閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
地震の中、君達と出会った①
グラリ、と視界が歪んだ。
緊急地震速報の不協和音が街に響き渡る。
「……っ、よりによって今?」崩れゆくビルの外壁。逃げ惑う人々。
そんな喧騒の真ん中で、ちぐはは立ち尽くしていた。
乱れた髪すら芸術品のような、見る者を平伏させる「国宝級」の美貌。
しかしその瞳には、恐怖ではなく、ただ状況を静観するような冷ややかさがあった。
そこに、3人の男たちが駆け寄ってくる。
「おい、お前! 危ないだろ、こっちこい!」鋭い声で叫んだのは、踏分誠一だった。
彼はちぐはの腕を強引に引き、安全な柱の影へと押し込む。
遅れて、無表情な青年・神柴健三と、気だるげに目をこする少年・恵美まどかが追いついてきた。
「……まどかさん、お怪我はありませんか?」
「眠い……。地震とか、重力に逆らうエネルギーの無駄遣いだよ……」安全が確保された直後、誠一がちぐはを睨みつける。
「おい、お前。死にたいんか? あのままじゃ下敷きやったぞ」
「……助けてなんて、頼んでない」ちぐはは短く答えた。
本当は心臓が口から出そうなほど鼓動しているのに、不器用な彼女は、感謝の代わりに精一杯の虚勢を口にしてしまう。
「……はぁ? なんやその態度は。こっちは命がけで——」
「誠一、やめなよ。その人、ただのパニックで脳がフリーズしてるだけ。……それに」まどかが、じっとちぐはの顔を覗き込んだ。
「……その顔。記録(ログ)にないレベルの造形美。……健三、これ保存案件じゃない?」
「……確かに。ですが、まどかさんを差し置いて目立つ不届き者です。非常に不愉快ですね」健三は冷徹な眼差しをちぐはに向ける。
命を救われたはずなのに、彼らのちぐはに対する第一印象は「高慢で生意気な美女」。
そしてちぐはもまた、彼らを「デリカシーのない連中」と定義した。
「……二度と、関わらないで」砂を払もちぐはが立ち去ろうとしたその時。
再び、大きな余震が街を襲った。
バランスを崩したちぐはの身体を、三人の手が、無意識に、そして同時に支え——。
地震の中、君達と出会った②
地震の影響で帰宅困難となったちぐは。
「……仕方ない。安全が確認できるまで、僕たちの拠点(ハウス)にいなよ」
気だるげに、でもどこか独占欲を孕んだ瞳でそう告げたのは、スワロウテイルの探偵・恵美まどかだった。
拠点のソファに座るちぐはを、3人の男たちが取り囲む。
「……おい。座り方もなってないな。そんなんじゃ足が痺れるぞ」踏分誠一が、ぶっきらぼうにクッションをちぐはの背後に差し込む。
「……余計なお世話です」
「あぁ!? せっかく気を使ってやってんのに……。ったく、顔だけはいい癖に可愛げがないな」誠一は苛立ちを隠さないが、その耳はわずかに赤い。
一方、神柴健三は無言で温かい紅茶を差し出した。
「……どうぞ。まどかさんのお口汚しにはなりませんが、あなたには十分でしょう」
「……ありがとう」ちぐはがカップを受け取ろうと指が触れた瞬間、健三の動きが止まる。
(……なんですか、この吸い付くような肌は。……不快ですね。まどかさん以外の人間に、これほど心を乱されるのは……)健三はすぐさま手を引いたが、その瞳にはちぐはを「排除」したいのか「独占」したいのか、危うい光が宿り始めていた。
「ねぇ、ちぐは」ソファの隣に、いつの間にかまどかが潜り込んできた。
「……っ、近い……」
「いいじゃん。僕、綺麗なものは忘れない主義なんだ。君の顔、1ピクセルも逃さず記憶してあげる」
まどかの細い指先が、ちぐはの頬をなぞる。
「……やめて。私、そういうの、よく分からないから……」顔を赤らめ、視線を泳がせるちぐは。
その「恋愛に対する圧倒的な不器用さ」と「無自覚な色香」が、3人の独占欲に火をつける。
「……おい、まどか。そいつ、あんまり甘やかすなよ」誠一が割って入る。
「誠一。彼女の管理は僕がする。僕が選んだ最高に似合うやつをね」
「……分かりました。ですがまどかさん、彼女の世話は私がします。まどかさんの手を煩わせるわけにはいきません」3人の視線が交差する。
助けられたはずのちぐはは、彼らの間に流れるピリついた空気の意味に、まだ気づいていない。
「(……みんな、私のこと嫌いなのかな。……怖い顔して)」不器用なちぐはの勘違いと、3人の加速する「寵愛」。
ここから、逃げられない共同生活が本格的に幕を開ける——。
地震の中、君達と出会った③
翌朝。
地震の余波も落ち着き、朝日が差し込むスワロウテイルの拠点。
不慣れな場所での緊張からか、ちぐはが目を覚ますと、そこには異様な光景が広がっていた。
「……あ、起きた? おはよう、僕の宝物」ベッドに潜り込んでちぐはの顔をじっと覗き込んでいたのは、まどかだった。
その瞳は眠たげだが、獲物を逃さない肉食獣のような鋭さを孕んでいる。
「……ま、まどか? なんでここに……」
「君の寝顔、1秒ごとに完璧な造形だったよ。全部記憶(ログ)したから安心して」
「安心できない……っ」顔を真っ赤にして飛び起きようとすると、背後から低い声が響く。
「……まどかさん、あまり彼女を驚かせないでください。……ほら、これに着替えてください。
私が厳選した、あなたに『唯一』似合う服です」健三が無表情のまま、シルクのような肌触りの服を差し出してきた。
その指先が、わざとらしくもちぐはの鎖骨をかすめる。
「……っ、自分で着替えます!」
「いえ、私が。まどかさんのお世話のついでです。光栄に思ってください」
健三の過剰すぎる「お世話」という名の独占欲に、ちぐはが身をすくませていると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「おい! いつまで寝てんねん、メシやぞ! ……って、お前ら何してんねん!」
エプロン姿の誠一が、ちぐはを取り囲む二人を見て激昂する。
「……誠一くん。君の作った朝食、ちぐはには刺激が強すぎるんじゃないですか?」
「あぁ!? 栄養バランス考えて作ってやってんだよ! ほら、ちぐは、さっさと来い。……ったく、変な男たちに捕まるなよ」誠一は乱暴にちぐはの手首を掴むが、その力加減は驚くほど優しい。
不器用なちぐはは、「嫌われている」と思い込み、ぎこちなく彼に従う。
「(……みんな、やっぱり私を監視してるんだ。……怖いけど、どうしてこんなに胸が騒ぐの?)」ダイニングテーブルに着けば、右にはまどか、左には健三、正面には誠一。
逃げ場のない「寵愛」の檻が、じわじわと彼女を追い詰めていく。
「ちぐは、あーんして。僕が食べさせてあげる」
「……結構です!」
「断るなんて、100年早いですよ。……さあ、口を開けて」
「おい健三! 俺の作ったメシを汚い手で運ぶな!」
朝食の時間は、ちぐはを巡る静かな、しかし熾烈な戦争へと変わっていく——。
地震の中、君達と出会った④
「……少し、外の空気を吸いたいんです」
ちぐはのその一言が、スワロウテイルの拠点に火をつけた。
地震後の片付けが進む街へ、3人の男たちに「警護」という名目で囲まれながら歩き出す。
案の定、街ゆく人々が足を止める。
ちぐはの国宝級の美貌は、荒れた街並みの中でさえ、一輪の白百合のように際立っていた。
「おい、ちぐは。あまりキョロキョロすんな。……俺の服の裾、掴んでろ」誠一が、周囲の男たちの視線を遮るように立ちはだかる。
荒っぽい口調とは裏腹に、ちぐはを人混みから守る背中は逞しい。
「誠一くんのガードは暑苦しいよ。……ねぇ、ちぐは。僕の腕、貸してあげる。記憶の邪魔にならないように、僕の隣にいなよ」まどかが、当然のようにちぐはの腰に手を回し、自分の方へ引き寄せる。
少年のような顔立ちで、独占欲に満ちた瞳がちぐはを見つめる。
「……まどかさん、お戯れを。彼女の安全は、私が完璧に管理いたします」健三が、音もなくちぐはの背後に回り込み、耳元で囁く。
冷たい指先が、ちぐはの首筋をなぞり、周囲を威嚇するような冷徹なオーラを放った。
そんな中、ナンパ目的の男たちが声をかけてきた。
「ねえ君、めちゃくちゃ綺麗だね。ちょっとお茶でも——」その瞬間。
3人の空気が、一気に「零度」まで凍りついた。
「……消えろ。この女に触れていいんは、俺だけや」誠一が男の胸ぐらを掴み、野獣のような瞳で睨みつける。
「あはは、面白いね。僕がこの街から君たちの存在を『消去(デリート)』してあげようか?」まどかが、底知れない笑顔でスマホを取り出す。
「……不浄ですね。まどかさんの所有物(?)に、その汚い視線を向けないでいただけますか?」健三が、懐から何かを取り出そうと、冷たく男たちの退路を断つ。
「……えっ、あの、皆さん? 喧嘩はダメです!」
恋愛に疎いちぐはは、3人のブチギレ具合が「嫉妬」だとは夢にも思わず、ただ「私のせいで迷惑をかけている」と申し訳なさそうに、健三の袖をぎゅっと掴んだ。
「……っ。……あなたという人は」健三の顔が、一瞬で朱に染まる。
「……ちぐは。……卑怯だよ、そういうのは」まどかが拗ねたように唇を噛む。
「……おい、次は俺の腕を掴め。……絶対に離すなよ」誠一が顔を背けながら、ちぐはの手を力強く握りしめる。
3人の寵愛は、もはや「隠す気すらない」レベルまで加速していく——。
地震の中、君達と出会った⑤
街での騒動を終え、スワロウテイルの拠点に戻った一行。
「……皆さん、今日はありがとうございました。あんなに怒らせてしまって……お礼に、肩でも叩かせてください」ちぐはは申し訳なさから、自分なりに精一杯の感謝を伝えようとした。
恋愛に超がつくほど不器用な彼女にとって、それは純粋な「親愛」の証。
だが、血気盛んな3人の男たちにとっては、それは「毒」に近い誘惑だった。
「……あ、あの、誠一さんから」おずおずと、ちぐはの細い指が誠一の逞しい肩に触れる。
「っ!? ……おい、お前、何してんねや!」誠一は弾かれたように飛び起きた。
顔は耳まで真っ赤だ。
「……嫌、でしたか?」小首を傾げる国宝級の美貌。
潤んだ瞳で見つめられ、誠一は言葉を詰まらせる。
「嫌じゃねぇよ! ……ただ、お前は……自覚がなさすぎるんや……」彼は顔を覆い、荒い呼吸を整えるのに必死だった。
「次は僕の番。ねぇ、ちぐは。もっと近くに来て」まどかがソファにちぐはを引き寄せる。
ちぐはが真面目に肩を揉もうと力を込めると、まどかはふっと力を抜き、彼女の膝に頭を預けてきた。
「……ん、気持ちいい。このまま僕を眠らせてよ。……あ、でも、寝顔を見て変なことしないでね?」
「しませんよっ!」冗談めかして笑うまどかだが、その瞳はちぐはの細い手首をじっと見つめ、どうすれば自分だけのものにできるかという計算で埋め尽くされていた。
「……まどかさんそろそろ交代の時間です」冷ややかな声とともに、健三が割って入る。
彼はちぐはの背後に回り込むと、肩を叩かせるどころか、彼女の両手を自らの大きな手で包み込んだ。
「……手が冷えていますね。私が温めてあげましょう」
「あの、健三さん、お礼をしたいのは私の方で……」
「……黙ってください。あなたが大人しく私に委ねることが、一番の報いです」健三の低い声が耳元で響く。
無表情な仮面の下で、彼の独占欲はすでに飽和状態だった。
「(……やっぱり、皆さんお疲れなのかな。なんだか顔が赤いし……)」ちぐはの的外れな心配をよそに、3人の頭の中は「どうやって彼女をこの部屋から出さないか」という不穏で甘い計画でいっぱいになっていく。
外はすっかり夜。一つしかない拠点(ハウス)の中で、4人の距離は物理的にも精神的にも、逃げられないほど密接になっていく。
地震の中、君達と出会った⑥
「……あ、皆さん。お、お風呂お借りしました……」
湯気と共に脱衣所から出てきたちぐは。
貸し出された大きめのシャツ一枚に、湿った長い髪。
国宝級の美貌が、上気した肌と相まって、直視できないほどの純真な色香を放っていた。
リビングにいた三人の時間が、物理的に止まった。
「……おい。お前、その格好……」誠一が真っ赤になりながら視線を逸らす。
だが、指の間から覗く瞳はちぐはの細い脚に釘付けだ。
「……風邪をひきます。早く髪を乾かしてください。……私が、やります」健三が、震える手でタオルを手に取り、ちぐはの背後に回る。
無表情を装っているが、首筋まで赤みが差しているのを、ちぐはは「お風呂の熱気のせい」だと思い込んでいる。
「ねぇ、ちぐは」まどかが、座っていたソファから立ち上がり、ちぐはの正面に立った。
いつもより低い、熱を帯びた声。
「……僕の記憶(ログ)が、君で埋め尽くされてバグりそう。……ねぇ、これってどういう現象か、不器用な君でも分かる?」
「……え、故障ですか? まどか、大丈夫……っ」心配して顔を覗き込んだちぐはの腰を、まどかが強引に引き寄せた。
「……鈍感すぎるのも、罪だよ(ですよ)」その瞬間、誠一と健三が割って入る。
「まどかさん、抜け駆けは許しません。彼女の髪を乾かすのは私です」
「どけよ二人とも! こいつをこんな無防備な姿にさせたのは誰だ!」三人の男たちが、ちぐはを取り囲む。
不器用なちぐはは、彼らの「独占欲」という熱に当てられ、ようやく自分の心臓がうるさく鳴っていることに気づき始めていた。
「(……どうして。嫌われていると思ってたのに、こんなに……優しくて、苦しい……)」地震という災害で出会ったはずの彼らが、今やちぐはにとって、世界で一番近くて、一番危険な存在に変わっていた。
地震の中、君達と出会った⑦
ついに、地震の復興作業が一段落し、街に日常が戻ってきた。
それは、ちぐはがスワロウテイルの拠点を出て、元の生活に戻る日が来たことを意味していた。
「……皆さん、今まで本当にお世話になりました」荷物をまとめた、国宝級の美貌を持つ少女は、寂しさを隠すように不器用に微笑んだ。
「私みたいな面倒な女を助けてくれて……。皆さんのこと、忘れません」一歩、出口へ足を踏み出そうとしたその時。
ガチャン、と背後でドアの鍵が閉まる音が響いた。
「……どこへ行くつもり? 僕の記憶(ログ)から君を消すなんて、1ピクセルだって許さないよ」まどかが、いつになく冷徹で、それでいて執着に満ちた瞳で立ちふさがった。
「まどか……?」
「君の居場所はここだよ。僕の隣。……一生、僕が君を観測し続けてあげる」
「……まどかさんの仰る通りです」
健三が、音もなくちぐはの背後に回り込み、その細い肩を抱きすくめた。
「外の世界は危険すぎます。あなたのその美貌は、悪い虫を惹きつけすぎる。……私が、このハウスの中で永遠に管理して差し上げます」
「健三さん……離して、苦しい……っ」
「悪いな、ちぐは。俺も、お前を逃がす気はさらさらないんや」誠一が、ちぐはの目の前に立ち、その大きな手で彼女の頬を包み込んだ。
「不器用なお前を放っておけるわけないやろ。……嫌われてると思ってたんか? バカ言え。……惚れてんねん、全員」「……えっ?」恋愛に疎いちぐはの思考が、真っ白にフリーズする。
不器用な彼女は、ようやく気づいた。
彼らの視線が、単なる「警護」ではなく、狂おしいほどの「寵愛」と「執着」であったことに。
「……ねぇ、選ばせてあげる」まどかが、ちぐはの耳元で甘く囁く。
「誰の腕の中で眠りたい? ……それとも、三人全員に一生愛され続ける?」逃げ場のない、黄金の檻。
地震という混沌の中で出会った四人の物語は、今、終わりではなく「永遠の独占」へと形を変えようとしていた。
「(……私、どうすればいいの? ……でも、どうして。こんなに怖いのに、胸の奥が熱いのは……)」
不器用なちぐはの瞳から、一筋の涙がこぼれる。
それを三人の男たちが、競うようにして、優しく指先で拭い去った。
終わりです!高評だったら番外編とか作ります!