もしもの世界を売っている或る店の話。
もしもの世界を見せてくれる。
たとえば…もし、性別が逆だったら、
もし、愛されてたら、
もし、嫌われていたら、
もし、あの時死んでいたら、
もし、【あの子が死んでなかったら、】
そんなもしもを叶える世界を売る店、
《乖世堂》に、
あなたなら、行ってみたい?
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
【乖世堂 其一】もし、アイツが居なかったら。
いつも通り。
ああ、あの人の帰りが待ち遠しい。
チリンチリン…
客の来店を知らせる音が聞こえる。
「いらっしゃいませ、乖世堂です。
どんな世界をお望みでしょう?」
いつもの言葉を口にする。
すると、いつも通り、客は驚く。
「えっ…乖世堂?噂の?お前は?」
いつも通りの質問。
「ええ、ここは乖世堂。
もしもの世界を売る店。
そして私は、乖世堂にて接客を任されている、
《《世未知无詩喪》》。ああ、
《《よみちもしも》》でございます。
どんな世界を、お望みですか?」
「…え…?」
しばし悩んだ後彼はこう答えた。
「俺が通ってる学園の、
嫌いなやつ…純恋の居ない世界にしてほしい」
「はい、承りました。
では代償…つまり、お代は________」
最後の方は聞こえていないようだった。
期待で胸が踊っているのだろう。
---
ん…?ここは…家?
俺は記憶を手繰って思い出す
たしか…《《乖世堂》》に行って…
そこで…願いを…?
そうだ、変わっているはず。
学園に急ぎ足で向かう。
そして学園に行き、学園内を探しつつ歩く。
…居ない。
胸が高鳴る。あの大嫌いな純恋がいない。
これまでも隙が有れば水をかけたりなどを
していたがなかなか学園を辞めなかった。
これで俺は純恋に酷いことをしているなどと
疑いを掛けられ先生に叱られることもない。
教室に行く。
何故か、クラス全体から避けられている気がする。
なんなら、先程からすれ違いざまにも
生徒にも先生にも避けられていたような…
疑問に思いながら席に着く。
普段声を掛けてくる友達が掛けてこない。
「なぁ、どうした?」
声を掛ける。
「うわ、失せろよ」
「…は?」
「お前のこと嫌いだっつってんだよ。
関わんな」
そう言い立ち去る。
何故?
ああ、そういえば乖世堂でお代として
何かを取られたような…
ああ、そうだ。
《《`愛`》》だ。
『__では代償…お代は愛。愛されなくなります。』
そう、確かに言っていた。
何故、あの時しっかり確認しなかったんだろうか。
これから一生。愛されないまま生きていく。
それはとても虚しいことだ。
---
やっぱり。
閉店後、私は一人結末を《《見て》》いた。
予想通り結末はbadend…
期待していた結末ではない。
それよりも。
そろそろ《《あの人》》の帰ってくる頃だ。
私は一人待つ。
それまで、お客様に最上の世界の提供を。
【乖世堂 間話】《あの人》の帰り。
チリンチリン…
客の来店を知らせる音が…
いや、《《あの人》》…乖さんが帰って来た。
「ふふ、ただいま〜…_ෆ_」
乖さんが帰って来た。
それだけで私の胸は高鳴る。
「俺のコトちゃあんと覚えてる?_ෆ_
ほら、言ってみて?」
その赤色の瞳で見つめられると
どうにも高揚してしまう。
《《「乖世堂店主、世未知乖楽さんでしょう?」》》
「アタリ〜、どう?俺居なくて寂しくなった?」
「いいえ?」
「そんなはっきり否定しなくていいのに〜
まあ、そういうところも可愛いなぁ_ෆ_」
本当は少し寂しかったがそんな事は言えない。
だってこれは《《契約》》、
そう割り切らなければいけないと
わかっているのに…
そんな気持ちを隠すようにはっきり本題を聞く。
「それよりも、世界は集められたんですか?
珍しい世界を集めにいく為と仰っていましたが…」
「ふふ…__ෆ__」
「?早く話してください」
「あ、言うよ言う言う〜、
たしか世界は286くらいは集まったかな〜」
「そうですか。良かったですね。」
思ったより多くて少し驚く。
「君も接客、ありがとうね〜
でも少し妬けちゃうなぁ__ෆ__」
そう言いつつ乖さんが私の唇を撫でてくる。
「///っそういうのやめてください.ᐟ」
奥の部屋へ行こうとした私を
乖さんはいとも容易く捕えてしまう。
「あ、はいちょっとストップ〜」
?なんだろうか。
「なんでしょう?」
「ちょっとさ、抱きしめさせて?__ෆ__」
「…いいですよ…////」
恥ずかしさを隠しながら抱きしめられる。
乖さんの大きい体で包まれてなんだか
ドキドキしてしまう。
これは《《契約》》、
そう、わかっているはずなのに。
---
彼女が奥の部屋へ行った後、
俺は一人彼女の恥ずかしがってる顔を思い出す。
「__ふふ、やっぱ可愛いෆ俺のものにしといて__
__よかったなぁෆ__」
声が漏れていることには気づいている。
まぁでも、この場には誰もいない。
彼女が俺に堕ちてくれたら楽だろう。
だが彼女は堕ちない。
別に愛されたいわけではない。
いや、愛されるならば愛されたい。
ただ、俺が彼女を愛している、
それを受け入れてくれるだけで幸せなのだ。
彼女に初めて会った時に惹かれた。
そして《《契約》》をさせた。
我ながらよく騙せたものだと思う。
「まぁ、彼女を騙し続けられる自信は
ないんだけど。」
そう思いながら開店準備を始める。