魔法少女の青桐川 櫻は銃使い。
2年前に悪魔軍が壊滅してからも生き延びる残党を、彼女は今日も始末する。
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目次
ガベージコレクション
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
私がそう叫び引き金を引いた瞬間、目の前の悪魔が煙となって消滅する。
浄化弾にエネルギーをためて発射する技「ダーケスト・プラネット・ジエンド」。
はっきり言ってこの技にこんなに長い名前はいらないと思うが、まぁ決めたのは奴だ。私じゃない。
「おつかれー、今日の悪魔はどう?強かった?」
噂をすればなんとやら。技の名付け親「デュパン」がやってきた。
「トレーニングにもならないわね。トリックが雑だし、アリバイ偽装に関してもほかの悪魔に数段劣る」
「相変わらず毒舌だねー」
デュパンにそう言われながら、私は変身を解除した。
翌日。土曜日の夜明けを私が小さいころから使っている目覚ましが告げる。
「おっはよー。相変わらず早いね」
「それほどでも」
私は監視ドローンに不可視魔法を与え、町中をパトロールさせる。
「モーニングルーティン完了ー」
「お疲れ様」
「ねぇデュパン。私も空を飛んでパトロールしたいんだけど」
「無理」
デュパンにそう言われ、私は少しムカつく。
「否定から入らないでよ」
「無理なものは無理だよ、先代に僕のエネルギーはほぼ託したから」
「君にあげるエネルギーは無駄使いできないんだ」
私は彼の言葉にぶつくさ言いながら部屋のテレビをつける。
「あの大爆発から、今日で2年です」
テレビのキャスターが放つ言葉を、私は右から左へ受け流す。
二年前の大爆発。政府は複数の災害が同時に起こった結果と言っているが、実際にはこの地球を牛耳ろうとする悪魔軍の猛攻によって引き起こされたものだ。
「奇跡的に犠牲者がゼロだった大爆発。専門家は」
キャスターがそこまで言ったところで私はテレビを止めた。
「デュパン、隠れて」
私はそう指示し、二階から降りてくるであろう姉を待つ。
「にひひ、おっはよー!」
相変わらず元気のいい姉である。
「おはよー」
私は姉に挨拶を返し、出かける準備をする。
「あれ、今日は土曜日よ?」
姉の言葉に、私は嘘をつく。
「ちょっと友達と約束があって」
「ほーん。いってらっしゃーい!」
姉の元気のいい声と共に家を出た私は、スマートフォンを確認する。
《悪魔検知。盛具駅前東ロータリー。レベル3と推測》
そのアラートを確認し、私はポケットの中に隠したデュパンと共に家を飛び出た。
「デュパン、もう出ていいよ」
私がそう言うと、セーターのポケットからデュパンが飛び出した。
「今回の悪魔の規模はどうだい?」
「レベル3。大破壊はできないけど、なめてはいけない相手…ってところね」
私はこう返し、現場へ急行する。
「大丈夫ですか!?おばあちゃん!」
目の前の男が横たわる老婆に触ろうとする。
「触らないで!」
私は男にそう警告し、付近を探った。
「あ…あの、どうしたんですか?」
男からの問いかけに、私はとりあえず答える。
「そのおばあちゃんは感染症の可能性があるの!とにかく助けを呼んでくるからその場で待機して!」
男は驚きつつも頷いた。
周囲の人間は高校生くらいのカップル一組、サラリーマン一人、男の釣り人一人。
合計4人。悪魔反応は一つだけだから共犯者の存在は考えなくて済む。
「早く助けを呼んでください!このままじゃおばあちゃんが消えちゃいます!」
カップルの女のほうがこう叫ぶ。
面倒くさい。まぁとにかく助けを呼ぶふりをしなければ、というところで私は違和感に気づく。
「た、確かに!早くしないとおばあちゃん死んじゃいます!」
男のその声で、私の疑問は確信に変わる。
「助けを呼んで来ます!」
そう叫び、私はその場から離れた。
そして彼らの死角に入ったタイミングで、私は静かに声を出す。
「マジックメタモル。ブラック」
その瞬間私の周りに魔法陣が現れ、私の服は黒を中心としたセーラー服に変わった。
「行くよ、デュパン」
その声と同時に、私は宙を浮いた。
「な、なんだあれ?!」
釣り人が私を見て叫んだ瞬間、その場にいる人たちは全員崩れ落ちた。
「悪魔の戦闘形態。周囲の人から倒れこむほどのエネルギーを奪い自分の力とする」
私は一呼吸置き、その場にいたただ一人を指さした。
「そこの彼女さん。あなたが悪魔なのはわかってるんですよ」
彼女はゆっくりと立ち上がり、私に語りかける。
「どうしてわかったの?」
「死ぬ、じゃなくて消えるって表現を使ったのが間違いだったわね」
「悪魔によってエネルギーをすべて吸い取られた人間は消滅する。それを知ってるのは私たち魔法少女と悪魔だけですもん」
「フッ」
彼女はにやける。その瞬間、四方八方から刃物が飛んできた。
「純銀掃射!」
彼女は自分の技を誇らしげに見守る。これから何が起こるかを知らないにもかかわらず、だ。
キンッ、という音が響いたのち、私を囲んでいた刃物はすべて消え去る。
「なっ?!」
彼女が驚きを隠せずにいる中、私は一人銃を向ける。
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
私の弾丸は彼女を貫き、そのまま彼女は消え去った。
「強化バリア魔法。初めてにしては上出来でしょ?」
さっきまで彼女だった煙を眺めながら、私はデュパンに頼みをする。
「あとはよろしく、デュパン」
午前9時、駅前にも人が集まってきた。
「おばあちゃん、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ~ちょっとふらっと来ただけだから」
「アハハ…フラレちゃった」
今日も今日とて魔法少女としての役目を果たした私は、魔法少女になった時のことを思い出す。
2年前の大爆発。魔法少女の活躍によって犠牲者ゼロで終わったあの事件から、「魔法少女」の実在を確信する人間は少し増えた。
かく言う私も魔法少女の存在を知る人間の一人だが、一つだけほかの人は知らないことを知っていた。
悪魔の残党の存在だ。
私はデュパンの居場所を突き止め、なぜ残党をほっておくのか問い詰めた。
「僕は、魔法少女になってくれた彼女を幾度となく騙した」
「せめて彼女が魔法少女を引退したということだけは噓にしたくないんだ」
彼のその言葉に、私は確かこう返した。
「私だって彼女には普通の子でいてほしいわよ!」
「…じゃあ僕にどうしろっていうんだよ」
デュパンの言葉を聞き、私は少し考えて結論を出した。
「なってやる!」
「え?」
「私が魔法少女になってやる!」
私が思い出に浸っていた時、後ろから声が聞こえた。
「はぁ…今日も疲れたよ」
「あの悪魔と付き合ってた子の記憶を改変するにはかなりのエネルギーが必要だったから、ちょっと寝るね…」
デュパンはそう言い、瞼を閉じる。
「よく人目もはばからずに眠れるわね」
「いいじゃん、僕は魔法少女以外からは見えないんだから」
デュパンは最後に質問する。
「ねぇ、なんで先代の魔法少女をそんなに気にかけてるの?」
「…さあね」
私は言葉を濁す。
デュパンは、2年前から雰囲気が変わった姉の正体に気づいていない。
私の「姉にはいろいろ力があるから、デュパンは見えないけど何かいるとは気づいてしまう」という噓にも、彼は気づいていない。
私は悪魔検知のアラートも消え、しっかり待ち受けが見れるようになったスマホを覗く。
「お姉ちゃんに心配かけたくないもんね」
私の目の前には先代魔法少女である姉と私のツーショット写真が広がっていた。
姉妹間
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
「ば、馬鹿な!魔法少女はもういなくなったはずじゃぁぁ!?」
悲しきかな、目の前の悪魔は最期まで『後継者』の存在を信じられなかった。
煙となって消えていく彼を見ていると、哀れみすらわいてくる。
「お疲れ様~」
私が悪魔を倒し、デュパンがその後始末をする。
この光景も半分定番になっていた。
「ねぇねぇ、『ダーケスト・プラネット・ジエンド』以外の必殺技ちょーだいよ~」
「あー…技術的には可能です」
「つまり無理ってことね。そういう遠回しな言い回し嫌いじゃないわよ」
そう言いながら、私は手をデュパンの頬に近づける。
「でもその態度は別に好きじゃないなー!」
手を器用に使って、デュパンの頬をつねる。
「しーかーたないでしょ!何度でも言うけど先代にエネルギーほぼあげちゃったんだし!」
「むぅー!」
二人で漫才を繰り広げる中、私はあるものを見つけた。
「…カード?」
「いたたたた…そのカードがどうかしたの?」
目の前のカードは濃い青色をしており、その中心には…クローバー?の模様が刻まれていた。
「落とし物かな」
そう言いながら、私はカードに触れる。
その瞬間、カードは煙となって消えた。
「え?!」
私はつい言葉を漏らす。
少なくとも、普通のカードが触った瞬間煙となって消えるなんて有り得ない。
「どういうこと?」
デュパンもこの事態に首をかしげる。
2、3秒考え状況を整理した結果、私はある結論にたどり着く。
「デュパン。煙となって消えるなんて…まるで悪魔を倒した時みたいじゃない?」
その言葉を聞いた途端、デュパンはこちらを見つめた。
「確かに、そうだけど…」
――――嫌な予感がする。
「とりあえず、家に帰って考えましょう」
デュパンは首を縦に振った。
「作戦会議、ってところかしら」
「そういうことになるね」
狭い部屋の中、デュパンと顔を見合わせる。
「あのカードの正体…一体何なのかしら」
「今のところ分かっていることは、せいぜいあのカードは悪魔と何か関係があるかもしれないくらい…」
正直言って、このまま話していてもなにか結論が出る気はしなかった。
「とにかく、次に悪魔が来た時もあのカードがあるか確認してみよう」
私は頷いた。
そして、その瞬間姉が私の部屋に突撃してきた。
「うわっ!?」
私はデュパンの上に被さる。
「ん?今何か声がしたような…」
「き、気のせいじゃない?」
「うーん、そか!」
姉はデュパンの声を気のせいと判断することにしたらしい。
「ねぇねぇ櫻。ちょっと提案があるんだけど」
姉はにやにやしながら私に近寄る。
「な、何?」
私は後ずさりする。
そんな私をじっと見つめて、姉は言った。
「トランプしない?」
「相変わらず強いな~」
姉は相変わらずにやにやしながら私を見つめる。
「そ、そう?」
私はトランプを顔の前に持っていって、顔を隠す。
「おー?照れてるのを隠しても無駄だぞ?」
「て、照れてないし!」
トランプを顔の前から外すと、目の前の姉は中腰で不自然な方向を向いていた。
「お姉ちゃん。ずるはよくないよ」
「え?!」
姉は腰を抜かし、尻もちをつく。
「窓に私の手札を反射させようとしたでしょ」
彼女は目を瞑って舌を出した。
「そんな顔してもだめだよ」
そこまで言ったとき、私の携帯が軽快な音と共に震えた。
ポケットから携帯を取り出して、画面を確認する。
《悪魔検知。北東ビル。レベル4と推測》
「えっ…!」
私はすぐに立ち上がれなかった。
トランプを握りしめたまま、私は少し悩む。
「ん?どうした?」
「あ、いやなんでもない」
「ちょっと友達から呼ばれてるから行くね!」
「はーい。いってらー」
姉に見送られ、私は北東ビルに向かった。
「うわぁぁ!?」
「なんだあの化物!」
私はその光景に違和感を覚える。
こんなアニメのような大破壊をする悪魔、悪魔軍が壊滅した今はいないものと思っていたからだ。
「な…魔法少女か!」
目の前の二足歩行の猪は手から銃弾を放つ。
「おりゃっ!」
バリア魔法を発動し、その銃弾を受け止める。
「チッ!」
目の前の悪魔は力任せに壁を殴った。
私はその隙を狙う。
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
しかし、その弾丸はかわされた。
「嘘でしょ!?」
私は困惑しながら相手の隙を探す。
落ち着け、私。どんな生物にも弱点はある。
しかし、そんな考えを巡らせる時間すらも彼は与えてくれなかった。
「噓!?」
私は銃弾をまともに喰らい、動けなくなる。
「フッ…魔法少女もここまでか!」
私は冷や汗をかく。
その瞬間――――私の脳裏には、さっきのトランプの記憶がよみがえっていた。
「反射…ね」
私は落ち着いて脳内でシミュレーションする。
そして、小さく息を吸った。
「ダーケスト・プラネット・リフレクション!」
必殺技をもらえないなら、自分で作ればいい。
「また浄化弾か!」
悪魔はさっと横に動く。
その動きは、完全に予測済みだった。
「何!?」
私はにやける。
「後ろにも目をつけとけばよかったのにね」
「ぐわぁぁぁ!」
浄化弾を受けた悪魔の体が崩壊していく。
悪魔は煙となって消えた。
「バリア魔法の応用よ。バリアで浄化弾を包んで跳弾させたの」
そう言い切った途端、私は崩れ落ちた。
「たっく…とんでもない相手だったわ」
「だ、大丈夫!?」
デュパンが大急ぎで駆け寄る。
「そ、それよりもあのカードがあるか見て!」
私は声を荒げた。
「う…うん!」
彼は30秒ほど周囲を探索し、例のものを見つけた。
「今度は――――矢印?」
――――矢印?
私はその瞬間、ある考えが思い浮かぶ。
「…トランプ?」
そう言った瞬間、デュパンもこっちを振り向いた。
最初のカードの模様。私はクローバーだと思っていた。だが…
「クラブ…」
「じゃあ、この矢印はスペード?」
「そういうことになるけど…」
私はある最悪の可能性にたどり着く。
デュパンもほぼ同時に同じことに気づいたようだった。
「まさか…」
「悪魔が、再び徒党を組もうとしてる」
トランプのもとに、悪魔が団結しようとしている。
私の前に絶望的な可能性が、生まれてしまった。
人事ファイル No.6
青桐川 櫻
好きなもの: 姉、アイスクリーム
嫌いなもの: 悪魔
11歳。二代目の魔法少女。
リバーシ
「初めまして。瞳崎 藍子です!」
黒板の前に立った少女が、軽やかな声で自己紹介をする。
今日、私のクラス5年5組は新しい仲間を迎えた。
悪魔が再び徒党を組もうとしてる可能性が出てきてから三日。
私は学校に来ていた。
もし学校にいる途中に悪魔が検知されたとしても、デュパンに周りの皆の記憶をいじってもらえばいいだけ。
記憶をいじるのはちょっと怖いけど、まぁ仕方ない。
「藍子ちゃん折り紙うまいね!」
「折る速度すげぇ…」
私は彼女の手元を見て、小さく声を出す。
どうやら、私も新メンバーの訪れにワクワクしているらしい。
「…ねぇねぇ、今何してるの?」
「シーッ!気づかれるから!」
またあの妖精は。私はため息をつき、自分の椅子に座る。
「なんか用?」
「いや、やけに元気そうだったから気になっただけ」
「気になっただけで話しかけないで!君は魔法少女以外から見えないのよ!」
「はーいはい」
そう言うと、デュパンは私のロッカーに入っていった。
学校ではあそこがデュパンの定位置だ。
休み時間。私は藍子さん、そして友人の浅沢と雑談していた。
「ねぇねぇ!あのトイレ一緒に行かない?」
「まさか…旧校舎4階の?」
「そうそれ!」
「藍子ちゃん知ってる?そこのトイレにさ、出るんだって!幽霊」
幽霊、か。
この学校にはちょっとした伝説がある。それが、旧校舎4階のトイレには幽霊が出るというものだ。
実際トイレットペーパーが誰もいない夜の内に散乱していたり、トイレの水が赤色に染まっていたりしたらしい。
…一応幽霊みたいな悪魔と戦ったことあるんだが、ひょっとしたらそういう類かもしれない。
「やめた方がいいんじゃない?ほら」
『藍子さんだって困ってる』。そう言おうとした瞬間、私は戸惑う。
「え!幽霊!?」
目の前の藍子さんは目を輝かせて浅沢の話を聞いていたからだ。
「え、えぇ…?」
「よ~し!じゃあ決まりね!」
…あーあ。とんでもないことになった。
◇◇◇
「わざわざ放課後に行く必要ないんじゃないの?」
「何言ってるの!放課後に行かないとゆっくり探索できないじゃん!」
ゆっくりする気なのかよ。私は天を仰いだ。
一応悪魔からこの街を守るっていう仕事があるんですがわたくし。
「だーいじょぶ?」
「だいじょばない…」
このトイレから抜け出すためには猫の…いや、妖精の手も借りたい気分だった。
「ん~…ぱっと見普通?」
「確かにね~!」
藍子さん…なんでそんな元気なの…。
私はずっと困惑しっぱなしだった。
「でもさ!しばらくいないと幽霊さん出てこないかもよ!」
――――余計なことを!
「確かにね。でも、どうやって幽霊が出てくるまで待つの?」
浅沢の質問に、藍子さんは軽やかに答えた。
「オセロ!しよ!」
「すごい取られてるね。櫻」
「うるさい」
待ってくれ、想像以上に強いぞ藍子さん。
「これで私の勝ちね!」
彼女は勝ち誇った顔で言った。
ただ…その直後、彼女は手に持っていたオセロの石を手放してしまった。
「え!?」
私たちの目の前で、盤上の石は全て消え去った。
――――やっぱり悪魔か!
「デュパン!記憶の後始末よろしく!」
「え、ちょ、まじ!?」
私はその場で叫ぶ。
「マジックメタモル!ブラック!」
「え、ちょ、櫻の服が変わった!?」
息を荒げる浅沢を尻目に、私は周辺を警戒する。
小さく息を吸い、感覚を最大限高める。
――――そこか!
「喰らいやがれっ!」
私は裏拳を放つ。しかし、その攻撃はいともたやすく弾かれた。
「嘘っ!?」
私は跳躍し、一度悪魔と距離を取ろうとする。
しかし…ここは屋内であることを忘れていた。
「痛っ!」
頭を派手にぶつける。
「光?!」
その隙を逃がさないとばかりに、悪魔の攻撃が私を襲う。
「てめぇっ!」
バリア魔法をすんでのところで発動する。
しかし、このまま体力を浪費するわけにいかない。
「逃げるよ!」
私は二人と手をつなぎ、窓から脱出しようとする。
だが、それを赦すほど悪魔もお人よしではない。
「キャー!」
悲鳴が部屋中にこだまする。
また光線攻撃か!
私は体を捻り、攻撃を躱す。
だが――――私は私以外の人間の存在を忘れていた。
「藍子さん!」
彼女の体に光線が直撃しかける。
その時だった。
「え?」
光線が、彼女の体にあたって消えた。
「っ…ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
その隙を狙い、私は悪魔を攻撃する。
「ぐるわぁぁぁ!」
どうやら、その攻撃は当たったらしい。
悪魔は小さな断末魔を上げ、煙となって消えた。。
◇◇◇
「結局幽霊なんていなかったわね」
「まぁいいじゃん!オセロ楽しかったし!」
私たちは家に帰る。
ちょっと浅沢には申し訳ないけど、さっきの記憶は消させてもらった。
ただ…やっぱり違和感がする。
なんで藍子さんには光線は光線を無効化したんだ?
そして――――なんで今回は『例のカード』が見つからなかったんだ?
とにかく、家に帰ったら紙にまとめてみよう。
そうすれば何かわかるかもしれない。
◇◇◇
「デュパン!記憶の後始末よろしく!」
さすがにいきなりそう言われた時は焦ったが、まぁ今回も悪魔を無事に倒せたみたいでよかった。
…実は、櫻は見逃していたけど、僕は見つけたんだ。『例のカード』。
ただ、それを櫻に言おうとする前に――――『藍子』という名前の人に回収された。
しかも、カードは彼女が触れても消えなかった。
わけがわからない。
ひょっとしたらあのカードは魔法少女が触れることで消えるのかもしれない。
ただ、たとえそうだとしても、僕には彼女が普通の人間だと思えなかった。
――――カードを見つけた瞬間のその表情は、櫻の前とは打って変わって、まったくの無感情だったからだ。
人事ファイル No.8
瞳崎 藍子
好きなもの: いちご
嫌いなもの: 勉強
正体不明。
ストリートピアノ
ピロン、ポン。
ストリートピアノの音色が、辺りに響く。
私――――青桐川 櫻は大きめの駅にやってきた。
目的は映画鑑賞だったんだが……ついでに姉のお使いをすることになった。
まったく、人使いの荒いやつ!
黒いピアノ。その下には赤いカーペットが敷かれている。
そこの椅子に座る少年は、とても生き生きと演奏していた。
「ふー……」
ストリートピアノの音が鳴りやむ。
どうやら演奏が終わったようだ。
私は、ついピアノを弾いていた少年を見つめてしまう。
「え?」
どうやら彼に気づかれたらしい。
「あ、あの、いい演奏だなと思いまして」
「ありがとうございます」
彼は小さく頭を下げ、その場から去った。
◇◇◇
「ネギ、塩、カレールー、ほんで洗濯バサミか」
私はさっき買ったものを確認する。
「ねぇねぇ。今日どういうお夕飯なの?」
「知らないよ。というかデュパンはご飯食べられないでしょ」
「いや、まぁそうだけど」
目の前で妖精がふわふわ浮く。
……理不尽なこと言うけど、なんか腹立つな。
ポロン、ポロン。
「ん?」
「どうした?櫻」
ストリートピアノの音だ。
私は少しピアノの方を見てみる。
そこにいたのは――――さっきの少年だった。
相変わらずいい演奏だ。
「綺麗な音だね」
「デュパンもそう思う?」
私達は二人で演奏を聴く。
だが――――その音はすぐに止まった。
「う、うあっ」
少年は、突如崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか?!」
私は彼に駆け寄る。
「あ、いや、大丈夫です」
少年は平気そうにして、その場から走っていった。
「あの子、どうしたんだろう」
デュパンは疑問に思っているようだった。
「ねぇ、デュパン」
「ん?どした?」
私は小さく息を吸った。
「追ってくる」
「え!ちょ?!」
私はその場から走り出した。
目標は当然あの子。なにか――――嫌な予感がするんだ。
◇◇◇
「えっと、誰もいないよな」
少年は周囲を見渡す。
――――何をする気だ?
「ぐ……うおぉぉ!」
次の瞬間、彼は異形の姿へと変わる。
その姿は――――私の敵、悪魔そのものだった。
「嘘?!」
「誰だ!?」
悪魔は私の声に反応した。
まずい、生身の状態じゃ、私に勝ち目はない!
私は息をひそめ、壁に隠れる。
「そこかぁ……」
ギューンという音が、周囲に響く。
「嘘……」
そのまま、壁の後ろから大きな音が聞こえた。
「ふぅ……これで魔法少女は消せ」
「消せてないわよ」
その瞬間、悪魔は私の方を向く。
「何!?」
背後はとった。
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
私は悪魔に一撃をかます。
「グゥオオオオ!」
「まじ!?」
浄化弾を喰らったのに、この悪魔はピンピンしている。
「威力がたりないのかも!」
デュパンの考えを聞き、私は少し考える。
威力が足りない?
一気に何発分ものエネルギーを浄化弾に込めることは可能だが、反動が大きすぎる。
じゃあどうする?
「グワァァ!」
「まじっか!」
悪魔の一撃を躱す。その攻撃は後ろの時計に当たった。
「時計……そうだ!」
私は呼吸する。
「ダーケスト・プラネット・リフレクション!」
悪魔から、あえて外す。
そして――――私は二撃目を準備する。
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
一度耐えた攻撃だと相手は油断している。
「終わりだ」
「な、ニ!?」
『リフレクション』と『ジエンド』の浄化弾二発。
それらを時間差で命中させる。
「名付けて……ダーケスト・デュエット・アタック」
即興で名前を付け、私はピアノ少年が煙となるのを見届けた。
◇◇◇
「カードは……まぁあるよね」
デュパンは軽く現状を整理する。
ただ――――私は、より恐ろしいことに気づいてしまった。
――――悪魔たちは、私が魔法少女だって知ってるんじゃないか?
あの悪魔は、私が魔法少女になる前に『魔法少女』というワードを使った。
バレるはずがない。そう思い込んでいた。
「え?!」
「どうしたの?櫻」
視線?
「あ、あぁ。大丈夫よ」
気のせいだ。きっと気のせい。
私は、そう思うことにした。