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目次
コイノヤマイ
西崎さんは、《《コイノヤマイ》》に罹っているらしい。
らしい、という不確かな言い回しになるのは噂として聞いたからなんだけれど、僕は案外正しいんじゃないかと思っている。
なぜなら、彼女は時々教室の一点を見つめて、頬を染めているからだ。
西崎さんの席の斜め前が僕の席なので、時折、小さく黄色い悲鳴を上げているのも聞こえる。
そっと振り向いたら、彼女の照れ顔が垣間見える。
このクラスに好きな人がいるんだろうな、と僕は雑に思っていた。
そんな熱心に想われている奴は、これを知ったらさぞかし喜ぶだろうな、とも。
ある日のこと。
それは放課後だった。頼みを断れないタイプの僕は西崎さんに雑務を任されたので、最後の一人になるまで残っていた。
自分より下の奴なら断れたかもしれないけど、彼女、美少女なんだよな。
手と一緒に頭も動かしていると、「あ、秋田くん……っ」というか弱い声が聞こえてきた。
この声は__西崎さん?
振り向いたら、案の定西崎さんだった。
「あの、ね……? その……」
何かを話したそうだったので、僕は手を止めて立ち上がり、彼女の方に体を向けた。
「あ……秋田くんが__」
……ん? これってもしかして、告白しようとしているんじゃ。
「秋田くんが、欲しいのっ!!」
「……………」
瞬きをして、息を吸って、吐いて、その間たっぷり五秒。
「……は??」と、デカめの声を僕は漏らした。
「あ、あのねっ、秋田くんのことを見てるとなんか、私のものにしたいっていう思いが湧いてきて……変だよね。でも、この気持ちに嘘はつけないんだ。だから、」
西崎さんはこてんと可愛く首を傾け、
「私のものになって、秋田くん……?」
と告げてきた。
僕はマジかよ、と思うことしかできなくなっていた。
コイノヤマイ__乞いの病。
物乞い__者、乞い。
あの噂は本当だったのか……。
生憎、僕は美少女の頼みを断れるほど、メンタルが太くない。
僕は一体なんと言うべきなのか、ただひたすらに逡巡した。
病といえばやっぱ恋の病だよね→恋と乞いって音一緒じゃん→じゃあ物乞いで物と者もかけられそうだな、という風にしてできた物語です。
《紙避行記》曲パロ
紙を折って月に行こう!
現実から逃げるために。
君も一緒に、幸せになろう。
**僕ら月でも一緒だよ。**
--- ✕月✕日(火) ---
--- 今日もみんなに虐められちゃったね。僕のことが嫌いなんだって。 ---
--- 殴ってきたからやり返したら、先生に怒られた。 ---
--- お友達を殴っちゃいけませんって。あの子達とは友達じゃないのになぁ。 ---
--- でも、今日もユリが弁明してくれたよね。 ---
--- 僕の友達はユリだけだよ。 ---
--- いつもユリを巻き込んじゃってごめんね。 ---
--- 助けてくれてありがとう。 ---
---
--- ☓月☓日(水) ---
--- 知らなかった、てっきり、スグリには私以外にも友達いると思ってたよ。 ---
--- んー、私は友達として当然のことをしただけだし、お礼なんていらないよ。 ---
--- でもスグリが辛い思いをするのは嫌だから、助ける。 ---
--- ようやくスグリが幸せになれる日だよ、明日は。頑張ってね。 ---
---
僕は交換日記を読み切って、パタンと閉じる。
いよいよ、明日だ。
僕がユリに教えてもらった、《《幸せになれる方法》》を実行するのは。
寝る前に交換日記を新聞紙で包んで、そっと燃やした。
ユリ曰く、僕らが幸せになろうとしてるのがバレたらいけないんだって。だから、なくすの。
えっと、まずは紙を折る、っと。
僕はユリにもらった紙に書いてある通りに、紙避行記をつくる。
ただの紙飛行機じゃないんだよ、現実から逃げ切るための飛行機さ。
にしてもユリ、なんでわざわざ黒い紙に白ペンで書いたんだろう__まぁ、この際どうでもいいや。
僕は紙避行記を完成させた。見た目は普通の紙飛行機だけど……でも、ユリが言ったんだし、大丈夫。
これを百個作るらしい。大変だけど、幸せになるため。
僕は家から持ち出したありったけの紙を、全部紙飛行機にしていく。
授業参観の書類も、赤点のテストも、全部全部なかったことにしていくんだ。
ホッチキスで留められていたものは外してひとつひとつ折っていった。
なんだか、魔法使いになったみたいで楽しかった。
最後の一個は特別なんだ。
学校から盗んできた大きい画用紙で折ったんだ。本当に月まで行けそうだった。
「よし……それじゃあ、行くよ」
ユリには何もしてやれなかったけれど、それは僕が嫌だから、最後にとっておきのお菓子をあげた。
ユリが好きな桃のお菓子。
君も一緒に、だよ。
僕はふっと笑みを浮かべ紙避行記に乗り、屋上から発った。
月まで行けるさ。きっと。
ユリも、一緒だから。
なんか、サイコパスになりましたね。
結構伏線とか入れ込めた気がします、私にしては。
ユリとスグリの花言葉とか、縦読みとか、ごにょごにょごにょ……。
ナンセンスプロポーズ/ハッピーマリー
《お題》
・身分差
・告白
・ナンセンス
アタシはリリー・リリアン。これでも、立派な王家の血筋である。
そろそろ結婚しなければいけないのだが、アタシに許嫁はいない。父は古くさい習慣を嫌うのだ。
代わりと言っちゃなんだけど、舞踏会で結婚相手を探す。ここに訪れた男性を、アタシが見定めるというわけだ。
風の噂によると、最有力候補はジュンとかいう男らしい。貴族の長男で、顔もいい、とか聞いた。
そして、いよいよ今日が舞踏会当日。
いい人は見つかるかしら。
華やかなドレスを身に纏い、会場に行く。もう人は大勢いた。
庶民も入っていい、という風になっていて、シンプルなスーツを着ている男性も多い。
アタシはお父様に言われたことを思い出した。
__『まずは楽しめばいいよ。そうしたら、いい相手が見つかるさ』
よし。お父様が言った通り、とりあえずは楽しもう。
……疲れた。帰りたい。
ものの十数分後、アタシはどっと疲れていた。
アタシと結婚して高い位につきたい奴らが、強引だからだ。
これだから庶民は、と思わざるを得ない。
ベランダに出て夜風に当たっていると、誰かがやって来た。
「__た、大変ですね……。あの、いいお相手は、見つかりましたか?」
身なりからして、庶民らしい。年齢は同じくらいか。
「……えぇ。素敵なお方ばかりで、私には勿体ないですわ」
言外に貴方に用はないと告げようと、そう答えた。
すると男性はぱちぱち瞬きをして、ふっと笑った。
アタシは言葉に詰まる。
………ちょっと、今アタシ、カッコいいとか思った? い、いやいやいや、まさか。
ぐるぐる考えていたら、男性が話し出した。
「僕、お母さんにリリー様と結婚して幸せになりなさいって言われて、無理矢理行かされたんですよ。い、いやその、リリー様のことが嫌いとかではないんですけど……どうせ釣り合わないし、って」
はは、何言ってんだろ僕、と俯きながら彼は自嘲気味に笑った。
……あ、アタシ、彼がいいな。
なんだか、ふとそう思った。
お父様も、許してくれるわよね。舞踏会に庶民も入れることにしたのは、お父様なのだし。
「ねぇ__」
「リリーさん!!」
勢いよくドアを開ける音とアタシを呼ぶ大声に、それは掻き消された。
「ここにおられましたか。探しましたよ!」
「っす、すみません。少し疲れてしまい、休憩したくって」
「いやいいんです。それよりも__」
もしや、と構える。
「私と、結婚してくださいっ!!」
バッと結婚指輪を差し出される。
イケメンに、しかも貴族に、プロポーズされる。
それは傍から見たら最高だったかもしれないが、アタシは冷め切った表情で彼を見ていた。
「……あの、ちょっといいかしら?」
相手の返事を待たずに、アタシは喋り出す。
「早すぎるわよ、プロポーズまでが! 初対面から五秒で指輪を差し出すって、どんなスピードよ! ていうか、さっきアタシが疲れたって言ったとき、『それよりも』って言ったわよね? 『それよりも』? あの場でアタシより大切なものって何? 期待に応えること? そんなもののために結婚しようとか、最っ低よ! 二度と顔を見せないで頂戴!」
そう捲し立てると、ジュンはしばらくぼーっとしたあとハッとし、会場の出入り口まで駆けていった。
「はんっ、ざまぁないわね」
……あ、庶民の彼のこと忘れてた。
横を見ると、彼は呆然としていた。
「……っそ、その」
「か、カッコ良かったです!」
謝ろうとした刹那、そう言われた。
「僕も内心怒ってたんですけど、言う勇気がなくて。でも、それを堂々と言って見せて……凄いです!」
目を輝かせている彼に、アタシはつい笑ってしまった。
「……ふふっ、ありがとう」
彼は照れ臭そうにはにかんだ。
そこでアタシは、思い出した。
「さっき『どうせ釣り合わない』って言ったわよね? でも、そんなの関係ないわよ。アタシと貴方の自由。だから、その__」
彼がやっとこっちを見た。
「アタシと、結婚してくれませんか?」
「……も、もちろん! よ、よろしくお願いします……リリー様」
「良かった。じゃあ、まずその呼び方を辞めてくれない?」
悪戯っぽくそう笑ってみせると、彼は狼狽えた。
「えっ?! いや、でも」
「アタシがいいからいいのよ。ねっ」
「じゃ、じゃあ……リリー、さん?」
「じゃなくて?」
「え、えーっと……り、リリー」
アタシは「よし! 敬語もなしでね!」と笑みを浮かべた。
「ちゅ、注文が多い……」
「へへー」
にっと笑うと、彼は照れたのかまた俯いた。
そういえば、とアタシは訊いた。
「今更だけど、アンタって名前なんて言うの?」
「フレン、で、だ、だよ。フレン・ブライアって言いま、言うんだ」
「…………ふふっ、噛みすぎじゃない?」
「だって、急に敬語やめろとか言うから……」
「そうね。ごめんごめん」
「もぉー……」
なんか、暖かいな。
アタシは、満面の笑みを浮かべて、
「じゃあこれからよろしくね、フレン」
と言った。
「……うん。よろしく、リリー」
な、長い……2000文字を超えてしまった。
まぁ私にしてはよく頑張ったんじゃないでしょうか。
こういう世界観の物語は書くの苦手なのに、よく書き切ったよ私。