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目次
第一話 人生万事塞翁が猫科(?)
お茶漬けおいしい
黒衣の少女side
こんにちは、皆さん。
今僕がどこで何をしているかというと…
「ねぇ、『彼』見てて楽しい?」
「そうだね。まぁ…面白いかな」
「悪趣味だね」
河の対岸で少年の決意を見ている。
「うるさい…うるさい!うるさーい!よし!この次に通りかかった奴を襲って、そいつから金品を奪ってやる!」
「「……」」
どうやらこちらには気づいていないようだ。
「…前言撤回。二度目でも面白い」
隣りで普が呟いた。
…面白いなぁ、あの少年。
---
謎の少女side
相変わらずのボロい服を着た敦。
あれだ、不景気だわ。
アマネは彼を見ているのがおもしろいらしい。
確かにリアクションは面白いけどね。
にしても…荒れてんなぁ、敦。
成る程、金に目がくらむと人間ってああなるのね。新しいことを学んだわ。
前は見られなかったからなぁ。ここ。
---
黒衣の少女side
「あ」
「ん?…げ」
犬神家じゃん。…犬神家じゃん?
「溺れ方が?」
うん。
「ええい!」
あ。
少年飛び込んだ。
人命救助だな。
…本人が望んでるかは別にして。
対岸からうっすら声が流れてくる。
「川に流されてましたけど…大丈夫ですか?」
「助かったか…ちぇっ」
ちぇっつったぞ。
「ちぇっ?!」
人に助けられておいて。
「何度見てもクズね」
「『ちぇっ』ってとこだけすごい鮮明に聞こえたな」
「君かい?私の入水を邪魔したのは」
「自殺?!」
---
謎の少女side
「そう!私は自殺をしようとしていたのだ!それなのに君が余計なことを…」
声高らかにぐだぐだと文句を言う『奴』。
「そうだ」
「?」
隣りの彼女がいきなり歩き出した。
道の方向でも橋の方向でもなく『川に』
「…へ?」
「そろそろ向こうに行きたい。しかし橋まで行くのは面倒だ。だから飛び込む。」
「え、ちょっ」
私の手は虚しくも空を泳いだ。
---
黒衣の少女side
思い出した。
そういえば僕…最後に泳いだの何時だ?
---
少年side
「え、また人が?!」
「おや」
「た、助けないと!」
その時頭の上で少女の声が響いた。
「大丈夫。私が行くわ」
「っぇ?!」
「おー」
---
黒衣の少女side
「…助かった。普」
「ほんと馬鹿ね」
「おやおや、二人揃ってスヰミングの練習かい?」
「五月蠅い。第一お前が悪いんだ。仕事をサボって川を流れたりするから…」
「そう!いっつも回収させられるのは私なんだ。いい加減にしろ」
「え、もしかして僕に言ってる?」
「えっ…と」
少年が話に入れなくて困っている。
「あ、僕は…」
ぐぅぅ……
「…空腹かい?少年」
「じ、実はここ数日何も食べていなくて…」
ぐぅぅぅぅ……
「奇遇だな。私もだ。」
「そ、それじゃあ!」
「ちなみに財布は流された。」
「え…そんな…」
二人の視線が僕に集まる。
は?なんで
外套のポケットに手を突っ込む。
「…あ」
そういえば基本的に財布は持たないんだった。
買い物の予定はなかったからな。
「ということだ。ちなみに僕も空腹だ」
すると今度は普に視線が集まる。
「彼女は異能生命体。財布は持ってないよ。」
「そういうこと」
「わぁ!じゃあ全員で餓死するまで…」
「は?」
「あ"?」
「え?!」
「…誰か奢ってくれる人を探そうじゃあないか」
「こんなところに居ったか!唐変木!」
「あー国木田君!お疲れ様」
あ、財布。
「国木田さんお疲れ様でーす(いろんな意味で)」
「何がお疲れさまだ!疲れるのはすべてお前のせいだ!この自殺嗜好!お前はどれだけ俺の計画を乱せば…」
全然聞こえない。素晴らしい川のせせらぎ。
「財布…あ、そうだ!よいことを思いついた。彼は私の同僚だ。彼におごらせればいい!」
「人の話を聞け!」
…ほんとになんにも聞こえなーい。向こう岸の金髪の男の声なんてきこえないな。
「君、名前は?」
---
異能生命体の少女side
「中島…敦ですけど」
「ではついて来たまえ敦君!何が食べたい?」
「あの…できれば…」
「なに遠慮はいらないよ(私の金じゃないから)」
「茶漬けが食べたいです」
…彼らしいね。
「ふふふ…はっはっは!餓死寸前の少年が茶漬けを所望か」
いいじゃない。30杯くらい食べさせてやれ(私の金じゃないし)
「俺の金で太っ腹になるな!普!おいアマネ、お前の異能だろう!管理しろ!」
「えー無理だよ」
然うね…彼女には私を管理できない。なぜなら彼女の異能じゃないからね。
「あ、アマネ…?」
---
黒衣の美少女アマネside
「あぁ、僕の名前だよ。そして彼女は普。異能生命体。」
「名前一緒じゃ…」
「表記が違う」
「メタ…?」
「(⌒∇⌒)」
「な、何でもないです」
「で、このクズが太宰だ」
「あ、どうも―クズでーす」
「え・・・・?」
「別名わかめ脳よ」
「えへへw」
「え・・・・・・?」
---
「あ~食った~…もう茶漬けは十年は見たくない…」
「お前💢人の金でこれだけ食っておいてよくもぬけぬけと!」
まぁまぁ国木田さん。禿げるぞ。
「いや本当に助かりました。孤児院を出てヨコハマに来てから、食べるものも寝る所もなく、あわや餓死するかと…」
「君、施設の出かい」
「出というか…追い出されたんです」
「それは薄情な施設もあったものだね」
「おい太宰、俺達は恵まれぬ小僧に慈悲を垂れる篤志家じゃない。仕事に戻るぞ」
「そういえばさっき軍関係の依頼とおっしゃってましたが、何のお仕事を?」
「なァに…探偵だよ」
「…異能集団、武装探偵社と言えば聞いたことがあるのではないか?」
異能集団武装探偵社。軍や警察には頼れないような危険な仕事を請け負う、昼の世界と夜の世界、その淡いを取り仕切る薄暮の武装集団…。
そして僕の所属している会社だ☆((
「おお!」
…びっくりした。
「あんなところに良い鴨居が!」
「立ち寄った茶屋で首吊りの算段をするな!」
「違うよぅ。首吊り健康法だよ」
「何だそれは」
「ええー!?国木田君知らないの!?すごく肩こりにきくのに!」
…胡散臭い。
「何!?そんな健康法があるのか!?」
いや信じるなよ。
「ほら、メモメモ」
「くびつりけんこうほう…」
「ま、嘘だけど」
あーあー敦君引いてるねぇ…
ふと視線が合ったのでにっこり笑っておいた。
あ、引かれた。
え、待ってなんで?
「お疲れ様、アマネ」
ホント疲れたよ。普…
「あの…今日のお仕事と言うのは…」
「あァ!」
「ほらほらぁ国木田さんそんな少年に八つ当たりするな。ビビってんじゃん。」
「…すまん。軍の依頼で、虎探しをしている。」
「近頃街を荒らしている、噂の人食い虎だよ」
その時ガタン、と隣で椅子の倒れる音がした。
横目に見ると少年が床に転がっている。
「どうした?敦君」
「ぼ…僕はこれで失礼します」
「待て小僧。貴様何か知っているな?」
「無理だ!奴に人が敵うわけがない!」
「貴様、人食い虎を知っているのか?」
「あいつは僕を狙ってる…殺されかけたんだ!この辺に出たんなら早く逃げないと!」
おっと、国木田がスタァになってしまう。
「っ?!」
「悪いね。あまり目立ちたくないから」
「…茶漬け代は腕一本かすべて話すか、だな」
「ハァ…アマネ。もう少しおしとやか~な制圧方法はなかったのかい…?」
「…腕を後ろ手に捻り上げるor床に少年が叩きつけられて腕を折られる。さァどっちが目立つ?」
「…はぁ…さて少年。君はあの虎の何を知っている?」
「ウチの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです。畑を荒らされ…鳥小屋も壊され…それに倉庫も……死人こそ出なかったけど、貧乏孤児院がそれで立ち行かなくなって、口減らしに僕は追い出された。あの人喰い虎…僕を追いかける様に僕の行く所の先々に現れるんです。この間も…」
そこまで言うと少年は一度言葉を切った。
その姿を思い出したのだろう。
「施設を追い出された2週間前から、何度もあいつの影を見た」
「その虎を最後に見たのはいつの話だい?」
「鶴見の辺りであいつを見たのが、確か四日前です」
「確かに、虎の被害は二週間前からこっちに集中しているな。それに四日前に鶴見の辺りで虎の目撃証言もある」
「敦君これから暇~?虎探しを手伝ってくれたまえ」
「いやですよ!」
「国木田君は社に戻ってこのメモを社長に」
「おい、二人だけで捕まえる気か?まずは情報の裏を取って…」
「いいから。ほらぁアマネちゃんも行こうよ」
「…めんどくさそう」
「普は?」
「また囮にされそうで厭ね」
「信用ないなぁ…しないよそんなこと―」
「ぼ、僕は嫌ですからね!それってつまり、餌ってことじゃないですか!誰がそんな」
「ハァ…報酬出るけど」
「報酬!?報酬って…そんなものじゃ釣られませんからね!」
「時給こんくらいじゃあないかい?」
「んーっと。危険性もあるからこれにこれを足して…それから…」
「そうだな。…これくらいだけど」
---
「太宰さん、何を読んでるんですか?」
「いい本」
「こんな暗い中でよく読めますね」
「目は良いから。それに内容は全て頭に入ってるし」
「じゃあ何で読んでるんですか?」
「何度読んでもいい本はいい」
「あ、アマネさんは何を…?」
「そうだね。本を読んでる」
「な、何の…?」
「んー…嫌いな本だよ」
「嫌いな本…?何故…?」
「嫌いな本でもね、役には立つんだ」
「…普さんは」
「国木田君と一緒に社に戻った」
「…本当に虎はここに現れるんでしょうか」
「現れる」
「心配いらない。虎が現れても私の敵じゃないよ。こう見えても武装探偵社の一隅だ」
…前回は彼女を囮にしたそうだけどね。
「すごい自信ですね。なんか羨ましいです。僕なんか孤児院でもずっとダメな奴って言われてて…その上、今日の寝床も明日の食いぶちも知れない身で…確かにこんな奴がどこでのたれ死んだって誰も気にしない…いや、いっそ虎に食われて死んだ方が…」
「さて、そろそろかな」
…僕が虎の囮にされるのが、か?
「今奥で物音が!きっと奴ですよ太宰さん!人食い虎だ!僕を食いに来たんだ!」
「落着きたまえ敦君。虎はあんな所からは来ない。そもそも変なのだよ。経営が傾いたからって、そんな理由で養護施設が児童を追放するかい?第一、経営が傾いたのなら一人二人追放した所でどうにもならない。半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ。」
…彼がこの町に来たのが二週間前。虎が町に現れたのも二週間前。
彼が鶴見の辺りにいたのが四日前。同じ場所で虎が目撃されたのも四日前。
「国木田君が言っていたろう。武装探偵社は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。」
あまり知られていないが、この世には異能の力を持つ者が少なからずいる。そして、その力で成功する者もいれば、力を制御できずに身を滅ぼす者もいる。
「多分施設の人達は虎の正体を知っていたが、君には教えなかったのだろう。
君だけがわかっていなかったんだよ。
君も異能の力を持つ者だ。
現身に飢獣を降ろす月下の能力者」
わーかっけぇ。
現れたるは、白虎。
身軽に攻撃をかわしていく太宰。
「アマネちゃんパースッ!」
「はぁっ??!」
結局こうなるのかよ!
うーわつよい。
でも、
「獣に食い殺される最後というのも、なかなか悪くないけどね…君では僕を殺せないよ」
『人間失格』
「…セクハラだ」
…ビタンッと音がした。
大丈夫かな。…大丈夫だよね。
「おい太宰!」
「遅かったなぁ国木田君。虎は捕らえたよ」
…お前の手柄にするな。
「まさかこの小僧が」
「虎に変身する能力者だ」
「まったく…何だこのメモは」
「“15番街の倉庫に虎が出る。逃げられぬ様、周囲を固めろ”…実に完結で良いメモだ」
自己満足するな。それに…
「要点が抜けてるわ。次からは事前に説明してよ。おかげで非番の奴らまで借り出す始末だよ。後で皆に酒でも奢ったらどうかな。…賢治君はジュースね」
おや、普。
「あ、アマネ」
「なんだい、怪我人は無しかい。つまんないね」
「中々できるようになったじゃないか太宰。まぁ僕には及ばないけどね」
「でもこの人、どうするんです?自覚はなかった訳でしょ?」
「どうする太宰?一応、区の災害指定猛獣だぞ」
「実はもう決めてある」
「やめてよ?『うちの社員にする!』とかいうの」
「うちの社員にする!」
「はああああ!?何の権限があって貴様は」
ぐだぐだと小言を言う国木田。
「起きろ少年!」
うっわ寝起き最悪ぅ
「敦君、変身中の記憶は全く無しかい?」
「何の事です?」
「あ、でもまだ右手に残ってる。アマネーちゃんと無効化してよー」
うるせ。
「右手?…うわあああああああ!なにこれなにこれ!やだやだやだやだ!」
白くてふわふわで肉球…いいね。
「中島敦!」
太宰が声高らかに名を呼んだ。
無論皆ビクッとする。
「これより君は私達の仲間になれ。今日から君は武装探偵社の一員だ」
「はい?」
…はぁ。
ということであとがきのアマネだ。
なんかキャラ崩壊とか口調迷子とかやばいらしいな。
どうした?作者。
「いやぁ今テスト前日で」
じゃあやるなよ
「だって海嘯さんが楽しみにしてるって…」
お世辞だよ馬ァ鹿
「そ、そんなバナナ…」
そんなくだんない冗談言ってる暇ありゃあ勉強しやがれ
「うっ…いいから早く次回予告してよ」
はいはい、次回『或る爆弾も元はメンヘラの仕事道具』
自殺嗜好のセンスなんて僕は欲しくないね。
てかこの題名何だ?
「結構こだわってんだよ。題名」
二話 或る爆弾も元はメンヘラの仕事道具
ねむ
い
目が覚めたのは携帯の電子音だった。
「……」
自分が「低血糖」という奴だと気が付いたのはポートマフィアをやめてからだった。
「…何」
ポートマフィアでは朝早くに起きるなど中々なかったし、少しくらい体調が悪くても寝不足や疲れのせいにできた。
「は?」
しかも今何時だよ。六時?
…なんか逆にしんどいの飛んでいった。
お礼に特別でかい声で恨み言を叫んでやった。
---
敦少年side
久しぶりだな…天井…。
感傷に浸っているといきなり電子音が鳴り響いた。
「なに?なになになに!?出ます!今出ます!」
……どれだ?
「もしもし?」
『グッドモーニング!』
「太宰さんですか」
『今日も良い天気だねぇ、新しい寮はどうだい?』
「お陰様で野宿に比べたら雲の上の宮殿のようです」
『それはよかった。枕元の着替えは、探偵社の皆からのプレゼントだ』
「ホント何から何までありがとうございます」
『ところで敦君、いきなり申し訳ないが、実は緊急事態が発生したのだ。一刻を争うのだよ。大変な事態だ!君だけが頼りだ』
「…わかりました」
『用意はいいかね?敦君』
「はい!」
「まず部屋を出たら…後ろを見ろ!」
「え、えっと…これはなんですか…」
---
普side
目が覚めたのはアマネの叫び声だった。
大丈夫?この寮凄く壁薄いけど。
近所迷惑じゃない?
「どうしたの。普」
「…朝から、太宰が電話かけてきやがった」
「声ガラガラよ」
「…用意する。一応様子だけ見に行く」
あら律儀。
「彼奴の莫迦面拝みに行くだけだよ」
…そ。
---
太宰side
「え…っとこれは何ですか…」
何だと思う?と聞き返すと「朝の幻覚」と返された。
「外れ―!」
「まさか敵の襲撃ですか!?罠にかかったとか…」
「いや、自分で入った」
敵の罠にかかるほど馬鹿じゃあない。
ドラム缶にハマる自殺法があると聞いたものだから、試してみたはいいものの、苦しいばかりで一向に死ねない。
「しかも自力では出られない。死にそう~」
「でも自殺法なのですから、そのままそうしていればいずれ自殺できるのでは?」
「私は自殺は好きだが、苦しいのも痛いのも嫌いなのだ!当然だろ!」
「なるほど…えいっ」
後ろに倒された。
頭が痛かった。
多分この自殺法は二度とやらないね。
ハァ…彼がいなかったら腰からポッキリ二つ折りになるところだったよ。
「同僚の方に助けを求めなかったんですか?」
「電話したよ。君も昨日会っただろう。アマネ。“死にそうなんだけど”って…そしたらなんて言ったと思う?」
「”おめでとうございます”…?」
「いいや、もっと酷い。」
おや、ちょうど彼女が来たね。
ふふ、適度にすごい形相をしているね。
折角の美少女が台無しだよ。
「誰の…所為だと…」
「喉ガラガラだよ」
「手前のせいだよ。この放浪者。」
「あーどっかで聞いたようなセリフ」
「百億の名画にも勝るぜ(w)(cv谷山紀章)」
「あー!やめて!声マネしないで!上手すぎて反吐が出る!」
「余計にのど痛くなった」
当たり前でしょう。
---
普side
「あの、結局なんて言われたんです…?」
んー…公共の電波には流せないようなこと、とだけ言っておこうか。
「〇でかくしていいならー『この○○○○の○○○○○○で○○○○○○○○な○○○○!○○○○○野郎が○○○○○○○○、○○○○○○○○!!!』ってところかな」
「え…」
そんなに引かないであげてよー
一寸機嫌が悪かっただけなんだから。
「そうだよ。彼女がガチギレしたらこんなものじゃないよ。地球の反対側まで追いかけてきてでも本気で殴りに来るから」
「え……」
---
アマネside
「太宰さん…武装探偵社の…いわゆる探偵の方達はやっぱり皆さん異能力者なんですよね?」
「そう。警察でも歯が立たない敵を倒す武装集団だ」
「やっぱり僕は探偵社には入れません」
え、どうして?君も立派な異能力者なのに。
「確かに…虎に変身するのは異能力ですが…僕はその異能力を全く制御できません。ただ無自覚に変身してしまうだけで…自分の意思で虎になる事はできないんです。だから僕が入っても何の役にも立てないと思います」
「ありがたいお話しですが、すいません」
「これからどうするつもりだい?」
「なんとか僕にできる仕事を探してみようと思います」
…そ。
「君ができそうな仕事に心当たりがある。よければ斡旋してあげられるが」
やけに真剣な顔の太宰。
「本当ですか!?よろしくお願いします!」
…なんか寒気がする。変なことに巻き込まれそうな予感。
「…僕もう帰る」
「えーなんでー?というか今日アマネ仕事だよね」
「在宅ワークする」
「いやそんな制度ないよ…。てか今日外の仕事あったよねー」
「…谷崎にでも投げる。」
「サーイテー」
……。
「もうっ!行きゃあいいんだろ!行けば!」
にやにやと笑う太宰。気色悪…
---
「で、これから向かうのは、その仕事を紹介してくれる保証人さんの所だよ」
「その仕事って…」
「着いてからのお楽しみ。ま、ちょっとした試験はあるかも」
「えっ!試験!?」
「敦君、字書ける?」
「一応…読み書きくらいは…」
「なら大丈夫だよ!」
僕は…なぜここにいるのか。
今日は家で寝たかったのに…(仕事は?)
仕事くらい家でできる…
「私に任せておけば万事大丈夫!なぜなら私は太宰!社の信頼と民草の崇敬を一身に浴す男だから」
「こんな所におったか太宰!この包帯無駄遣い装置がァ!」
「はあ~~!く…国木田くん…今の呼び名…やるじゃないか…」
「普~…この後の流れの予測はつく?」
「もち。できるだけ関わらないことね」
「何が社の信頼を一身に浴す男だ!お前が浴びてるのは文句と呪いと苦情の電話だ!」
「え~私がいつ苦情なんて受けたのさ~」
「8月某日入電。“お宅の社員さんが、海岸の漁業網に引っかかってるんだけど、引き取ってくんない?” 9月某日入電。“うちの畑に変な人が埋まっとったんだが、そちらの同僚さんかのう?”某月某日入電。“うちの飲み代のツケちゃんと払ってくださいね。半年分です”」
なんてこった…国木田さんが…
「そんなバカな!国木田君がこんなにモノマネが上手いなんてぇ!」
「貴様ァ!人を愚弄するのも大概にしろ!」
「あ、そうだ!太宰のバカを相手にして一分も無駄にしてしまった。探偵社に急ぐぞ!」
「何で?」
「緊急事態だ!爆弾魔が人質を取って探偵社に立てこもった」
---
「嫌だ…もう嫌だ…社長はどこだ…早く社長を出せ!…でないと!爆弾で皆吹き飛ンで死ンじゃうよ?」
「敦君の今の心情を中てて見せようか。役に立ちそうにないから帰りたい、だろう?」
「その通りです…帰らせて…」
「ウチは色んな所から恨みを買うからねぇ…」
「無視ですか」
「それにあれ、高性能爆薬だよ。犯人の言う通りあれが爆発したら、このフロアくらい吹き飛ぶね。んー…爆弾に何か覆い被せればある程度は爆風を抑えられるかもしれないが…この状況じゃねぇ…女性を人質に取るとは卑劣な!」
お前は女好きなだけだろ。
「あの女の子は?」
「彼女はナオミ。バイトの事務員だよ」
「方法は一つ!」
太宰と国木田さんが向かい合って構えている。
何する気?
普はさっきからずっとあきれたようにふらふらしている。
「じゃんけん」
あいこ
あいこ
あいこ
あ、国木田さん負けた。
「おい、落ち着け少年」
「来るな!社長以外に用はない!妙な素振りを見せたら吹き飛ばすよ!」
「…わかった」
「知ってるぞ。あンたは国木田だ。僕を油断させてあの嫌味な異能力を使うつもりだろう!?そうは行かないぞ!机の上で四つん這いになり、両手を見える所に置け!」
「あァ?!」
「い…言う通りにしないと…みんな道連れだぞ!」
「まずいな…探偵社に私怨を持つだけあって奴は社員の顔と名前を把握している。これでは社員の私が行っても彼を刺激するだけだ」
「さて、どうしたものか」
なんかいやな予感がするな。
「あ~つ~し~く~ん♪」
「嫌です」
「まだ何も言ってないよ?」
「言われなくてもわかります」
「じゃあー普ちゃん…」
「いやよ」
「聞いてくれ敦君。社員ではなく、犯人に面が割れていないのは君だけだ」
「でも…僕が行っても何もできませんよ」
「大丈夫。少しの間、犯人の気を逸らしてくれればいい。あとは我々がやるから」
「そうだな~相手の意表を突く様なダメ人間の演技でもして、気を引くというのはどうだろう」
「はい、小道具」
「信用したまえ。この程度の揉め事、我々武装探偵社にとっては朝飯前だよ敦君」
「や…ややややめなさーい!こ…こんなことして何になるぅ…きっと親御さんも泣いているよ」
ふむ。
「なかなか面白いねー」
そうだね。
「何だ!アンタ!」
「ご…ごめんなさい」
「新聞配達の人が何の用だ」
この時点でいろいろ察せるよね。かわいそう。
「い、いくら憎いからって人質とか爆弾とかよくないよ…生きていればきっといい事がある」
「いい事って?」
「……………ちゃ…茶漬けが食える!茶漬けを腹いっぱい食える!天井がある所で寝られる!寝て起きたら朝が来る!」
んー…確かに?
「でも…爆発したら君にも僕にも朝は来ない…なぜなら死んじゃうから…」
「そんな事わかってる!」
「ええええー!?」
「いやぁ~やめた方がいいと思うけどなぁ~だって死んじゃったら…死んじゃうんだよぉ?辛くても生きてる人だって…ほら!例えば僕!家族も友達もいなくて…孤児院さえ追い出され、行く場所も生きる希望もない…その上虎に変身しちゃうし…あーそうですよ!確かに僕はあなたの言う通りとりたてて長所もなく誰が見ても社会のゴミだけど、それでもヤケにならずに生きてるんだァ!」
十分ヤケ起こしてると思うけどねぇ。
「いいぞ敦君…演技を超えた素晴らしいダメ人間ぶりだ」
お前はどういう意見を言ってんだ。
「だからそんな爆弾なんか捨てて!一緒に仕事探そ!ね!」
「いや…僕別に仕事を探してるわけでは…」
「…今だ国木田君!」
「異能力!」
『独歩吟客』
「ワイヤーガン」
「一丁あがり~はいはい皆さんお疲れ様~」
「何が“一丁あがり”だ!“今だ”とか“確保”とか口で言ってるだけで、全然働いてないではないか!」
「それはしょうがないよ。だって国木田君は」
じゃんけんで負けたんだから。
「アマネ…」
「まーまー事件は解決したのだから、細かい事はいいじゃないか。あんまり神経質になりすぎると、シワが増えて老化が急速に進むそうだよ?」
「ハッ!それは本当か!」
「ほら、メモメモ!」
「しんけいしつすぎると…ろうかがきゅうそく」
「ウソだけど」
「どわああああ!貴様!人を愚弄するのもいい加減にせんか!」
っ!
「お前もな!」
「な、」
「バカなマネしやがって!」
いってぇなぁ手前…?あとで覚えておけよ…?
---
敦side
「あと30秒で爆発!?どうする!?」
〈爆弾に何か覆い被せればるある程度は抑えられるだろうけど〉
「何か被せるもの!」
「何かないか!」
「…敦君」
(あれ?僕は何をやってるんだ…)
「莫迦!」
遠くで聞こえた声がやけに脳内に響いた。
---
アマネside
「やれやれ…バカとは思っていたが、これほどとは…」
「ごめんね~大丈夫だった?」
「谷崎~…?」
「ヒェッ あ、アマネさン…」
「ふふ…先刻は世話になったなァ?なぁ谷崎?いい度胸だな」
「あ、え、あ…」
「…お兄様大丈夫ですか…?」
「バイトさんもグルって事ですか…」
「小僧、恨むなら太宰を恨め。さもなくば仕事斡旋人を間違えた己を恨め」
「って事はこれって…」
「言っただろ?ちょっとした試験があるって」
「つまり入社試験?」
「その通りだ。」
「…社長」
「社長??!」
「そこの太宰めが“有能な若者がいる”と言うゆえ。その魂の真贋試させて貰った」
「君を社員に推薦したのだけれど、いかんせん君は区の災害指定猛獣だ。保護すべきか否か社内で揉めてね」
「だが太宰が言ったのだ」
〈社長、社長はもしここに世界一強い異能力者が現れたら雇いますか?〉
〈その事が探偵社員たる根拠とは成り得ない〉
〈だから私は彼を推すんです〉
「それで社長、どのようなご判断を」
「太宰に一任する」
「お任せください」
「ちょっと待ってください太宰さん!それじゃ僕に紹介する仕事って…」
「…えらく自信無さげだったが合格だそうだよ」
「武装探偵社にようこそ、中島敦君」
「こんな無茶で物騒な職場、僕には無理ですよ!」
「皆を助ける為に爆弾に覆い被さるなんて、中々できる事じゃない。君なら大丈夫だ」
「でも…」
太宰の視線がこっちに向く。何?僕がこれから彼に起こる悲劇を話すのか?
「はぁ…でもまぁ君が断るなら無理強いはできない…しかしそうなると僕は君の今後が心配でならないね。まずは社員寮を引き払い…それから君のようにこれといった特技もない友達もない知り合いもないといった人間が仕事を探すにはこの土地は向かないからねぇ…。それに忘れた?君はお尋ね者の『人食い虎』なわけだけど」
「あ、…」
「それが知れれば…どんな仕事も善くてクビ、最悪軍警にでも突き出されて射殺かなぁ」
「射殺??!」
「まぁ~?この探偵社なら話は別だが」
「じゃ、そういうことで~」
最後だけ話をまとめるな、太宰。
「そんな…」
はぁい普だよ。
厭ー太宰はどの世界でも無茶を言うのね。
ん?口調が変わった?きのせいじゃないかな?
あ、アマネ?!まって落ち着け谷崎死んじゃう!
…しかたないね。
次回。蜂蜜色の髪の乙女は蜂蜜ほど甘くない
落ち込むなって敦君。70万くらいここで一年働けば稼げるよ!
もっとも、もっとコスパのいい仕事は知ってるけどね…