟じゃんけんが行われた。
「「「「兄弟じゃんけん、じゃんけんポン!!あいこでしょ!!あいこでしょ!!」」」」
(この世界にも、じゃんけんあるんだあ…)
仲良しすぎるがゆえに全く決着がつかない四人のじゃんけんを見ながら、エミリアは遠い目をして考えた。
それから更に数分後、ようやく馬車の席順が決まった。アレン・ミーア・エミリアのチームとリリアーナ・ウィリアムのチームだ。
「そういえばウィリアム、さっきはよくも私を男みたいなもんだと言ってくれたね?」
「ヒッ!!誰か、助けて…」
真っ青になったウィリアムが助けを求めるが、無情にも馬車の扉は閉められる。
(ウィリアム兄さま…どうかご無事で…)
ルーチェ家最強の剣士リリアーナを止められるものなど誰もいない。別の馬車に乗った三人はウィリアムの無事を心から願った。
「そういえば、今日はどんなものを買えばいいのでしょうか?」
エミリアはアレンとミーアに尋ねる。
「そうだなあ…魔法の授業で必要な杖はいるよね」
「あ、そっか。アレン兄さまは教師として学園にいらっしゃるんですもんね…」
「そうだよ。エミリアになら何でも教えてあげるから、どんどん質問してね」
「ほかの方にも教えてあげてください」
にこにこと話すアレンは、相変わらずエミリアに甘々だ。やはりどうしても、ゲームの中のアレンとは違う気がする。そもそもこの世界にはゲームと違う点がかなり多い。それなら、普通に過ごしていればヒロインは回避できるのでは…?と、エミリアは希望を抱いた。
もしかしたら、ここは乙女ゲームと似てはいるが全く別の世界で、ヒロインなんてものはいないのかもしれない。
(そうよ。アレン兄さまが私を嫌いになることなんて、絶対にないんだから)
そう思うと今までざわついていた心にも余裕が生まれ、不安もわずかに和らいだ。
「ほかにも裁縫道具に、教本だとか…。買うものは沢山あるわよ」
「はい!」
やがて目的地に着くころには買い物が素直に楽しみになってきて、エミリアはワクワクで馬車を降りた。
「この木から作った杖が一番いいんだよ」
「この裁縫道具、昔わたくしが使っていたものと同じ。使いやすいのよ」
「教本は…これとかが一番分かりやすいぞ。解説も丁寧だしな」
「エミリアは可愛いからね。やっぱりこういう武器は常に隠し持っておいたほうがいい」
色々な店を順番に回っていき、必要なものをどんどん買っていく。魔法の杖はアレンが、裁縫道具はミーアが、教本はウィリアムがそれぞれエミリアに合うものを選んでくれた。恐らく学園生活には必要ないが、リリアーナからは護身用の小型ナイフを買わされた。
「兄さま、姉さま。今日はありがとうございました!」
帰り道、エミリアは兄姉たちと一緒に仲良く歩いていた。すると、向かい側から走って来た女の子と肩がぶつかってしまった。
「きゃっ!」
「…え?ああ、ごめんなさいね」
エミリアは尻もちをつく。ぶつかった女の子は面倒くさそうにしながらも、一応手を貸してくれた。エミリアが顔を上げた瞬間、二人の目が合った。
「ッ、エミリア…!?」
「…?どこかでお会いしたことありましたか?」
驚いたように声を上げた女の子が自分の名前を呼んだような気がしたので、エミリアは尋ねる。
「いっ、いいえ。人違いよ」
しかし慌てて言うと、女の子は逃げるようにその場を後にした。
「大丈夫かい?エミリア」
「あいつ、エミリアにぶつかったのにあの態度は何なんだ」
「チッ。せめてちゃんと謝ればいいものを」
「無駄よ。あんな方のレベルに合わせて怒っていては、身が持たなくてよ」
兄姉たちが怒っている中、エミリアは黙って考え込んでいた。さっきぶつかった女の子に、どこか見覚えがある気がしたのだ。
(誰だったかしら…?)
そこでふと思い出した。乙女ゲームのヒロインの立ち絵を。感情移入しやすいようにか顔は詳しく描かれていなかったが、恐らくあれが…。
「ヒロイン…?」
背中を冷たい汗が伝う。体ががくがくと震えて、立っているのですら精一杯になった。
(間違いない。ここは、本当に乙女ゲームの世界なんだ。ヒロインもちゃんと存在する)
つまり、エミリアが大好きな兄から断罪される未来も本当に起こるかもしれないということ。
「エミリア?大丈夫?」
様子のおかしいエミリアに気づいたアレンが声をかけてくる。彼がエミリアの名前を呼ぶ声はとても優しいし、心配しているほかの三人から向けられている視線にも愛情がこもっている。
(まだ。まだ、大丈夫)
むしろ、敵を知れただけ良しとしよう。今はまだ誰も自分から離れていないのだから。
(奪わせない。絶対に)
恐怖を誤魔化すように、エミリアは手の甲をぎゅっと握りしめた。
仲のいい兄弟の様子をしっかり書きつつ、ストーリーも進めていきます。
ご指摘も感想もお待ちしております!!