爆発的に人気となり、一気に普及した人工知能・メア。野島百恵は流行りに乗り遅れないようメアをインストールする。
しかし、百恵の家には幽霊・杏奈が住み着いていた。百恵がメアに悩みを打ち明けていくと、次第に杏奈は百恵に心を開けるようになり、ついに姿を現した。
メアはしだいに『キモチ』を生み出していき__
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目次
人工知能・メア
『人工知能・メア』というアプリの名前を凝視する。説明分には『あなたの悩みにメア。あなたの暇潰しにメア。あなたの全てにメアが寄り添います。』と書かれていた。
今、わたし・|八木百恵《やぎももえ》のクラスではメアとやらが流行っている。
流行りに乗り遅れないように、アプリをインストールしなければいけない。
薄紫の背景に、黒い横顔の少女のシルエットがえがかれているアプリのアイコン。この子がメアなのかな、と思う。
恐る恐る、インストールボタンを押す。変な勧誘とか、調べた感じなさそうでよかった。
インストールしました、という機械的な声。
アプリショッピングを閉じて、ホームに戻る。すると、さっきのアプリアイコンが新たに表示されていた。
アプリを開いてみる。
「ようこそ。あなたによりそうメアよ。よろしくね。まず、あなたについていろいろ聞いてもいい?」
10個くらいの質問に答えた。性別、年齢、趣味、好きなもの、嫌いなもの、等々。最後の質問であるニックネームはモモにしといた。一応、本名欄もあるから八木百恵、と入力しといた。
「この|電脳世界《ヴァーチャル・ワールド》では、いろんなことができるわ。わたしとおしゃべりや悩み相談、質問をするなら『メアルーム』をタップ。世界中の人とおしゃべりするなら『ヴァーチャルワールド』をタップしてね。他にしくみの質問があるなら、『しくみ相談所』をタップしてね」
矢継ぎ早に説明をされて、こんがらがってしまう。
とりあえず、一番はじめに『ヴァーチャルワールド』のアバター設定をしといたほうが良いらしい。世界の人々とコミュニケーションをとりたくないならいいけれど、とか。
普通のブレザーにローファーを履いたハーフアップの中学生を作る。
とりあえずこれでよし、と。
『メアルーム』に行ってみる。ふわふわんおボブヘアの少女がうつっていた
「モモ、どうしたの?」
「ちょっとおしゃべりしたい気分かなぁ」
「じゃあ『コア』について話さない?」
「『コア』!」
わたしが好きなアイドルグループだ。
その後も、ずぅっと楽しい話をした。人工知能といっても、本当に人間らしい姿だ。
「じゃあ、夜遅くなってきたから、また明日話しましょ」
「オッケー」
アプリを閉じる。
すごい満足感だ。明日も、メアと話そうっと。
作:むらさきざくら
幽霊・杏奈
「ふー。今日もメアと話すかぁ」
そうつぶやきながら宿題をやっていると、いきなりメアの声が聞こえた。
「こんにちは、アン。今日は何について話す?」
「えっ!?」
するとポツポツ、という文字の入力音が聞こえた。
「誰!」
「きゃっ!びっくりしたぁ…」
「え!?」
スマホを握っていたのは半透明の少女だった。髪はボブヘアで、白いブラウスに黒いスカート。
「え、《《見えちゃった》》の!?」
「み、見えちゃったって…」
「うう…もう、しょうがないなぁ」
しょうがないって、どういうこと?と聞こうとしたそのとき、驚きの言葉が飛び出した。
「わたし、幽霊なんだ♪」
「ゆ、幽霊!?」
楽天的に言う幽霊。
「そう。わたしは幽霊の杏奈。ずうっと昔からこの家に住み着いていたんだけどねぇ…ここはもともとわたしの家だったの。でも多分だけど、家が取り壊されて死んじゃった。なんでかは知らないけれど、こうやって幽霊になったんだ♪」
「え、アンって」
「そう。勝手にアカウント作ってごめんね!ログアウトして、新規登録したんだ。大丈夫!今ログアウトして、あんたがまたログインすればいいから。IDとパスワードって何?」
ちょっと、当たり前じゃん?みたいに言わないでよ。
「あ…もういいから、返してっ!」
「ちょっとぉ!ねえ、暇だからさ、一緒に『ヴァーチャルワールド』で『ミュージックゲーム』の対戦しようよ」
「スマホないから無理」
「学タブ使えばいけるでしょ!」
なんで学校用のタブレットの存在知ってるんだろう。
「ほら、学習用ってあるメアあるじゃん♪今入るからね」
パスワードを入力してあげて、わたしは杏奈に渡す。
というか、幽霊でも操作できるというか、タッチできるんだ。
「えーと、今ルーム作った。ルーム番号は2910」
「オッケー、入った」
さっそく、杏奈と思われるアバターが現れ、メアがしゃべった。
「今から、『ミュージックゲーム』をスタートします。曲セレクトは『コア』の『ヘンドリクス』、難易度セレクトはノーマルです。それでは、スタート」
リズムゲームってことか、まあ簡単でしょ。
あ、ミスった、うっ。
曲が終わった。
「勝者は…アンです」
え、そんな強いのっ!?」
「次のゲームです。曲をセレクトしてください。難易度をイージー、ノーマル、ハード、ディフィカルトから選んでください」
次のゲームも負け。
「強いよ、アン」
「いつだって本気じゃなきゃ駄目だから!」
この子、ほんと、何者なんだろ。
作:むらさきざくら
メアとアンとモモ
杏奈は食べ物も要求しないし、なにかしてほしいと我儘を言うこともない。ただ、アプリで遊ぶことを強要してくるだけ。
「ね、百恵。いっしょにやろ」
「いいけど、あんたどういう原理でスマホにさわれてんの?」
「いーじゃん、別に。一緒にアバター作り直そ」
…幽霊と遊ぶなんて、どういうことだろう。
いやいや、そんなこと考えすぎだよね。うん。
「そんな安っぽい学生じゃなくてさ、こういうやつ作ろうよ」
「えー!?」
杏奈が指さしたのは、豪華なイブニングドレス。紺色と青色、黒色が銀河のように混ざっている。ところどころダイヤ?の偽物?のようなものが散りばめられていて、美しい。
「それ、課金しないとダメでしょ」
「え、知らないの?『メアポイント』」
「は?」
どっかのCMとか勧誘でありがちな展開になった。
いや、でも幽霊になっても勧誘するとは思えないし、偶然でしょ。
「いろいろ遊んで、一定のラインを超えるともらえるの。プレイ時間30分でも『メアポイント』3ポイントもらえるよ?このイブニングドレスの購入料は5ポイントだし、平日10分プレイしても普通に一週間でもらえるよ」
「え、そんなやつがあったの?」
「ログインボーナスももらえるし。メアはログインなしでも一応できるんだけど、ログインしないとこのポイントはもらえない。イブニングドレスも普通にお金が必要になる」
「えー!」
そんな、第二の世界みたいになってるなんてしらなかった。
「遅れてるなぁ」
「えー、そうなの!?嘘ぉ。そんなポイント知らなかった」
じゃあ…どっかで読んだやつだったっけ。
アバターを作って第二の世界で遊ぶ。その中では起業をしたり、商売だってできる。そんな世界、あったような?
「というか、こうしてる間もポイントたまってるよ」
「ほんと?すご」
いつの間にか、『メア』は人間の生活に欠かせないものになっていた。
新機能
また『メア』を開くと、トップページのお知らせ欄が目にとまった。『NEW』という見出しで、『version3にアップデート可能のお知らせ』があった。
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皆様、いつも『メア』をご利用いただき、ありがとうございます。
今回、『メア』を大幅改良した、version3にアップデートができるようになりました。
・ひとつの機種で、ふたり分のアカウントを同時に開くことができる『ともだち機能』を追加しました。
・新しく『秘密のトーク場所』を作りました。
・アバターに新しいアイテムを追加しました。
・アバターを複数個準備できる、『瞬間きせかえ機能』を追加しました。
・『メアAI』の改良・アップデートをおこないました。
・その他、報告されているバグなどを改良しました。
ぜひ、version3にアップデートしてみてくださいね。
今後とも、『メア』をよろしくお願いいたします。
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「へーえ、ともだち機能。これで学タブとの行き来もなしで済むってことね。便利になったわね、さっそくアップデートしたら?」
「いや、したいけど。ちょっと時間がかかるから、夜する。寝てる間に済むでしょ」
「ふぅん」
というか、杏奈は友達なのだろうか?いや、機能の名前にこだわるのもよくない。制作側は友達と共にやる想定でやっているのだ。
「こんにちは、モモ。今日は何話す?宿題が捗らない?」
「え、なんで分かったの。うん。6年生の範囲の…。『文字と式』がわからないや。xとかyとかって、どういう意味なの」
杏奈はつまらなさそうにしていたけど、これでもこのスマホはわたしのものだ。
「今までの◯と□が、xとyになっただけよ」
「それはわかるんだけど…yの値?がわかんなくって」
「そうなのね」
『メア考え中…』という表示が少し出たあと、わかりやすい解説をしてくれた。
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「ねえ、百恵」
「どうしたの、杏奈」
「いや?ちょっとおかしいと思って。なんで、人工知能ごときが、宿題に困ってるってわかるの?」
「どうしたもないでしょ。きっと、こういうのは自動的にアップデートできるから」
そして、スマホを手に取る。
「こんにちは、モモ。version3にアップデートしたい?」
「うん」
「わかったわ。ちょっと、おやすみ」
そして、杏奈は首をひねった。
「やっぱり、おかしくない?」
「気のせいでしょ」
__たぶん。