殺人、クスリ、売春...人々が法で守られていない_シャンディガフ保護地区。
シャンディガフに住む人々は幸福に飢えていた。だからなのか怪しい宗教団体の言う『理想郷』に行きたがったのだろう。
仲間や家族を殺すぐらいには...
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目次
ep.1 悪徳商人は夢を見たかった
商人は裏路地にいた。悪徳商売をしてしまったせいか、こんなところまで落ちぶれてしまった。1人の黒髪の青年が裏路地へと連れて来られていた。恐喝のカモにされたのだろう。青年は黒縁の重い眼鏡に小綺麗な黒の革のジャケット、気弱そうな表情をしていた。見るからにもカモにしやすそうだ。
「手前、金持ってんだろ。出せや、オラァ"」
恐喝犯は青年の肩を強く押す。青年は顔を歪め、後ずさる。残念ながら、壁の方に追いやられてしまっていた。恐喝犯は|大麻《クスリ》をキメていたのか、はたまた恐喝が成功するからなのか、気分が向上しているようだった。
青年が恐喝犯を冷ややかな目で睨むと、恐喝犯は激高した。
「ナメてんじゃねぇよ。クソガキがぁぁぁ。」
恐喝犯は懐に隠していたナイフで青年に襲いかかった。その瞬間、恐喝犯は倒れていた。青年の手捌きは鮮やかなもので、ナイフを振り払い、みぞおちに一撃を喰らわしていた。
青年は眼鏡を取り、前髪をかきあげた。
恐喝犯は青ざめて、なにがよほど怖かったのか後退り始める。腰が抜けているのだろう。足を引きずっていた。青年は恐喝犯が落としたナイフを拾い、恐喝犯の元へ向かった。
「ゆ、許してくれぇ。この通りだ。頼む。」
恐喝犯は土下座をして、生を懇願する。
今までの威勢はどこにいったのだろうかというくらい無惨な様だ。薄汚れたズボンにシミを作っていた。
「おじさん、喧嘩売る相手は考えた方がいいぜ?もう遅いけどね。」
青年は薄気味悪い笑みを浮かべ、恐喝犯の脚にナイフを突き立てた。
青年の趣味は悪い。急所とずらしてナイフを刺すのだ。恐喝犯は叫ぶ。いっそ一撃で殺してくれと。
そんな願いも虚しく、青年は恐喝犯の脚や腕ばかりを刺し続ける。
ぐちゃぐちゃと肉を刺し続ける音があたりに鮮明に響く。鮮血が飛び散り、恐喝犯の叫び声があまりにも無惨に響く。
商人は血の匂いと叫び声と無惨な光景に気持ち悪さを覚えた。ここまでやることはないだろうと。青年は笑っていた。ただただ笑っていた。
どれだけ時間がたっだろう____
いまだに青年は脚を刺していた。肉という肉が引き裂かれたのか、ガキンというナイフとコンクリートが合わさる音しか聞こえなくなっていた。
恐喝犯はもう事切れていた。青年は気が済んだのか。死体を蹴り、恐喝犯が吹っ飛ぶ。冷めた瞳で死体を見つめ、ナイフを捨てて立ち去ろうとしていた。
商人は慌てて声をかけた。
「待ってくれ。そこの兄ちゃん。話したいことがあるんだ。」
青年は振り返り、商人の方を見た。青年の顔は血で汚れており、狂人を彷彿とさせた。
「なにか用?見るだけで助けてくれなかったおじさん。俺急いでるんだけど。」
青年は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。商人は脂ぎった肌に皮脂と汚れで固まった髪、その上ボロボロの服を纏っており、嫌がるのも当然な容姿をしていた。
「あの恐喝犯はここいらでは有名で傲慢だが強いやつだ。引き下がる|理由《ワケ》がねぇ。どうしてあいつは一発喰らっただけで、怯えてたんだ?」
「へぇ。おじさんさ、俺のこと知らねえの?俺はジン。ジン・グレイラ。有名な元|暗殺者《アサシン》だよ。理由があって辞めたんだけど、ここには名前も広まってたし。誰もが知ってると思ったんだけどな。」
|暗殺者《アサシン》のジン・グレイラ。一時期、シャンディガフに名を馳せた有名な人物だ。知らない人はいないってくらい。
商人は驚いた。それと同時に恐喝犯が怯えた理由がわかった。
---
ジンは商人が自分を知らないことに驚いた。無知な人もいるもんだなと他人事のように思う。
商人はポケットから一枚の薄汚れた切符を差し出した。
「お前さんにこれをやろう。これは『理想郷』行きの切符だ。」
ジンは商人からシャンディガフで起こっていることを事細かに教えてもらった。数日離れていただけでこんなことになるとは思ってもみなかった。
「俺は理想郷には行きたかねえんだ。なんせ、理想郷は酒もタバコも|大麻《クスリ》もねぇだろ?」
にししっと商人は笑った。愚かなやつだ。自分の身を滅ぼしかねないものを摂取できるなとジンは思った。
切符を貰うと、ジンは何か面白いことが起こりそうな予感に震えた。人が沢山死ぬであろう。
人の醜さが露呈する結果になるであろう。今まさに、シャンディガフでは理想郷を求め、死体があちらこちらに転がっている。
「なぁ。|暗殺者《アサシン》の兄ちゃん。みんなが欲しがる切符をやったんだ。少しくらい夢、見させてくれてもいいだろう?」
商人が下卑た笑みでジンの体を舐め回すように見つめ、舌なめずりをする。ジンは中性的な見た目も相まって、性的な目で見られることが多かった。気持ち悪い。
「ん。いいぜ。せいぜい楽しませてくれよ。」
挑発するようにジンが言うと、商人は目をぎらつかせ、ジリジリとこちらに近づいてくる。
「まぁ、落ち着けって。そんなに焦んなくても俺は逃げねぇよ。なぁ商人。目、つぶってくれないか?」
「ん?なんでだよ。」
「恥ずかしいからに決まってんだろ。言わせんなよ。バカ。」
ジンが顔を赤く染め、恥ずかしがってるフリをすると、商人はあからさまに機嫌が良くなる。
すると、素直に目をつぶり何かを待ち望んでいるようだった。幸せな奴だ。
ジンは懐にしまってたハンドガンを取り出す。
トリガーに指をかけ、思い切り引いた。
パァン____
「切符をくれた詫びに少しは苦しまず死ねるようにしてやったぞ。」
ジンの放った弾丸は商人の胸を正確に貫く。
何回も何回も弾丸を放つ。死体に穴があいていく。
やがて、商人は夢を見れたようだ。痛みに勝利し、動かなくなる姿を見てジンは独り言を吐き捨てた。
「あーあ。せっかく生かしてやろうと思ったのに。お前みたいなやつは身の程をわきまえて細々とここで生きてろよ。来世では拾った命は大事にしろよ。」
ジンは死体を見つめ、蹴った。死体は吹っ飛び、壁にに勢いよく当たる。死体はぐちゃぐちゃに破壊され、見るに堪えないものになっていた。
「一応、礼を言っとくぜ。見境なしのおじさん。楽しいものをありがとうな。これからの暇つぶしに最適だよ。」
死体に向かってひらひらと切符を振った。
そして、ジンはどこかへとふらりふらりと彷徨い歩き始めた____。
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prologue 理想郷は残酷に幸せを与える
ここはシャンディガフ保護地区____。
保護地区と名がついているにも関わらず、シャンディガフは法に守られていない。
殺人、クスリ、売春、etc...とにかく何でもありで犯罪が飽和している。
住まう人々は理由があってここにいる。しかし、みんな幸福に飢えているのは確かだ。
ある日、みんなにとっての希望の光が差し込んだ。
『理想郷』だ。
とある宗教団体がビラと切符をシャンディガフにばら撒いた。
『理想郷は貴方を幸せへと導きます。どんな犯罪を犯した方でもね。ただ先着一名しか理想郷に入ることはできません。』
世界は悪辣に残酷にできているのか。そう書かれていた。
そりゃあ皆、理想郷に行きたいさ。
だから奪うんだよ。だから殺すんだよ。
1人でも多くのライバルを消すために。
誰しもが我先にと。理想郷へと行くために。
これは人間の醜さと欲望が露呈する、理想郷を目指したシャンディガフの人々が不幸へと堕ちる最悪で最恐の物語____。
新シリーズでございます!
人の醜さが露呈する作品が書きたいと思いまして。
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ep.2 暴力は愛の一つのカタチだから
ジンは一つの古びたダイナー調の食堂に足を踏み入れた。
すると、どうやら黒髪の小柄な少年とデブな中年男性が戦っているようだった。小柄な少年の方が一歩上手でデブの攻撃を軽々と避け、少年の羽織っていたロングコートが靡く。観客から野次や拍手が飛び交う。それでも動じない姿は戦い慣れしているなとジンは悟った。
しかし、ジンはその戦いに関心はない。むしろ、関わりたくはないと思った。おそらく彼は殺しを躊躇わず、楽しんでいるようにも思えた。そのためジンはそいつらを無視し、カウンター席に腰掛けた。メニューを見るが、さすがはシャンディガフ。どれも見るからに美味しそうではない。ジンの食欲は一気に失せたので、1番マシそうなフライドポテトを頼む。出てきたものを口に放り込んで咀嚼する。油がシャバシャバで予想通り美味しくない。
すると背後から銃の発砲音が鳴り響くが、ジンは気にせず口にポテトを放り込む。その直後、弾丸が体を貫く音がした。
「あっははは!当たり〜♪おじさん、デブのくせに当たんないんだもん。ゴキブリ並みの生命力やね。でも、大丈夫。僕がもっと愛してあげるからさ。」
---
撃ち抜かれた。腹を。撃ち抜かれた。臓腑が焼けるような痛みでどうにかなってしまいそうだ。密売人は目の前の少年を見つめる。少年は嗤っていた。楽しそうに嗤っていた。その光景に密売人は畏怖を覚えた。
時はジンがこの食堂に来る前に遡る。
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密売人は客との取引を終えたところだった。ここは食堂。と言ってもここは闇取引が横行する。|主人《オーナー》も闇取引については言及しない。自分が酷い目に遭うと思っているからだ。密売人が煙草を吸っていると、ぎぃと重い扉が開かれた。1人の少年がやってきた。少年は小柄で黒髪マッシュで色白な肌に映える深い藍色の瞳の少年だった。美形で笑みを浮かべていたが、冷たく見えるその姿に誰もが目を奪われたと思う。すると、その少年は密売人のいる席に腰掛けた。その行動がやたらと艶やかで目のやりどころに困ってしまう。
「おにーさん、僕と一緒に遊ぼーよ?
だいじょーぶだいじょーぶ!、こんな所やったら|僕《未成年》と遊んでも罪になんて問われへんよ、ねぇ?」
少年は目を細め密売人にそう言った。何故だろうか。
その甘美な言葉に密売人はまんまと魅了されて騙されてしまった。
「うん。わかった、小僧。せいぜいその貧相な体で俺を楽しませてくれよ。」
少年は顔を輝かせ、舌を舐めた。そして、1つの拳銃を密売人の手に握らせた。少年の手はアクセサリーが沢山付けられおり、無機質な感触がした。
「うれしいなぁ。僕がおじさんを精一杯愛してあげるね。」
そう告げた途端、少年は密売人に銃を発砲した。
パァンと甲高い音が店内に響いた。弾丸が密売人をめがけて飛んでくる。まるで人をも殺す光線のように。
避けなければ。まだ死にたくない。
その一心で密売人は弾丸を避けた。
店内は拍手でいっぱいになる。予想できたことだ。ここにいるものは皆、娯楽に飢えている。自分がその立場でも、拍手したであろう。見事な技術だと。でも今回は訳が違う。
煩い。外野は黙ってろ。
「わぁ。避けるなんて。酷いわぁ。僕はおじさんのこと愛してあげてるのに。」
「何のことだ?小僧。殺し合いが愛とでも言いたいのか?」
「うぅん。違うけど違わない。僕はね、暴力は愛の一つのカタチやと思うんよね〜。僕の中ではそれが当たり前やから。」
「フッ。気色の悪い小僧め。愛が暴力なわけなかろう。可哀想なやつめ。」
「ねぇ。今、可哀想って言った?言ったよね。僕、大嫌いなんよ。そう言う人。」
少年はふつふつと怒りを含んだ声でそう言った。顔は笑っていた。恐ろしいくらいに。
「おじさん、可哀想の定義って何?おじさんにとっては僕は可哀想な人間なの?」